第24話 絶対絶命の攻防戦、戦い終わってそして……
システム補助、エラー中
それももう終わりだ。
ダイの渾身の弾帯玉手榴弾は四本脚の1機に直撃した。想定以上にあっさりとな。
だが、その一撃で破壊できたのは直接ぶつけた四本脚1機だけだった。
他の四本脚は互いに間隔を空けて行動していたから巻き添えにならなかったんだ。
爆発した弾帯玉手榴弾から弾帯の銃弾が四方八方あらぬ方向へ飛び交い、間隔を空けていた四本脚を襲って怯ませる事には成功したけどな。
だが、それに襲われたのはダイも同じだった。
「うがー!」
しかしダイは飛び交う銃弾に怯む事なく突っ込んで、怯んでいた四本脚をライフルで次々に撃破していった。
1機、また1機っと。
本当にシステム補助が使えなくなっているのかと疑いたくなるくらいの、流れるような鮮やかな動作だった。
そしてまた1機、しかしそこでダイの猛攻は止まった。その四本脚は立て直してシールドで防御してきたからだ。
だが、止まったのはほんの一瞬だ。
ダイは防御した四本脚に手榴弾を叩きつける。投げるではなく叩きつける、だ。
バランスボール大の弾帯玉手榴弾をまぐれでも豪速球で投げられたダイは、桃缶程度の手榴弾でもかなりの高速球で投げられるようになった。
そして投げたのは普通の攻撃手榴弾。爆発の衝撃波はシールドを避けて本体を襲うから、防御しても意味がない。
だからレーザーで迎撃するのが正解なんだが、シールドが邪魔で遅れた。しかも近距離からの高速球だから間に合わない。
結果、四本脚はその手榴弾に爆撃されて大破した。呆気ないものだ。
そしてまた次の四本脚を撃つ。だがもういない、どこを見渡しても立っている四本脚は見当たらなかった。
「……っ!? っ!? っ!?」
いくら探してもいない。四本脚は全てが撃破されてしまい、機能停止して動かなくなっている。
終わったんだ。
最後の四本脚の殲滅が。
そしてそれは同時に、この長い長い攻防戦の終結を意味していた。
何度も詰んだと思っていた絶望的なこの戦いに、やっと終止符が打たれたんだ。
絶対絶命の攻防戦が、遂に終わった。
「やった……やったんだ」
ああ、やったんだよ。
ダイ、お前はお前の力だけでやり遂げたんだ。
誰に頼った訳でもない、自力を持って成し得たんだ。
「……やったぁあああああ!!」
ダイは喜びのあまりガッツポーズを決めた。
流石にそりゃあ大袈裟……では無いな。
「やった! やった! やった! やった!」
凄いはしゃぎようだ。だが、それも無理はないだろう。
今まで窮地に立たされれば逃げるだけだったダイ。戦って勝てたのは勝てると思った相手だけだった。
そんなダイが、今初めて自分の窮地を自分の力で乗り切ったんだ。誰にでも真似出来る事じゃない、素晴らしい偉業だ。
システム補助もない。波動砲もない。そんな不条理の中で素人同然のダイが、文字通り知恵と勇気だけで乗り切ったんだ。
まさに勇者そのものだったぜ。
「やったぁー! 見たか、マックスゥー! 僕はやったぞぉー!!」
ああ、見てたよ。
どこからとは言わないが、ずっと見てたよ。
見事だ、ダイ。
「完全、勝利だぁー!!」
遂には勢いあまって飛び上がってしまった。
そして波動砲を撃たれた。
「……え゛?」
……え゛?
え、ちょっと待て。波動砲を……撃たれた?
幸い飛び上がったお陰で腰から下を失うだけで済んだけど、飛び上がってなかったら全身を失ってたって事?
