第27話 ナイフがあなたの為に会いに来た。何故に? 刺しに。
システム補助72%
翌朝、と言っていいのかどうか分からないけどな。
ずっとプラントにいるせいで日が昇っているのかどうかも分からないし、時刻を見ればまだ日が昇るちょっと前だと分かるけど全然ピンとこないし。
それでも6時間程の睡眠を取ったダイは尿意で目を覚ました。
トイレを探すのは止めてその辺で用を足すと、またグッと眠気が襲って来たがそこは我慢する。
さて、今日も地下7階へチャレンジだ。しかも今回は妨害電波の手掛かりを掴んだ、まずはここを攻略だな。
さて、それじゃあ隔壁を開けようかと言って不用心に開けたりはしない。万が一寝てる間に四本脚とかが隔壁の向こうで群れていたりしてら攻防戦の二の舞だ。
そうならないように今度は手を打ってある。この隔壁の隅の方には人が出入りする為の扉が別にあったんだ。
この扉の大きさならゲッコーでも通れると考えてな、先にゲッコーで様子見させた。これでもうあの攻防戦にはならない。
まぁ結局何もいなかったから直ぐに隔壁を開けたけどな。
それから昨日出っ腹と戦った場所まで行って、その出っ腹が来た通路に進んだ。
勿論曲がり角とかに差し掛かった時はゲッコーを先行させて様子見させる。慎重に越したことは無いが、なんだかスパイ活動をしてるみたいになってきたな。
実際得体の知れないプラントに潜入して調査しているんだし、そう言う意味では本当にスパイ活動かもだしな。
そしてその活動においてゲッコーは本当に役に立つ。壁に貼り付けるし頭はろくろ首みたく伸びるし口状のアームを使えば軽い物も運べるし。
これで無線操作が出来れば言う事無しなんだけど、それは出来なかった。原因はおそらく妨害電波だろう。
あれのせいでゲッコーが有線の範囲内でしか動かせないんだ。そう考えると妨害電波が尚更忌々しく思えてきた。
「さっさとぶっ壊そう」
ダイもやる気があっていい事だ。
さて、通路を進んで行くと遂に現れた。
何がって? 出っ腹だよ。
ゲッコーの目で様子見してたら見つけたんだが、まだ距離があってこっちには気付いてない様子だ。
出っ腹の数は1機、ジャマーを使えば余裕勝ち出来るけど、こう言う時こそ最悪の事態を想定しておくべきだぜ。
パターン1、伏兵が現れる。
うん、これ有り得るな。ジャマーが効くのはせいぜい1機までだし、しかも使ってる間はシステム補助が使えなくなる。
伏兵なんか出てきたら格好の餌食だな。
パターン2、ジャマーを察して自爆する。
これも有り得るな。前回はたまたま上手くいっただけで、次はジャマーが効く前に自爆とかされるかもしれないし。
そう思うと前回の戦闘も結構ギリギリだったのかもしれないな。
パターン3、ジャマーが突然使えなくなる。
これは……無いと思う。ジャマーを搭載した時に使い勝手を試す為に何度も使ってみた。照射し続けられるのは約3時間程度でずっと使い続けてみたけど何ら異常は出なかった。
気にするとすればジェネレーターの電力に問題が出た時くらいのものだろう。
なのでパターン3は除外するとして問題はパターン1と2、どちらも正面から戦えば困難になる事態だ。
この場合ダイの得意な不意打ちを絡めた奇襲戦法を使えばクリア出来るんだが、奇襲するなら一撃必殺で決めなきゃ意味が無い。
あの耐久特化の出っ腹を一撃に倒すにはライフルでは無理、手榴弾は直接本体にぶつけるくらいはやらないとだが、シールドとかレーザーとかがそれを許しはしないだろうな。
あとはジャマーだな、ジャマーブラストを不意打ちで当てれば自爆される前にやれるけど、これパターン2はともかくパターン1は結局同じ事だし。
パターン1を想定すると、伏兵の為になるべくジャマーを温存して出っ腹を撃破したいところだ。
とすると、あれしか無いな。
「……やってみるか」
同じところを常に行ったり来たりしている出っ腹は傍から見ると滅茶苦茶暇そうにも見えたけど、実際は暇じゃないんだよな。
こいつらはこの先にある何かを守っている訳だから常に気を張って警戒しているんだ。まぁ無人機だから暇とか気を張るとか言う概念は無いだろうけど。
