第42話 ここはどこ? 私は誰? ……とにかく腹減ったぁ~
システム補助66%
それからの攻防戦は、特筆する程の事は何もなく四本脚を全滅できた。
ちょいちょい現れた増援も出てこなくなり、合計で50機前後しかいない四本脚は全て死骸と化している。
50機かぁ、思ってたより少なかったな。
チェーンガンのお陰で時間はかかったものの、余裕で勝てたし。拠点での攻防戦と比べるまでも無い。あの時はガチのデッド・オア・アライブを数回も経験させられたんだしよ。
今思うと良く生きてたな。普通死んでるわ。
それに比べたらこの攻防戦は楽なもんだった。だが勝ったのにあんまり喜べなかったのは、この不完全燃焼感が原因だろうな。
「あ〜……なんかこう、物足りないと言うか物寂しいと言うか……何て言うんだろ、この感覚?」
欲求不満、だろ。
徐々に脳筋思考に寄りつつあるぞ。身体も筋肉体質に変わりつつあるけど、脳みそまで筋肉になるなよ。
それ戦場で即死するキャラだからな。
しかし本当に変わったな、ダイ。最初の頃はグダグダのダメダメな奴だったのに、今じゃ眼帯野郎にも実力で―――いや、戦略で勝てるまでに到った。
まだ2週間足らずしか経過していないのに、このプラントに来てから劇的に成長した。システム補助の減りも中々早いし、正直俺もここまでとは思わなかったぜ。
きっかけはまぁ、あの絶体絶命の攻防戦だろうな。あれを乗り越えてダイは一皮も二皮も剥けたんだ。一人称が“俺”に変わったのもこの時からだしな。
てか、あの攻防戦を乗り越えたのは本当に凄い事だ。と言っても70%は運が良かっただけだが、しかし一生分の運を使い切って乗り越えた先に得られたものも確かにある。
それは技術と経験。一流の兵士となる上での必須な能力面だが、普通なら何年もかけて積み重ねるものを、ダイたった1日で数年分の技術と経験を会得したんだ。
それからだ、ダイが兵士として覚醒したのも。
人間と言うものは死を間近に感じると能力以上の力を発揮できる。ダイはそれを何度も何度も乗り越えてきたが故に、それがそのまま技術と経験として身に付いたんだ。
これは個人の才能云々は関係ない、誰にでもなり得る可能性だ。まぁ誰にでもできる事じゃないがな。ダイはただただ運が良かっただけで。
もう一度言う、運が良かっただけで。
俺もやってみようとか言う奴には先に言っておく。止めはしないが99.9%死ぬ覚悟はしておけ。ダイは残りの0.1%で奇跡的に生き延びた、単に運が良かっただけ、だからな。
その運のお陰でトントン拍子に強くなれたダイは、今となってはこの程度の戦闘では物足りないと言う。
急激に強くなった代償として理性を失い戦闘狂に走るのはよくある事だが、ダイにはそうなってもらいたくは無いな。
俺がストッパーにならないといかんのだが、通信が繋がらん間はどうにもならねぇー。頼むから暴走するなよ、ダイ。
「……はぁ、まぁいいや」
あっさり不満を妥協しやがった。あれ? ストッパーいらなくね?
そう言う事が簡単に妥協できるのは、ある意味ダイの美徳だな。流石は妥協主義。
そうやってパッと気持ちを切り替えたダイは、まず武器を整えた。何せチェーンガンは動かせないし、あとは波動シールドとナイフしかない。
なので撃破した四本脚からライフルと手榴弾のポッドを拝借して装備を整える。あとはいよいよ行動に出るだけだ。
ダイは天井のシャフト穴を見上げた。エレベーターの柱が破壊された跡の穴、その高さまで80mはあるだろう。結構な高さだ。
たいした苦労はしてないが時間は浪費してしまったからな、せめて地下5階まで行けたらいいんだが。
まぁ、行って見れば分かるさ。
「ブースト」
ダイはSWEMブースターを50%まで解放して跳び上がった。
拠点で試運転した時はここより半分くらい低い所だったが、それでも100%で跳び上がったら頭が天井にめり込んだ。あの時は参ったぜ……。
だから取り敢えずは様子見だ。勢い余ってまた天井にめり込むとかは止めて欲しいからな。
流石に50%では届かなかったから5%ずつ上げていって調整し、75%で天井に触れる位置まで跳び上がれた。
なら今度は80%、ちゃんとシャフト穴を狙って跳び上がり、中へスッポリ入る。
その瞬間にフックランチャーをシャフト内に撃ち込み、ワイヤーにぶら下がると同時に壁に足を付けてその中に留まった。ダイも慣れたもんだな。
シャフトの中は当然真っ暗だ。暗視モードに切り替えて中の様子を見ると―――シャフトの行き止まりが割と近いところにあって愕然とした。
「……うそだぁ」
いや、だってさぁ……ダイはシャフト穴の入口付近に留まっていて、割と近いところに行き止まりがある。つまり殆ど上にはいけないって事だろ?
