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第40分のB話 影無しちゃんは闇に堕ちる……どうせ影無しですよ、あはははは

ハヤセ視点

最上(もがみ)ダイは死んだ」


 嘘だ。


「最上ダイは死んだ」


 嘘だ、嘘だ、嘘だ。


「最上ダイは死んだ」


 嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。


「最上ダイは死んだ」


 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。


「最上ダイは死んだ」


 嘘だぁぁぁぁぁ!!






「―――あ」


 気がつくと、そこには知らない天井があった。


 ここは、医務室かな? 私は運び込まれたのかな?


「起きたみたいね、ハヤセ」


 直ぐ横にはカミラ・ヘールズ中尉がいた。パイプ椅子に座って腕と脚を組んでいるけど、その表情はどこかホッとしたように見える。


「ヘールズ中尉、私どうして……」


「ケントにやられたのよ。模擬に乱入してボコボコにされたの。全く、大人気ないったらないわ」


 ああ、そうだった。


 模擬戦でジャンが終わった後、次は私だと思っていたらヘールズ中尉じゃなくエースのケント・ロウ少尉と戦う羽目になったんだ。


 あの奇抜な虎柄のイングリッドに手も足も出ないまま、呆気なくやられてしまった。


 惨敗だ、情けないくらいに。


「ケントの事、悪く思わないでよ。あれでもハヤセの事を認めて、自ら模擬戦の相手を買って出たんだから」


 それであの仕打ち……あまり納得できないけど、納得するしな無いのかなぁ。


「ケントって極端な男なのよ。強い奴には目を掛けるし弱い奴には見向きもしない、徹底した実力主義だから」


「私は、強くないです……。あんな負け方したのに」


「……ハヤセ、言っとくけどそれ皮肉にしか聞こえないわよ」


 ……え、何で?


「あんたは初乗りでシステム補助を62%に達していた。それどころか僅か1週間の訓練だけで23%まで減らしている。それがどう言う事か、自覚ある?」


「えっと……無いです」


 1週間で約40%減、そりゃまあ私って結構凄いのかもって思っちゃったりしてたけど。


「私達が初乗りした時はまだシステム補助が完成していなかったから参考にならないでしょうけど、統計的に見て20%前後は十分一流と呼べる域よ」


「そう、ですか……」


「そうですか、じゃないでしょ。並みのパイロットは一生かかっても20%止まりな事も珍しくないの。あんたはそれを1週間で達成した。同じサーパストでもこんな事は考えられないわよ」


 そ、そんなに?


 ……そう言えばジャンは模擬戦の時59%だったし、ヘールズ中尉も私の減り幅に驚いてた様子だったなぁ。


 ジャンの数値がおおよその平均値だとしたら、ひょっとして私って滅茶苦茶凄かったりするの?


「あんたが弱い筈無いわ、まだ成長途中なだけよ。(いず)れは私や、ケントさえも追い抜く事でしょうね。そしたらきっとオベルタスにも対抗できる」


「オベルタス……て、何ですか?」


 私の疑問にヘールズ中尉は直ぐに答えなかった。


 脚を組み直して傍に入れて置いたコーヒーを一口飲んでから、私を見据えて言った。


「クロステーゼ、前に話したわよね。最上ダイを連れ去った組織よ」


「はい。確か、歩兵機に乗った事が知られて連れ去られたんですよね。私も狙われていて、それでヘールズ中尉が私をスカウトしてくれたって」


「その組織構築の土台となっているのは、旧ソ連の残党勢力。つまりクロステーゼは、旧ソ連の後継団体と言われているの」


 ……あれ、なんだか難しい話になってきたかも。


 私はあんまり歴史とか経済は苦手なんだけど、それでも一応ソ連とアメリカが冷静にあった事は知っているよ。


 ディガロはアメリカ軍の特殊部隊、クロステーゼはソ連の後継団体、つまりあんまり良くない関係って事?