そんな出っ腹の前にわざと目につくようにゲッコーを配置した。
当然気付かれたゲッコーは逃げて、気付いた出っ腹は追いかける。
ゲッコーが通路を抜けてフロアに出ると、出っ腹もそれに続いてフロアに出た。
「ハローッ! ナイフトゥミートゥ!!」
その瞬間イングリッドが出っ腹の真上に落下して、機重を乗せたナイフを首筋に一突きした。
勿論自爆の心配は無い、ジャマーをブラスト照射ではなく自身を中心に全方位へ発信するスポット照射にしてあるから、密着状態ならこれで十分さ。
ナイフを刺された出っ腹は直ぐに機能停止した。効果はてきめんだったな。
伏兵を想定したこの陽動を絡めた奇襲、なるべく敵を単機で誘き寄せて直接一突き。これなら一撃必殺になり得る。
伏兵がついて来たとしても、その時はスポットをブラスト照射に切り替えて動きを止めればいい。その後で素早くライフルでも撃てば終わりだ。
フロアは通路よりも天井高が高くてな、この高低差を利用して通路の出入口前の天井で待ち構えていた。何せ追う側からは通路からだと全く気付けないし。
それに出っ腹のシールドは360度全方位と言っても上は防げないんじゃ無いかと考えて、真上からの奇襲にレーザーでは迎撃できないイングリッド本体をぶつけてみた。
結果は重畳、首筋は耐久が少し弱いと判断して機重を乗せたナイフを刺したらすんなり刺さって機能停止できた。ナイフでとどめを刺せるならそれに越した事は無いしな。
しかしダイよ、何だよナイフトゥミートゥって。
これうっかりミスじゃないからな。ワザとナイスをナイフに変えているんだ、ダイは。
全然粋じゃねぇーからな。単に意味不明な文章になっただけだからな。ナイフトゥミートゥ、あなたに会うナイフって。
なんだよ、会うナイフって?
ナイフが自分の意思で会いに来るのか?
何の為に?
殺しに来る為に?
あなたを殺しにナイフがやって来た?
……あれ? なんかホラーの気配がしてきたぞ?
よそう……余計な事を考えるのは。
さて、ゲッコーを使って陽動を絡めた奇襲は思ってた以上にすんなり成功した。これなら1機や2機くらいどうと言う事は無い。
てな訳で先へ進むが、道中はちょろちょろと出っ腹が出てきたんだがそいつらも陽動を絡めた奇襲で潰していった。勿論ナイフで。
しかしこのナイフも少し欠けてきている。切れ味を落として丈夫な作りにしているけど、それでも刃の付いたナイフだ。
刃が付いているなら何れ欠けるし使えなくなる。しかし代えの利かないものだからな、地下4階まで上がらんと新しいナイフは手に入らないし。
かと言ってライフルや手榴弾はあまり使いたく無い。それらは消耗品だしメインウェッポンだからなるべく温存しておきたいんだ。
無くなったらまた倉庫まで戻って補給しないといけない。そんな事ばかりやってたら全然先に進めないからな。
だからなるべく消耗しないナイフで撃破していってるんだけど、それでもナイフの刃が欠けてきたらそこそこヤバい。折れたりしたら使い物にならなくなるし。
「いっそ研いでみようかな?」
また無茶な事を考え出しやがった。
んなもん無理に決まってるだろ、やった事もねぇ癖に。そもそも研ぐ為の道具がねぇーだろ。
流石のダイもそれは無理だと思って諦めた。だがナイフを収納した途端
[ハードナイフの刃を研磨加工し直しますか?]
なんて表示がモニターに出た。マジかぁ。
「え、できるの!? するする、やって!」
[認証しました。研磨加工を実行します]
するとナイフを収納した太腿のところで何やらギュイーン的な音が鳴り響く。
実は太腿に収納していたのはナイフだけじゃなくてな、専用の鞘も一緒に収納していたんだ。
んで後から分かったんだが、この鞘には簡単な研磨機能が備わっていた。砥石とかで研ぐのと比べたら荒っぽいもんだが、それでも切れ味は十分に戻っている。
「やったぁー! これでまた使えるぞ」
まったく便利な世の中になったもんだな。荒いとは言え研ぎ直しも自動で出来るんだし。
さて、ナイフも元に戻ったし先へ進むか……っておいおいおいおい、なんか奥の方のフロアで出っ腹が密集してるぞ!?
