外伝3話 真夜中の争奪戦 その3
ジャネット視点
どぎつい虎縞のせいで不意を突かれたが、何とか敵の主力火器であるアサルトライフルは破壊できた。
こっちは鈍足のセガールだ。動きが鈍いから耐久力を活かしてカウンターを狙うのがセオリーだぜ。
しかしあのタイガーストライプ、いいキックを持ってやがるな。あたしの重量級セガールG3を転倒させるとは恐れ入ったぜ。
「ちっ、やってくれんじゃねぇか、タイガーストライプ!」
敵はコイツの他に後方で待機してる奴と長距離から狙撃している奴の2機がいる。だがそいつら後回しにだ、最悪セラに任せればいい。
このタイガーストライプは、あたしの手で墜とす。リーザの手を借りる前に、あたしの手でな。
「さっきは意表を突かれちまったが、もう容赦はしねぇ。ミンチにしてバーガーの具材にしてやらぁ!」
愛用のヘビーマシンガンでタイガーストライプを撃つ。だが奴は素早い動きでマシンガンをことごとく躱しながら近付いてきた。
速い。このイングリッド、滅茶苦茶速いぞ。
機動力に特化しているのか? いや、それにしては何か変だ。普通のイングリッドには無い違和感がある。
とにかく、このまま近付かれるのはよくない。主力火器を失ったとなれば奴の使える手段は近接格闘戦、あの機動力を活かして接近戦に持ち込むつもりだ。
接近される前に迎撃しないと。
「コイツをくらえぇー!」
ここは左背部のハードポイントに固定した武器を起動する。自動照準砲だ。起動すれば照準から砲撃までの動作を全て自動で行なってくれる。
歩兵機のハードポイントは手持ち火器を懸架する為だけのものじゃない。こんな風に武器を固定したまま使用する事もできんだよ。
左背部に固定したのは[102式 150mmグレネードランチャー]だ。
150mmと聞くととんでもない威力のように思えるが、グレネードランチャーは大砲と言うより爆弾の投射装置のようなものだ。
だから反動も少ないし手で支えて撃つ必要も無いから自動照準砲として使える。その分射程距離も短いが、白兵戦ではそちらの方が使い勝手がいい。
そのグレネードランチャーを、接近するタイガーストライプに向けて撃った。例え躱されても着弾時の爆風に怯む。そこが狙い所だ。
だがタイガーストライプは跳躍して、爆風すらも躱しやがった。
「なっ!?」
凄まじい跳躍力だ。あたしの正面から右側の真横まで一瞬で移動したんだからな。それも脚力だけで。
バッタか、コイツは。
しかも真横に移動したタイガーストライプは更に距離を詰めていた。まだ近接格闘戦には余裕があると安心してしまったが、それが迂闊だった。
[バスター262 57mmショットガン]
ショットガンだ。タイガーストライプは、ショットガンを構えていやがったんだ。
―――ズドン!
躊躇ない発砲、やってくれるぜ。右肩のシールドで受け止めていなかったらやられていた。右肩のシールドはぶっ壊れたけどよぉ。
まさかライフルの他にショットガンを装備したとはな。
ショットガンは散弾が主流だが、野郎が使ったのは単体のスラッグ弾だ。散弾より威力は高いし、至近距離ではより高威力が出る。奴が接近してきた狙いはこれか。
シールドを1つやられてすかさずマシンガンで反撃したが、タイガーストライプはそれを躱して至近距離まで接近するとハイキックを仕掛けてきた。
これはダメだ。このハイキックを受けたら怯む。そしたら奴は間違いなくショットガンを直撃させやがる。
防御だ。ご丁寧にシールドを失った右側を狙ってきたが、ハイキックなら腕で防御できる。
「……がっ!?」
なのにタイガーストライプのキックは防御をすり抜けて直撃しやがった。
理由は分かってる。ハイキックは相手の頭を狙った回し蹴りだ。だから腕で頭をガードした。
なのに直撃したのは脇腹、コックピットの真横だった。
野郎、ハイキックのモーションから瞬時にミドルキックに切り替えやがった。お陰でコックピットの中のパイロットにダイレクトな衝撃が来たじゃねぇか。
だが、このG3にミドルは迂闊だ。
―――ガシッ
マシンガンを捨てて空いた右手でタイガーストライプの脚を掴んだ。ミドルキックってのは、こう言うリスクが付いてんだぜ。
直ぐに脚を引っ込めようとしていたがな、あたしは敏感肌なんだよ。蹴りを受けたら直ぐに掴むくらい造作もねぇ。
僅かに動揺の色を見せたタイガーストライプだが、直ぐにショットガンを構える。この至近距離で撃たれたら、防御も回避もできねぇ。
なら撃たれる前に、先に打つ。
「コイツはキックのお返しだ、ナックルダスター!」
左手を拳に握り締める。すると腕の籠手が変形して拳を覆うナックルダスターとなった。
これがG3の近接格闘戦用の武器[GN2Mマグニート スタン・ナックルダスター]だ。
高圧電流を流したナックルダスターは強固に拳を固めダイレクトに打撃を与える。セガールから更に強化したG3のパワーで殴ったらどうなるか、その身でとくと味わえ!