「ソ連は崩壊したけど、それを良しとしない連中はたくさんいたわ。そんな奴らが歩兵機を持ち出して軍事行動を起こしている。それがどれ程危険な事か分かるでしょ?」


 ざっくりとなら分かります。ざっくりとなら。


「歪んだ思想を抱いた組織が有り余る戦力を有していれば、大規模な戦争に発展する事も考えられるわ」


「……そんな事があるんですか?」


 クロステーゼがいくら後継団体と言っても一組織だし、国家レベルの規模では無いと思うのだけれど。


「そうなるかもしれないのよ。クロステーゼを新ソ連と掲げるものもいるし、既にバックにつく国家も存在している、歩兵機の技術までも異常に発展し過ぎているわ。そのくせ何処の国にも属さない秘匿組織だから直接的な調査が行えない。これ程厄介な事はないわよ」


 それは前にも聞かされた。クロステーゼは事実上存在しない組織だから見つけようとして見つけられるものじゃない、まるで雲をつかむようなものだと。


 仮にクロステーゼの兵士を捕まえたとしても、その殆どが雇われ傭兵だからクロステーゼの真相には辿り着けない。つまりは(いたち)ごっこにしかならないんだよね。


「中でも一番問題になっているのが、エリザベータ・トロフィーニエヴナ・オベルタス。クロステーゼ最大戦力の27日分隊長にして、世界最強の歩兵機乗りよ」






 エリザベータ・トロフィーニエヴナ・オベルタス、それが最上君を連れ去った女の名前。


 オベルタスは純粋な歩兵機乗りで、過去に敗北した経験が無い絶対的強者との事。


 ディガロがクロステーゼを攻めあぐねている最大の理由もオベルタスであり、彼女1人に何度も敗戦を強いられてきたみたい。


 過去には30機もの歩兵機を掻き集めて総力戦まで行ったけど、その殆どがオベルタス1人に殲滅されたそう。


 その30機の大部隊の中にはロウ少尉もいたんだって。


 私が手も足も出なかったロウ少尉でさえオベルタスには惨敗したって言うし、彼女に対抗できる人間はこの世にいないとまで言われるくらいだもん。


 当然オベルタスもサーパスト。それも10年に1度の逸材と呼ばれる程の凄い人で、それに加えて実戦経験も豊富だから積み重ねてきた技術もある、超一流の実力者でした。


 まさに天才だ。そんな相手に敵う筈無いんじゃ……。


「いいえ、対抗できるわ。ハヤセ、あんたならね」


 それがヘールズ中尉が私を、いやサーパストを何人もスカウトした最大の理由だった。


 オベルタスに対抗できるサーパストを探して、育て上げる。それがこのピオネス基地の目的で、システム補助もその為に作られたのだとか。


「あなたのサーパストとしての能力はあのオベルタスと同格かもしれないのよ。ずば抜けた才能(センス)に異常なまでの成長速度、おそらくあんたならオベルタスに匹敵する歩兵機乗りになれる筈よ」


「そんな……仮にそうだとしても、私とその人じゃ経験の差がありますよ?」


問題ないわ(ノープロブレム)よ。オベルタスはキャリアが長い、その分これからは衰えてくる筈。それに比べてハヤセはこれから成長しかない。なら(いず)れオベルタスを超えることができる、そうでしょ?」


 そうでしょ、て言われても。オベルタスと言う人がどれだけ凄いかは分かったつもりだけど、それに私が戦えるビジョンが全然見えないよぉ。


 ロウ少尉にだって、歯が立たなかったのに。


「大丈夫よ、ハヤセ。あんたは間違いなく強くなれる。ケントだって、目をかけてくれてるんだから」


「その割にはコテンパンにされましたけど」


「目をかけてなかったらコテンパンになんかしないわ。あんたにはオベルタスに対抗できる可能性がある、そう思ったからわざわざ模擬戦にまで出たんだから。普段のあいつなら絶対にそんな事しないわよ」


