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第6話「ギルド登録とスキル鑑定」

 ギルド【冒険者組合《樽と牙》】は、町の中央付近に鎮座していた。

 巨大な石造りの建物からは、むせ返るような熱気が漏れ出している。


 「名前からしてバイオレンスなんですけど」

 「安心して、中身もだいたい暴力と酒だから」

 「安心の定義が俺の世界と違いすぎる!!」


 扉を開けた瞬間、怒号と笑い声が爆風のように押し寄せてきた。

 巨大な掲示板には血生臭い依頼票が踊り、中央では鎧姿の巨漢たちが机を囲んで腕相撲に興じている。


 「おらぁ! 軟弱な筋肉してんじゃねえぞォ!!」

 「うるせえ! この樽酒野郎がァ!!」


 思っていたギルドの二倍は治安が崩壊している光景に、クルスは引きつった顔でじりじりと後退した。


 「まだ序の口よ。さあ、行くわよ」

 サクは怯える彼を尻目に、慣れた足取りで受付カウンターへ向かう。


 そこにいたのは、赤毛を束ねたクールな女性――だが、その手になみなみと注がれたジョッキが握られていた。

 「いらっしゃい。依頼? 登録? それとも、あそこのバカどもの仲裁?」


 サクがひらひらと手を振り返す。

 「私は登録済みだから、今日はこの二人の登録をお願い」


 受付嬢はジョッキを片手に、ゆうことクルスを品定めするように順番に見た。

 「へえ、新人? 珍しい組み合わせね」

 「こっちは医療担当」

 サクがゆうこの肩をぽんと叩き、親指で隣を指す。

 「で、こっちは死にかけ担当」

 「担当分けが雑すぎる!!」

 クルスが即座に、全力のキレ芸で抗議した。


 受付嬢はわずかに口元を緩め、事務的に告げる。

 「なるほど。じゃあ登録料は一人銀貨一枚。命の保証はなし。文句は受付時間内だけ受け付けるわ」

 「説明の最後が労基署に怒られそうなんですけど」

 「安心して。この町に労基署はないわ」

 「安心材料が全部死んでる!!」

 ゆうこは救いようのない説明に、思わず額を押さえた。


 「……登録って、何するの?」

 ゆうこの問いに、受付嬢はカウンター下から書類を三枚取り出した。

 そこに並んでいたのは、冒険者登録とは思えない、だいぶ"終わっている"項目だった。


 【名前】

 【職能】

 【酒耐性】

 【酔った時の最終形態】

 【“一杯だけ”と言った時の信用度】

 【一緒に飲ませると危険なタイプ】

 【深夜テンションでやらかした最大事故】

 【二度と酒を飲ませてはいけない曜日】


 「最後なに?」

 「曜日で事故る人がいるのよ。金曜に人格が増えるタイプとか」

 「情報が怖い!!」

 「先月いたわね」

 「実在したの!?」

 戦慄するクルスを横目に、ゆうこは遠い目をしながらペンを走らせた。


 【名前】ゆうこ

 【職能】ぽしゃけ医(仮)/酔っ払い回収係

 【酒耐性】高い(たぶん)

