表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/239

第20分のA話 ポンコツちゃんは見た……ポンコツと言わないで!

メアリー視点

 2242時、シベリア連邦管区のとあるタイガ(針葉樹林)で私は自分のイングリッドに乗って捜索活動に勤しんでいた。


 捜索の対象は最上ダイ、及び波動砲持ちのイングリッドだ。


 正直言って最上ダイは見つけ次第捻り殺してやるつもりでいたけど、オベルタス隊長に必ず生きて連れ帰るように言われたからそれは出来ない。


 逆らおうものなら私が捻り殺されちゃうから……シク。


 隊長の尊厳の為に言うけど、普段ならそんな暴力的な事は絶対にしない。隊長は本来とても穏やかで、それでいて何事にも動じない女神の慈悲と鋼鉄の精神を併せ持つ、そう言うお方なのだ。


 でも今の隊長は、普段では有り得ない程ピリピリしているから本当に殺されそうなんだけど、一体どうして?


『―――生理だろ、多分』


「下品な事を言わないでください、アーロン少尉」


 本当にこの人は……女性として品性の欠片も感じられません。これだからカリフォルニア系は。


 そもそも隊長は鋼鉄の精神をお持ちだから、生理が来ようが拷問されようが表情一つ変えない御人なんですよ。


『原因は最上ダイ……いえ、最上ダイが発したダオスロードと言う単語ですよ、ジャネット先輩。副隊長が再三言ってたじゃないですか』


『お? そうだったか?』


『…………』


 通信だから顔は見えないけど、わざわざ訂正したリン・インシー軍曹の呆れ果てた表情が目に浮かんだ。東洋人は苦労人が多いと聞くけど、リン軍曹も例外ではなさそうだ。


 因みに私達は今別々に行動している。捜索においてはバラバラに行動した方がより効率的だからだ。


 一応班分けはされていて、私とアーロン少尉とリン軍曹で1班になっている。


 この班分けは割と定番で、私はよくこの班で行動する事が多い。そしてこのやり取りも定番だったりする。リン軍曹がアーロン少尉を先輩と呼ぶのも以前教育係だった頃の名残りらしい。


『そもそもだけどよぉ、ダオスロードって何なんだ? あの波動砲持ちのイングリッドの事じゃないだろ?』


 あ、それ私も気になる。


 私は後から聞いただけだけど、最上ダイがダオスロードと口走った途端に隊長が激怒したみたい。それからだ、隊長がピリピリし出したのは。


『調べてみましたけど人名でした。マクシミリアン・ダオスロード。この男、ディガロの初期メンバーの1人です』


『何? ディガロだと?』


 ディガロ、それって確かアメリカ軍の歩兵機を実戦配備した特殊部隊の事だ。


 ここ最近活動が活発化してきているし、近頃は各国に威力偵察を行っているとも。私達クロステーゼも何度か被害を受けている、ハッキリ言って私達の敵だ。


 私達は公の場に出られない非公式な組織だけど、ディガロはアメリカ軍の枠組みにあるから大々的な活動が行える。


 その結果、向こうは武力行使に殆ど制限がない。逆に私達は制限だらけだから防戦一方なのが現状になる。困ったものです。


 ダオスロードはそのディガロの初期メンバー、なら今は幹部と考えた方がいいのかもしれない。


『なんでディガロの野郎にリーザがぶち切れるんだ? 何か因縁でもあんのか』


『そんな事私は知りません。調べた限りでも隊長とダオスロードとの間に接点の様なものはないと思いますけど。そもそも隊長と付き合いの長いアーロン少尉が知らない事を私に聞かないでください、ただでさえ面倒なのに』


 確かに。私やリン軍曹と違ってアーロン少尉やハブタム副隊長は隊長と古い付き合いだと聞いている。そのアーロン少尉が分からないなら、結局当人以外は誰にも分からないのだと思う。


 一体どんな関係なんだろう。クロステーゼとディガロの兵士なら敵同士なんだろうけど、隊長のあの様子だとそれだけではなさそう……まさか敵同士で禁断の愛!?


 それってリアルなロミオとジュリエットだ。なにそれ、見たい!


『ちょっと待てよ。じゃああの波動砲持ちのイングリッドはディガロの物だったのか?』


『断定はできませんがそう考えるとしっくりきます。実戦装備されていない筈の波動砲を搭載していたのもアメリカ軍なら頷けます。あそこは歩兵機の技術革新に献身的ですからね』


『ちっ! じゃあ今回の一件はそのダオスロードって奴が仕組んだ事だったのか。やってくれるじゃねぇか』


 うわぁー、それ最悪。


 なんて事してくれたのよ、ダオスロード。


『いえ、それは無いです』


 え? 違うの?


『なんだ、違うのか?』


『今回の一件にディガロが絡んでいるのは明白ですが、ダオスロードは無関係だと判断します』


『……ん? なんでそんな事分かるんだ?』


『それは―――』


『あ、ちょっと待て』


 突如アーロン少尉の声色が変わった。普段の戯けた感じでは無く、実戦を真近に控えたような真剣な雰囲気だ。


『……リン、ポンコツ、2人ともポイント201まで来てくれ。大至急でな』


『了か「ポンコツと言わないでください!」


 もう、なんでこんな仇名が定着したの!? いや、あいつのせいだ、最上ダイ(イエローピッグ)!!


