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第36話 マクシミリアン・ダオスロードは何も知りたくなかった……それが本音か

ダイ視点

 このプラントに来た時から、違和感はあったんだ。


 なんと言うか、夢でも見ているかのようなフワッとした違和感。はっきりと口に出せないけど、でも何かがおかしいと分かる明確な違和感だ。


 最初は気のせいかなと思ってあまりに気にしていなかったけど、頭の中にある違和感は徐々に徐々に大きくなっていって、今ではもう無視できないレベルに達している。


 ただ、200機の四本脚や大頭無しの件があったから気にしようにも出来なかった訳で。


 はっきりと分かるようになったのは2度目のマックスから通信が来た後だ。


 マックスは煙突人間と言った。怪獣、眼帯野郎とも言った。俺が頭の中で勝手に付けた呼び名を当たり前のように知っていて、そして当たり前のように口にしていた。


 その時は、マックスは俺の頭の中にいるんじゃないかとおかしな疑惑も持ち上がったけど、エスパーでもなかったらその考えは一番近いものじゃないのかと思い巡らしたんだ。


 そしたら不思議なことに、おかしな考えが次々と思い浮かんで来た。とても口では言い表せないような、思考が渦を巻いて回り、ぐちゃぐちゃになっているかのような錯覚もあった。


 だから俺は暫く考えないようにしていたんだ。でもある時分かってしまった、このぐちゃぐちゃになった思考の中には、俺の知らない記憶が混じっている事に。


 それはこのプラントの中の事だった。俺は以前にも、このプラントに来た事がある。


 マシナロイド計画の事もあった。この手元にある資料の概要を、俺は以前から知っていた。


 俺の知らない情報が、幾つも思い出したように浮かび上がってきたんだ。


 何故ここへ来たのか、ここへ来る目的は何だったのか、その辺はまだあやふやで分からない事だらけだが、このプラントに来たと言う確かな事だけは鮮明に思い出せた。


 このプラントに来て、そして死んだんだ。


 確かな記憶だった。それでピンと来たんだ、マックス―――マクシミリアン・ダオスロードは俺自身じゃないのかと。


 マックスは俺の主人格で、俺自身は最上ダイの記憶を何らかの形で受け継いだ副人格ではないのか、と。そう考えればマックスが俺の頭の中にいた事も説明が付く。


 どちらも、同じ人間だったんだから。


『違ぇーよ! アニメの見過ぎだ、馬鹿野郎』


 あれ、違っていた? ヤバ、恥ずかしい……。


「……マックス、それって100%違うと言う意味か?」


『120%違うと言う意味だ』


 マジかぁ……その言葉を信じる根拠は無いけど、なんかそれは本当に違うっぽい。


『大体、俺とお前が同一人物な訳がねぇーだろ。破天荒主義の俺と妥協主義のお前とじゃな、雲泥の差、月のスッポン、提灯(ちょうちん)に釣り鐘くらい違うんだよ』


「随分と小難しい日本語を知っているんだな、本当に何者なんだよ?」


 提灯に釣り鐘なんて初めて聞いたけど。


『長いこと在日米軍基地にいたからな。日本の女を囲ってる間に覚えたよ』


「……アメリカ軍人だったのか?」


 只者ではないと思ってはいたけど、そうか、軍人か。道理で歩兵機とかに詳しい訳だ。


 しかもかなりのプレイボーイみたいだし。……うん、確信した。俺とマックスは同じじゃない、200%別人だ。


『最後はな。お前が知らない筈の記憶にあるこのプラントの事は全て俺の記憶さ。それがお前の頭の中に流れ込んできて混乱したんだ』


「だけど、その記憶は凄く鮮明だ。とても他人の記憶とは思えないぞ」


『頭の中に直接流れて来るんだからな、インパクトが強いとそれだけ鮮明にもなるさ。後は知っての通り、このプラントには任務として調査に入った。そして死んだんだ、後ろから撃たれてな』


「……怪獣にか?」


『いや違う、普通の歩兵機だ。だがその時俺は歩兵機には乗ってなかったからな、それでその歩兵機に撃たれて死んだ』


「じゃあ俺が怪獣に撃たれて死んだと言う思い込みは……」


『人から見た歩兵機も歩兵機から見た怪獣も似たようなものだ。ダイは俺の死んだ時の記憶と自分が襲われた記憶に共通点を見つけて、それで記憶がごちゃまぜになったんだろうよ』


