外伝1話 真夜中の争奪戦 その1
ジャネット視点
「うっしゃあああああ!!」
ディガロの歩兵機を撃墜したあたし、ジャネット・アーロンは勝利の雄叫びをあげた。
あたしらクロステーゼ27日分隊は今、ディガロと大規模な戦闘を繰り広げていた。
あたしら27日分隊だけじゃない、クロステーゼの精鋭部隊がそこかしこに散らばって激戦を繰り広げている。それだけディガロが本腰を入れてきたって事だ。
場所は最上ダイを捜索に来たタイガ地帯だ。元々はクロステーゼの調査部隊が対象の最上ダイを捜索していたのがきっかけだった。
その調査部隊は、同じくディガロの調査部隊と遭遇して戦闘が勃発。互いに救援を求めて増援が増えていったら大規模戦闘に発展したのが現状の経緯だ。
あたしらも救援に駆け付けた増援部隊の1つだけどな。全く、朝っぱらからスクランブル出撃させられたってぇのに、とっくに日も暮れて空は真っ暗になっちまってるよ。
長期戦には慣れているつもりだったが、今日は流石にハードだったな。そろそろ終わりが見えて来てもいい頃合いだろ。
今までもディガロの調査部隊と鉢合わせする事は何度もあったが、今日ほどしつこい事は今までなかった。
今までと言えば、遭遇したとしても適当にドンパチ交わす程度。頃合いを見て撤退するのが定石なんだが、今回に限っては互いに撤退するそぶりがまるで見えない。
増援がバンバンやって来る辺り、どちらも撤退する気はなさそうだな。
何でかは、大体分かる。あたしらも現場に来てビックリさせられたからな。これは引くに引けなくなったぜ。
最上ダイのイングリッドが確保されたんだからな。
ディガロの奴らもこのイングリッドにご執心のようでな、意地でも奪い取ろうと躍起になっていやがる。お陰で久しぶりに手応えのある歩兵機戦ができたけどよぉ。
確保したイングリッドは右腕が壊れて右胸部も抉れていた。中のパイロットは死んだかもな。
なんでこうなったのかは聞いて無いが、右腕が無くなってたのは良かったぜ。万が一パイロットが生きていて参戦復帰したら右腕の波動砲が一番の脅威になる。
あたしなんか、あれにやられて1発ダウンになったからな。ああ……軽くトラウマだ。
今は機能停止してだらんと動かなくなっているイングリッドを、同じ部隊のリン・インシー軍曹が確保している。リンは電子戦専門だから、前に出て戦う事が少ないあいつが適任だった。
んで、残りのあたしらは迫ってくるディガロを迎撃しているって訳だ。特に隊長のエリザベータ・トロフィーニエヴナ・オベルタス大尉、愛称リーザなんかは単独で殲滅しまくってやがるけど。
リーザは下手に手助けしない方がいい、かえって脚を引っ張るだけだ。リーザはあたしらとは絶対的な何かが違うんだからな。
それに、この戦闘の最終目標は最上ダイのイングリッド、コードネームをガンアームと名付けたそいつを輸送ヘリに乗せて基地に連れ帰る事。
そしてディガロの奴らはそれを奪い取って逃げる事。つまりは派手な争奪戦になってるって事だ。
ガンアームを運ぶ輸送ヘリはディガロに撃墜された。だから今新しい輸送ヘリが来るのを待っているところだ。それまでは何としてでも死守しねぇと。
だから今の内に少しでも数を減らしたいところだ。思い切って頑張るしかねぇ。
『―――先輩、ミサイルが来ます!』
リンの報告であたしは直ぐにミサイルをロックオンし、愛機セガールG3の左胸に内装されたCIWS12.7mm機関銃で迎撃した。
「ナイスだ、リン!」
『礼を言う暇があったら手を動かしてください。右側から新手です、数は4機』
ちっ、可愛い後輩だぜ、全く。しかし新手が来た事を教えてくれるのは素直にありがてぇ。
リンのイングリッドES–7は電子戦専門だ。背中に装備した背負子みたいなのは電子戦用ユニットで、その上にある大きな円盤はレドーム。
頭部も改造されて顔を覆うバイザー状になってるし、肩にも電子戦用ユニットを搭載して盛り上がった独特のデザインになっている。
まるで日傘でもさしている貴婦人のような優雅なフォルムだが、実はこのES–7があたしらの生命線になっているんだぜ。
電子防護と電子戦支援に特化しているからあたしらの姿は敵には映らないし、逆に敵の姿はどこからでも丸見えだ。敵が見えねぇと攻撃のしようもねぇだろ?