位置的に考えても、地下6階止まり。その先の地下5階は夢のまた夢だったとさ。マジかぁ……。
「くっそー、こんな事なら四本脚なんて無視しとけばよかった」
確かにな、食料がない今の状況でこのロスは非常に痛い。どうしても上に行きたいって時に……こういう所で運が無いんだよなぁ、ダイは。
仕方ない、上は行き止まりだがエレベーターの出入り扉は直ぐそこにある。そこに出れば新しい道が開けるかもしれない。
ひょっとしたら上へのトンネル状の通路も直ぐ近くかもだし。
何にしても行動あるのみ。ダイは扉をこじ開けて中に入った―――と言うより出た、だな。
扉の先は通路だ。通路の一面にエレベーターの扉が設置されてある。
通路は右か左の2つ、ただし左の道は少し行った先で行き止まりだったから実質右の道しか無いんだけど。
「……ん?」
その時ダイはある事実を察した。クソ碌でも無い、頭を抱えたくような事実を。
イングリッドの移動軌跡だけど、ここの地下6階の軌跡はほぼ大頭無しの死骸があったフロアの上の足場に集中しているが、同時に足場から続く格納庫にも集中していた。
その格納庫の位置なんだけどな、これって今いる位置から直ぐそこの左側なんだ。ここまで言えば大体分かるだろ?
ダダダっと左の道へ駆け出したダイは行き止まりの横壁にある扉を見つけた。
ほぼ無警戒でその扉を開けるとあら不思議、そこには格納庫のようなフロアが広がっていた。……まんま格納庫なんだけどな。
つまり格納庫から通路に出れば、エレベーターまで直ぐに着いていたんだ。わざわざ四本脚を全滅させて貴重な時間を費やす必要なんか微塵もなかったんだよ。
「無駄足だったぁー!!」
無駄足だったぁー!!
それから、2日が経過した。
何故いきなり2日も、と思うかもしれないが許してくれ。久方ぶりのグダグダストーリーだったんでダイジェストに終わらせてもらった。
地下6階に来てからこっち、あれこれと迷い彷徨い、たまに無人機とドンパチしてまた迷い彷徨う日々でな。上の階層へ通じる道がまるで見当たらないんだわ。
考えてみたらまともに階層を調べたのはこれが初めてかもしれない。地下8階はまともに調べたけど、まだまだ開発途中で未完成のままだったし。それでも調査し尽くすのに丸1日かかったけどな。
地下7階にしても地下4階にしても、色々あった末に途中で調査終了となった。
だからまともに階層を調べるのはこれが初めてになる。その結果、階層から正規ルートで上に行くには日数単位での作業になる事が分かった。
……いや、無理だろこれ。
まだ地下5階もあるんだぜ。日数単位って、あと何日かかるんだよ。普通に死ぬわ。
だって食料がねぇーんだぞ。この2日間食う物が無いダイは水だけで持ち堪えていた。水道は通っていたからな。
しかし食料がないとダイの体力がもたねぇーし。歩兵機に乗ってるから余計に体力が持っていかれるし。ドンパチとかにでもなりゃあ尚更持っていかれるし。
だから時間をかければかける程にダイが窶れていく。まるで時間経過と共に死神が魂を削ぎ落としてるみたいだ。
この時ダイがまだぽっちゃり体型だったのは幸いだな。無駄な贅肉が体力の貯蓄として消費されているから歩兵機も何とか操縦できている。
その贅肉が無くなって痩せこけてしまったら……死ぬだろ、普通に。
水があれば人間1ヶ月は生きられるって言うけど、歩兵機を操縦し続けていたら体力は大幅に無くなっていくからな。贅肉の貯蓄を考えても1ヶ月はもたないだろ。
2週間が関の山か。2週間で地下6階から地下4階まで……やっぱ無理じゃん。
俺が無理だと断言する理由は他にもある。てか、これが一番のネックになっているんだよな。
実は、新しい無人機が現れたんだ。
呼び名はカタツムリ。タンクローリーのタンクが分厚い円盤型に変わったような形状で、側から見たらまんまカタツムリだった。
大きさはゲッコー程度でイングリッドから見たら結構小さいし、武器らしい武器も見当たらないから敵では無いのかと思ったが、しかしカタツムリはダイを視界に捉えると一直線に向かってきた。
しかし向かって来られたところであまり危険な様子は無いと思って放置する事にしたんだが、それが間違いだった。
カタツムリは地味に速いスピードでイングリッドの足元まで来ると、自爆しやがったんだ。ドッカーン!とな。
あの時は、本当に死ぬかと思ったぜ。
カタツムリの爆弾は手榴弾とは規模が違う、とんでもない爆発力だった。しかも狭い通路で爆発されると衝撃が集中するからイングリッドの被害もシャレにならなくなる。
まぁ爆発する寸前にヤバいと察したダイは咄嗟にフルブーストで逃げたけど、それでも被害は大きかった。
なのでまた直ぐに拠点まで戻ってメンテナンスドックで修理したさ。SWEMブースター搭載型になってからパーツ交換では済ませなくなったしな。手間はどうしても増えてしまう。
そう言う意味では大頭無しのいるフロアを確保したのは正解だったかもしれない。拠点まで最短ルートで戻れた訳だし。
ついでに地下8階は最短ルート以外の通路を全て爆破で塞いでおいた。また開通されるかもだけど、やっておいて損は無いし。あとフロアの出入口は大頭無しの死骸で塞いだから、多分もう四本脚はやって来ない。
とは言っても、そう何度も拠点を往復する訳にもいかなねぇーんだけどな。だがカタツムリの対処法が分からないから何度も往復する羽目になる。
いつもなら撃破した後で残骸を分解して調べられんだけど、カタツムリは自爆するから残骸が残らないし調べようが無いんだわ。
しかもコイツら小さいせいかジャミングでも使ってるのか、レーダーに映らんときた。
だから突然の鉢合わせとか気付いたらそこにいたとかもあるし、その途端にドカーンもあり得る。てか何度かそうなって拠点を往復したし。
ジャマーブラスト? ああ、勿論使ったよ。ジャマーで強制的に動きを止めたらそれで良くねって。
で、やってみたら爆発しよったよ……何故に?
