第30分のB話 影無しちゃんはエースに勝てない……どうせ影無しですよ、何か?
ハヤセ視点
「297、298、299……300。終わったぁー」
どうも、影無しこと日向ハヤセです。
正式にディガロへ入隊して、私達は今訓練兵として頑張っています。
ピオネス基地に来てもう2週間が経過しました。因みに本格的な訓練が始まったのは1週間前からだけど。
この一週間、私は基礎体力作りと歩兵機のシミュレーターに乗って操縦訓練を続けてきました。
操縦技術の向上はMr.ジーザスさんもヘールズさんも褒めてくれて、自分でもかなり成長したんじゃないかなって思います。
ですが基礎体力の方はあまり良く無いようで、私はもっぱら体力作りに専念するようにしていました。
「お疲れ、ハヤセ」
体力作りの訓練を終えて、同じ訓練兵のジャン=クリストフ・モリエールが私にドリンクを渡してくれた。私はジャンと呼んでいるけど、彼ってとても親切な人なのです。
ピオネス基地では基本的に英語。ここに来てから、私は英語主体で話すようになりました。
元々英会話教室に通っていた事もあったし、訓練以外ではヒヤリングもしているから割と言葉の問題はありません。ジャンともそれなりに会話できるようにもなったしね。
私はありがとうと言ってドリンクを飲みながら、私より早く訓練メニューを終えたジャンを眺める。
華奢な体躯で髪型も顔立ちも女の子みたいなのに、やっぱり私より体力があるのは男の子って証拠なんだなぁ。
これを見てると、どうしても焦りが湧いてくる。もう2週間、最上君がいなくなってからは3週間にもなる。
3週間。最上君は無事でいられてるのかな? 歩兵機があるからと言って3週間も1人で、しかも見知らぬ国に放置されて、大丈夫とはとても思えないけど。
ヘールズ中尉からは未だに最上君の報告は無いって言うけど、本音を言うとそれも怪しく思ってる自分もいます。
ヘールズ中尉は何か隠しているんじゃないかと。
そんな事を考えながらドリンクを飲み終えると、教官係のヘールズ中尉が歩み寄ってきた。この次はシミュレーターかな。
「ちょっとはマシになったわね、2人とも。さて、喜びなさい。今日はあんたは達に、実際に歩兵機に乗って操縦をしてもらうわよ」
「おお! 遂に来たぁー!!」
ずっと待っていました。やっぱりシミュレーションよりも実際に乗らないと実感が湧かないもん。
ジャンがちょっと引いてるけど、それは気にしない。
「ついて来なさい。あんた達が乗る歩兵機を見せてあげるわ」
ヘールズ中尉に連れて来られたのは広い平野でした。森の境目の所に倉庫が1つだけあって、その入口前に歩兵機が2機佇んでいる。
しかもそこに佇んでいる歩兵機は、私の知っている機体でした。
「これって……」
「そう、SR-7イングリッド。あなたが乗ったのと同じ歩兵機よ」
(……イングリッド? ダオスロードじゃないの?)
意外でした。てっきりこの機体はダオスロードって名前だとばかり思ってたんだけど、本当はイングリッドって言うのかな?
それに私が乗ってたダオスロード―――もといイングリッドとは少し違う。
波動砲が無いし、色も黄色だもん。この色って目立つんじゃ無いかなぁ。
「訓練機だから、こんな奇抜な色してるのよ」
ああ、そうなんだぁ。
「通常と比べてシステム補助が搭載されているだけでなくパイロットの適性や専門の戦い方も算出する機能が搭載されているの。一端の兵士になるにこの訓練機は欠かせないわよ」
へぇ、パイロットの適性まで調べてくれるんだ。戦闘向きじゃ無いけど凄い機体なんだなぁ。
「それじゃあ、2人とも乗って。シミュレーターとは違うから乗り方には気をつけなさいよ」
「はいっ!」
「は、はい!」
ワクワクしてる私と違って、ジャンは少し緊張気味でした。
そりゃあ遂に本当の歩兵機に乗るんだから緊張はするけど、腰が引けていたら歩兵機なんて乗れないよ。
それから私達はヘールズ中尉に指導されて歩兵機に搭乗した。あの日最上君に乗せてもらって以来の歩兵機にやっと乗れたんだ。わぁーい!
