表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/239

第50分のA話 ポンコツちゃんに真珠はまだ早い……ポ、ン、コ、ツ、言うなぁぁぁぁぁ!!

メアリー視点

 とある密林地帯を1機の歩兵機が疾走していた。私が操縦する白いストレイツォ―――通称ストリボーグだ。


 ここはクロステーゼ保有訓練場の一角、野戦演出用の密林だ。


 私はここでストリボーグを操縦していた。機体に現れる歩兵機特有の癖をつかもうとしていたけれど、やっぱりそう上手くいかない。今だって―――


「あだぁ!」


 また転んでしまった。


 このストリボーグはイングリッド以上に反応速度が機敏で物凄く扱いが難しいの。


 だから転んだのは歩兵機のせいであって私がポンコツだからじゃ無い。絶対に無い!


「ううぅ……やっぱりイングリッドとは全然違う。本当にこんな規格外機、私に扱えるの?」


 ストリボーグは確かに高性能だ。出力は高いし装甲も分厚く頑丈なのを使用してるけど、それだけのウェイトが有りながら機動力はイングリッドを遥かに凌駕する。


 電子機器も充実してるし、機体の持続性も中々のものだ。何から何までイングリッドを上回るとんでもない歩兵機だった。


 ただ、その代償として扱いが極端に難しくなっている。操縦桿がピーキーになっているのもそうだけど、それ以上に機体の癖が強い。


 歩兵機の操作機能はどれも同じじゃ無い。機体独特の癖が操縦に出てくるし、慣れない機体に乗り換えるとベテランパイロットでさえ操縦が覚束なくなるものだ。


 でもこれはその比じゃ無い。まるで歩兵機が俺の言う通りに動けと駄々を捏ねているみたいで、私の技術で制御するには手に負えそうにない。


「はぁ、隊長はどうして私に乗せようとしたんだろ?」


 本当ならこれ程の機体、私じゃなく隊長やアーロン少尉みたいなエース級の実力者が乗るべきなのに。私みたいな新米ルーキーが乗るべきでは無いと思う。


 と言っても、隊長の判断だから逆らう訳にはいかないけど。それにもし私がこれを使いこなせたら、少しは隊長のお役に立てるかもしれない。


「弱音を吐くのは止めよう。コツは掴めているのだから、きっとできる」


 気合いを入れ直して、私はもう一度ストリボーグを走らせた。


 単に走らせるだけなら、密林だろうと砂漠だろうと地形に問題は無い。けど、ストリボーグはただ走るだけじゃ終わらない。


 走りながら、目標を定めて距離を測り、タイミングよく踏み込む。……そこだ。


「ブースト!」


 踏み込んだ瞬間、ストリボーグの背中中央と両脹脛後ろにあるノズルからブースト噴射を起こした。


 ストリボーグにはこの3ヶ所にアークジェットブースターを搭載している。推進剤の消費率が非常に良く、少ない量だから歩兵機のペイロードをあまり埋めてしまわない利点がアークジェットの特徴だ。


 けどその分得られる推力も少ない。ストレイツォと言う機種はこのアークジェットを搭載した高機動化を目的としたのだけれど、結果はコストに見合わない中途半端なものだった。


 だから後のイングリッドに主力生産を奪われたのだけど、しかしこのストレイツォから規格外に生まれたストリボーグは違う。


 ストリボーグのアークジェットは、得られる推力も発揮する機動力も通常のストレイツォとは比べ物にならない圧倒的な突進力がある。


 一歩で100mもの距離を瞬時に移動できるし、この機動力を活かせば接近戦で大いに活躍できるに違いない。


 近接戦主体になると言ってしまった手前、この機動力の癖は何としてでも物にしないと。やっと私も戦えるようになるんだ。


「……ふぅ、少しは扱えるようになったかな?」


 気が付けば密林地帯を抜けてフィールドベースに出ていた。その先には格納庫があり、ライラと御厨(みくりや)中尉が待っていてくれた。


 御厨中尉の後ろにはトレーラーがある。何か運んで来たのかしら?