―――ドガシャーン!
ぶん殴った直後に脚を離してしまったが、それでもあたしの拳はタイガーストライプをぶっ飛ばす事に成功した。クリーンヒットでなかったのは悔やまれるがな。
タイガーストライプはあたしの拳を左腕で受け止めやがった。それで胴体への直撃を免れたんだ。咄嗟にしてはいい判断をしやがる。
だが今のでタイガーストライプの左腕は使えなくなった筈だ。かなり凹んでいるし、高圧電流も流した。少なくとも肘から先はもう使えない。
左腕が使えないと言う事は、ショットガンも使えない。あれはポンプアクションだ、左手でハンドグリップを引く必要があるからな。
「へっ、これで今度こそ撃つ手が無くなったな。それとも脚技だけであたしに挑むか、タイガーストライプ?」
軽く挑発してみたが、こんな事で乗ってくる訳無いよな―――と思ってたらタイガーストライプは左腕を肩から外すと、右膝の先をハンドグリップの端にひっかけてリロードした。
ま、まさかこの野郎、まだやる気か?
まさかもまさか。タイガーストライプは躊躇無く発砲してきた。瞬時に左肩のシールドで防御したが、歩兵機がこんなになってもまだやるつもりだったのかよ。
至近距離では無かったからシールドが破壊される威力には到らなかった。だが接近を許せば何れそうなるのは明白だぞ。
近付かせてはダメだ。落としたマシンガンを直ぐに拾って、再度銃撃を仕掛ける。当然のように躱すが、さっきみたいにグレネードランチャーを使えばまた悲惨な結果になり得る。
撃ち続けねぇとダメだ。徹底的に撃ち続けて弾幕を張らねぇと。
だがこんな時に限ってマシンガンの弾が切れた。仕方ねぇ、直ぐに予備へ取り替えるか。
だが空の弾倉を外し瞬間を、タイガーストライプは見逃さなかった。
お得意のバッタのような跳躍力で一気に接近してきて、至近距離でショットガンを撃つつもりだ。
……狙い通りだぜ。
「レールガン!」
マシンガンを左手に持ち、右背部に懸架した大口径砲を展開して、脇で抱えるように右手で構えた。
[ラインアーク 75mmレールガン]
火薬を使わない、電磁力だけで弾を撃つ兵器だ。電力はG3本体から流用しているから凄まじい電磁力を発揮できる。
まだ実用段階の代物だが、同じ口径の火砲とは比較にならない威力がある。戦車だろうが戦艦だろうが当たれば一撃必殺は間違い無い。
「とっておきの1発だ! ありがたく受け取れぇー!!」
発射ぁー!
当たれ! 絶対当たれ! と言うか当たってくれぇー!