それからイングリッドは起動して立ち上がった。
実際に歩兵機に乗って動かすこの感覚、たまらないよぉ。
『2人とも聞こえる?』
イングリッドのセンサーがヘールズ中尉の声を拾ってスピーカーに流れてくる。うん、感度良好。
「はーい、聞こえてまーす」
『こ、こっちも大丈夫です』
『OK、じゃあ早速歩兵機の運動性を見るから、2人それぞれでモニターに表示された場所を3周してきなさい。まずはジャン』
『は、はい!』
ジャンは指定された場所を小走りで駆け出しました。その動作はとても自然で、シミュレーターで操縦した時の様な覚束なさは無かった……あ、この訓練機システム補助が付いてたんだ。
そっかぁ、システム補助があるなら動けるよね。でもこれを0%に出来ないと一流にはなれない。
頑張らないと……いや違う。そんな悠長な事は言ってられない。
私には、最上君を探しに行く目的がある。一刻も早く探しに行かなきゃダメなんだ。
その為にも、システム補助はここで0%にして見せる。
『オッケー。ジャン、システム補助の数値はどう?』
『は、はい。59%です』
あれ? 60%近くある?
『……まっ、20%以上減ってるし取り敢えずノルマは達成ね』
20%……そうか、サーパストの適性資格は75%以下だからジャンは私とは最初の数値が違うんだね。
でも私はこれじゃあダメだ。私は0%にしないといけないんだし。
『じゃあ次、ハヤセ。やってみて』
「はい」
私も指定された場所を移動した。普通じゃダメ、全力で思いっ切り速くしよう。
ルートの途中で階段状になっている所とか、跳び越える所があったけど私はそれらも難無くクリアして3周を終える。
システム補助は……ダメでした。うぅぅ……。
『オッケー。ハヤセ、システム補助の数値はどう?』
「23%です」
『……は?』
あれ? なんかヘールズ中尉が……言っては失礼だけどちょっと間抜けな顔になってる。
ジャンの歩兵機もなんかこっちをまじまじと見つめて来るし。
するとヘールズ中尉は手元のタブレットを使って何かを確認した。ひょっとして私の数値を調べているのかな?
そりゃあ私だってシミュレーターに入って何度も頑張ってきたんだもん。ここで0%にするだけの自信だってあるにはあったんだよ。
だから、そこまで驚く事じゃないと思うんだけど。
『……ええっと、それじゃあ次のメニューに行くから、2人ともついて来なさい』
それから私達はヘールズ中尉の指示の下で様々なメニューを終えていったけど、結局0%はおろか20%を切る事も叶わなかった。
射撃訓練や爆撃訓練など、実戦に必要なことをを幾つか教えられて、そして最後に模擬戦が始まった。
ヘールズ中尉はグレーのイングリッドに乗って出てきました。多分あれが訓練用じゃない実戦用の歩兵機なんだろうなぁ。
『それじゃあやるけど、今回はブレードでの近接戦闘だけよ。2人ともブレードは持ったわね』
「はい」
『は、はい』
ブレードと言っても期待していたような剣じゃなく、脇差くらいの大振りナイフでした。
勿論これは訓練用だから刃は付いていない。刃の所には朱肉が付いていて、それで斬られたかどうかが分かる用になっている。
『オッケー。まずはジャン、かかってきなさい』
ブレードを逆手に構えてファイティングポーズを取り、細やかなステップを踏むヘールズ中尉。流石に慣れている人は違うなぁ
『はい。い、いきます』
対するジャンは少しへっぴり腰でした。大丈夫かなぁ?
だけどジャンは臆さずに一気に突きを繰り出した。へっぴり腰に見えた中腰姿勢での突き、これはいいかも?
と思ったのも束の間、ヘールズ中尉はそれを易々と躱すばかりか突き出したブレードを握るジャンの腕を掴んでホールドして組み伏した。
『モーションが大振りよ。それに直線的、もっとフェイントをかけなさい』
『は、はい!』
それから何回か模擬戦を交えたけど、目立った活躍も無いままジャンは終わっちゃった。心無しか少しガックリしている様に見えるからいたたまれないよぉ。
ジャンは射撃の腕は割と良かったし、割と後衛の方が向いているんじゃないかなぁ。
『次、ハヤセ。来なさい』
「はい」
私も頑張らないと。ヘールズ中尉相手だからって弱気じゃダメだ、一本は絶対に取る。
ヘールズ中尉はまたブレードを逆手に構えたファイティングポーズ、ステップを踏む仕草は対面して見るとこっちを挑発しているかのようだった。
焦っちゃダメ、まずは間合いを詰めてゆっくり近付く。
もう少し、あともう少し近づいて……。
『―――待て』
と、いきなり止められて私は膝が砕けました。なんで止めるの?
『カミラ、そいつの相手は俺がやろう』
『ケント?』
え? ケントってエースパイロットのケント・ロウ少尉?