『メイ二等兵、ストリボーグの調子はどうだ?』


「正直に申しますと暴れ馬です。扱うだけで神経がすり減らされそうで大変ですよ」


『だろうな。ブースターなんて使うと、どうしたって歩兵機に振り回されるからな。パイロット泣かせのとんだじゃじゃ馬さ』


「けれどそれを制御できるようにならないと、ストリボーグは扱えないんですよね?」


『いいや、それはちょっと違うぜ』


 違うの? 歩兵機を制御できるようになって初めて一人前だとかアーロン少尉は言ってたけど。


『歩兵機は量産型にしろ何にしろ、全く同じ機体は存在しないんだよ。それぞれに機体の癖はあるし、微妙な機動制御の特徴も存在する。俺達整備士に言わせりゃ個性だ、歩兵機も1つの生き物なんだよ』


 そうなんですかぁ……全然共感できないけど。


『だから無理に制御しようとは考えずにな、敢えて機体に振り回されてみるもんだ。そうやって歩兵機と折り合いをつけながら扱えるようになっているもんだ』


「はぁ……折り合い、ですか」


 あまりピンと来ない表現だけど、でもストリボーグは俺の言う通りに動けと言ってるようにも感じた。そこをある程度自由にさせろって事なの?


 確かにこのまま無理に制御しようとしても扱えるようになれるとは思えないし、御厨中尉の言うように折り合いをつけながら操縦してみれば何か掴めるかもしれない。


 一度そう言う操縦でやってみるのもいいのかもしれない。次はそうやってみよう。


『ねぇ、メアリー。 そろそろ私が作ったパイルバンカーを使ってよ!』


 と、そこで御厨中尉の隣にいたライラがトレーラーの荷台を指差してそう言ってきた。


 よく見ると荷台には歩兵機の武装が幾つかあって、その中にはライラ自作のトンファー型パイルバンカーもあった。


 これのせいで私は泣く泣く近接戦主体に移り変わる羽目になったのだけれど、今更嫌とは言えないわよね。


 すると突然、御厨中尉がライラの頭をゴツンっと叩いた。どうして?


