第44話 そうだ、恋バナをしよう……脈絡の無い事を言うな
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「四本脚うめぇぇぇぇぇ!」
『―――ダイ』
「うめぇぇぇぇぇ! 四本脚うめぇぇぇぇぇ!」
『おーい、ダイ。しっかりしろー』
「四本脚うめぇぇぇ……え? マックス?」
やっと正気に戻ったか。早く何とかしないとと思ったが故に満を持して参上したが、どうやらダイの体力は想像以上に危機的状況らしい。
返事に生気が感じられないし、どこか夢うつつみたいな状態でもある。こりゃ冗談抜きでどうにかしないとマズいぞ。
『ダイ、俺の質問に答えろ。お前の通っていた高校の名前は?』
「え……? 私立羽瀬ノ谷高校」
『お前の姉ちゃんは歳いくつだ?』
「19歳」
『よし、イングリッドにガッツポーズをさせてみろ』
「……だぁー」
ダイはその場でイングリッドにガッツポーズをさせた。よし、意識は正常みたいだな。
簡単な意識チェックだが、これをやるのとやらないとのでは全然違うんだぜ。
『もういいぞ。てかダイ、お前の空腹の苦しみは想像を絶するもんだろうけど、もう少し気をしっかり持てって。ここまで来てくたばるのは嫌だろ?』
「あぁ……うん。あのさ、マックス。ちょっと聞きたい事があるんだけど」
『おう、何だ?』
「前に何かの番組で見たんだけど、人の肝臓って少し切り取っても直ぐに再生するって本当か?」
『止ーめーろー!』
いきなり何言い出すんだ、コイツ!? ヤバいヤバいヤバいヤバい、全然正常なんかじゃ無い!
「いや、答えになってないよ」
『ダイ、まさかとは思うがお前、直ぐに再生するからって自分の腹切り開いて肝臓切り取って食おうってんじゃねぇーだろうな?』
いくら空腹の限界だからって、自分の肝臓を食う奴がいるか!
「別にそんな事は言ってないだろ」
『そんな事は考えてないと、断言できるか』
「勿論だよ。ちゃんとソテーにしてから食べるさ」
『止ーめーろー!!』
そう言う事を言ってんじゃねぇー! 生レバーかレバーのソテーかを問い質してんじゃねぇーんだよ!!
てか自分の肝臓を油で炒めようとか、どう言う神経してんだ!? 完璧ヤバい奴じゃねぇーか!
これは想像以上にマズい。体力的にと言うより、精神的にマズいみたいだ。追い詰められているのは体力面じゃなく精神面の方だったか。
人一倍精神力だけは鍛えられていたダイが精神的に追い詰められるとは余程の事だ。これは何が何でも何とかしなけりゃならねぇ。
具体的にどうするか、と言うとだな……。
『ダイ、恋バナするぞ』
「……は?」
は?だよな。まぁ普通そう思うわな。
何が悲しくて野郎二人で恋バナせにゃならんのかって話だが、正直これが俺にできる精一杯の策だ。
ダイは今、食欲に追い詰められている。人間の三大欲求の1つ、食欲に。
それから精神的に救うには食欲を満たせれば手っ取り早いんだが、それが出来ないなら他に手段は1つしかない。
別の欲求で紛らわす。その欲求とは何か、同じく三大欲求の1つ、性欲だ。
目には目を歯には歯を、欲求には欲求を。かなり強引な理屈だが、今俺にできるのはこれしかない。異論は認めん。
『ダイ、とにかく今は空腹を紛らわす事に集中しろ。女の事でも考えて腹の虫を誤魔化してしまえ』
「女の事って、誰の事だよ」
『そりゃあ例えば―――』
宗谷美咲、ダイの幼馴染みでダイが好きだった同級生。
ダイが身の丈に合わない進学校に入学していじめられたのも、結局は彼女の事を追って来たからだ。
だが、ダイの記憶を読み取って知り得た宗谷美咲と言うJKはあまり感じのいい女子じゃない。自分の事を可愛いと自覚し過ぎて鼻にかけている節がある。
ああ言うのは良くない、鼻にかけたお嬢様気取りの女と妥協主義のダイとじゃ相性は最悪だ。彼氏と言うよりただの召使いにされるのが落ちだろ。
だから敢えて宗谷美咲の名前は出さない事にした。それにもっと相性の良さそうな女子もいる事だし。
『ハヤセとかどうよ? 割と脈ありっぽかっただろ』
「ハヤセって誰?」
『日向ハヤセだよ』
下の名前くらい覚えとけよ。
「ああ、日向さんか。でも日向さんはちょっとなぁ……」
『なんだ、不満でもあるのか?』
ハヤセも学生カースト最底辺のJKだが、その実中々の美少女だ。周りが気付いていないだけでハヤセの可愛さは宗谷美咲に引けを取らないものだぞ。
「不満と言う程じゃないけど、日向さんってちょっと……肉付きが悪いかなぁってさ」
『……ああ』
まぁ、それはな。
顔は引けを取らないハヤセだが、JKのくせに出るとこ出てる宗谷美咲と違ってハヤセは今時のJKにしては……良い言い方をするならスレンダー、悪い言い方をするならすっとんとんだった。
