表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/239

第33話 整備士はじめました……実は詰んでました。

 システム補助69%


 翌日、遂にこのプラントに来てから1週間が過ぎた8日目、ダイはそこそこの睡眠を取って早朝に目を覚ました。


 と言っても時刻的に早朝って意味で、朝昼夕夜の感覚は一切ないけど。だって地下だし。


 本来は朝の弱いダイだが、このプラントで生き抜くとなれば呑気に寝てもいられないからな。さっさとイングリッドを直して使えるようにしねぇーと不安だ。


 無人機がうじゃうじゃいるプラントの中でダイの使える歩兵機はこのイングリッドだけ。他は全部コックピットが無いから使うに使えねぇーし。


 だから唯一使える歩兵機が今使えない状態にあるこの状況が、ダイにとって一番危機的状況でもある訳だ。


 故にダイは眠気を押し殺してイングリッドの改修作業を再開した。


 イングリッドは胴体のフレームが剥き出しになっている。まずはメインフレームの上に覆い被さっているサブフレームを取り外す。


 その辺の作業は全てメンテナンスドックで行う。使い方を調べるのに手間はかかるが、手作業でやればもっと手間がかかるからな。


 それにメンテナンスドックで分解すればそれぞれのフレームがどれだけ損壊、疲弊しているかも正確に分かるからこっちの方が便利ではあるんだ。


 ただ分解したサブフレームは殆どが修理不可能までに疲弊していた。幾つかは補修できるのもあったが、これはもう全交換にしよう。


 一方でメインフレームは比較的疲弊が少なく殆どが簡単な補修を施すだけでどうにかった。


 勿論右肩の関節付近はそうはいかないけどな、かなり損壊してるし。それに右肩だでなく他の関節付近も疲弊が激しい、この辺も交換が必要だろうな。


 そして交換パーツはSWEMブースター搭載型、略してSB型のイングリッドから流用する。


 最終的に全移植予定だが、SB型の胴体は量産型とほぼ変わらないんだ。鎖骨の辺りが少し盛られて背中のハッチ下にブースターのノズルが付いているくらいで。


 だからここまで徹底して移植する事も無いんだが、ダイも何が必要になってくるが分からないから取り敢えずは全て移植しておきたいんだ。


 それに今回はメンテナンスドックの力を思いっ切り借りたが、今後はなるべく手作業で済むよう小まめな整備を心掛けるようにしておかないとな。


 だってSB型はこれ1機しかねぇーんだし、代えもねぇーから。取り返しのつかない事にはしたくない。


 今後の戦闘で破損したら一々拠点まで戻ってメンテナンスドックで修理する訳にはいかねぇーんだ。なるべくその都度その都度で補修整備していかなきゃならねぇ。


 本来歩兵機を扱うと言うのはそう言う事だ。


 さて、メンテナンスドックの力を借りてフレームの修理は手間がかかりつつも順調に進んでいき、午前中にはフレームの修理は終わった。なら次の作業だ。


 次にサスペンションだが、これはフレームを構成した後とパワードアクチュエータを構成した後の2回に分けて行う。


 サスペンションは、言うなれば歩兵機の靭帯であったり腱であったりするパーツだ。


 フレームを構成した後に取り付けるサスペンションは靭帯に当たる物だ。フレームに掛かる負荷をなるべく緩和して歩兵機の柔軟性を高める重要パーツだからここもきっちり整備しておかないとな。


 歩兵機のサスペンションを整備するのは割と簡単だ、潤滑油を指すだけでいい。それに従来の物より疲弊や破損状態が直ぐに分かるからチェックも容易にできる。


 だがメンテナンスとなれば手間がかかる。中のパーツのあれこれを分解して補修しなけりゃならないし、そのパーツのどれか1つでも手に負えないと分かれば丸々交換するしかなくなる。


 勿論我がイングリッドは手に負えない、なので全パーツ交換だ。メンテナンスドックで。


 手間はかけられ無いからな、メンテナンスドックならボタンで入力するだけで勝手にやってくれる。勿論使い方を調べる手間はかかったけど。


 それが終わったらいよいよ大詰めのパワードアクチュエータ、歩兵機の筋肉だ。


 パワードアクチュエータは主に、電力を運動エネルギーに変える電動モーター、運動エネルギーを感知して増強する人工筋肉、それらの加熱を抑える冷却装置の3つで構成されている。


 歩兵機の筋肉と言うのは単純に腕力や機動力だけに使われるだけでなく反応速度や射撃の精密性、体感など、歩兵機の運動機能殆どに関わってくるある意味フレームよりも重要なパーツと言える。


