第18話 ある人は言った。戦って戦って戦って、行き着く所まで戦えと
システム補助82%
ダイはBダッシュで……この言い方もう辞めるか。
実際ダイの全力疾走は思いの外速くなっている。ダイ自身の脚力が成長したのもあるけど、システム補助によってランニングフォームが矯正されたのも大きいな。
今までは歩兵機の脚力に頼ってただけのダッシュだったが、今はダイ自身のダッシュ力も繁栄されてる。そろそろ新しい呼び方を付けてもいいだろう。
てな訳で猛ダッシュと呼称しておく。まんまだとか言うなよ、異論は認めん。
そして何故猛ダッシュしているのかと、四本脚約30機の群衆に追われているからだ。
「うぎゃぁあああああ!!」
ただ猛ダッシュに進化して四本脚を引き離せるかと言ったらそうでもなかった。
単純な走力ならダイの方が上なんだが、四本脚はガトリングガンを撃ちまくりで追っかけてくるからさぁ、避けながら逃げるとロスが大きくて引き離せないんだよ。
てかガトリングガンの弾を避けながら逃げるって、それ滅茶苦茶スゲー事だよな。バックモニターで的確に見て避けて、またはシールドで防いだりしてるし。
ここにきて反射神経も研ぎ澄まされたか。本当にこいつは追い詰められると凄い事するよなぁ。
しかし引き離せないときたら色々ヤバい。そこでダイは予め(また逃げる羽目になる事を想定して)考えておいた苦肉の策を使う決心をした。
まぁ、手榴弾を使うだけなんだけど。―――ポイっとな。
―――ズドォーン!!
一見追ってくる四本脚に直撃したようにも見えるが、実際は直撃する前にレーザーで迎撃された。予想通りにな。
別に手榴弾で撃退できるとか考えてはいない、狙いは現在猛ダッシュしている通路の壁だ。岩肌が剥き出しになっている所のな。
そんなところで手榴弾を天井寄りに爆発させたらどうなるか、分かるだろ?
ピンポーン、正解は落盤!
落盤によって四本脚の群衆を生き埋めに出来ればと考えたんだ。例えそれで全滅は無理でも通路を塞ぐ事はできるだろうからな。
この策の問題点は2つ、1つ目はダイも生き埋めになり兼ねないと言う事。……いや、大問題だろ!?
「ああああああああああ!!」
ダイは猛ダッシュで通路を必死に駆け抜けた。また更に速くなっているのは気のせいじゃないだろうな。
命懸けの猛ダッシュの結果、ダイは落盤地帯から脱して巻き込まれずに済んだ。危機一髪だったな。
「はぁ、はぁ、た、助かった……」
ダイは助かったが、四本脚はどうだろうか? 奴らまで助かってると困るんだけど。
そして問題点2つ目、通路が塞がってしまったことだ。これこそ大問題だぞ。
通路が塞がったらどうやってこの階層を出るんだ? 他に道はねぇーぞ。
―――ゴロッ
その時、落盤で崩れた岩が転がった。四本脚がそこから這い出てきたからだ。
「だぁー!」
直ぐにライフルで撃破出来たが、それから続々と四本脚が這い出てくる。とても撃破し切れる数じゃない。
何機か落盤の下敷きになって大破した奴も転がり出てきたが、それでも這い出てきた奴らの方が大多数だった。てかまるでゾンビみたいに這い出てきやがるよ、怖……。
「……ヤバ!」
ダイは再度猛ダッシュで逃げた。ここでもう一度手榴弾を使うと間違いなく自分も下敷きだ。
距離を取ってトップスピードを出してからでないと使えない。幸い四本脚は落盤から這い出るのに必死でガトリングガンは撃ってきても追ってはこないしな。
しかし、その苦肉の策も使えなくなった。
最初の倉庫まで戻ってきてしまったんだ。行きしは色々迷ったから時間もかかったけど、帰りは最短距離だから然程時間もかからないからな。
「ええい、くそぉ!」
兎にも角にもダイは倉庫に駆け込んだ。倉庫の出入口は予めコンテナを積み上げてバリケード代わりに塞いであるが一部分だけ通れるスペースがある。
ダイはそのスペースを通ると、出入口のシャッターを下ろしてからそのスペースにコンテナを押し込んで塞いだ。
ついでにシャッターが閉まれば開閉スイッチをライフルで壊しておいた。多分これで外からも開けられないと思う。
「これで……大丈夫かな?」
果たしてこの閉ざされたシャッターを前に四本脚はどういった反応を見せるか。素直に諦めてくれれば万々歳なんだけどな。
―――ズドォーン!!
