第40話 やって来ましたリターンマッチ……見よ、このスーパーコンボ!
システム補助67%
何かの本で読んだ事がある。
高速で移動するものを暫く目で追っていると、周囲の止まっているものやゆっくり動くものが見えなってしまうと言う。
一種の錯視現象だ。人の目というのは、追うと一点に集中してしまって周りが視界に入らなくなる。良くある事と言えば良くある事だろう。
ダイは猛ダッシュでフロア内を駆け回っていた。だから眼帯野郎は高速で動くダイをずっと目で追っていたからな、低速で動くものに気付かなかった訳だ。
低速で動く、ゲッコーにはな。
物陰に身を隠した時だ。無線操作が可能になったゲッコーに手榴弾を1つ加えさせてゆっくりと移動させていたのさ。
勿論正面からじゃない。気付かれないよう、かなり迂回させて眼帯野郎の背後に回り込ませたから時間がかかって仕方なかったぜ。
唯一危惧していたのはレーダーとかで察知される事だった。だからダイは無駄だと知りながらライフルで銃撃したりジャマーとかも使って眼帯野郎の意識を自分に集中するように仕向けた。
まぁ雀の涙ほどの対策だったが、効果があったのかなかったのか眼帯野郎はゲッコーに気付かず足元まで接近を許してしまった。
後はタイミングを見計らって手榴弾を爆発させる。ゲッコーでもそれくらいはできるが、その代わりゲッコーは爆発の犠牲になったけど。
さらばだゲッコー2号、お前の事は忘れないぞ。……交換品は幾らでもあるけどな。
そして手榴弾の爆発を足下で受けた眼帯野郎はと言うと、かなりエゲツない事になっていた。
爆発の直前、眼帯野郎はしゃがんで迫撃砲を撃とうとしていたからな。その結果、かなりの至近距離で爆発を受ける事となった。
しかも爆発したのは手榴弾だけではない。脚に内装されていた迫撃砲の榴弾にも誘爆したし、しゃがんでいたせいで低い位置にきた背中の地雷ポッドまでにも誘爆を引き起こしたんだ。
これは流石に予想外だったな。まさか手榴弾1つでここまでの被害が及ぶとは。地味に大事故だからな、これ。
そして何より予想外だったのは……ここまでやられても眼帯野郎が無事だったと言う事!
勿論、無傷では無い。と言うか瀕死の状態だった。
足元での爆発だからな、両脚は見事に吹っ飛んだ。特に迫撃砲が内装されていた右脚の損壊は激しく、胴体にまで達している。
地雷ポッドの誘爆で左側の背中を中心に、背中全体にも損傷が広がっている。左腕は吹っ飛んでいて、左胸も少し抉れている程だ。中のパイロットは大丈夫だろうか?
いやいや、パイロットの心配をしている場合では無い。眼帯野郎は瀕死の状態だが、まだ右腕が残ってるし波動ガトリングガンも生きてる。
これが一番厄介な兵器なんだ。反撃されるとこの絶対的有利な状況でもどうなるかは分からなくなるし、撃たれるのは確実にマズいだろうな。
まぁ、撃たせやしねぇーけど。
『……ぐっ!?』
ダイの銃撃に眼帯野郎は小さく呻く。ライフルによる銃撃は、的確に波動ガトリングガンを破壊した。
これでもう眼帯野郎の武器は全て無くなった筈だ。余程の事が無い限りは絶対に大丈夫。
つまり勝ったんだ、ダイは。
以前の戦闘はグダグダ極まり無い勝利だった。しかも眼帯野郎は捕獲目的のハンデを抱えて、最後は誰とも分からない味方の援護があっての他力本願な勝利。
そんな何とも煮え切らない勝利に思うところはあっても、自分の力量では仕方がないと妥協していたダイだったが。しかし今回は違う。
今回はちゃんと勝ったんだ。ダイ自身の実力と策略をもって勝利を掴み取ってみせたんだ。
見たか、これがこのプラントで培った最上ダイ究極の必殺技。ダイが陽動しゲッコーが不意打ちを仕掛けると言う、陽動と不意打ちのスーパーコンボだ。
卑怯とか、言わせねぇーよ。
『ちぃ……逃げ足以上に卑怯な技を磨いていたか。俺も迂闊だったな……』
だから卑怯とか言うんじゃねぇーよ。
『……どうした? 殺すならさっさと殺したらいいだろが』