『けどなダイ、お前そんな事に文句が言える立場じゃねぇーだろ』
お前の方がカーストランクは下なんだぞ。そもそも肥満体型だった頃より見窄らしくなった木乃伊のお前が言うな。
「別に文句を言うつもりは無いよ。ただでさえ選りすぐりしてる場合って言うんだからさぁ」
『選り好みと言え。地味にそこ間違えると失礼だからな』
選りすぐりは物とかに使うのであって個人を指す事には使ったらダメなんだよ。
『それにハヤセだって、あれで結構女の魅力を隠しているかもしれないぜ。女の魅力は、目の届かない所に隠れているもんだからな』
「例えば?」
『例えばってそりゃあ……』
……あれ、見当たらねぇ。
ちょっと下卑た言い方をしてみたが、改めて考えるとハヤセには女の魅力が見当たらねぇ。
そもそもハヤセの魅力と言ったらあのドン引きする程のロボット愛しか思い当たらないが、しかしそれって今求めている魅力からは遠のいてる気がする。
あれ? ひょっとしてハヤセ、ヒロイン枠じゃ無い?
「ああ、でも……日向さんって、割と健康的な身体かもしれないよね」
『……え? お、おう、そうだな!』
健康的か。インドア派の印象が強いハヤセだが、意外とスポーツか何かをしていた感じはあったな。しかしダイめ、そう言う所に目を付けるのか。
『まぁあれだよな。健康的な肢体って言うのは何かとそそられるものがあるからな』
「だよねぇー。腸とか臓とか色々期待しちゃうよねぇー」
『だな。やっぱ女は……ん? 腸とか臓、だと?』
「ホルモンとかテッチャンとかなら、やっぱりもつ鍋か『待て待て待て待て待てぇぇぇぇぇ!!』
いつからそんなカーニバルな話に……じゃなかった、カンニバルな話になった!? 俺ら恋バナをしてた筈だろ!!?
さっきの肉付きがどうのとか選りすぐるとかってのはそう言う意味だったのか!? だとしたらそれ、思いっ切りアウトだからな!!
てか、怖いわっ!
『ダイ、一旦深呼吸しろ。深呼吸して頭の中をリセットするんだ!』
「スー、ハー……」
『もう一度聞くぞ、お前の生年月日は?』
「10月10日」
『高校での担当委員は?』
「美化委員」
『よし、シェーのポーズをやってみろ』
「何だよ、それ?」
おや、ちょっと古かったかな? まぁ、よしとしよう。
『ダイ、最初に言ったがもっと気をしっかり待て。今のお前、飢餓の権化になりつつあるぞ』
まぁ権化と言うか木乃伊なんだけどな。
「気をしっかり持つって、恋バナしてか?」
『それでエロ妄想でもして気を紛らわすんだ。思春期真っ盛りなんだし、それくらいできるだろ』
「日向さんで?」
『…………』
確かに、ハヤセでは無理かもだな。ダイに釣り合いそうなのをチョイスしてみたが、それだと今の目的にはそぐわねぇ。もっと魅力溢れる女でないと。
いっそ美女軍団を挙げてみるか。それなら幾らでも妄想が広がるな。
美女軍団は誰も彼もがモデル級の美女揃いだ。それぞれ個性豊かだが何れも美女であると断言できる美しさを有している。
美女揃い過ぎてダイじゃまるで釣り合わねぇーけど、この際そこは考えないようにして話を進めるしかねぇーよな。ははは……いや待てよ。
『ダイ、あのポンコツとかはどうだ?』
「ポンコツ? ……ああ、ポンコツさんか」
ポンコツで誰か分かると言うのも悲しい話だが如何せん、俺達はあのポンコツの名前を知らないんだよな。だからポンコツと呼称する。
「でも俺、ポンコツさんに嫌われてるよな。絶対嫌われてるよ」
『だからいいんだよ。どう妄想しようが遠慮がいらないだろ』
ダイじゃあ美女軍団は不釣り合いだがポンコツは違う。割と可愛いが美女のカテゴリーには入らない。
それにダイも同じくポンコツだ。ポンコツ同士と言うのも有りだろうし、歳もそう変わらなさそうだし、釣り合い取れてる。案外お似合いなのかもな。
『それにあのポンコツ、背は小っさいが出るとこは出ていたぜ。放っておくには惜しいんじゃねぇーのか?』
比較的低身長なダイだが、あのポンコツは更に小柄だ。しかしその割に身体の凹凸はボンキュッボンと出るとこは結構出ていた。そりゃもう、宗谷美咲よりもずっと。
ボディラインの分かり難いスーツ姿だったが、服の上からでもその凄さは十分に伺えたさ。その小柄な背丈とのギャップには案外そそられるものがあると思うんだがな。
「ああ、そうだよねぇ。ポンコツさん、おっぱい大きかったもんねぇ~」
よし、食いついたか。
今はちょっとでも興味を持ってくれりゃ何だっていい。しかし巨乳で簡単に食いつくとは、所詮ダイも童貞丸出しのガキ―――
「あれだけ大きいと、お腹一杯食べられ『ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!』
女を食い物にするなぁ! それも物理的な意味で!!
