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外伝10話 真夜中の争奪戦 その後

アグナム視点

『バカじゃねーのか? あの女、絶対にバカだろ?』


「おい」


 そうじゃない、俺が今物申したいのはそんな愚痴じゃない。


『やれやれ、全くだ。エリザベータ・トロフィーニエヴナ・オベルタス、おしとやかな言動とは裏腹に頭はイカれているようだったな』


「おい」


 だからそうじゃないと言っている。


『ギャハハハ……ハァー、ハァー、あ、頭のネジが抜けてんだろ、あの女。絶対に(ろく)な死に方しねーぞ』


「おい」


 そうじゃないと、言っているだろーが!


『へへへへ、お、オベルタス怖い。怖い怖い怖い、滅っ茶苦茶怖い。もう2度と会いたく無い。なぁ、もうオベルタスに手を出すの、止めような。な、なぁ?』


「おい……人の話を聞けぇぇぇぇぇ!!」


 鶏冠に来た俺は左眼に内装したレーザーをぶっ放した。


 先に言うべきだったが俺、アグナム・バーズと言う男は気が短いんだ。あんまり怒らすと自分でも何をするか分からねぇんだぞ。


『お、おわぁ!? アグナム!、お前何やってんだ!?』


「人の話を聞けと、言ってんだろうーが!!」


『声をあげるな、まだオベルタスが近くにいるのかもしれないんだぞ』


「ぐっ」


 ち、癪だがヴェルクードの言う通りだ。コイツらのリーダーはヴェルクードだが、俺はチームメイトじゃないし言う事を聞く筋合いも無い。


 だがヴェルクードの言う通り、まだ近くにオベルタスがいるかもしれないと思うと、声をあげる訳にはいかない。見付かったら捌かれるのは目に見えてやがるからな。


 結局あの後俺らとオベルタスとで4対1の対決は、今の現状を見て分かる通り惨敗だった。文字通り手も足も出なかった。


 コイツらには色々と文句はあるが、それでも言ってる事には同感する。寧ろ同感しかない。


 無論おごりもあっただろう。いくら手負いが3機いるとは言えだ、4機掛かりで挑めばどうとでもなると安易に判断したのが命取りだった。


 オベルタスの実力は俺達の想像以上のものだ。手負いでも機体の性能差は歴然だったし、それに加えて多勢に無勢、勝敗は目に見えていた筈なんだがな。


 だがまさか、目に見えていない結果が現れるとは思わなかったぞ。


 オベルタスはその卓越した技術力で俺ら4機と善戦し、あろう事か追い詰められてしまったんだ。本当に化け物か、あの女は?


 それから敗色濃厚と判断して、あの手この手を駆使して命かながら逃げ延びたのが今の現状だ。こんなふざけた話があってたまるか。


 今もこうして身を潜めながらオベルタスから逃げている。恥も外聞も無い、尻尾を巻いて逃げる遁走劇だ。


 まぁいい、色々不満はあるが結局は仕方がない。俺にも問題があった、だからこの敗走に文句を言うつもりは毛頭ない。


 ただな、俺が今物申したいのはな、俺の今の現状についてだゴラァ!


「何で俺が、プロトタイプとボルドンを担いで運ばにゃならねぇんだ? あ"あ"?」


『…………』


『………………』


『……………………』


 黙るんじゃねぇよ!


 どう言う訳だかチームメイトでない俺が、右腕が無いだけのプロトタイプと、頭と胴体だけになったボルドンを担いでいる。一体何故だ!?


 百歩譲って……いや、百万歩譲ってプロトタイプはいい。俺の仕事では無いにしても、このプロトタイプの回収は“神命”だ。ならば譲歩する理由にはなる。


 だがなっ! お前らのチームメイトはお前らが運べ、クソがっ!!


『……何でと言われても困るな。ゲルディガ、お前担げるか?』


『ギャハハハハハ、俺が担げる訳ねーだろ。腕が無いんぜ』


 ちぃ、確かにゲルディガには無理だ。担ぐ腕も肩もねぇんじゃーな。大体その不便なフォルムをいい加減何とかしろ!