「うぎゃ!」
脚を失ったイングリッドは、そのまま受け身も取れずに落ちた。
何が起こったのか分からないが、とにかく波動砲が飛んできた方向を見ると―――生きてやがったよ、煙突人間が。
四つん這い姿勢で煙突状の筒穴をこちらに向けた状態で。所々に損傷が見られるが、まだ波動砲が撃てるだけの余力があったんだ。
迂闊。ガトリングガンで全滅できたと思ってたら、まさかの生き残りがいたんだ。
ダメだ、第ニ射が来たら躱せない。
「や、やられる……」
だがその心配はなかった。煙突人間は四つん這いの姿勢から立ち上がると、両手にサブマシンガンを構えた。
[M60DF 20mmサブマシンガン]
スキャニングで見たそのマシンガンの性能はガトリングガン並みの連射性を持つ短機関銃だった。
長い弾倉は半分しかグリップに収まっていないが、それでも装弾数はガトリングガンに及ばない。
威力にしてもそうだが、煙突人間はそれを2丁構えている。総火力となればガトリングガンより上かもしれない。
どうやら波動砲は次弾までのチャージが必要だからサブマシンガンの方で一気にケリをつけるつもりのようだ。
そしてイングリッドは今、腰から下が無い。しかも腰から上も満足のいく状態でもない、激戦の末に外装が殆ど剥げているんだ。
そんな状態では、あの低威力のサブマシンガンでも致命傷になるのは間違いない。それを2丁撃ちとか酷過ぎる。
しかも、問題はそれだけじゃなかった。
「っ!? 予備電源に切り替わった!?」
予備電源に切り替わる、つまりジェネレーターが使えなくなったって事だ。
所詮はジェネレーターも消耗品だ、いつかは使えなくなる。だが今回は消耗したからじゃない、破損したからだった。
ジェネレーターは腹部に内蔵されている。イングリッドの腰から下が破壊されたのならジェネレーターも破損してて当然だ。
そして予備電源に切り替わったら、最大起動時間は1時間。最大だからもっと短くなると考えた方がいい。
つまりは時間が無いって事だ。
おまけに武器は残弾1発のライフルだけときた。予備弾倉も無ければ手榴弾も無い。
足も無い、外装も無い、時間も無い、おまけに武器も無いって四拍子も揃ってしまいやがった。これで煙突人間と戦えってか? いや、死ねってか?
「まだ、だ……」
だ、ダイ?
「まだ……僕はまだ……」
ダイ、一体どうし―――ってヤバい! 煙突人間が撃って来やがった。
ダイ、避けろぉ!
「まだ……俺はまだ、やられる訳には、いかないんだぁああああああああああ!!」
サブマシンガンの銃弾が当たる直前ダイは両手で逆立ちし、そのまま腕の力で跳んだ。
宙を舞い、煙突人間が照準を上に向け直す前に、ダイはライフルを構えて煙突人間を狙い撃つ。
「ここまで来て、やられてたまるかぁー!」
一撃だった。
僅かに煙突人間の連射が届く前にダイの一撃が煙突人間の胴体、肩と肩の間のど真ん中に命中した。
システム補助も無しに、ダイは空中で見事な狙撃を成し得たんだ。
今度こそ、本当に終わりだ。
土壇場でここまでの偉業まで成し得るとは思ってもみなかったな。
感服したぜ、ダイ。
その後、ダイはまた新たにコックピットの無いイングリッドを見つけてパーツ交換し、お色直しを済ませた。
新品同然になったイングリッドはジェネレーターも交換したから起動時間も元通りに戻る。あと大破した小型カメラロボットのゲッコーも新調した。
これでイングリッドはもう大丈夫だ。
その後で気付いたんだけど、第2ラウンドが始まってから既に丸1日が経過していたんだわ。マジかぁ……。
忘れてるかもしれないが、第2ラウンドが始まった時点で既に徹夜1日目だからな。つまりこれで徹夜2日目だ。
そう思うとどっと疲れが乗っかってきた。身体中が鉛のように重く感じられる。
実際歩兵機に乗り続けていると疲労感は3倍増しになると言われているからな。それを丸2日も、それも後の1日は激戦ばかりだったし。
本当によくやったよ、ダイ。
睡魔も襲ってきたが、それ以上に空腹が辛くて睡魔の方はなんとか耐えられた。
なら、軽く食事を取って寝るかと言ったらそういう訳にもいかない。やる事はまだ沢山ある。
まず倉庫の出入口を塞ぐ。