……まぁ当たらなかったけど。タイガーストライプはレールガンをしっかり見極めてギリギリに躱してくれやがった。
ギリギリか。……なら当たったも同然だ。
レールガンは威力が比べ物にならないんだよ。ついでに言うと弾丸が放つ衝撃波もな。
『ぐはぁ!?』
おっ、遂に声を聞かせてくれたな、タイガーストライプめ。さしもの野郎もレールガンの衝撃波にはストイックを崩しやがったな。
そして隙も見せた。本当ならこのままレールガンでトドメを刺したいところだが、レールガンは炸薬じゃなく電磁力で撃つ。1発毎のチャージに時間がかかるから連射ができねぇんだ、これがな。
マシンガンも弾切れときた。なら残る手はこれだけ。
「グレネードランチャー!」
左背部に固定したグレネードランチャーで追撃するのみ。レールガンにやられて体勢を崩している、躱しはできねぇ筈だ。
しかしこのタイガーストライプは別だった。体勢を崩した状態でも跳躍してグレネードランチャーの榴弾を躱した。
なんて野郎だ。だが、まだ終わりじゃねぇ。
「コイツで、どうだぁ!?」
[M72FBAW 対艦ロケットランチャー]
脚の脹脛に増設したハードポイントに使い捨てのロケットランチャーを3丁ずつ装備しておいた。これで着地地点を狙って2発同時に撃つ。
普通ならまだ空中にいる相手はどうにもできない砲撃だが、タイガーストライプは腕のフックランチャーを地面に打ち込み、ワイヤーを引いて空中で軌道を変え着地した。
この野郎、まるでリーザみたいな事をしやがる。ロケット弾の爆風を多少は受けたが、たいした損傷には到ってねぇ。
だが砲撃の間にマシンガンの弾倉は取り替えた。グレネードもロケット弾もダメならマシンガンの連射力で仕留めてやらぁ。
「蜂の巣になれぇ!」
野郎の動きはもう見切った。今度こそ当ててやるぜ。
だが、また躱された。あたしの見切りが甘かったのもあるが、野郎もまた速くなったんだ。
異常な速さだ、イングリッドの最高速度を悠に超えている。また急に速くなったせいで弾も当たらないし、狙いも定まらねぇ。
しかもあっと言う間に距離も詰められてしまった。この距離は―――マズい、ショットガンがくる。
―――ズドン!
咄嗟に左肩のシールドで防いだが、至近距離からのショットガンはやはり威力が違う。1発でぶっ壊れちまった。
そしてタイガーストライプはまだ追撃してくる。回し蹴りだ。さっきと同じようにキックで怯ませてショットガンでトドメを刺すつもりか。
さっきと同じならハイキックに見せかけたミドルキックだろうが、多分同じじゃねぇ。ストレートにハイキックか?
何にしても防御は無理だ。間合いを見切って、ギリギリでバックステップ。と同時にタイガーストライプの回し蹴り、ハイキックか?
……いや違う、このモーションは―――ローキック!?
「んなっ!?」
タイガーストライプのローキックは、あたしのG3の膝裏を蹴りやがった。機重の重いG3の身体を支える膝、その一番弱い膝裏を蹴り上げられただと?
間合いは見切った筈。なのにタイガーストライプのローキックはG3の膝裏を確実に捉えていた。
『……ライトネード』
何だって? 今、何と言った?
マズい、やられる。
「くっ」
―――ガシッ
『何!?』
止めた。ギリギリだったが止められた。
色々と何が起こったか分からなくなってしまったが、単純に言うとタイガーストライプはローキックから踵落としを仕掛けてきて、んでその足をあたしが受け止めたって言うのが経緯だ。
最初のローキックで転倒されられ、倒れる前にトドメの踵落としで決める。それをわたしのG3が手で受け止められたんだ。
運が良かったぜ。この技を知っていなかったら、多分受け止められずにやられてた。
「おい、テメェー。どうしてリーザの技が使える?」
ライトネード。この技はあたしらの隊長エリザベータ・トロフィーニエヴナ・オベルタスの得意技だ。
最初の回し蹴りで相手を転倒させ、追撃でトドメを刺す。単純だが非常に強力でリーザの撃墜数の大半はこの技で仕留めたものだ。
あたしは模擬戦で何度もリーザと手合わせしてきたから、その技も身を以て知っていた。リーザはブレードで追撃するから止められないんだが、コイツは打撃だから受け止められたぜ。
「偶然、な訳ねぇよな。いつの間にパクりやがった?」
コピーキャットにしたら大した完成度だ、1回や2回見ただけじゃ絶対に真似できねぇ。だがリーザからあの技を何度も受けて、生きていられるとは思えねぇんだが。
『……パクった、だと?』
お? やっと口を開いてくれたな。だが何か……怒ってらっしゃる?
『ふざけるな……最初に盗んだのは、オベルタスの方だ!』
な、先に盗んだってリーザがパクったのか―――って、この野郎またショットガンを構えやがった!?
ヤバい! こっちは倒れたままだってぇのに、この至近距離でショットガンは絶対ヤバい!