『馬鹿言うな、シャムーン! いきなりこんな悪趣味な物を使わせる奴がいるかぁ!』


『悪趣味って、親方酷い……』


 でも私もそれは悪趣味だと思う。近接戦の武装を使うならもっと無難なブレードからにしたい。


『近接戦もいいが、まずはライフルから使ってみな。基本から試しておかないと、ストリボーグ(そいつ)の癖が分からねぇぞ』


「了解」


 ごもっともな意見です、中尉。そんな訳で言われた通りに、私はアサルトライフルを手に取った。と言っても弾は訓練用のペイント弾だけど。


 それからフィールドベースに備え付けてある的を狙って見る。照準の感覚はイングリッドと同じみたいで助かったかな。


 まずは一番手前の的に狙いを定める。これで射撃時の反動に現れる機体の癖がまた少し分かる―――と思ってた直後、私の視界に輸送ヘリの姿が映った。


 輸送ヘリはクロステーゼ所有の物だけど、あのヘリはここに降り立つ様子だ。なら、もしかしたら―――


「隊長達が、帰って来た!?」


 私は御厨中尉に許可を取ってストリボーグから降りる。するとヘリも、私達から少し離れた所で着陸した。


 そして直ぐヘリから人が降りて来た。遠目でも分かる、あれはアーロン少尉とハブタム副隊長だ。


 無事に帰って来た2人を見て嬉しくなった私は、大急ぎで2人のもとに駆け出した。何故かライラも付いて来て、御厨中尉も後から歩いて来たけど。


「アーロン少尉、ハブタム副隊長、おかえりなさい……」


 けど2人のもとに近付いていくにつれ、何やら不穏な様子である事に気付かされる。


 着陸したヘリに救護隊が大急ぎで駆け付けていたからだ。しかもストレッチャーを2つも持って来て。


 誰か負傷している。そう察した私は、慌てて2人のもとに駆け寄った。そして負傷したのが誰なのかを知る事となる。


「り、リン少尉!?」


 負傷していたのはリン少尉だった。身体中に巻かれた包帯がそこかしこで血に滲んでいて、意識も無い様子。一目で分かる程に重傷だ。


 リン少尉はストレッチャーに乗せられて、直ぐに救護隊が運んで行った。そしてもう1人、ストレッチャーに乗せられたのは―――


「マギナ曹長!?」


 その人はマムの愛称で知られるマギナ曹長だった。けどマギナ曹長はリン少尉に比べて軽傷で、意識もちゃんとあったけど。


「ただいま、メアリー。見っともないところを見せてごめんなさいね」


「そんな……マギナ曹長、怪我は大丈夫なのですか?」


「ええ、リンに比べたらずっと軽傷よ。心配しないで」


 マギナ曹長は柔和な笑みでそう説いてくれた。大人の余裕ある対応だった。


 けれど後から来た御厨中尉に気付くと、何故かバツの悪そうな顔になって救護隊に運んでもらうよう促した。一体どうしたんだろう?


 いや、それよりもまず、マギナ曹長やリン少尉の身に……と言うより、みんなの身に何が起こったのかが知りたい。


「アーロン少尉、一体何が―――」


「やられちまったんだよ。惨敗だ!」


 アーロン少尉はイライラしながらそう吐き捨てた。


 惨敗? アーロン少尉達が?


 クロステーゼが誇る屈指の27日分隊の精鋭が惨敗なんて、そんな……。


「馬鹿げた歩兵機だった。たった1機相手にあの様だ」


 そう言ってアーロンが指差したのはヘリで横たわる、半壊したセガールG3だった。でもこの破壊され方は……


「酷えもんだな。丈夫が取り柄のセガールが、何をどうやったらこうなるんだ?」


 そう呟いたのは御厨中尉だった。流石は整備士長だけあって目ざとい。でもセガールG3の状態が酷いのは素人目にも明らかだけど。


「腕の破損はともかく、全身が何が強大な衝撃を受けたみてえにやられてやがる。フレームも相当イカれてるぞ」


「流石だな、ダンナ。やっぱ分かっちまうもんかよ」


 アーロン少尉が顔をしかめる。余程嫌な思いをしたのかしら。


「……圧倒的な強さだった。たった1機であたしら4人を全滅し得る程にな。冗談とか抜きで、手も足も出なかったよ」


 たった1機で? アーロン少尉やハブタム副隊長が手も足も出なかったと言うの?


 それに、ヘリにあるのはアーロン少尉の歩兵機だけ、他の機体は無かった。歩兵機を棄てて脱出せざるを得ない状況に追い詰められたと言う事なんだと思う。


 いやでも、アーロン少尉達がそうだとしても隊長は……え?


「……アーロン少尉。隊長は……オベルタス隊長は何処ですか!?」


 隊長がいない。ここにも、ヘリの中にも、ストレッチャーで運ばれた中にも、隊長の姿は無かった。


「リーザは、そのな……」


「戻って来なかったわ。リーザ1人を残して、私達は帰還したの」


 ハブタム副隊長のその一言で、私の悪い予感は的中してしまった。でも、まさか……


「隊長が……オベルタス隊長が負けたなんて事、無いですよね。そうですよね、ハブタム副隊長」


「戻って来ていないのだから、安否が分かる筈無いでしょ―――」


「いや負ける筈無いだろ、あのリーザが。あたしらが惨敗したあの野郎も瞬殺しやがったんだしよぉ」


 瞬殺したんだ、隊長。相変わらず華麗な見た目にそぐわない強さでした。


 ひとまず安心したけど、でもだったらどうして戻って来なかったの?


「分からないでしょ、そんな事。あれと同等の歩兵機が他に4機も現れたのよ。いくらリーザでも勝てるかどうか―――」


「ちょ、ちょちょちょちょっと待ってください! 敵は1機だけじゃ無かったんですか!?」


 てっきり1機だけかと思っていたのに、アーロン少尉を圧倒した相手が他に4機も?


 じゃあ隊長はその4機と戦って戻って来れなかった? まさか負けた……いや、副隊長の口振りだと結果は分からず終いのようだし、隊長が負けたとは限らない?