その反面、武器は殆ど装備できないと言う悲しい事実があるけどよぉ。
まっ、それはあたしの役目だ。このG3は火力に特化してんだよ。
セガールは旧世代の歩兵機だ。寸胴で横幅が大きいのが特徴で高い積載量を誇るから重武装化ができる。しかも安定感があるから初心者にも扱い易く、新人はこのセガールで訓練するのが基本だ。
あたしのG3はイングリッド並みに反応速度をピーキーにして、尚且つ脚腰や肩を補強して高火力兵器を使えるようにカスタマイズしてあるけどな。
右胸のスコープを展開して接近する4機の歩兵機を目視で確認する。セガールは右胸にスコープ、左胸にCIWSを内装する古い構造でな、G3にカスタマイズしてからもその名残りは意図的に残してあるんだ。
そのスコープで確認した歩兵機は、4機ともセガールだった。あたしのG3みたいにカスタマイズされていない一般型の。
セガールは汎用性も高いしな、イングリッドが大量生産される現代でも旧世代派は積極的に使ってる奴も多いらしい。
だがな、あたしもその旧世代派なんだよ!
セガールは鈍足だが、その分頑丈だ。あたしの57mmヘビーマシンガンで仕留めるのは手間だが、一撃で決められないとこっちの位置を教える事になる。
奇襲を仕掛けるならなるべく一撃必殺だ。セガール相手にやるならバックユニットしかないな。
バックユニット。背中のハードポイント2つを使い切る代わりに特殊な武器を使う事ができる歩兵機の換装システムだ。リンの背中にある背負子みたいなのがそれに当たる。
リンのバックユニットは電子戦兵装が諸々詰まったものだが、あたしのは違う。105mmの大口径カノン砲を2門搭載した砲撃用のバックユニットだ。
起動したカノン砲の砲身が肩の上に倒れて、砲身の下のグリップが展開する。ヘビーマシンガンを腰に戻し、そのグリップを手で掴んで支えた。結局は手持ち火器だからな、最後は手で持って撃たねぇといけねぇ。
4機のセガールはまだこっちに気付いていない。やるなら今か。
「くたばれクソがぁ!」
放たれた2発のカノン砲は緩く放物線を描いてセガールに飛来した。直撃しなくとも撃ったのは榴弾だ。着弾すれば爆発するし、爆風と衝撃波だけでも十分な威力がある。
砲弾はほぼ直撃した。着弾と同時に大爆発、至近距離で受けたならセガールと言えどただでは済まない筈だ。
結果は―――やりぃ!
目視で確認できる限り全滅してらぁ。
「うっしゃあああああ!」
『まだですよ、先輩。1機残ってます』
「んだと!?」
ちっ、運のいい奴がいたもんだな。まっ、生き延びたところでリンの索敵能力なら即バレするけどな。
さぁて生き残った奴はどいつだ? 半壊してんだし、手っ取り早くヘビーマシンガンでトドメをさしてやるぜ。
―――ズドン
と思ってたら横でスナイパーライフルをぶっ放したイングリッドがそこにいた。
『私がやったわ。文句は言わないでね、ジャネット』
獲物を横取りしたのは我らが副隊長のセラフィナ・ハブタム少尉だ。彼女もスナイパーライフルを駆使して遠距離から迎撃していたが、まさか横取りとはな。
「おい、セラ―――」
『だから、文句を言わないの。ジャネットは持久戦に備えて温存しなさい』
相変わらず理屈っぽい奴だぜ。
セラは手柄の横取りなんて卑怯な事はしない。その事はリーザと同様に付き合いが長いからよく知っている。
セラはリン並みの分析力があると同時に心理学にも精通している。相手の心の内を見透かしたり、戦場で敵の行動を読み取ったりしては操り翻弄したりもする。指揮官としてはリーザよりも優れているだろうな。
だから今も戦場を見極めて理屈に沿った行動と取るだけだ。ただ理屈過ぎるのが玉に瑕なんだけど。
しかしセラの言う事も分かる。長期戦故に残弾も少なくなってくるし、火力の高い私が要になるから温存するのは当然の事だ。
補給はガンアームを回収する輸送ヘリと一緒に来るからそれまでは今の残弾で持ち堪えねぇとならねぇんだし。
因みにリーザはブレードを駆使しているからあんまり補給はいらなさそう。ブレードが折れない限り心も折れないだろうな。
『ポイントを変えるわよ。増援が来る前に立て直すわ』
『了解です』
「了解。……いや、ちょっと待て」
ふと違和感を感じてあたしは立ち止まった。こう見えて敏感肌だからな、他人の視線は突き刺さるように分かるんだよ。
「リン、周囲に敵影はあるか?」
『ありません。あったら報告しますよ、バカな事を言わないでください。バカなんですか?』
本当に可愛い後輩だぜ、ったくよぅ。だがリンがそう言うなら周囲に敵はいないんだろう。
リンのES–7の索敵範囲は滅茶苦茶広いし、性能も高い。掻い潜るのはほぼ不可能と言っていい。
だったらなんだ、この肌を刺すような視線は?