「っ!?」
い、今の音は……手榴弾の爆発音!?
まさか四本脚、シャッターが開かないと知って手榴弾でぶち破ろうとしている?
ヤバい! あいつら手榴弾のストックは6個だが群衆でいる以上は手榴弾も無尽蔵にあるようなものだ。シャッターが破れるのも時間の問題だぞ。
いや、シャッターだけじゃ無い。バリケード用に積み上げたコンテナもそう長くは保たないだろう。
倉庫に他の通路は無い、逃げるとしたらもうあそこしか残されていないぞ。
怪獣のいる階層に通じる、縦穴しか。
いや、正直怪獣恐いよ。恐いからもい会いたくないし、上にも行きたくないよ。
でもさぁ、あの四本脚の群衆にダイが勝てる訳無いじゃん。
1機でも正面から戦えばグダグダになるのにそれがザッと30機、落盤で幾らかやられたとしても少なく見積もってまだ20機はいる。
ぶっちゃけ3、4機でも勝ち目ねぇのに、そんなん相手にできっかよ。それだったら例え恐くても怪獣の巣を選ぶよな。
故にダイは躊躇せず縦穴のある壁に入った。そして気付いた、ここも塞いでいる事に。
「し、しまった!」
縦穴には空のコンテナを強引に押し込んでいたんだ、真上からの奇襲予防に。だから上に昇る事はできなくなっていた。
コンテナを引っ張り出そうとするもギッシリ嵌っていてイングリッドのパワーでは無理だった。なら手榴弾で爆破するっきゃない。ズドォーンとな。
そうして手っ取り早く爆破したんだが、そしたら最悪な事に今度は落盤で塞がれてしまった。マジかい……。
「そんな……」
手持ちの手榴弾はあと2個、これで縦穴を開通させるのはとても無理だろう。つまり、退路は断たれたと言う事だ。
最悪だ。どうすんだよ、これ。
だから言ったんだ。地下7階に上がる前に休んどけって……いや、最終的な結果はどの道同じか。ダイの疲労が回復するか否かなだけで。
それでもダイは諦めようとはせず倉庫の中を必死で探して回ったが、他の通路も隠し扉も無かった。勿論穴の空きそうな壁も。
どうするどうするマジでどうする? いっそここのコンテナの中に隠れてやり過ごすか?
いや、ダメだ。四本脚はここにダイが逃げ込んだと判断したから強引にシャッターを壊してでも入ろうとしている。
例え隠れても奴らはダイを見つけ出すまでこの倉庫から移動しないだろう。奴らは無人機だから、諦めると言う事をしないからな。
―――ズドォーン!!
四本脚は刻一刻とシャッターを破壊しつつある。突破されれば嬲り殺しにされるのは目に見えている、こいつらは最初から容赦がなかったからな。
だが逃げ道は無いし隠れもできない。どうする、ダイ?
「マ……マックス! マックス助けて!」
俺を頼ってきたか。まぁその気持ち分からなくも無いが、しかしそれは無理だ。
「マックス、聴こえているんだろ! 頼むよ、助けて! マックス!!」
だから無理だって。前にも言ったが、今は俺も身動きが取れないんだよ。
流石に可哀想だとは思うけどな、こればっかりは俺に出来る事はない。期待はするな。
「マックス……どうして、何も言ってくれないんだよ……ううぅ」
遂には泣き出してへたり込みやがった。もうダメかもしれねぁな。
本音を言わしてもらうと、地下7階の隔壁を開けた時点で終わったと踏んでいた。30機もいる四本脚を前に、もうダメだってな。
そもそもダイは歩兵機乗りとしては素人同然だ、それも素質や才能も感じられない平凡以下の。この数日で多少成長したと言っても所詮毛が生えた程度……いや、毛も生えてない程度だ。
四本脚はただでさえイングリッドよりも性能が上、それが少なくとも20機以上いる群衆をこの限られた空間で戦うのはどう考えても無理だ。
真っ正面からは勿論、不意打ちに奇襲も数が相手では役に立たない。つまり、詰みだ。
あとは誰かが助けに来てくれるのを待つだけ、ダイはそれを俺に期待してるようだがそれは無駄だ。
絶体絶命のピンチにヒーローが助けに来てくれるのはフィクションの中だけだ、現実ってのは誰も助けになんかこないんだよ。
それはお前が一番よく知ってるだろ、ダイ。
かつての高校生活で誰がお前を助けてくれた? 同級生も、教師も、家族すらも助けてはくれなかっただろ。
結局は誰も助けてはくれない、救いのヒーローは待つだけ無駄だ。
他力本願はもう辞めにするんだ、ダイ。
「僕が……僕がやるしか……」
そうだ、立て。
立って戦え。
戦って戦って戦って、行き着く所まで戦え。
それがお前の宿命だ。
ヒーローは待つものじゃない、成るものだろ。
「僕が……やってやる!」
ダイは立ち上がった。
ライフルを片手に、未だ倉庫のシャッター破壊に勤しんでいる四本脚を迎え撃つべく立ち上がった。
敵は20機以上、考えてみればこんな小僧1人如きに随分と大盤振舞いをしてくれたものだ。余程ダイの存在が気にくわないのかねぇ。
だったら盛大に歓迎してやれ。決死の大歓迎会だ!