「ああ、あたしらは最初の奴1機にやられたが、後ろで味方がもう1機控えててな。その後でリーザ最初の奴を瞬殺した途端に増援が3機現れやがった。しかもその内の1機はオッドアイだったぜ」


 オッドアイ。噂に聞く謎の戦闘歩兵機で、その性能はイングリッドと比較にならない程強力だと聞く。


 それに類似する歩兵機が全部で4機も。それじゃいくら隊長でも流石に―――


「心配すんなよ、リーザが負ける筈がねぇ。大方ガンアーム……最上(もがみ)ダイのイングリッドを取り返そうと躍起(やっき)になってるだけだろうしよ」


「そう、ですよね。隊長が負ける筈……ちょぉぉぉぉぉと待ってください! 今何て言いました!? 最上ダイ!? 最上ダイが見つかったんですか!!?」


 ついにお縄にかかったか、最上ダイ(イエローピッグ)! 八つ裂きにしてポークチャップにしてくれる!!


「ああ、見つかるには見つかったんだが、掻っ攫われちまったよ。どうやら連中の目的も最上ダイ、或いはそのイングリッドだったみてぇだしよ」


 ううぅ……やっぱりまだ捌けなかったかぁ。


 でも隊長が戻って来なかった理由も、最上ダイを取り返そうとしてると言うなら納得できる。もしそうなら、その内帰って来てくれるわよね、絶対に。


「それよりもメアリー、あれは一体何?」


 すると突然ハブタム副隊長が責めるような目で私に問い質してきた。あれ、と言うのはストリボーグの事みたいだけど。


「え? ストリボーグです。試運転の為に搭乗していましたけれど」


「誰がそんな事を許したの? あれは凍結化されて搭乗する事は厳禁されているわ。それをどうしてあなたが勝手に乗っているのかしら?」


「え? でも、それは……」


「おいおい、そりゃ変な話だぞ」


 御厨中尉が助け船を出してくれた。と言っても御厨中尉が乗るか、と言って来たのだけど。


「俺はオベルタス嬢から、ストリボーグをメイ二等兵が乗れるように調整しておくように頼まれたんだぞ。搭乗にも前以てオベルタス嬢から俺の立会いの元で許可が下りている」


「そうでしたか、御厨中尉。でしたらストリボーグの調整は全て初期化して再度凍結化をお願いします。尚メイ二等兵の搭乗許可は私の権限で撤回させていただきますので、あしからず」


 そんな、やっとストリボーグの使い方が分かって来たと言うのに。こんな突然に取り上げられるなんて、あんまりよ。


「聞いた通りよ、メアリー。今後ストリボーグに搭乗する事は許さないわ。無断搭乗は厳罰に処するものと考えておきなさい」


「待ってください、副隊長! そんなのあまりに―――」


「止めとけ、メアリー。セラの言う通りにしな」


 アーロン少尉が食い下がる私の肩を抑えて止めた。その間に副隊長は行ってしまったけど、どうしていきなりストリボーグを取り上げようとするの?


「納得いかねぇのも分かるが、セラの言う通りにするんだ。()()()()()()()()


「……私の為? どう言う事ですか、アーロン少尉?」


 アーロン少尉は私の肩から手を離すと、何処か言い訳を探してる様子でこう言った。


「ポンコツには似合わねぇって事だよ」


 ポ、ポンコ……止めとこ。誤魔化されるだけだし。


 そしてアーロン少尉も逃げるようにその場を去って行った。


 御厨中尉も半壊したセガールG3を運び出す作業に加わり、残された私をライラが心配そうに見つめていた。


 まるで嵐のように突然な事が一度に起こり過ぎてしまったけど、私にとって一番ショックだったのはストリボーグを取り上げられた事なんだと思う。


 まるで胸にポッカリ穴が開いてしまったような気分だ。やっと隊長のお役に立てると思った矢先、こんな形で期待を打ち砕かれるとは思わなかった。


 ()()()()()()()()


 アーロン少尉が言った、あれはどう言う意味だったのだろう。何故私が乗らない方が、私の為になるのだろう。


 一体、どうして……。


(知らないフリしてんじゃねぇ。本当は知ってるくせによぉ)


 ……違う、私は知らない。何も知らないわ。知ってる筈が無いもの。


 結局、知らないのは私だけなんだから。

歩兵機の最大機動力比較

・イングリッド 約180km/h

・ストレイツォ 約205km/h

・ストリボーグ 約550km/h

・SWEMブースター搭載型イングリッド 驚異の約1000km/hただしエネルギーの都合上一瞬に留まる。


分かったか、SWEMブースターの偉大さが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