ジャマーもダメってきたら、あとは波動シールドだけだ。今のところジャマーで自爆を誘発して、波動シールドで爆発の衝撃を跳ね返す。これが唯一の対処法だ。
この対処法なら無傷で撃破できるけど、レーダーに映らないからそう毎回上手くはいかない。不意を突かれる事が殆どで波動シールドも間に合わない事が多いんだ。
まさか不意打ち専門のダイが、不意打ちをされる日が来るとはな。
と言うか3回に1回の割合で不意打ちを決められてるから拠点を往復する回数も多いのなんの。だから2日経った今でも全然先へ進めていないんだ。
地獄だぜ、これ。空腹で意識が朦朧としているのに何度も何度も拠点を往復せにゃならないとか、地獄以外の何物でもないだろ。いや、マジで。
「……地獄だぁ〜」
ああ、そうだよ。地獄だよ。
先が見えない迷路に全然先へ進めないイタチごっことか、無理ゲー過ぎるだろ。絶対2週間でとか無理だ、その前に餓死するわ。
あの絶対絶命の攻防戦で運を使い切ってしまったからか。本当に今のダイには運が回って来ない。
てか、そもそもこのプラントに来てからダイの運はだだ下がりだった。地下8階に落ちた時は神様に相当嫌われたのかと思ったし、そう考えると攻防戦で生き延びたのも運が良かったと言えるだろうか?
普通に四本脚のガトリングガンを受けて蜂の巣にされた方がまだ幸せだったかもしれん。空腹で餓死するよりかはよっぽどマシな死に方だろ。
全く、どうしてこんな事に……ああ、俺が連れてきたせいか。スマン、ダイ。
「ああぁ~……お腹空いた」
言うな、言えばそれだけ腹が減るぞ。
「ああぁ~……姉ちゃんのハンバーグが食べたい」
不意に家にいた頃の事をダイは思い出した。
ダイの家はシングルマザー家庭で母親はキャリアウーマン、だから家事全般は姉のタカネがほぼ全てを行っていた。勿論、料理も。
出来の良い姉と出来の悪い弟、決して良好な関係とは言えなかったが、それでも姉のタカネは毎日ダイに手料理を振舞ってくれていた。まぁ母親のついで、とも受け取れるけど。
そんなタカネの手料理の中でも、ダイはハンバーグが一番好きでな。だが自分から要望とかできないから、ハンバーグが出てくる日を待つしかなかった。
「もし家に帰る事ができたら……勇気を出して姉ちゃんに頼んでみようかな」
たったそれだけの事に勇気がいるんかい。
まぁ気持ちは分かるさ。ここを出られたら存分に食うと言い。ここを出られたら……あれ? これって一生出られないパターンじゃねぇーだろうな?
嫌だぞ、俺もダイも。ここで一生を終えるとがマジでゴメンだかんな。
絶対に脱出すると決意をした俺だったが、しかしそれだけじゃダメだったんだ。
この時俺は、脱出した後の事も考えるべきだった。脱出した先に待ち構えている脅威が、直ぐそこまで迫っていたんだからな。
俺達が地下で燻ぶっている間に、地上ではもう一つの戦いが巻き起こされていたんだ。俺が言う“敵”が、ついに動き出しやがった。
戦争が始まろうとしている事を、俺達はまだ知らなかったんだ。
問題、“敵”はどっち? A.クロステーゼ B.ディガロ
……ディガロって何?
しまった! メタ発言!?