『ジャネット、あなた何か感じたの?』
流石はセラ、直ぐに察してくれた。心理学に精通してるからか、付き合いが長いからかは分からねぇけど。
「ああ、間違いねぇ。この感じ、誰か見て―――」
不意に聞こえた風切り音。あたしは咄嗟に右肩のシールドを出してリンを守った。
それとほぼ同時だ。シールドに着弾したのは。
『ひっ!?』
『そ、狙撃!?』
そう、狙撃だ。誰かが長距離から狙い撃ちしやがった。しかも索敵に特化したリンを真っ先に狙いやがったぜ。こりゃあ切れ者の手口だ。
「走れ!」
あたしの合図で全員が後方に走った。相手は姿の見えない狙撃手だ、戦いようがねぇ。逃げようもねぇけど。
ガンアームはあたしが抱えた。セラやリンのイングリッドじゃかなりの負担になるし、何より防護手段を持たない2人は先に逃さねぇといかねぇだろ。
「ちっ!」
また撃ってきやがった。今度は左肩のシールドで受け止めるが、1発でシールドがひび割れてやがる。余程の威力を撃ってやがんだな。
リンやセラだったら1発でアウトだろ。あたしがしんがりになって壁にならねぇと。
しかしその時、スモークが撒かれた。スモーク、煙りだ。これに隠れれば狙撃手も狙いようがなくなる。しかし一体誰が撒いたんだ?
『こっちよ、早く!』
声の主はあたし達を木々が密集した森林地帯に誘った。木々の背丈も高いし、ここなら狙撃手にも狙われない。
何せスモークは一時的なものだからな。晴れたらまた狙われるのがオチだし、身を隠せる場所があってよかった。
「ふぅ……助かったぜ、マム」
『どういたしまして』
声の主はイングリッドだが、乗っているのはセラでもリンでも無い。同じ部隊仲間のクラーラ・メレンチェヴナ・マギナ曹長だ。
27日分隊の最年長であたしらの教育係でもあった。階級は曹長だが、実はリーザでさえ頭の上がらない相手だったりする。
最年長でしかも一番色っぽいから、わたしがキャバレーのママ的な意味でマムと冗談で呼んだ事があってな、それがそのまま定着してしまったんだ。
以来それが彼女の仇名となって、マムも満更でもなくなっていた。ははは……。
「リン、敵影はあったか?」
『あります。こっちに接近するのが2機、反応からしてイングリッドです。でも……』
リンは何かを言い淀んでいた。
おそらくそれは、狙撃手の存在に気付かなかった事だ。あのリンが敵の奇襲をみすみす許してしまうとはな。
『狙撃された時……敵影はなかった。何もなかったんです……』
リンが狼狽えるのも無理からぬ事だ。ES–7の索敵で見つからない敵はいないと言われている。掻い潜られた訳じゃないとしたら、考えられるのは1つしかない。
『……銃声、遅れてから聞こえてきたわ』
そしてセラの分析が決定打となった。
銃弾は音速を超える、長距離を飛べば銃声の方が遅れるのは当然、より長射程になった歩兵機の狙撃銃なら尚更だ。
そして着弾と銃声の誤差で、狙撃手の射撃距離を逆算する事もな。
『明らかにES–7の索敵範囲外から狙撃してた。リンのせいじゃないわ』
『でも―――』
「くよくよすんな! 今はそれどころじゃねぇだろ」
あたしらが後退した事で、敵の接近を許してしまったんだ。ここで押し返さねぇとマズいだろ。
『ジャネットの言う通りね。間もなくリーザとも合流するわ、接近する2機はジャネットとリンで抑えて。まだ隠れている筈の狙撃手は私が仕留める』
「問題無しだ。リン、いけるな?」
『……はい、問題無しです』
よし、大丈夫そうだな。
『マムはガンアームを連れて後退、何としてでも死守して』
『了解よ。予備の武器と弾倉を持っていって。それと、無茶もしないでね』
『ええ』