向こうはまだ気付いていないみたいだが、遠目で見ても3、4機程度のものじゃない。
今までの奴はみんな1機で単独行動を取っていたが、コイツらは何故か複数で集まっている。
「なんでコイツらだけ……まさか! スコープ」
ダイはスコープを使って出っ腹をより拡大してみた。
数は8機、全て出っ腹で間違いない。そして出っ腹の背後には閉ざされた扉があった。
出っ腹は、それこそ門番の如く立ち塞がっている。余程あの扉の先には大事な何かがあるのだろう。
おそらくは妨害電波を発信する装置か何か、ならばなんとしてでも行かなければならない。
さて、どうするか。
正面突破? 無理無理、相手は耐久特化の出っ腹だぜ。それを8機同時に相手するとか無理に決まってるだろ。
ならここは陽動かな。ゲッコーを使って少しずつ誘き寄せるか。
「よし、行けゲッコー」
ダイはゲッコーを先行させて出っ腹どもに近づけてさせた。
少し、また少しと、徐々に出っ腹との距離を詰めて行く。
更にまた少し、そろそろ気付いてもいい頃なんだが、出っ腹はまだ気付く様子は無い。変だな。
それからまた少しとどんどん距離を縮めていくが、出っ腹は未だに気付く様子は全くなかった。
おかしい。流石にもう気付いてもいい筈なのに全然気付いていない。一体どうし―――おっ、やっと気付いたか?
と思ったらいきなりグレネードランチャーを撃って来やがった!?
「ヤバっ!」
ダイは直ぐに有線を引っ張ってゲッコーを引き寄せ、退避させた。危うく便利なゲッコーを失うところだったぜ。
しかしゲッコーを退避させると出っ腹はまた気付いていないような素振りを見せる。
いや、気付いていないんじゃない。気付いていても動かないんだ、後ろの扉を守らなきゃならないから。
警備係の任務故か、何があってもここは死守すると言わんばかりにどっしりと構えているし。
だとしたらコイツらテコでも動かないぞ。どうしたものか、これじゃあ陽動も出来ない。かと言って正面突破とかも有り得ないし。
どうしたものかと悩んでいると、別の通路から新手の出っ腹が現れた。どうやら動かないからと言ってゲッコーを放置する気は無く、仲間を呼んで排除するつもりらしい。
取り敢えずゲッコーは回収して、新手の方は陽動作戦が通じるようだからそれでいくか。
と思ってたら背後からも出っ腹が現れたのをバックモニター越しに見てしまった。
ヤバい、これは陽動が使えねぇ。
「ちっ、ジャマー!」
ダイは直ぐに背後から来た出っ腹にジャマーを照射した。数は1機だからこれで対処できる筈だろうし。
ところがジャマーを受けた出っ腹の様子がおかしい。
どうおかしいかと言うと、なんか太った腹が震えていて、しかも何故か発光している。まるで熱暴走でもしているような―――
「……っ! 自爆か!?」
それに気付いた瞬間ダイは直ぐに猛ダッシュでフロアの方に逃げた。また逃げ足が速くなったみたいでな、自爆にはギリギリ巻き込まれずに済んだけど。
「うぎゃぁ!」
まぁそれでも余波に煽られて吹っ飛ばされはしたが。
しかし問題は他にあった。ダイのいた通路が自爆によって瓦解し、塞がってしまったんだ。
つまりダイは出っ腹8機がいるこのフロアから逃げられなくなった訳だ。
逃げ道があるとすれは出っ腹が立ち塞がっている扉か、或いは新手が出てきたもう1つの通路だけど、どっちも出っ腹が待ち構えている事に変わりないしな。
取り敢えず新手は撃破しよう。随分接近されたから、いっそなるべく引き寄せて自爆しようものなら反対側へ逃げ切るのも手だ。
そしてダイはなるべく新手の出っ腹を引き寄せたけど、出来れば自爆しないに越したことは無い。
まずはジャマーで動きを封じる。
そして素早くライフルで胸部のメインコンピューターを狙撃する。
ジャマーで動きを封じられたら防御もできない、その隙に狙撃してメインコンピューターを破壊。自爆する前に機能停止を試みる。
そしてそれは上手くいった。やってみれば意外と簡単だったな。
「ふぅ……でもこれ、単機にしか使えないよなぁ」
そう、この戦法は単機にしか使えない。
動かないと言っても出っ腹8機だ、これをまとめて相手するのはどう考えても無理な気がする。
しかも自爆は厳禁だ。自爆なんてされたら奥の扉ごと破壊されて、挙句天井が瓦解して通れなくなる。ダイが通ってきた通路みたいにな。
かなり高難度のミッションだな。まぁ命の危険が無いだけマシかもしれないが。
それでも何とかして、攻略の糸口を掴むしかない。どうする、ダイ?
因みにゲッコーの首は実はかなり伸びる、尻尾がそのまま伸び代になっているから尻尾の3倍の長さまで伸びるんだ。これを利用して、本来なら手や頭に乗せてシュノーケルカメラと言う役割を果たす事もできるんだぜ。ゲッコー、マジ便利!