 そんなパワードアクチュエータだが、3つのパーツ構成はそこまで複雑ではく、リアルな人間の筋肉を再現するように構成されていた。


 電動モーターと冷却装置は一体となっていてエンジン本体と制御装置が対になる。この対の間を冷却装置から伸びる冷却管が支えていて、その管の両側を電動モーターから伸びる2種類の人工筋肉が張っている。


 これでパワードアクチュエータ1個が構成された状態だ。


 まぁ簡単に言うと電動モーターは運動神経、人工筋肉は筋肉の筋、冷却装置は動静脈のようなもの。どれも歩兵機の運動機能を司る大事なパーツだ。


 整備する上では冷却管はフレーム補修と似た感じ、電動モーターと冷却装置は分解してメンテナンスする必要があるから(いず)れにしても手間がかかる。特に人工筋肉は厄介だ。


 パワードアクチュエータの(かなめ)とも言える人工筋肉はかなり最先端技術を使った特殊なパーツらしくてな、手作業で整備するにも特殊な工具を幾つも必要とする。


 まぁその工具はあるけど、それなりの技術も必要だ。それに工程も多いし手順を間違えると全体が使えなくなったりする。人工筋肉に限っては手作業での整備に難航するだろうな。


 しかし今回はそんな手間はかけない。パワードアクチュエータの3セットは丸々パーツ交換で済ます。


 ここでもメンテナンスドックを駆使すれば直ぐに終わるが、使い方を学ぶのに手間が掛かかるから作業が進むような進まないようなでとにかく時間ばかりが過ぎていく。


 パワードアクチュエータが取り付けられれば2回目のサスペンション取り付けだ。


 今度のサスペンションはフレームとパワードアクチュエータをより強固に繋ぎ、衝撃を緩和するだけでなくフレームにかかった負荷をパワードアクチュエータに移し、馬力に変換する機能がある。