「心配すんなよ、チーズバーガーも食えずにくたばるつもりはねぇ」
『あなたはもう……』
セラがガチで呆れてやがる。いいだろ、バーガーが好きなんだよ。
『じゃあ、気をつけて』
マムを見送って、あたしら3人は空になりつつある弾倉を取り替えた。接近する2機を迎え撃たねぇとならねぇし、準備は万全にしておく。
「あたしは前に出る。セラ、狙撃手は任せたぜ」
『任せなさい。これでも副隊長なんだから』
セラもスナイパーライフルを構えて移動を開始した。狙撃の撃ち合いになれば常に移動が求められる。
結局狙撃手には狙撃手って事だ。セラは狙撃の腕はそこそこだが、相手の心理を読み取る能力に長けている。勝率は五分五分と言ったところだな。
「リン、索敵は頼んだぜ」
『気をつけてください。2機の内1機が急に立ち止まりました。もう1機は接近を続けてますが、何かの作戦かもしれません』
「心配すんな、あたしを誰だと思っている? エリザベータ・トロフィーニエヴナ・オベルタスと肩を並べる、ジャネット・アーロン様だぞ」
『先輩、隊長に勝てた試しが無いじゃないですか』
「うるせぇ!」
本当の本当に可愛い後輩だぜ、お前はよ!
まぁそれはいい。バックユニットを捨ててマムから頂いた装備を整え直した。接近戦になれば大口径のカノン砲なんか役に立たねぇんだよ。
森林地帯を出ない程度に前へ出て、接近するイングリッドを迎え撃ちに行く。わざわざ1機で攻め込んできた魂胆を見せてもらうぜ。
愛用のヘビーマシンガンを片手に、一歩一歩気を引き締めて走る。邂逅すれば問答無用で戦闘が始まるし。なら如何に先制を取れるかが勝負の分け目だ。
操縦桿のトリガーに指をかける。いつでも撃てるようにしておかねぇとな。
と思ってたら、あたしの敏感肌が気配を感じ取った。敵はもう直ぐそこにいる。
脚を止めて、ヘビーマシンガンを構えた。敵はこっちに気付いていないのか、それとも気付いていながらなのか、迷わず一直線に接近して来やがる。
いいさ、容赦はしねぇ。姿を見せたら蜂の巣にして―――って、なぁ!?
「ななな、なんだぁ!?」
堂々と姿を見せたにも関わらず、あたしはその敵機イングリッドに銃を撃つのも忘れて固まってしまった。
だってさぁ、そのイングリッド……どぎつい虎縞だったんだぜ。
[セガール]
形式番号 SR-3
生産形態 少数量産機
機体全高 8.1m
機体重量 18.4t
機体動力 核融合炉(旧型)
機体出力 1200kW
稼働時間 70時間
CP機能 5ギガフロップス
装甲厚 10〜22mm
最高速度 時速90km
懸架部位 背部2、臀部1(肩2)
収納部位 肩2(懸架部位に換装可能)
固定装備 頭部ジャミング
右胸部スコープ
左胸部CIWS12.7mm機関銃
両前腕部フックランチャー×2
第1世代型の中でも最良の名機として知られ、その特徴がイングリッドを始めとする多くの第2世代型に継承された。
第1世代型の歩兵機は胴体周りが大きくなっているのが特徴で、第2世代に代わるまでスタイリッシュな歩兵機は存在しなかった。その中でもセガールは柔道家のような、寸胴でも力強いフォルムで第1世代型では一番軽快に動ける。
また当時の技術ではイングリッドほど俊敏には動けない為、鈍足対策として外装を二重構造にするなどの対策がなされた。この構造により重量負荷が増したにも関わず機動力が低下しないと言うのがセガールの凄いところでもある。
非常に丈夫な構造故に最大使用火器は125mm口径の戦車砲も使える為、使用者の殆どが重装備を行う。重装備は第2世代型だと過負荷だからできない為、セガールが現代でも多くのパイロットに愛用されているのもここに理由がある。




