第45話 マクシミリアン・ダオスロードと美人さんとは何も無い……絶対噓だ……嘘じゃねぇーよ
ダイ視点
『俺、あの美人さんの事何も知らねぇーんだよ』
出た、嘘八百。
どうしていつも嘘を並べようとするんだろう。
「……絶対嘘だ」
『いや、嘘じゃねぇーよ。そもそも俺達の間に嘘は通じないだろ。お互い頭の中は余すところなく丸見えになってるんだし』
「俺は余すところばかりで何も見えていない」
俺とマックスは、何故だが意識が繋がっているみたいなんだ。だからマックスは俺の考えてる事や、見たり聞いたりした事、挙げ句の果てには記憶まで共有する羽目になっている。
しかし今のところ見えているのはマックスだけで、俺はマックスの意識は何も見えていない。つまり俺だけ覗き見されているんだ。とんだ晒し者だよ。
マックスはその内見えるようになるとか言ってたけどその兆しはまるで無いし、本当かどうかも怪しくなってきた。
『なぁダイ、別に俺だって意地悪で教えない訳じゃねぇーんだ。そりゃ俺の名前を出した途端に美人さんがブチ切れたのには驚かされたけど』
「でもあれ、絶対何かあるって証拠だろ。でなきゃあんなにブチ切れたりしないし」
あの美人さんを最初に見た時、あの人は完全に無表情だった。まるで人形みたいな感情の見えない人だ。
でも俺がマックス……ダオスロードの名前を出した途端、あり得ないような切れ方をした。
初めて見せた表情だったけど、それはもう怒り一色に塗り潰されていて、暫く脳裏から離れなかったし。今でも思い出す、滅茶苦茶怖かった……。
『俺も不思議に思ってた。そりゃ兵士なんてやってりゃ怨みを買う事くらい良くあるけどな』
「良くあるのかよ」
それ多分、兵士云々は関係ないだろ。
『しかしあれ程の美人から怨みを買った覚えは無いぜ。一体何なんだろうな?』
「昔付き合ってて捨てた女とかじゃ無いのか?」
如何にもプレイボーイな感じのマックスだ。修羅場の1つや2つ、あっても不思議じゃないだろうな。
『それは絶対に無いな』
「断言できるんだ、それは」
『だって俺、付き合った女なんていねぇーし』
「……前に日本の女を囲ってたとか言わなかったか?」
また出たよ、嘘八百。
『勘違いするなよ、囲ってたって言うのは付き合ってたと言う意味とは違うんだぜ』
「どう言う事?」
『俺はな、常に一期一会で終わらしているんだ。女との付き合いは一晩あれば十分だからな』
「尚更タチが悪いじゃないか!」
プレイボーイなんて生易しいもんじゃ無い、とんだ女たらしだ。
『いやいや、そんな誰彼構わずな事はしねぇーよ。それに一夜限りの関係で済ませたいって言う女は割とたくさんいるんだぜ。日本にしても』
「知りたくなかったぁー!」
でもそれは嘘じゃ無いと思う。不思議と分かるのが逆に恨めしい。
「マックス、お前絶対いつか刺されるぞ」
『バカな事を言っちゃ困るな、ダイ。……もうとっくに刺されてるんだよ』
「刺されたのか!?」
『しかも3回』
「よく生きてたな!」
やっぱり女たらしじゃないか。1回刺されたら学習しろよ。
『学習はしたさ、それ以降は刺されないように軽い気持ちの女しか手を出していないぜ』
「そう言う問題じゃ無い」
『それに、2回は戦場でやられたものだ。痴情のもつれで刺されたのは1回こっきりだよ』
そうか、アメリカ兵だったんだ。戦場でも修羅場だから大変だな。
「もしかしてその1回刺された相手が、あの美人さんなんじゃ―――」
『違ぇーよ、何度も言わせんなって。俺は美人さんの事は本当に何も知らねぇー。俺を刺した女も全くの別人だからな』
「でも今まで手を出してきた女の事を全員覚えてる訳じゃ無いだろ」
『当たり前だ。お前だっていちいちすれ違った相手の顔を覚えている訳じゃ無いだろ?』
人とすれ違うように手を出していたのか、お前は。
「だったら―――」
『だがあの美人は知らねぇ。それは断言できる』
「……根拠は?」
『そりゃあれだけの美人だぞ。一度会った事があるなら忘れねぇーよ』