 おのれぇ、やっぱり許さない!






 それからアーロン少尉の指定された場所に来ると、そこにはアーロン少尉の搭乗機セガールG3とリン軍曹のイングリッドが待機していた。


 アーロン少尉は通信を使わず手招きでこっちに来るよう指示した。まるで通信を使うのを躊躇っているようだ。


 アーロン少尉のセガールG3の傍にくると直ぐにその理由が分かった。そこには私達のものではない歩兵機の残骸があったからだ。


 酷い破壊のされ方、中にいたパイロットの断末魔が今にも聞こえてきそうだ。こんなの見たら誰だって言葉を失くしてしまう。


 殆ど形状は分からなくなっているけど、恐らくこれはセガールだ。


 セガールは実質世界初の歩兵機でイングリッドよりも一世代古い機種、イングリッドに比べて全体的に横に大きくずんぐりとしたフォルムが特徴的な機体だ。


 アーロン少尉の乗っているのはそのバージョンアップ型だけど本質は同じで、汎用性でイングリッドに劣るものの重装備が可能な事と初心者でも扱い易い事で今でも使われているところは多いと聞く。


 でも初期型と言えども歩兵機だ、それを実装してるところって私達クロステーゼ以外だと……


『こいつ、ディガロの機体だな』


 アーロン少尉の言う通り、ディガロしか考えられない。


『しかしそれはおかしいですね。これがディガロの歩兵機なら、一体誰にやれたのでしょうか?』


 リン軍曹の疑問にアーロン少尉は指で自分や私達を差した。


『私達な訳無いです、他の部隊からそのような報告も受けてません。馬鹿ですか、先輩?』


『んだと、こらぁ!?』


 マズい、喧嘩になる。リン軍曹は毒舌だからなぁ、なんとかごまかして治めないと。


「じゃ、じゃあディガロ同士の仲間割れ、或いは裏切りの報復とか」


『それは有り得なくも無いですが、もしそうなら歩兵機の残骸を放置したりしませんよ、ポンコツ』


「そうですね。でもポンコツとは言わないでください……」


 私まで毒を吐かれてしまいました……シク。


「でも、じゃあこの歩兵機は誰がやったのですか?」


『バーカ、いやポーンコツ。そんなの決まってんだろ』


 わざわざ言い直す必要ありますか? わざわざポンコツって言い直す必要ありますか!?


クロステーゼ(あたしら)でもディガロ(あいつら)でも無かったら、他に歩兵機持ってる奴は1人しかいねぇだろ?』


「それってまさか……最上ダイ?」


 でも他に考えられないし、そもそも最上ダイはこの付近で姿を消しているからそう考えるのが妥当かもしれないけど。


『その判断に疑問は残ります。最上ダイの実力でディガロの実戦部隊の者に勝てるとは思えないですし、ディガロなら最上ダイを襲わず保護するのでは?』


 リン軍曹の意見は尤もだと私も思う。あの波動砲持ちのイングリッドはディガロの物なら最上ダイを保護した上で回収するだろうし、戦闘になるとは思えない。


 仮になったとしても最上ダイは素人の筈だ。この大破したセガールを見る限り相当一方的にやられた様子、とても最上ダイにそれほどの芸当ができるとも思えないし。


 でも私はその最上ダイに負けたんだけど……ほ、歩兵機の性能が違ったの! 向こうは波動砲を持ってたしシステム補助とか言うなんか特別な機能も備わってたし!


 だから性能差で負けたの! 決して実力で負けた訳じゃない! 絶対ない!!


『リン、お前忘れた訳じゃないだろ。最上ダイは1人じゃない、遠隔操作した仲間がいるってな』


 あっ、そうだった。


 そもそも最上ダイを取り逃がしたのは外部から遠隔操作をした謎の人物Xの犯行によるものだ。


 Xが最上ダイを助けた理由は分からないけど、また捕まるような事があれば助けに入るに違いない。そのXの実力ならこの惨状も納得できるし。


『それによぅ、このやられ方を見てみろよ。原型が殆ど残ってないにも関わらず、銃撃とか爆破とかの痕跡は一切無い。鈍器で叩き潰されたような独特の惨状は、間違いなく波動砲だ』


 確かに、この惨状は確かに波動砲を受けた状態に酷似している。でも波動砲を持っているのは最上ダイのイングリッドくらいのもの。


 ならこの歩兵機をやったのは最上ダイ、及びXと言う事になる。


『理屈は分かりますが、しかしここまでの惨状になりますか? 使われたのが波動砲だとしても、あの威力でこのような……』


『はぁ? んなもん5、6発撃てばこうなるだろ?』


『私が調べた限り、最上ダイのイングリッドに搭載されている波動砲は3連射までです。そしてあれは2発も受けたら歩兵機は大体大破します。5、6発も撃つ必要は無いと思いますよ』


『んな事あたしが知るかぁ!』


 わぁー、アーロン少尉が逆ギレしちゃった……。


 元々肉体派のアーロン少尉と頭脳派のリン軍曹は反りの合わない仲だ。隊長は何故この2人を組ませているんだろう。そこに私を入れたのは多分喧嘩の治め役なんだろうけど。


 このままだと喧嘩が始まりそうだから止めなきゃだけど、更に続けたリン軍曹の分析に私もアーロン少尉もドキッとした。


『それにさっきから電波障害に困ってたんですけど、流石にタイガ(針葉樹林)の中でもこの持続性には違和感があります』


『……おい、それってまさか』


 人為的な電波障害?