四本脚とかはもう来ないとは思うが、一応念の為に出入口は塞ぐべきだろう。戸締り大事。
出入口を塞ぐバリケードは無事なコンテナを積み上げて作る。ただし今度はコンテナの中からコックピットの無いイングリッドを取り除いておく。
だって大事な交換パーツだからな。
代わりに撃破した無人機を詰めておいた。銃火器とは外しておいて、なるべくぎゅうぎゅうになるように詰める。そうすればより頑丈になるし。
ついでに掃除にもなる。散乱した四本脚の死骸やら残骸やらを放っておく訳にもいかなかったし、掃除の意味も兼ねてコンテナに詰めておいたんだ。
その際ちゃんと機能停止してるかどうか一つ一つ入念にチェックしておいた。
だってもしも再起動したりしたら、いきなりコンテナから飛び出して襲ってくるかも分からんだろ。つーか怖いわ、それ。
そしてバリケードが出来たら出入口の両側に第1ラウンドで使った高台を作る。1段目は壊れ易いように空にして、積み上げるコンテナはぎゅうぎゅうに詰め込んでおく。
高台を崩して無人機を下敷きに、かつ出入口を塞いで簡易バリケードにする為にな。
最後に第2ラウンドで使った階段状の高台も作り直しておく。1段目から5段目は崩れ6段目が倒れ込む仕掛けも抜かりない。9段目には死骸脚もセッティング済みさ。
これでこの倉庫は堅牢な要塞となった。万が一また群衆で攻めて来られても今度はより大丈夫になった筈だ。
まぁ、本音を言うとゴメンだけどな。あんな絶対絶命の攻防戦は二度とゴメンだ。
そうそう、階段状の高台を作り直す時に見つけたんだよ。頭無しの生き残りが。
なんか起動はしているんだが腕も脚も動かなくなったみたいでな、ジャマーを発動させてるだけの状態だったんだ。
勿論直ぐに壊したよ、ナイフで。
無人機を掃除してる中で壊れたイングリッドの脚も見つかってな、お陰で収納していたナイフも回収できたんだ。これは代えが無いから助かるわ。
そして漸く、よ〜やくシステム補助が復旧した。
そっからは作業効率が良くなって階段状の高台は割りと早くできたな。
まぁそれでも、これだけの作業にまた半日以上も費やしてしまった。いい加減休まないと本当に倒れるぞ、ダイ。
「これだけ堅めれば大丈夫だな……流石に食事を取って寝よう」
それがいい。しかしダイは食事を摂る間も作業を欠かさなかった。
強固にするコンテナにはなるべくぎゅうぎゅうに詰め込んだが、それでも無人機の亡骸はまだまだある。そりゃあ四本脚だけで200機程もいたんだからな。
ああ、思い出すと気が遠くなる。
ダイはその中でも特に頭無しと煙突人間の亡骸を残すようにしていた。
この2種類は四本脚と違って解剖してないから、どういう機能を隠し持っているか分からないんだ。今のうちに調べられるだけ調べておきたい。
それで徹底解剖してみたものの、結果は概ね予想通りだった。
煙突人間の波動砲関連はあまり分からなかったけど、怪獣並みの威力で発射間隔が大きいのは間違いなさそうだ。
出力は四本脚と同等だが、脚の電動モーターを見た感じではあまり軽快な動きは出来そうにない。多分出力の殆どを波動砲に使っているんだろう。
武器は波動砲以外だとサブマシンガンくらいのもの。あと腕のところにレーザーCIWSが内蔵されてると言うだけ。
頭無しは出力がちょっと小さめ(それでもイングリッドより大きい)、機動力はイングリッドと同じくらいで他の出力は電子機器にまわしているそうだ。
そして頭無しの武器が手の爪と腕にレーザーCIWS、それと胸にジャマーブラストと言う兵器。このジャマーブラストと言うのが中々特殊だった。
一口にジャマーと言っても色々あるんだが、歩兵機なんかが使うのは自身を中心に一定範囲への妨害電波を放射するスポットタイプのジャマーが主力だ。
頭無しのはスポットタイプではあるが、同時にそれを前方へ数角度の放射状になるよう照射する事もできる特殊なジャマーだった。
照射すると有効範囲が全周囲から前方だけみたいになるけど、その分有効射程も伸びるから一長一短だな。使い分ければより強力になるだろう。
ダイはこれを身を以て知ったからな。
ただ食事を終えた頃に気付いたんだが、この頭無しのジャマーブラストって……イングリッドに搭載できるんじゃね?