……納得。
根拠と呼べる根拠でも無いけど、しかしあの美人さんは別格だ。あの美貌は一度会った事があるなら絶対忘れたりしない、それだけのインパクトはあったもんな。
「でも美人さんだって、昔はそこまで美人じゃなかったかもしれないだろ?」
『あれだけ美人なら昔と違っていても印象には残る筈さ。残って無いって事は、結局知らねぇーって訳だ』
「実は昔は物凄く太ってたとか?」
あまり考えたくは無いけど、絶対に無いとも言い切れないしなぁ。
『だったらそもそも手を出していねぇーよ』
「……そりゃそうか。だったら、実は整形して顔を変えているとかは?」
『無いな。あれは100%ナチュラル美人だ。整形してる可能性はまず無いぜ』
整形説も無しか。こうなると本当にマックスと美人さんとの間には縁もゆかりもないように思えてくる。
でも俺がダオスロードと口走った時の美人さんの切れ方、あれはどう考えてもマックスと何かしらの因果関係があるとしか思えないんだけど。
「なぁマックス、本当に知らないのか? エリザベータ・トロフィーニエヴナ・オベルタスさん、その名前に、全く聞き覚えが無いのか?」
『フルネーム覚えてたんだな。ハヤセの事は覚えてなかったのに……』
そりゃあれだけの美人さんだからな、長いフルネームも1回で覚えられたよ。
『まさかとは思うがダイ、お前の本命は美人さんじゃないだろうな? さっきから妙に突っかかって来ると思ったら、そう言う事だったのか?』
「別にそう言う訳じゃ無いよ。大体俺の考えてる事は筒抜けなんだろ。だったら聞かなくても分かるじゃないか」
『お前が無自覚な事は俺にも分からねぇーよ。しかしダイ、美人さんはやめておけ。あれは幾ら何でも無謀だ。流石の俺だって手を引くぞ』
だからそんなんじゃないって。けどマックスが手を引くとはよっぽどだな。
確かにあの美貌だ、高嶺の花どころの話じゃ無いし俺じゃ相手にすらしてもらえないだろう。身の程は弁えておかないと。
「……で、その無謀な美人さんに一体何をしたんだよ?」
『勘弁してくれ。本当に何も知らねぇーんだって。てかもう止めようぜ、このイタチごっこ』
そうだな、結局マックスは話す気が無さそうだし。つまりは知られたく無い何かがあるのかもしれない。
まぁ別に無理して聞き出さなきゃならない訳でも無いんだし、今は聞かなくてもいいか。
『それよりもだ。時にダイよ』
「何だい、マックスよ」
『さっきからずっと手元が忙しいご様子だが、一体何をしているんだ?』
「俺の考えてる事なら分かるだろ?」
『分かんねぇーから聞いてんだろ。そもそも分かると言っても、全てを把握できてる訳じゃねぇーんだ』
把握できてる訳では無いのか。道理で頭の中を見られているのに質疑応答が多い訳だ。
「ゲッコーを操作してるんだよ。人しか入れない所は、いちいち歩兵機を降りて調べるよりゲッコーで調べた方が早いからね」
『ゲッコーって、お前ついさっきまで空腹で錯乱してなかったか?』
「うん、殆ど無意識でやってた」
習慣って凄い事なんだなぁ。
『そ、そうか……。それで、何か見つかったかい?』
「うん、まぁ……この地下5階は倉庫とかが多いみたいだ。色々な物が敷き詰められた倉庫フロアが幾つか見つかったよ」
『……まさかその中に食料庫があったとか、今更になって言うなよ?』
「だったから良かったんだけどさぁ、食料庫だけは見つからなかったよ。あったと言えば歩兵機のパーツ用の倉庫とか、医薬品とかの倉庫とか、あと資料室みたいな倉庫とよく分からない機材が積まれた倉庫とかかな」
『そっかぁ、まぁそう上手くはいかないよな……って、ちょっと待て! 今医薬品の倉庫って言わなかったか!?』
「え? 言ったけど別に必要無いだろ。別段怪我とかしてる訳じゃ無いし」
『馬鹿野郎、必要有るわっ! 医薬品なら、栄養剤とかがあるだろ!』
「……はっ、そうか!」
栄養剤なら食べられるし、栄養化にもなる。何て大事な物を見落としていたんだ、俺はぁー!