『そう言うヴェルクードが担いでやりゃ……ああ、そうだな。お前も今腕が無いんだった。ギャハハハハハ、マジヘコむなぁ~……』


 それも確かだ、ヴェルクードはあの後オベルタスにやられて両腕を肩の根元から切断されてたんだ。


 両腕の波動砲を警戒して真っ先に切断したんだろうな。見事過ぎる手際だ、頭は死守したようだが波動砲の砲身は斬られて機能しなくなっている。ゲルディガじゃないが、マジヘコむな。


「ならバッハム、お前が担げ! 腕は残ってんだろうが!?」


 バッハムはディガロとの戦闘で右腕を失っていたが、まだ左腕が残ってる。最も手首から先はオベルタスに斬り落とされていたが、腕が残ってるなら担ぐくらいできるだろ。


『ああ……(わり)ぃ。俺っち脚がヤベェんだわ』


「どうヤバい?」


 くだらない理由だったらレーザーで焼くぞ。


『分かり辛いけど左足首から先が無くなっててな、右太腿にもナイフが刺さったままなんだわ。今ボルドンを抱えると俺っちの脚が砕けちまう』


「なっ、ぐ……」


 そう言ってこれ見よがしに脚の損壊を見せつけるバッハムだが、確かにこの脚では胴体だけになったボルドンでも負荷に耐え切れん。自身の機重さえ支えられているのかも怪しいところだ。


 結局俺しかまともに担げる奴はいないのか、クソがっ!


 言っておくが俺も五体満足とはいかねぇんだ。武器は破壊されるわブレードでそこら中斬られるわ左腕も肘から先が無いわで満身創痍なんだ、ボケェ!


「じゃあ置いてくぞ! ボルドンは置いてくぞ!! それでいいな!?」


『『『止めろぉー!!』』』


 声をあげたらダメなんじゃないのか? 俺が言うのも何だが。


 3人揃って悲鳴みたいに声をあげやがって。言っとくが俺はチームメイトじゃないんだ、関係ない奴をわざわざ運ぶ義理はねぇ。


『へへへへ、俺、置いていかれるのか?』


 ああ、そうだ―――


『ジョークだ、ジョーク! アグナムの(わり)ぃジョークさ! あははは!』


『ギャ、ギャハハハハハ! マジウケるなー、アグナムのジョークはよぉ。ギャハハハハハ!』


『そうだぞ、ボルドン! アグナムのジョークなんだ。悪気があって言ったんじゃ無いし、置いていこうだなんで微塵も考えてない。大丈夫だ』


「…………」


 おかしい。コイツらの慌てっぷりは何かおかしい。


 チームメイトだからそんな事はさせないと言う仲間意識では無い。これは何と言うか、ボルドンの何かに怯えているかのような……まさか。


「おいヴェルクード、まさかボルドンは……」


『ああ、ヒステリー持ちだ』


 ヒステリー、それは俺達の間にだけで使われている隠語の1つだ。俺達は機体に内蔵された特殊機能を隠語で呼び合う事がある。


 意味は、大規模自爆機能。


 ふざけんなぁああああああああああ!!!


 そんな危ねー奴を俺に運ばせていたのか、貴様らはぁぁぁぁぁ!


 ヤバいぞヤバいぞヤバいぞヤバいぞヤバいぞヤバいぞ!!


 ただでさえボルドンは情緒不安定な奴だと言うのに、そんな奴にヒステリー持ちとか最悪の組み合わせだ! 俺は今断頭台(ギロチン)に首を固定されたようなもんじゃねーか!!


『アグナム、今のジョークなのか』


「……ああ、そうだよっ! 心配しなくても最後まで運んでやるよ!!」


『へへへへ、アグナムは優しいなぁ』


「クソがっ!」


 結局はコイツらのパシリじゃねーか。


 だが比較的丈夫で両腕がある程度残っているのは俺しかしない。故に結局運べるのも俺しかいないって事か。クソっ、何だって俺がこんな目に。


『なら悪いがアグナム、ボルドンとプロトタイプは君が運んでくれ』


「ああ、分かったよっ! だが2度とお前らの“神命”に俺を巻き込むんじゃねーぞ」


『善処しよう』


 善処じゃねー! するなと言ってんだ!!


 ったく、そもそも俺はフェルトンを()る為にわざわざここまで来たんだぞ。それがどうしてこんな目に合うんだ?