四本脚が倉庫のシャッターを破壊して、バリケードを突破するまでに随分とかかった。お陰でダイは準備万端の状態で迎えられたけどな。
倉庫に入ってきた四本脚は約30機、もうちょっと少ないと期待してたけど当初の数とほぼ同じだった。
まぁ仕方ない。それよりも今は四本脚の動向だ。
四本脚は倉庫内に入り込むと周囲を見渡しながらゆっくりと進んでいた。なるべく密集しないように3、4機編成でバラつきながら。
倉庫に入ってきたもののダイのイングリッドの姿はない。身を隠すコンテナは沢山あるからどこかに隠れているんだが。
四本脚はダイを探す為に手分けして探そうとしたが、しかし四本脚の1機が左側のコンテナの後ろに隠れているイングリッドをあっさり見つけた。
入ってきた四本脚を覗き見るように少し頭を出しているが、これって四本脚側から見るとかなり目立つ覗き方だから直ぐ分かったんだ。
それに気付いたら四本脚は一斉射撃だ。たった1機に大袈裟なまでの総攻撃、マジで容赦ねぇ。
その結果コンテナの影に隠れていたイングリッドは頭部をやられて倒れた。四本脚側からは完全に見えなくなったが、奴らはそれを確認するよりも先に手榴弾を投げようと何機かが左手に掲げた。
狙い通りだ。
「でりゃあああああ!!」
四本脚が手榴弾を掲げた瞬間に背後から―――倉庫の中の左側にいたイングリッドの反対側から凄まじい銃撃が巻き起こった。
銃撃は四本脚が掲げた手榴弾を執拗に狙い、直撃して爆発させる。しかも掲げているのは左腕だからシールドもあればその裏に予備弾倉も、残りの手榴弾もある。
それらに誘爆した結果、有効範囲の狭い攻撃手榴弾でも付近の味方機を巻き込んで大破させた。これは狙い通りじゃないがラッキーだ。
さて、何故やられた筈のイングリッドがいつの間に四本脚の背後を取ったかと言うと、実は最初に銃撃されたのはカカシだ。
倉庫の中のコンテナに入っていたのはイングリッドばかりだからな、1機だけカカシに使わせてもらった。
ダイのイングリッドは最初から反対側に潜んでいて、見つからないように小型ロボのゲッコーで密かに覗き見ていたんだ。必殺の不意打ちを仕掛ける機会を伺ってな。
銃撃されて倒れたカカシに手榴弾を投げるのは今までの経験で嫌と言うほど分かってたし、そこを狙って銃撃させてもらった。
因みにダイが銃撃に使ったのはライフルではなく、四本脚の使うガトリングガンだ。元々ここにいた四本脚のものを拝借したって訳よ。
弾帯は切れていたが少しの手間で繋ぎ直せた。弾もまだまだ残ってたし、幾らでも撃てる。ただイングリッドの腕が悲鳴をあげていたけど。
イングリッドの腕では負荷が強い武器なのは知っていたが、この状況ならライフルよりガトリングガンの方がいいと判断。また外れたの悲劇が起きてもここならまた付け直せる。
だからリスク承知でガトリングガンを撃ちまくった。速射性と連射性で大きく上回るガトリングガンは四本脚の隙を突いて想像以上の殲滅力を発揮してくれたよ。
この殲滅力でダイはずっと襲われていたのか。改めて考えると……。
ええい余計な事を考えるのは無しだ!
とにかくダイ必殺の不意打ちは成功した。このまま一気に殲滅できるか、できずにダイがやられるか。面白くなってきたじゃねぇーか。
さぁ、パーティの始まりだぜぇ!
今回システム補助によってランニングフォームが矯正されたけど、必要とあらば色々な事を矯正してくれるぜ。受け身の取り方とかステップの踏み方とかもな。ただ矯正はあくまで基礎であって結局は本人の技量ものを言う。そこは履き違えるなよ、ダイ。