 1回目に付けたのが靭帯なら、今度のは腱と言ったところ。形状も違うし、靭帯用の物より少し大きい。


 こうした2種類のサスペンションを組み合わせる事でフレームとパワードアクチュエータは綿密に連動して完璧な素体に仕上がるんだろうな。


 最後はこの上から内装甲を付ける。


 内装甲は組み上げたパーツを外側から押さえ付けて固定する為のカバーであり、薄くて軽量だが割と耐久性のある特殊合金製の装甲である。


 外装が皮膚にあたる装甲だとするならば、内装甲は筋膜のような物。あくまでその程度の役割しかない装甲だ。


 これまでの工程に1日半かけて胴体の素体修理は終わった。右肩のジョイント部品もちゃんと直ったし、試しに付けて見たらちゃんと繋がったよ。移植用のSB型の腕が。


「……よし、やっと腕が付いた」


 これで修理は終わりだ。メンテナンスドックもかなり覚束ない感じでまだまだ使い熟せてはいないが、それでも修理は終わった。


 胴体全般をメンテナンス出来たのは本当に良かった。やってみて分かったが、フレームのガタがかなり危ういところまで来ていたしな。


 胴体だけはここに来た時と変わらないままだから、放っておいたらその内複雑骨折みたくなって使い物にならなくなっただろうな。


 メンテナンスドックを使えばより迅速かつ丁寧な整備が行えるが作業の工程で整備技術も学べたし、工具さえ揃ってればある程度自力でも整備は出来るだろう。


 と言うか、しなきゃならん。毎度毎度拠点まで戻ってメンテナンスドックで整備する訳にはいかねぇーんだから。


 とにかくイングリッドの素体は元通りに戻った。後はラジエーターやらバッテリーやらを取り付けて外装を被せるだけ。


 ラジエーターとかを取り付ける際に、SB型の専用パーツも付けておく。つまりは移植。


 その後胴体への移植を続けていく内に分かった事があるんだが、このSB型にも波動砲のコンデンサーと同じ物が搭載されている。


 ただし右胸を埋めずにペイロードを確保したまま内蔵されている。ブースター用となるとある程度コンパクトになる見たいでな、ペイロードを犠牲にしなくて済むんだ。


 あと、これらのブースターは瞬間噴射しかしない。だからホバー走行とかは出来ないし単独飛行とかも勿論出来ない。


 あくまで俊敏性や機動性を底上げする為のブースターでしかないのだ。期待を裏切って悪いがリアルとはそう言うもんだぜ。


 それから数時間でパーツの移植は終わり、外装を取り付けて胴体の修理は全て終わった。


 腕と頭と腰から下はSB型と丸々交換して移植も終わり。そうして生まれ変わったイングリッドがそこに立っていた。


 今までよりも少しボリュームが増し、全身の幾つかにSWEMブースターを搭載して見栄えも勇ましくなっている。


「カッケェー」

 カッケェー。


 今までのも悪くは無かったが、しかし今の方が見栄え的にも良く性能もパワーアップしている筈だ。


 SB型のパーツデータを読み取って専用機能をインストールすると、SWEMブースターは直ぐに使えるようにもなった。代わりに容量がまたレッドゾーンに入ったけど。


 機体性能もグラフ表記されて以前のものと比べて見れた。装甲値や出力は変わらないままだが、機動性が大幅に向上している。


 機重が増して身体が重くなったのは致し方ないが、SWEMブースターを使えば気にならない程度だ。


 あと反応速度も上がったし、電子機能も少し上がっている。高速機動での反応速度に演算処理が追いつかない事が無いようにする為だろうな。


 さて、あとは試運転だけだ。


 ブースターは基本的にパイロットの機動動作に反応して、それを補助するように自動噴射するから操作する必要はない。


「まずはジャンプでもしてみるか」


 ダイは軽くステップを踏んでから思いっきりジャンプして―――


「うぎゃっ!」


 ―――イングリッドの頭が天井にめり込んだ。


 あれ? ここ、倉庫だよな?


 天井高40mもあるスンゲー広い倉庫だよな?


 ……え? て事は何だ?


 新しくなったイングリッドは自身の全長の5倍以上も飛び上がれるって事なのか?


 スゲェー……。


 ただ、頭は潰れたし、ジェネレーターがオーバーヒートを起こしたけど。


 早速修理し直しか。






 んで、修理し直した後で気付いたんだが、ブースターの推力調整を設定するのを忘れていてな。調べたらブースターの推力がフルパワー維持になっていた。


 さっきのオーバーヒートは天井に突っ込んだせいで起きた現象みたいだが、それでもフルパワー維持はそう長くは保たないらしい。


 試しにダッシュしてみる。すると物凄く速かったが、あっと言う間にオーバーヒートを起こした。


 フルパワーでの最高速ダッシュは滅茶苦茶速く、それこそ風になったかのような圧倒的速さだ。しかしイングリッドの出力で走り続けるには30秒しか持たなかったけど。


 最高速ダッシュはここぞと言うところでしか使えないな。


 だから普段はフルパワーの30%維持で調整してみた。それで試運転してみたら驚く程身体が軽くなったんだ。


 いや、身体が軽くなったと言うよりは見えない力に押されているかのようなサポート感、まるで身体に羽が生えたかのようだ。


 なるほど、SWEMブースターとはこう言うものか。


 しかし30%維持でも使い続けるとジェネレーターの電力消費も激しいんだわ。不用意に使い続けたら最悪またオーバーヒートし兼ねないだろうし。


「仕方ない、ブースターは必要がない時はオフにしとこう」


 それが賢明だな。


 ブースターオフだと逆に少し身体が重いが、これは慣れるしか無い。万が一戦闘中にオーバーヒートを起こしたらこの重苦しい状態で戦わにゃならんのだからな。


 さてさて、我が愛機イングリッドが完全に生まれ変われたところで気付けばもう日付けも変わっている。


 腹も減って来たし眠気も襲ってきた。今日はもう休んで明日から本格的に活動を再開するか。


「ふぁ~あ……さてと、リクライニングモードを起動して、それから食事して寝よう……あれ?」


 ……なんか、嫌な予感。


 ……今更だけど大事な事を、忘れていたな。


「あれ? あれあれ、あれ? あ……れ?」


 ……お気付きだろうか?


 ダイはこのプラントに来て8日目、地下8階に来てからは7日目になる。


 地下8階に来た時点で、食料はかなり切り詰めて1週間分しか無かった。


 途中カロリーメイトを拾ったり食事を抜く羽目になった事もあったが、同時に絶体絶命の攻防戦やら大頭無しとの戦闘を控えた際に過食があったのも事実。


 だって長期戦になればエネルギー摂取は必須だぜ。生死を賭けた戦いなんだし万全の体制で挑まなきゃならんからそこは責められんよ。


 つまり何が言いたいかと言うとな、もう手元に食料が残って無いんだ。


 あと1食、これで終わりだった。


 てかこれ、詰んでね?


 今までで一番の危機的状況じゃん。


「ヤバ……」

割と吞気に初心者整備士やってたけどな、実は怪獣以上の強敵は直ぐ目の前まで迫っていたんだよ。

その強敵の名は……空腹。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