「このっ」
あたしは左手でタイガーストライプの足を掴んだまま、右手のマシンガンを手放してナックルダスターを展開した。ナックルダスターは両腕にあるんだよ。
「いつまで押し倒してんだ、コラァ!」
渾身のストレートパンチをタイガーストライプの尻に叩き込む。それと同時に野郎もショットガンを発砲、あたしのG3の左肩を吹っ飛ばされてた。
タイガーストライプは後方に飛ばされ体勢を崩したが、わたしに追撃の余裕は無い。左腕が肩から丸々無くなっちまったんだからよ。
流石はショットガンだぜ。頑丈なセガール系統も一撃で肩が吹っ飛ぶとはな。
直ぐに立ち上がってマシンガンを拾う。お互い左腕が無くなっちまったが、まだ勝負は付いていねぇ。それに、リーザが盗んだと言った件も気になる。
「その技はテメェーのオリジナルか? はっ、だとしたら気の毒なくらい見すぼらしいもんだな」
『何?』
「リーザ……オベルタスの方が、ずっと技にキレがあったんだよ。テメェーとは大違いだ!」
確かに、大した完成度ではあったさ。だがな、リーザ程じゃない。遥かに劣る技ライトネードだ。
『貴様っ……そうかそうか。ならその見すぼらしい技で、貴様を惨殺してやるとしよう』
「へへ、やってみろよ」
とは言ったが、タイガーストライプの機動力相手にマシンガンは当たらねぇ。レールガンももう通じないだろうし、打つ手なしか。
それにタイガーストライプのキック。何度見極めても躱せない、まるで魔法みたいだ。一体どうなってやがる。
異常なまでに速い機動力に、魔法のように当たるキック。こっちは火力しか手数がねぇのに、どうやって対処すりゃあいい?
リーザが来れば何とかなるが、それまで持ち堪える自身がねぇし。損傷はどっこいどっこいでも、重量級のG3の方がこの損傷が致命的となる。
どうする? 一体どうすりゃあいい? どうしたら―――
『せ、先輩! 助けて!』
とか悩んでたら突然後輩のリンから通信だ。しかも助けてって、なんかヤバい予感がするな、おい。
「リン? どうした、何があった!?」
『奇襲です! 突然現れて……あ、あああああ!!」
「リン!?」
マジでヤバいじゃねぇか。電子戦特化のES–7が奇襲を受けるなんて事があり得るのか?
クソったれ! 直ぐにでも助けに行きてぇけど、眼前の虎が逃しちゃくれねぇし、勝てるかどうかも分かんねぇのに。どうしたらいいんだよ!?
せめてリーザが救援に来てくれれば……なっ!?
「み、ミサイルだと!?」
何処からともなくミサイルが飛来してきた。その数、4発。
リンのジャミングが展開されている中で、ミサイルが機能する筈が無い。だとしたら、まさかリンは……。
「ええい!」
あたしはミサイルを躱すと同時にG3を走らせた。こういう時に限って鈍足なのが悔やまれるぜ。
ミサイルが着弾し、爆発する。タイガーストライプはどうなったか? あの程度の爆撃でやられるとは思えない、今こうして背を向けて走行してる間にもショットガンを撃とうとしているのかも。
だが、あたしは構わず走り抜けた。通信が途切れたリンのもとへ、今は一刻も早く辿り着きたいからだ。
[セガールG3]
形式番号 SR-3G3
生産形態 量産改造機
機体全高 8.1m
機体重量 19.6t
機体動力 核融合炉
機体出力 2150kW
稼働時間 150時間
CP機能 8ギガフロップス
装甲厚 21mm
最高速度 時速90km
懸架部位 背部2、臀部1、肩2、脹脛2
収納部位 無し
固定装備 頭部ジャミング
右胸部スコープ
左胸部CIWS12.7mm機関銃
両前腕部フックランチャー×2
両前腕部スタン・ナックルダスター×2
追加装備 45mmヘビーマシンガン
ライオットショルダーシールド×2
150mmグレネードランチャー
75mmレールガン
対艦ロケットランチャー×6
特殊装備 105mmカノン砲×2
セガールに105mmカノン砲を2門搭載した砲撃用バックユニットを単独で使用する為に改造した機体。カノン砲は本来単独では撃てず、僚機に背中を支えてもらう必要がある。
G3はそれを単独で撃てるように安定性を強化する為、主に脚腰と肩周りを補強した。更に白兵戦を考慮して脹脛にハードポイントを増設するなど大胆な改造も行われている。
白兵戦での装備に試験段階のレールガンを装備している。波動砲に匹敵する威力がある反面で反動も大きく、現段階ではセガール系統しか扱う事ができない。
ジェネレーター等のパーツもイングリッドの物を流用して反応速度も大幅に上げた為、性能はイングリッドに引けを取らない高性能機となっている。これもセガールが元々ペイロードに余裕があるが故に可能な改造であった。