イングリッドには左右の胸部、コックピットと肩関節の間にペイロードが1つずつ設けられているんだが、ジャマーブラストはどうもその中に収まりそうなんだ。
試してみるか?
「……試してみよう」
よし、きた。
ダイは頭無しからジャマーブラストを取り出してイングリッドの左胸のペイロードに収める。
するとジャマーブラストを使うにあたって必要な機能が幾つかインストールされる。新装備1つ加えるだけでも結構大掛かりなんだな。
[インストールが完了しました。ジャマーブラストが使用可能になります]
「よっしゃー!」
よっしゃー!
[容量がレッドゾーンに入りました。これ以上の機能拡張は不可能となります]
「なんて事じゃー!」
なんて事じゃー!
[ジャマーブラスト起動により、各種機能に障害が発生しました。一時システムを強制ダウンします]
「どういう事じゃー!!」
どういう事じゃー!!
いや、いやいや、いやいやいや。
ちょっと待て、ジャマー使ったら強制ダウンとかおかしいだろ。
何故にこうなった?
イングリッドが再起動してからもう一度詳しく調べてみた。するとジャマーを使う上で自身にも影響が出るみたいなんだ。
影響を出さないようにするには専用のプロテクトをインストールしてイングリッドの機能を保護しないとならないらしい。
しかしそれをインストールするには容量が足りない、今のイングリッドは容量がレッドゾーンの域に達している。
つまり、ジャマーがあってもプロテクトが無ければ使えないんだ。
一体何がそこまで容量を埋めているのか調べてみたら……64%をシステム補助が占めていた。
嘘だろ。システム補助ってそんなに容量を食うのか?
他の機能も調べてみたけど、どれも多くて10%前後だ。64%重過ぎるわ。
さてどうするか。システム補助は滅茶苦茶必要だから捨てられ無いし、他の機能もかなり必要だと分かるものばかりだ。
あとは……波動砲の機能。
このイングリッドは元々波動砲を搭載していたから、それに必要な機能が備わっていた。その波動砲が無くなった今、ぶっちゃけお荷物でしかないのだけど。
しかしこの機能を捨てるとなれば波動砲とも縁を切るように思えてしまうからちょっとばかり抵抗があるんだよなぁ。
それにイングリッドの右胸の方には波動砲用のコンデンサーも内蔵されている。これがあるとどうしても未練が残ってしまうから嫌なんだが。
「でも、そんな事言ってられないよな。この先どうなるか分かんないんだし、今は使えないものは捨てよう」
その通りだ。
ダイは波動砲との未練を断ち切るべく、その機能をアンインストールする事にした。そして右胸のコンデンサーも取り外す事にする。
だがこのコンデンサー、電池交換みたいにはいかずイングリッドのフレームとガチガチに繋がっていたんだ。
なら諦めるかと思ったがダイはそこで諦めず、イングリッドのデータベースからメカニック技術をサルベージして手作業で取り外そうとした。
おいおい、妥協主義はどこへ行った?
結局ダイはメカニック技術を学んで三徹する羽目になったものの、工具がないと言う根本的な問題に躓いて断念するしかなかった。
それでやっと就寝を決意、また半日も寝てしまったダイが目を覚ますと―――イングリッドに通信コールが入っていた。
モニターにでかでかと表示された[M]の文字で表される相手からの通信。
そう、俺からだ。
普通バリケードだけ堅めたらそれでいいと思うんだけどな。でもたまにいるだろ、やるなら徹底的にやらないと気が済まない奴。でも妥協主義のダイはその部類に入らない筈なんだがなぁ。