「そうなんですか?」


「あいつって自分優先な性格だから、他人の為に一肌脱ぐなんて事滅多にしないわよ。ああ、それとこれね。ケントが渡しておけって」


 手渡されたのは数ページの資料だった。


 中を開くと歩兵機の図面が出てくる。それも分かりやすいように、全ての文字が日本語に翻訳されていた。これもロウ少尉が? ひょっとして割と世話焼きなのかも。


「SR-9/P2 ヴィンデルバンド。新世代型として開発されたイングリッドの後継機よ。まだ開発中だけど、先行試作機を2機、こちらで預かることになったわ」


「新型の……ひょっとしてこれって?」


「そう、ケントの要望でね。自分とハヤセで運用すると上層部に申して出たそうよ」


 ロウ少尉が、私に……。


「あんたは弱く無いわ、必ず私達よりも強くなる。自信を持ちなさい、これは命令」


「はい!」


 力強く返事を返す。弱気なままじゃダメだ。ちゃんと強くなるって決めたんだもん。


 ロウ少尉がこんなにもしてくれて、ヘールズ中尉もこう言ってこれている。励まされてばかりだよ。


 しっかりしろ、私。強くならなきゃいけないんだろ? ロウ少尉に負けたくらいが何だ、次勝てばいいだけじゃない。


 クロステーゼだろうとオベルタスだろうと、絶対に私が倒してやるんだから。


 だって私には、だって……だって………………。


「―――ハヤセ!」


 急に医務室のドアを開けて入ってきたのは、ジャンだった。


 ジャン=クリストフ・モリエール。私と同じサーパストで、同じ訓練兵。


 相変わらず中性的な顔立ちで女の子みたいな髪型をしてる。その彼が私の元に駆け寄ってきた。


「よかった、すぐに目を覚まさないから心配したんだよ」


「あ、うん……ごめんね」


 ジャンは目に薄っすら涙まで浮かべている。男の子がそんなんじゃダメでしょ、それも兵士になるのに。


 少し遅れてMr.ジーザスことデリック・フェルトン少佐も来てくれた。ロウ少尉はいなかったけど。


「目が覚めたようだね。元気そうで何よりだよ。……カミラ、ちょっといいかな」


 Mr.ジーザス少佐は入って来て早々ヘールズ中尉を連れて医務室の外に出た。


 内緒話かな、プライベートな話ではなさそうだけど。


「ハヤセ、それは?」


 ジャンはあたしが持っていたヴィンデルバンドの資料に目を止めた。中々目ざといなぁ。


「新型の歩兵機だって。ロウ少尉が私にも手配してくれるみたいなの」


「ええ、凄ーい! やっぱりハヤセは凄いよ!」


 はしゃぎ過ぎだよ。でも本当なら私の方がはしゃいでる筈なんだけど……。


「ねぇ、ハヤセ。一緒に見てもいいかな?」


「……え? あ、うん。いいよ」


 私はジャンにも見えるように資料を開いた。日本語ばかりだから、私が翻訳して教えなきゃいけなかったからちょっと一苦労でした。


 ヴィンデルバンド、次世代と言うだけあって性能はイングリッドと比較にならない程高い。単純な出力だけでも2倍以上もあるよ。


 それなのにフォルムはイングリッドよりもスマートでカッコいい。腰回りは結構絞られているし、脚も細くしなやかになっている。可動域も大幅に上がっているんだね。


 まだ試作段階だから高コスト化は避けられなかったみたいだけど、これが量産されたらどんな事になるんだろう。


 ふとめくったページに、手書きで何か書かれていた。


 [虎縞は譲らん、やるなら豹柄にしろ]


 イヤだよ。


 虎縞も豹柄もしないから。そんな奇抜な柄は御免被ります。


 それだったらいっそ赤がいい。私だって女の子なんだこら、紅一点に……それも派手かな?


「ねぇ、ジャン。私って何色が似合うと思う?」


「え? 何、急に?」


 私が訴えるような目で見ると、ジャンは困惑したように考え混んでしまった。そんなに悩まなくてもいいのに。


 パパッと決めてよ。もう……。


「えっと……ルビーかな」


 何で石?


「ごめん、色とかは良く分からなくて。石にはちょっと見聞があるんだけど、ハヤセには情の厚いルビーが似合うかなって」


 ルビー……ルビー色かぁ。


 ……それもいいかなぁ。どうせ目立つなら思いっ切り目立つ色にしてやろう。


 ルビー色の歩兵機。うん、悪くないかも。


「イチャついてるところ悪いけど、2人とも聞きなさい」


 いつの間にかヘールズ中尉が戻ってきた。心なしか、さっきよりも表情が険しく見える。


「出撃要請があったから、私達は暫く留守にするわ。2、3日で戻ると思うけど、あんた達は今まで通り訓練メニューをこなしておきなさい。監督はスコット軍曹に頼んでおいたから」


「は、はい!」


「はい」


 出撃要請、つまり歩兵機に乗って戦うんだ。


 ここにいるのはヘールズ中尉とMr.ジーザス少佐、あとロウ少尉の3人だけなのに。


 つまり1人でも戦力が欲しい、そう言う危険な場所に赴くと言う事なのかな?