てか何でそっちに行くんだよっ! 普通に恋バナ楽しもうぜ!
ダメだ。もうダメだ。例え美女軍団の名前も出してもダイは食に変換しようとしかしねぇーし。コイツの空腹はそこまで追い詰められていたんだ。
『ダイ、もう恋バナは止めよう。今から俺が言うワードに何かを連想してみな』
こうなりゃ連想ゲームだ。これ以上続けても個人を連想してたら食べ物にしか見えなくなっちまう。だったらワードで連想しながらのゲームに切り替えるしかない。
勿論、男が興味をそそられるお色気ワード全開での連想ゲームだけどな。
『いくぞ。バニーガール』
「そう言えばウサギの肉って癖が無くて美味しいみたいだね」
『……女教師』
「そう言えばうちの担任の先生、肉じゃが作るの得意って言ってたなぁ」
『看護婦さん』
「昔お婆ちゃんが入院してお見舞いに行ったけど、食欲無いからって残した病院食を俺が食べたっけ」
『若妻!』
「隣に住んでいた若奥さんが、よくブリ大根のお裾分けをくれたのが懐かしい」
『メイドさんっ!』
「あ、何故だかオムライスが食べたくなってきた」
『何でもかんでも食い物につなげよーとすなぁぁぁぁぁ!!』
どんだけ腹ペコなんだよ! 分かるけども!
木乃伊になるまで追い詰められている空腹感、分かるつもりでいるけども!!
……こりゃ本当にダメだ。バカな事やってないでさっさと上を目指すべきだった。
だがあと3日は持たない。こうなりゃ何とかしてショートカットする方法を考えるか。いっそ天井を爆破して貫通するか? それとも―――
「マックス、恋バナは?」
『もうお終いだよっ! お前と恋バナしても怖いしアウトだし碌な事にならねぇよ!!』
「じゃあ今度は俺からしていい?」
『なぬ?』
逆にダイの方から振ってきたぞ。ひょっとして正常な意識に戻りかけたのか?
『いやしかしダイよ、お前女の事も碌に知らねぇーのに何を振るつもりだよ?』
「前に聞いた事」
『前に恋バナなんかしたか?』
「あの美人さんとはどう言う関係なのさ?」
『……ああ、それな』
そう言えば聞いてきたな。最初に通信が繋がった時、真っ先に聞いてきたのがそれだったな。
ダイの奴、未だに気になっていたのか。
『悪いけどダイ、その恋バナにはお前の期待に添える答えは出せないぞ』
「なんで?」
『だって俺、あの美人さんの事なんも知らねぇーんだよ』
今まで黙ってたけど、実は会った事も無ければ名前も聞いた事すらない。ぶっちゃけダイが見て知った、スンゲー美人だって事くらいしか知らねぇーんだよ。
「……絶対嘘だ」
「ところで、女教師とか看護婦さんとかってマックスの趣味?」
『否定はしないが大半の男は大好きだと思うぞ。ダイはどうだ?』
「どうだと言われても……」
『ビキニギャル、ボンテージガール、巫女さん、他にも色取り取りあるぜ』
「ビフテキ丼、ぼんじり唐揚げ、ミノサンド、他にも色取り取りあるのかぁ」
『だから食い物につなげるな。エロにつなげろエロに』
「そんな露骨にエロエロ言うな」
『だが興味はあるんだろ。何か無いのか、空腹を忘れるようなグッと来るジャンルは?』
「………………魔法少女」
『そっちかぁ……』