「……どうしてその事を最初に言わなかった?」


『どうしてと言われてもな、記憶がごちゃまぜになったのはついさっきの事―――』


「違う! お前自身の事を言ってるんだ、マックス」


『俺の身の上話か? そんなの言いたくないに決まってるだろ。言ったら自分で自分が死んだと認めちまう事になるじゃねぇーか』


「……っ」


『それに、俺自身もはっきりしねぇーんだ。死んだ実感も湧かないし、その前後の記憶もあやふやになってる。そんないい加減な事は普通誰にも言えねぇーよ』


「じゃあ……今俺が話しているのは誰なんだ? マックスじゃない別の誰かか、それともマックス本人の幽霊か?」


『なぁダイ、頼むから幽霊とか気安く言わないでくれ。その類いは結構苦手なんだ』


 幽霊のくせに幽霊にビビってる……。


『誓って言うけどな、俺が今どうなっているのかは俺自身も分からねぇー。もしかしたら幸運にも一命を取り留めていたのかもしれないし、そうで無いのかもしれない。結局のところ、何も分からねぇーんだよ』


「じゃあ、何故マックスの記憶が俺の中にある?」


『それも分からねぇー。ただな、それは一方通行ではなさそうだ。俺の頭の中にもお前の記憶が流れ込んである』


「俺の?」


『ああ、お前が気になっていた宗谷美咲(むねたにみさき)を追って身の丈に合わない高校に入った事とか、中学の頃下駄箱に入ってた偽のラブレターに浮かれてまんまと騙された事とかも筒抜け―――』


「待て待て待てぇぇぇぇぇ!! なんでそんな事まで知ってるんだ!?」


『だから言ったろ、俺にもお前の記憶がある。反映されてるのは俺の方が早かったみたいだが、その内ダイも俺の恥ずかしい過去を知ることになるだろうぜ』


「別に知りたく無いし! ……じゃあ俺の思考が分かるのも?」


『ああ、どう言う理屈で分かるようになっているのか、その根本的な理由は分からねぇーが結局は同じ事だろうな』


「だが俺はマックスの記憶は殆ど無いし、考えてる事だって分からない」


『言ったろ、その内知ることになるって。多分個人差か何かがあるんだろう。ダイはそれが反映されるのが遅いと言うだけで、まだはっきりと分かるようになった訳じゃないんだろ』


「なるほどな。……そう思うと本当に俺達ってズブズブの関係なんだな。スンゲー嫌だけど」


『俺だって嫌だわ、馬鹿野郎』


「何故俺とマックスの間でだけ、記憶を共有できる? 他の誰かじゃできないのか?」


『分からねぇーと言っただろ。ダイと違って俺は俺自身がどうなってんのかも分かんねぇーんだし』


 誤魔化している訳では無いのかもな、それはどうやら本当のようだし。


 前の通信で聞いた時は口から出まかせを言っているとほぼ確信していたけど、今はとてもそうは思えないな。マックスは本当に今自分がどうなっているのかが分からない状態にあるんだと思う。


「俺の記憶がマックスに反映されたのはいつ頃からなんだ?」


『はっきりとは分からねぇーが、多分このプラントに来たぐらいだと思うぜ』


「それって、このプラントにマックスがいるかもしれないってことか? 俺がマックスの元に近づいたからこんな現象が起きたとか?」


『そうかもしれないし、違うかもしれない。結局蓋を開けてみない事には何とも言えないが、俺はその可能性も十分あり得ると思うぜ』


 それって記憶を共有してるから考え方も寄って来ているだけ、と言う訳じゃ無いだろうな?