そう言われるとダイは怖気付いてしまう。
コイツは無人機じゃない、人が乗っているんだ。それを同じように破壊すれば、パイロットは間違いなく死ぬ。
戦闘中はそんな事を考えてる余裕は無かったが、いざこうして人が乗っている歩兵機と対面してると思えば抵抗が出てしまう。
当然だ、人殺しにはどうしたって抵抗が出るものだ。
だが、それは悟られてはいけない。殺しに抵抗があると知られたら付け入られてしまうからだ。
「き……聞きたい事が、ある」
だから尋問と言う事にして誤魔化した。
実際、眼帯野郎には聞きたい事が山ほどあったから、尋問は必要な行為と言える。まぁコミュ障のダイがまともに尋問できるとは思えねぇーけど。
「お前は、何者なんだ? あの、美女軍団の仲間……なのか?」
まずは眼帯野郎が何者なのかを把握しないと始まらない。ダイの知る限り歩兵機を扱うの組織は美女軍団ことクロステーゼ以外に知らねぇーからな。
『美女軍団? なんだ、それは?』
……そりゃそう返ってくるよな。ちゃんと組織の名称で呼べって。
「く……クロステーゼ!」
『……ああ、オベルタスの事か。ふっ、俺がクロステーゼだと? 笑わせるな』
どうやら美女軍団の仲間では無いようだ。
「じゃあ、何者……なんだ―――」
『それを答えるとでも思ってるのか? 俺は三下とは違ぇーんだぞ』
つまり殺されても口は割らないと言う事か。まぁどの道殺しは出来ないし、諦めたフリをして質問を変えよう。
「……どうして、ここにいた?」
それも重要な事だ。無人機しかいないこのプラントで眼帯野郎だけがいた事実。ならば何故眼帯野郎はここに来たのか、その理由が知りたい。
『それも答えるとは思って無いだろ。何故意味もない事を聞く?』
そうだな、たった今死んでも口を割らないと言ったばかりだし。
しかし、ダイもバカの一つ覚えじゃ無いぜ。ちゃんと考えてはいるさ。
「お前、マックスを……マクシミリアン・ダオスロードを、探していた……だろ?」
ここでダオスロードの名を……てか俺の名を出してきた。許可出していないぞー。
そもそも眼帯野郎は最初、俺の事を探す為にハヤセを誘拐してダイを誘い出した。全ては俺を探し出すのが目的だ。
「ここに来たのも、ダオスロードを探す為……だろ? つまり……」
ダイが何を言いたいのか、もう分かっただろ。眼帯野郎が俺を探しているなら、このプラントにいるのも俺を探す為に来た。
つまり……
「……マックスは、ここにいる。そう……だな」
『…………』
眼帯野郎は黙り込んだ。否定しないと言うのは、沈黙をもって肯定と言う事だろうか? それともただの黙秘か?
『……ふふふ』
あれ? なんか笑い出した?
『ふははは……ハハハハハハハハハハ! アァーハハハハハハハハハハハハハハハ!!』
な、なんだ!?
何故にいきなり、悪の帝王みたいな高笑いをあげやがった? お前は魔王か何かか!?
なんか、滅茶苦茶不吉の予感がするんだが。
『ハハハハハ、そうか。そうかそうか、そう言う事か。ハハハハハ、俺はこんな奴に雪辱を覚えていたとはな。……それこそが、雪辱だっ!』
その瞬間、眼帯野郎がこっちを睨んできた。その眼帯のようなバイザーが、何か怪しい光を放っている。
何かヤバい。そう察してダイは復活したブーストをかけて飛び退いた。その途端、眼帯野郎の目線の先にあった壁が焼け爛れて小さな穴が空く。
一瞬しか見えなかったが、あれはレーザーだ。
CIWSと違って分厚い壁を貫通する確かな威力がある。攻撃用のレーザーなのだろうか? あんなもの受けたらイングリッドの外装はおろか、胴体も容易に貫通してしまうぞ。
てか眼帯野郎、まだ武器を持っていたのか。
いや、それだけじゃ無い。眼帯野郎は右腕からフックランチャーを後方に撃ち込んで、ワイヤーで半壊したその身を引いた。
まさか、逃げるつもりか?
『同情するぞ、小僧! どうやらお前は何も知らない、ただの部外者だったようだ!!』
何も知らない? 部外者? どう言う事だ?