どうしてそんな人がと思って振り返ったら、その時程ビックリした事はなかったかなぁ。
謎の歩兵機に誘拐された時よりもビックリしたよぉ。
そこにいたのは機種こそ私たちと同じイングリッドでした。……白いトラ柄の。
「……ガオォー」
『やめなさい、ハヤセ。言いたい事は分かるけどとにかくやめなさい』
うん、カミラお姉様の反応を見る限り私の感性がおかしい訳じゃないみたい。
よく見るとトラ柄の白は白銀だ、太陽の光を反射したり背景が写って身分け難く、割と迷彩にはなっているのかもしれない。黒は逆に光を反射しない黒で、夜なら溶け込めそうな感じでした。
そういう意味では機能的と言えなくもないけど、だとしてもトラ柄は無いんじゃないかと思う。
『お前、システム補助の数値はどうなっている?』
「あ、えっと……22%です」
訓練の間にまた1%減ったけど、目標にはまだまだ遠いよぉ。
『いいだろ、かかって来い』
かかって来いと言われても。
どうしたらいいのかヘールズ中尉を見ると、ちょっと目を泳がす素振りを見せてから、やれと頷かれました。
何故か模擬戦の相手がロウ少尉に変わったけど、もう深く考えない事にしてとにかくやろう。
当のロウ少尉はトラ柄のイングリッドに乗っているけど、丸腰のままで構えも取らず腕を組んだままの仁王立ちだった。
「あの、ブレード忘れてますよ」
『キアスなら余計な事を言わず、さっさと来い』
ああ、なるほどハンデですね。
舐められているんですね、私。
そりゃそうですよねぇ。
―――カチーン
私だって、そこまで舐められたらカチンと来るよ。
歩兵機の事であれば尚更ね。
よーし、見返してやる。まずはゆっくり近付いて……
「ぐえっ!?」
蹴られた。ゆっくり近付こうとしたらいきなり蹴られた。
まさかの不意打ちだった。正面からだけど。
『……その程度では、キアスとは呼べんな』
またカチンと来るような事を。
ううぅ、こうなったら意地でも一本取ってやる。
もう一度立ち上がってナイフを構えると、また蹴ってきた。でも今度は見える。
「うっ」
今度の蹴りはギリギリで躱せたけど、その瞬間ロウ少尉は直ぐにまた後退していた。
物凄く素早い手際だよ、これが所謂ヒットアンドアウェイってやつ? エースって呼ばれるのも納得。
それにロウ少尉、間合いが物凄く広い。キックだけなのに20mくらいの間合いを持っているように見えた。
だったらこっちも間合いを長くしないと。ブレードを逆手から普通に持ち直して、なるべく江頭ギリギリに握ってみる。
近付いても向こうに先手は取られてしまう。だったらカウンター狙いでいこう。
ゆっくり近付いて……来た!
「はぁあああ!」
仕掛けてきたキックの脚を目掛けてブレードを振るった。
けれど目掛けた脚はブレードが当たる瞬間に引っ込められた。フェイントを仕掛けられたんだ。
気付いた時には横からのキックを当てられた。しかもフェイントを仕掛けて引っ込めたのと同じ脚だし。
キックを受けてまた倒れてしまった。しかも私はまだロウ少尉の脚1本としか戦っていない。
これが、エースの差なの?
『お前、助けたい奴がいると言っていたな?』
え、何?
『最上ダイと言ったか。クロステーゼに攫われて、その後行方を眩ましたと』
「ロ、ロウ少尉、何を……」
『生きていると思っているのか?』
……え?
『クロステーゼは極秘裏の機密組織だ。存在を知られて無事でいる筈が無い。一度脱走すれば尚更だ』
……え? ……ええ?
何? ロウ少尉は何を何を言ってるの?
『ちょっとケント、あんた―――』
『カミラ、いつまで隠している。もう3週間、こいつも感づいている筈だ。生きてはいないと』
……違う、そんな筈ないよ。だって……
『認めたくないようだからはっきり言っておく。最上ダイが生きてる可能性は無い、奴は死んだ』
「う、噓……」
『最上ダイは死んだ。何度も言わせるな』
……噓だ。
噓だ、噓だ、噓だ、噓だ、噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ
「噓だぁぁぁぁぁぁ!!」
噓だ!
噓だと言え!!
噓だと、言わせてやるぅ!!!
『……ライトネード』
―――グィーン!
嘘だ……え?
私浮いて……
―――ズガっ!
「かはっ!?」
いつの間にか地面に倒れていた。
立ち上がれない……ダメ。
ダメだ……嘘だって………言わせなきゃ……。
『キアスになりたいなら、死んだ奴の事は忘れるんだな』
噓……噓だと…………言え……。
言え……言って…………お願い…………噓だっ……て……………………。
…………………………………………最上君。
勝手に殺すなぁー!
シャレにならんわぁー!!
ダイィィィィィー―――!!!