 でもやっぱり、マックスはこのプラントの何処かにいるんだと思う。そう考えれば色々と辻褄が合う事も多いし。


 でもそうだとしたら、この資料は―――


「……この手元にある資料を俺が読む事は、マックスの記憶的に良くない事なのか?」


『その資料の先に何が記されているのかは俺も知らない。だから、このまま何も知りたくないんだ。マシナロイド計画に俺がどう関わってしまったのか、それを知るのはどうしても避けてほしい』


「何故だ?」


『……察してくれや』


 何故関西弁が出たのかは置いといて、何故知りたくないの無いのか? ……ああ、そうか。


 マックスは不安なんだ、自分の身の上が。


 俺がこの資料を読めば必然的にマックスもその内容を知ることになる。マックスとマシナロイド計画との間に何があったのか、それを知るのが不安なんだ。


 何故ならマックスはこのプラントへ調査を行いに来て死んだ。その調査と言うのは、マシナロイド計画の調査だろう。


 ならばマックスは、マシナロイド計画を調査して殺された事になる。この資料には、その真相に関係している内容が綴られている筈だ。


 死んだ筈の人間の身の上だ、あまり良い結果とはとても思えないし、不安になるのも当然だろう。


 そう考えると他人事の俺でさえ不安になるし。


「…………」


 何も知りたくない。それがマックスの真意なのだろう。


 中途半端な事しか教えないで俺を翻弄していたのは、結局のところ真実の知るのが嫌だったから。マックスはずっと足踏みしてしたんだ。


 だけど、そんな訳にはいかないだろ。真実であれ何であれ、(いず)れは知らなきゃいけない事だし、それはマックスにも俺にも避けては通れない道だ。


 マックスも自覚はしている、このままではダメだとは分かっているのだろう。ただ、覚悟が決まらないだけで。


 だが、そんなの俺には関係ない。そもそも知った事か、マックスの事情なんて。


 俺は直ぐにでも真実が知りたい。マックスの為じゃない、自分の為に知りたいんだよ。ここで何があったか、それを知らなきゃならないんだ。


 俺には、その権利がある筈だろ。


「……っ」


 ―――ポイッ


 でも捨てた。


 色々考えた結果、資料を見るべきだと思ったし、そうで無くとも手元に置いておくべきだとも思ったんだけど、それでもやっぱり捨てた。


 分かってたさ、俺って馬鹿野郎だ。


『……いいのか、ダイ?』


「知らないよ」


『ハハハ、お前らしいな。……なぁダイ、お前はどう思う?』


「何が?」


『いや、何がって……』


 珍しくマックスは口ごもっている。まぁ何が言いたいのかは聞かなくても分かるけど。


「……生きてると思うぞ、マックスは」


『そう、思うか?』


「思うぞ」


 俺と比べたらな。


 高校に通ってた時の俺は生きてるのか死んでるのか分からないような奴だった。今もそうだけど。


 そんな俺に比べたら、マックスは生き生きしている。通信越しに聞こえるマックスの声は、とにかく狡猾で一方的な事ばかり言ってたけど。


 けど生命力を感じる。全身で生きている事を体現しているかのようで、全力で生きている事を楽しんでいるようで、俺からしたら羨ましく思えるくらいだ。


 そんな奴が死んでいる筈が無い。死んでたら、こんな生き生きとした奴でいられる筈が無いだろ。


『……そうか。ありがとよ、相棒―――』


 ―――ブツッ


 それを境にマックスとの通信は終わった。最後は相棒に格上げされて。


 随分長く話せたな。大頭無しを撃破して少しは通信時間が延びたのかな?


 まぁいいさ、マックスを見付け出せたらわざわざ通信で話す必要は無くなるんだし。


「……助けてやるさ、マックス」


 このプラントを脱出する目的は変わらない。だが出る時は1人じゃない、マックスも連れて出してここを脱出しよう。


 正直なところ、俺はまだマックスがどういう男なのかは理解できていないと思う。会話の言動から見え隠れする狡猾さは相変わらずだけど。


 マックスはまだ何かを隠しているんじゃないかと疑っているし、こればかりは疑いを晴らす事はできない。


 でも、何も知りたくなかったと言っていたのは本心だと思うし、マックスはそれを知る事に一抹の不安を隠し切れないのも事実なんだろう。


 知らなきゃ良かったと思う事なんて多々ある。マックスは事情が大き過ぎるが故に不安にもなるし、隠し事もするんだろう。


 結局俺達に信頼関係は築けそうに無い。……まぁそれでも、助け合わない理由にはならないよな。


 だから俺が助ける、そして一緒にこのプラントを脱出すると誓おう。


 何も無かった俺を相棒と言って頼ってきたんだ。


 だったら応えてやるさ、俺のやり方でな。

成長したな、ダイ……。

俺は本当に嬉しいよぉ……。

マジで……色々あったあらなぁぁぁぁぁ~……シクシク。

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