 地下のプラントで最上ダイにやられてからまだ日は浅いと言うのに、それがもうこの様とはな。全く、ついてねぇぜ。


 最上ダイ、か。そう言えばオベルタスが言っていたな、そこに最上ダイがいると。


 まさかな、最上ダイは地下プラントに閉じ込めた。あそこから脱出するなど、まずあり得ない事だ。


 なら、このプロトタイプには―――


『待て、今何か聞こえなかったか?』


「何?」


 まさかオベルタスか? そう言えばさっきは随分と騒ぎ立ててしまった。


 耳をすまして周囲の音を探る。……いるな、割と近い―――いや待て、これはオベルタスでは無い。足音がイングリッドとは違うぞ。


『……なぁ、これオベルタスじゃなくないか?』


『……そうだな。明らかにもう1機いる。それに、大きい』


 確かにそうだ。この足音、合体したボルドンよりもずっと大きいぞ。


 オベルタスの他にも何かいると言うのか? それも合体したボルドンよりも更に巨大な歩兵機が?


『ギャハ、ギャハ、ギャハ、……ヤベェ、全然笑えねーぞ』


『先を急ごう。(ろく)に戦えない我らが出くわしたら勝ち目は無いだろうからな』


 そりゃそうだ。そんな巨大歩兵機を相手に今の俺達が勝てる筈が無い。敵対すると決まった訳では無いが基本的に俺達以外は皆んな敵だ、警戒するに越した事は無いだろう。


 ったく、オベルタスだけでも厄介だと言うのに、ここに来てまた別の厄介事か? 溜まったものじゃねーな。


 ヴェルクードの言う通り今の俺達は碌に戦えない。直ぐにでもここを離れるべきだろうが……。


「……ちょっと待ってくれ」


 俺は一旦プロトタイプを下に降ろした。その前に確かめねばならん事がある。


『何をしている、アグナム?』


 降ろしたプロトタイプの、背中の装甲板を強引に引き剥がした。装甲板を引き剥がせば、直ぐコックピットの中が現れる。


 俺は、このコックピットの中を確認したかったんだ。


『アグナム? まさかそのプロトタイプの中に誰かいるのか?』


「……いや、何もいなかった」


 結局コックピットの中は空っぽ、誰も乗っていなかったけどな。


『当たり前だ。プロトタイプに人が乗っているものか』


「そうだな……それもそうだ」


 そうだ、プロトタイプに人が乗っているなどあり得ない事だ。


 しかし最上ダイは、あの小僧が乗っていたのもプロトタイプだった筈なのに、奴は乗っていた。


 何故だろうな、実に不気味な話だ。


『先を急ぐぞ、アグナム』


「だったらどっちか持てよ、ヴェルクード」


『すまん、それは無理だ。頑張ってくれ』


「クソがっ」


 悪態も程々に、俺は再びプロトタイプを担ぎ直して歩き出した。


 所詮は考えても仕方のない事だ。どの道、最上ダイはもう助からないんだからな。


 あの地下プラントから脱出する術など無い。そうなってはもう野垂れ死ぬ他あるまい。


 哀れな小僧だったな、最上ダイよ。

[イングリッド 波動砲試験場搭載機]

形式番号 SR-7D3/MPM.η

生産形態 試験機

機体全高 8.6m

機体重量 11.8t

機体動力 核融合炉

機体出力 2150kW

稼働時間 150時間

CP機能 8ギガフロップス

装甲厚  12mm

最高速度 時速180km

懸架部位 背部2、臀部1

収納部位 大腿部側面2

固定装備 頭部ジャミング/スコープ

     鎖骨部CIWS12.7mm機関銃×2

     両前腕部フックランチャー×2

     股間部小型カメラロボ[ゲッコー]

     右肩部波動砲


最上ダイが日本で拾った波動砲搭載型のイングリッド。波動砲搭載してること以外は普通のイングリッドだが、現在ではそれも失われてほぼただの量産機と化してしまった。

元々はディガロで開発された物であり波動砲の技術もディガロによって完成したもの。何故それが日本で放置されていたか等は一切不明であるが、そこにはマクシミリアン・ダオスロードの意図が隠されいる様子もある。

波動砲はまだ試験段階で実用化はまだ先と言われているが、実用化すれば実弾火器よりもはるかに効率が良く、総合的な威力も高い。ただしエネルギー事情に問題を残しており、このイングリッドでも連射できるのは3発までで、まだまだ課題が残っていた。

SWEMブースター搭載型に移植されてからは波動砲の機能が全てなくなっており、純粋なSWEMブースター試験搭載型として生まれ変わった。しかしデータは残っている為、然るべき技術を以てすれば復活させるのは可能との事。

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