いや、それよりもまずは眼帯野郎を止めないと。このまま逃すのはよく無い。
ダイは急いでライフルを構えたがトリガーを引こうとした瞬間、眼帯野郎の目から出たレーザーにライフルを焼かれてしまった。
「ラ、ライフルが!?」
レーザーに焼かれたライフルは基部に穴が空いてしまい、使い物にならなくなる。次は本体を狙われる、そう悟ったダイは何処か物陰に隠れた。
『だがな、このプラントを知られた以上は生かしておけん。ここでダオスロード共々、のたれ死ぬがいい!』
ワイヤーに引かれた先に眼帯野郎が辿り着いたのは、小さな小部屋のようなところだった。……いや、よく見るとそれは、エレベーターだ。
「待て―――」
『俺が雪辱を果たすのは、貴様では無い! ディガロのフェルトンだぁ!!』
ダイの制止も虚しく、眼帯野郎が入ったエレベーターの扉は閉じてしまった。
直ぐに駆け寄ってエレベーターを止めようとしたが、直後に上の方から鈍い爆発音のようなものが聞こえてくる。
「っ!?」
ダイは直ぐにその場から離れると、エレベーターエレベーターが爆破された。上に行った籠が支えを失って落下し、出入口をぐしゃぐしゃに壊してしまう。
その後は扉の向こうから瓦礫と化したシャフト内の部品が崩れ落ちてきて、シャフトの中を完全に埋め尽くしてしまった。
完全に塞いでしまいやがったな。これではもう通れない。眼帯野郎め、ダイが追って来れないように爆破しやがって。
塞がってしまったものは仕方ない。いったん落ち着こう、まずは現状確認だ。
周りを見渡すと、ここは眼帯野郎が現れた壁の向こうのフロアだ。こちらでは腕や脚やらのパーツが数多く作られている。それも四本脚だけでなく、煙突人間や出っ腹のパーツも見受けられる。
ここも後で爆破しておかないといけないな。しかし今は眼帯野郎だ。
眼帯野郎が入ったエレベーターは上に向かっていた。もしかしたら地上に向かったのかもしれない。
ならばと、上へ行けるエレベーターは他に無いものかと探そうとしたか―――
―――ぐぅぅぅ〜……。
今までで一番大きな腹の虫が鳴いた。その瞬間ドッと疲れが乗っかってきて、ダイはその場にへたり込んでしまう。
眼帯野郎を追いかけるのは無理か。まぁいい、今回も危なっかしかったがちゃんと勝てた。しかも有人機相手にだ。
今はそれで良しとしよう。色々しなきゃならない事はあるし、考えなきゃならない事もあり過ぎるが、とにかく今は休みたい。
空腹に加えてフルマラソンまでさせられたんだからな。流石に休息が必要だ。
ダイはイングリッドの座席をリクライニングモードに切り替えて身体を楽にし、残していた最後の缶詰めを開けた。
これでもう……後が無くなったな(食い物が)。
食事の最中、ダイは眼帯野郎が最後に言っていた事を思い返していた。
ディガロのフェルトンと。
(何なんだ、ディガロのフェルトンって?)
どっちもダイには聞いた事の無い単語だ。しかし何故だが、ダイは知らない筈のその単語をどこかで聞いた事があるような気がした。
(……もしかして、マックスの記憶にあるのか?)
ピンポーン。
その通り、ダイは朧げに分かるディガロの名前は俺の記憶にあるものだ。
それくらいなら別に教えても差し支えないんだが、今は通信が繋がらないからな。今度繋がった時に教えてやるか。
(それに、眼帯野郎の言ってた事も気になる。何も知らない、部外者ってどういう事だ? ……まぁ、その通りなんだけど)
確かにそれも気になるな。あの口振りから察するに、眼帯野郎は俺の居場所の事とか、今俺がどうなっているのかとか色々知ってそうだ。
そう思うと取り逃がした事が余計に悔やまれる。せめてガトリングガンだけじゃなくて右腕ももぎ取っておけばよかったな。ガッデム!
まぁいい。それよりもイングリッドの損傷だが、それは大したこと無い。ただ左腕が無いのが痛いな。
一応無いのは肘から先だけで、ここだけは量産型のイングリッドと全く同じものだから、またコックピットの無い奴を見付けて取り換えればいい。
しかし整備はしないといけないな。かなり無茶な戦い方をしてしまったし、機体のそこら中が悲鳴をあげているかもしれん。
よし、食事が終わったら整備しよう。
だが整備となると歩兵機から降りなきゃならない。流石にもう敵は現れたりしないだろうが、なるべく人目につかない所でやらないといかんな。
ダイはフロアの隅の方へ移動し、適当にその辺にあった機械を寄せて壁を作ってから身を隠せるようにしてイングリッドから降りた。
「……あれ? ここって」
ふと気がつくと、壁側の下に人が通れる高さの奥行きがあったんだ。
気になったダイはその先に行ってみると、直ぐにガラス張りの行き止まりに差し掛かる。しかしガラス張りの先を見て、ダイは驚愕してしまった。
「なっ、ここは!?」
ダイの目線の先にあったもの、それは大頭無しの死骸だった。壁にもたれかかるように倒れて機能停止している、ダイが撃破した大頭無し。
その姿が、ガラス張りの向こうにいた。
その他にも、起動している四本脚も十数機がちらほらといる。そいつらはそのフロアの中央、エレベーター跡のシャフトの穴。
そこはダイが目指していた、あのフロアだった。
どうでもいいけど食料が無くなった時点で詰みなんだよなぁ。
……どうするんだ、これ?