 なら、今の内に聞いておかないと、もう聞けないかもしれない。


「それじゃあ、頑張りなさいよ―――」


「ヘールズ中尉、待ってください!」


 私は意を決して、ヘールズ中尉に尋ねた。


 私が歩兵機に乗る目的、それは―――


「最上君は、どうなったんですか?」


 それは―――最上君を助ける為にあるんだから。


「ロウ少尉が言ってた事、どう言う事なんですか? 最上君の事、何か知っているんですよね?」


「帰ったら話すわ、後にしなさい」


「今話してください。お願いします」


「上官の指示には従いなさい」


「話してもらえないなら、私はディガロにはいられません!」


「ハヤセ、あんた―――」


「―――いいじゃないか、話してあげるといい」


 それを促したのは、Mr.ジーザス少佐だった。


「カミラ、ハヤセには知る権利があるよ。話してあげるんだ」


「Mr.ジーザス、あんた……せめて自分の口から言いなさいよ」


「僕は上官だからね、ここは権力を行使させてもらうよ。それに、僕には出撃支度があるんだよ」


「この……始末書の件、上に報告しとくからね」


「……ジーザス」


 Mr.ジーザス少佐はいつもの口癖を残して行ってしまった。


 後に残されたヘールズ中尉はバツの悪そうな顔で私を見詰めてくる。


 やっぱりヘールズ中尉は何か隠していたんだ。それじゃあ、最上君は……。


「……実はね、最上ダイが行方不明になったと思われる場所へ、別の基地から調査部隊が派遣されたの。でも全滅したわ、それも一方的にね」


「まさか、オベルタスに……?」


「いいえ、1機だけど規格外の大型歩兵機だったそうよ。強力な波動砲を使って、有無を言わせず攻撃してきたらしいわ。分かっているのはそれだけ」


 情報が乏しいようにも思えるけど、調査部隊にしてみれば死にそうになってる中で、それが精一杯の報告だったのかもしれない。


「おそらくあれもクロステーゼの機動兵器でしょうけど、奴らがあんなものを持ち出したと言う事は最上ダイは捕獲ではなく、抹殺する方針に切り替えたのよ」


「それじゃ……最上君はどうなったんですか!?」


「前にも言った通り、何も分からないままよ。でも……クロステーゼがあんなものを持ち出した以上、素人の少年にはどう足掻いても太刀打ちできない。生存の可能性は限りなくゼロだと思った方がいいわ」


「っ!?」


 嘘……嘘だ!


「嘘だ! そんな事―――」


「勿論、まだ可能性の話よ。……でも、その可能性は非常に高いわ」


「そっ……」


 そんな……そんな事って。


「私達も迂闊だったわ。最初は捕獲する事に徹底していたクロステーゼが、いきなり抹殺に切り替えるなんて思いもしなかった。私達のミスよ、申し訳ないと思っているわ」


 そんなの……そんなの……!


「謝って済むとは思って無いけど、でもこれで分かったでしょ。クロステーゼは目的の為ならどんな手段も辞さない、無垢な少年の命を奪う事も躊躇しないの」


 最上君が……最上君が、死んだ?


「クロステーゼを止めなさい。それがあんたの、最上ダイへの弔いよ」


 弔い……まるで最上君はもう死んでしまった言い方。


 ヘールズ中尉は訂正も肯定もしないで行ってしまった。最上君はもう死んだの、と言うみたいに。


 死んだ? 本当に死んだの? 最上君は?


 助けるって決めたのに。連れて帰るって約束したのに。それなのに、死んだ?


 なんで? どうして、こうなった?


 どうして、最上君が、死なないといけない?


 最上君が、死なないと?


 死んだ? 最上は死んだ? 本当に死んだの?


 死んだ? 死んだ? ……死んだ。


「ね、ねぇ、ハヤセ。その、最上ダイって、一体―――」


「潰してやる」


「っ!?」


 潰してやる。


 あはは、そうだ潰してしまおう。


 みんなみんな潰してしまえ。あは、あはは、あはははははははは。


 クロステーゼも、オベルタスも、みんな私が潰しちゃえ。私が潰して、私が……。


「潰してやる。そうすれば、きっと最上君も報われるよね。……あはははは」

マジかぁー……。

どうするよ、ダイ?

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