『願ってもねぇー栄養源だ、直ぐに探して確保しに行けぇー! お前が倒れる前に!』
「分かった。……でも」
『でも、じゃねぇー! ダイ、お前木乃伊なんだぞ! 骨と皮しか残ってねぇー今の状況を忘れるな、さっさと行けぇ!!』
「わ、分かった。……でもでも」
『でもでも、じゃねぇー! はっきり言うがお前いつ死んでもおかしくねぇーんだぞ! 今この場でぽっくり死んでもおかしくねぇーんだぞ!! 分かってるのか!?』
「……そんな俺に恋バナ振って時間を無駄にしたのか?」
『それは言うな』
凄い開き直り方だ。ここまでくると逆に清々しいな。
「いやでも、その栄養剤って消費期限とか大丈夫か? このプラントって大体2年前から放置されたままだろ?」
『心配ねぇ、栄養剤なんてのは3年くらい保存できる物だ。ラベルで確認して大丈夫かなやつを探せばいい。なぁに、多少過ぎてようが心配いらねぇーよ。それに高カロリー輸液でもありゃ言う事は無いぜ』
「輸液って……それは無理だよ。俺点滴の針なんて刺さないし」
『口から飲めばいいんだよ。結局は同じ事なんだからな』
そりゃそうか。
『ただ栄養剤の摂取には気をつけろよ。ああ言うのは用法が定められてんだからな。下手に摂り過ぎると中毒症状を引き起こすぞ』
「うん、分かった!」
『他に聞きたい事は?』
「じゃあ、美人さんとの関係って結局どうなの?」
『だから知らねぇーって―――』
―――ブツッ
切れた。
まぁいいや。やっと希望も見えてきたし、今は医薬品のあった倉庫を探そう。
実はもう、意識が朦朧としてて平衡感覚も無いからなぁ。
それから直ぐに医薬品のあった倉庫を見つける事に成功した。
ゲッコーで調べ回った軌跡もちゃんと記録されるから助かったよ。お陰で道に迷わず直ぐに辿り着けたさ。
取り敢えず何か口にしたかったら、その辺にあったビタミン剤やらカルシウム剤やらを漁りまくって色々手に入れた。
あと高カロリー輸液もあったんだけど、これが何とさぁ……消費期限が3ヶ月も過ぎてたんだ。
どうしよう……お腹壊すかなぁ?
「……いいや、どうせもう壊れているようなもんなんだし」
さっきからずっとお腹がグゥーグゥーと壊れたラジカセみたいに鳴り続けている。なんかもう本格的にヤバそうなんだけど。
どうせ壊すなら腹を満たして壊したい。よし、飲もう。
「………………しょっぱ」
何これ、しょっぱいぞ。点滴の輸液ってこんなしょっぱいものだったのか?
「……でももう一杯」
まぉしょっぱいと言っても海水程じゃないし、久しぶりに味のある飲み物だ。せっかくだからもう一杯飲んでおいた。
その後で裏のラベルを見てみたけど、高カロリー輸液って1日分のエネルギーが取れるみたいだ。今の俺の木乃伊状態を考えると……更にもう一杯飲んだ方がいいかな?