 この地帯に……何かいる?


 私達を狙って?


 え? 何? なんか恐い。


 捜索にきた私達が、今度は捜索される事態になるとか?


 ひょっとしてこれ、日本で言うところの木乃伊取りが木乃伊的なやつ?


 絶対イヤァー!!


『撤収するぞ。あたしは帰ってハンバーガーを食う』


『意外と小心者なんですね………………フッ』


『リン! テメェ今笑ったな!?』


『いえ、そんな事はないですよ………………フッ』


『リィーン!!』


 こんな時に喧嘩しないでほしいのに、ここはタイガ(針葉樹林)でしかも真っ暗だから視界も悪いし何が出るかもわからないのに。


 まさか最上ダイ以外の歩兵機がこのセガールをやって、あまつさえ電子戦特化型にカスタマイズしたリン軍曹のイングリッドに電波妨害をかけるとか、そんなチートな奴がいるって言うの?


 しかもそいつがセガールをやったのなら波動砲を持っている筈だし、それも波動砲持ちのイングリッドより強力そうな波動砲を持っているようだし。


 そんなの現れたら……どうするの?


 アーロン少尉は確かに強いけど、この一方的にやられたセガールを見ると……ここはオベルタス隊長と合流して戦力を固めるべきだ。


 実際アーロン少尉もそう判断してるし、リスクはローにすべきだと思う。


 なら、早くこの場から移動しないと……ん?


「ん!?」


『大体リン、テメェは―――』


「んん!?」


『そう言う先輩こそ、この間の模擬戦で―――』


「んんん!?」


『んだと、こらぁ―――』


「あのっ!!」


 私の全力の静止にやっと二人とも落ち着いてくれた。この二人の喧嘩は全力でないと止まらないから。


「あの、今あそこに何か見えませんでしたか?」


『あそこって、どこだ?』


「あの針葉樹が3本並んでいる所の上です。何か……顔のようだった気がしたんですけど」


『顔って、あの針葉樹は35mもあるわ。そこから顔を出していたなら歩兵機の5倍になるわよ……』


『おいおい……まさかそんな規格外のデカブツ歩兵機が出たとか言うなよ?』


「……すみません。勘違いでした」


 そうだ、勘違いだ。そうでなかったら困る、35mを超すような歩兵機なんてある筈がない。


 もしも、万が一にも、そんなデカブツ歩兵機が存在したとして、それがリン軍曹の推察するチートな奴だとしたら………オベルタス隊長でも勝てないもしれない!?


 私達だけじゃ手も足も出ないまま瞬殺されかも。このセガールのように。


『は……はは、そうだよな。驚かすんじゃねぇよ、メアリー……だが、もしもそんな歩兵機がいるとしたら、乗っているのは例のダオスロードとかか?』


『有り得ません。仮に5倍もの大型歩兵機が存在したとしてもですが、ダオスロードがそれに乗ってる筈は無いです』


『そ、そうか……よし、撤収するぞ』


 私達は直ぐに帰投した。それからは特別何の問題も無く、ただセガールのいた現場に何がいたかは分からないまま、煮え切らない思いで帰還する事になった。


 私が見たのは本当に見間違いだったのだろうか。頭のようなとは言ったけど、本当は一瞬だけ全体図のようなものが微かに見えていた。


 信じられないようなその姿を、私は口に出して2人に報告する事ができなかった。現実離れし過ぎていて、なんて言うか悪い夢でも見てるかのようだったから。


 怪獣。敢えて口に出して言うなら、それは怪獣だった。


 まるで空想の中のボスキャラが現実にひょっこりと出てきてしまったかのような、そんなファンタジックで、でも実際問題にしたら絶望的になる、そんな悪い夢にうなされた気分だ。


 夜が明けて迎えのヘリが来た頃に、アーロン少尉はふと思い出したようにリン軍曹に尋ねた。


『なぁ、リン。何でそのダオスロードは関わって無いと言い切れるんだ?』


『それはダオスロードが……と言うよりダオスロードを含めたディガロの初期メンバーが、デリック・フェルトン伍長1人を残して全滅したからです』


 全滅、死んだんだ。ダオスロードはもうこの世にはいない、なら謎の人物Xもデカブツ歩兵機もダオスロードじゃ無いか。


 一体誰なんだろ? まさかダオスロードの幽霊なんて事は無いだろうけど……まさかね。

幽霊っているぜ、現にこうして語り部やってるからな。そしてこれからもペラペラ喋りまくるぜ、だって出番ねぇーし……。


 ―――by,MAX

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