まぁそれは後にして。あと色々見つけた栄養剤も輸液で流し込んだ。用法は決まってるけど種類の違う栄養剤なら同時に幾つ飲んでも大丈夫……の筈、多分。
そして一気に飲んだ錠剤諸々のお陰で腹も少し膨れた。ああ……なんか生き返った気分だぁ。
と言っても所詮錠剤と輸液だから食べた気はしないけど。でも空腹感は和らいだし、心なしか身体に力がみなぎった気分でもある。
体力が回復した証拠、であってほしいな。分からないけど。
「はぁ〜……今ならぐっすり眠れそうかも」
ここ最近は空腹に苦しめられて碌に寝られなかったからなぁ。腹の上に重石を乗せられたまま寝てたようなものだから安眠なんで全然できなかった。
でも今はそれも幾分マシだし、今の内にぐっすり寝とこう。
万一敵が現れてもレーダーがあるし、反応があればアラームが鳴る。奇襲対策もバッチリだ。
でもここでは眠れないなぁ。イングリッドがいるのは思いっ切り通路だし、奇襲されると絶対ヤバい事になるだろうし。
医薬品のあった倉庫は人しか入れないからイングリッドじゃ無理だし、かと言ってイングリッドから降りたままここで寝るのは賢明じゃないよな。
なら何処かのフロアに入って簡易的な拠点を作ろう。安眠はそれからだ。
てな訳で、一番近くにあった扉に目を付けて中に入った。扉の先はイングリッドには狭い通路だったけど、直ぐ先に扉も無いフロアへの入り口が見える。
敵の反応は無いけど用心して先に進み、フロアへ出た。ぶっちゃけ何も無いフロアに。
「なんだ、ここ?」
フロアは広い丸の空間だった。周りには何も無く、何処と無く地下6、7階の中ボス、大頭無しがいたフロアに似てる気がする。
ただ、このフロアには上に足場は無いし、フロアの中心に柱も無い。本当に何も無いフロアだった。
フロアには俺が入って来た出入口以外に出入りする所は無い。周囲は全て壁に囲まれている。
完全に行き止まりだなぁ。でも何だろう、このフロア。何と言うかまるで―――
「……闘技場みたいだ」
考えたく無いけど、この広さと言い円い空間と言い、何処と無くイタリアの闘技場、コロッセオを彷彿とするような……
―――ビビビビビビビビビビビビ!!
そう思ってた矢先に敵が現れた事を知らせる警報アラームが鳴り響いた。
……やっぱりか。
ええい、仕方ない! 敵の位置は……真後ろ!?
ライフルを抜いて直ぐに振り返ったけど、でもそこに敵らしい歩兵機の姿は無かった。レーダーでは確かにここにいる筈なのに。
訳が分からなかったけど、でも直ぐに理解できた。何もいないその場に、影が出てきたからだ。
つまり。上だ。
「うぎゃぁあああああ!」
上から何か落ちて来る。それを察して直ぐに飛び退いた。驚かされたよ、まさか上から降って来るなんて思わないよな。
けど本当に驚いたのはその後だ。現れた敵は、イングリッドよりも遥かに大きな巨体だったからだ。
「っ!?」
しかもただの巨体じゃない。人型からは逸脱したその姿は、かつて俺に恐怖と言うトラウマを植え付けた、あの機体だ。
地下3階にいた筈の、あの巨大歩兵機がそこにいた。
「か、かかかか……怪獣!!?」
何で怪獣がこんな所に? ってか、どうやってこの密室空間に入って来たんだ?
……密室。て事はつまり、逃げ道が無いし逃げられ無いって事?
ヤバ、これ詰んだよ。
「それで、美人さんとは結局どうなのさ?」
『だから知らねぇーって』
「本音のところは?」
『お前なぁ……そんな美人さん美人さん言ってるとハヤセがブチ切れるぞ』
「何で日向さんが?」
『何でってそりゃ―――』
―――あはははははは。
「っ!?」
『っ!?」
「マ、マックス、今……」
『聞こえない! 俺は何も聞いて無い!!』
「……ヤバァ」