 【酔った時の最終形態】未確認生物

 【“一杯だけ”と言った時の信用度】3%

 【一緒に飲ませると危険なタイプ】勢いで生きてる人類全般

 【深夜テンションでやらかした最大事故】異世界転移

 【二度と酒を飲ませてはいけない曜日】全部


 「事故歴のスケールがおかしいのよ」

 「こっちも納得してないからね!?」

 隣ではクルスが、なぜか遺書でも認めるような神妙な顔で書いていた。


 【名前】クルス

 【職能】情緒不安定系前衛/泣きの一撃担当

 【酒耐性】低い

 【酔った時の最終形態】人生相談を始める包帯生物

 【“一杯だけ”と言った時の信用度】0%

 【一緒に飲ませると危険なタイプ】優しい人・寂しい人・目が合った人

 【深夜テンションでやらかした最大事故】コンビニで店員が忙しそうだったからレジに入る

 【二度と酒を飲ませてはいけない曜日】火・水・木・金・土・日・たまに月


 ゆうこは思わず二度見した。

 「月曜だけワンチャンあるみたいな書き方やめて」

 「体調が良ければ……」

 「良くてもダメだよ!!」


 さらに職能欄の『情緒不安定系前衛/泣きの一撃担当』という不穏な文字列に、ゆうこは顔をしかめる。

 「何その職業!?」

 「えっ」

 クルスは少し傷ついた顔をして、小声で弁明した。

 「僕の戦い方を、できるだけ誤解なく伝えようと……」

 「誤解なく伝わった結果、余計に怖いんだよ!」


 サクが堪えきれずに吹き出す。

 「合ってるじゃない。だいたい泣いて突っ込んでるし」

 「そんな戦法みたいに言わないでください!!」

 「しかも勝率低いし」

 「そこまで言う!?」

 ゆうこはクルスの書類をさらに覗き込み、戦慄した。

 「待って、“目が合った人”ってなに」

 「刺さるので」

 「何が!?」

 「存在が……。あと、たまに褒められると泣きます」

 「重い重い重い!! 追加情報がいちいち面倒くさい!!」


 受付嬢は差し出された書類を受け取ると、流れるように目を通した。

 ゆうこの書類、クルスの書類、サクの顔。そしてもう一度、クルスの書類。

 「……なるほど」

 「何がですか」

 「だいぶ面倒」

 「雑な総評!!」

 「でも外れてないでしょ?」


 受付嬢の言葉に、ゆうことサクが同時に黙り込む。クルスだけが静かに傷ついていた。


 受付嬢は三人分の書類を重ねると、棚の奥から小さな金属製のバッジを取り出した。樽に牙が生えた、悪趣味に格好いい紋章が刻まれている。


 「登録証。なくしたら再発行料は銀貨三枚」

 「高っ」

 「酔ってなくすやつが多いの」

 「納得はするけど納得したくない」


 ゆうこが受け取った瞬間、ひんやりした感触が手のひらに沈んだ。ただの飾りではなく、何かしらの魔道具らしい重みがある。

 「それ、酒気反応式よ。危険な酔いに近づくと赤く光るの。自分か、仲間か、周囲かまでは区別しないけど」


 ゆうこはバッジをひっくり返して見た。どう見ても、まともな医療機関が配る類のものではない。

 「なんでそんな危険探知機みたいなものを、登録証に組み込んでるのよ……」

 「この町、平時と非常時の境目があいまいだから」

 受付嬢は、なんの感情もなく言い切った。


 「便利よ。酔っ払いに巻き込まれる前に光るし、酔っ払い本人が『俺はまだ酔ってない』って言い張る時にも光るし」

 「ほぼ常時点灯じゃない、それ」

 「ええ、だいたい赤いわね」


 終わってる。

 ゆうこが心の中で呟いていると、隣でサクがパンと手を打った。

 「はい、じゃあ登録はこれでおしまい!」

 「軽っ」

 「大事なのはここからよ」

 サクが、にやりと不穏な笑みを浮かべる。


 その顔を見た瞬間、ゆうこの中の危険センサーが全力で警報を鳴らした。

 「その顔やめて。ろくでもない流れしか見えない」

 「せっかくギルド登録したんだから、ついでにやってもらいましょ」

 サクは人差し指を立て、宣言した。


 「――スキル鑑定」


 その言葉が出た瞬間、カウンター周辺の空気がピリリと凍りついた。

 腕相撲をしていた連中が手を止め、奥でカードに興じていた男たちが一斉にこちらへ耳をそばだてる。


 「え、何ですかこの『特ダネを見つけた記者』みたいな視線の集まりは」

 「気にしないで。この町、珍しいスキル持ちが出るとすぐ賭けの対象にするだけだから」

 「気にする要素しかありませんけど!?」


 受付嬢はジョッキを置き、クルスを品定めするように見つめた。

 「そっちの彼? 新規?」

 「ええ。超ド級の新規よ」

 彼女はカウンターの下から、古びた銀細工が施された透明な水晶板を取り出した。


 「簡易鑑定よ。さあ、力を抜いて手を置いて」


 クルスがおそるおそる右手を乗せると、透明だった水晶の奥底で、青白い火花のような光が弾けた。

 やがて、水面に墨を落としたように、くっきりと文字が浮かび上がる。


 【スキル名:ポコちん】


 場が、止まった。

 ギルド内の喧騒が、一瞬だけすっと遠のく。

 クルスも止まった。ゆうこも止まった。サクだけがゆっくりと瞬きをした。

 そして受付嬢が、無表情のまま水晶板を注視した。


 「……は?」

 クルスが震える声を出した。「え?」と全員でもう一度見るが、結果は変わらない。どう好意的に読んでも、それは変わらなかった。


 「いやいやいやいや待ってください」

 クルスが水晶板から手を離し、半歩下がる。

 「ちょっと待ってください。今、社会的に一番見たくない文字列が出たんですけど」

 「私も初めて見たわよこんなの」

 受付嬢が真顔で言い放った。

 「鑑定歴七年だけど、下品さで言えばぶっちぎり一位ね」

 「記録更新しないでくださいよ!!」


 「なんだ今の」

 「攻撃方法が嫌すぎるだろ」

 周囲の冒険者達がざわつき始める。


 「やめて!! 想像を広げないで!!」

 クルスが頭を抱える横で、ゆうこは水晶板を覗き込み、眉をひそめた。

 「……いや、でも待って。下に説明が出てる」


 全員が再び水晶板を注視すると、じわじわと続きの文字が浮かび上がっていた。


 【効果:極限まで抑圧された生命力・欲求・生存本能を一時的に一点集中させ、身体能力・持久力・回復力を爆発的に上昇させる】


 「……へえ」

 受付嬢が感心したように読み上げると、さらにその下に新しい文字が浮かぶ。


 【副作用:思考が一部下半身に引っ張られる】

 「最悪だ!!!!!!」

 クルスの絶叫がギルド中に響き渡った。


 さらに冒険者達がざわつき始める。

 「説明と症状が完全一致してんじゃねえか!」   

 「お前、来た時からずっとそんな感じだったぞ!」


 「うるさい!! それを公式に認定しないでください!!」

 クルスは顔を真っ赤にしてカウンターに突っ伏した。


 受付嬢は顎に手を当て、興味深げに水晶板を見つめる。

 「なるほどね。珍しいわ。スキルって、本人の生き方とか魂の歪みみたいなものが反映されることがあるのよ」

 「最後の言い方ひどくないですか?」

 「つまり」

 サクがにやっと笑い、残酷な真実を告げる。

 「あなた、極限まで我慢しながら生きてきたのね」


 クルスはすっと遠い目になった。

 「……仕事が忙しすぎて、二年間くらい“人間らしい欲”を全部後回しにしてました」

 「うわ、重っ。笑えないやつ来た」

 ゆうこが即答する。


 受付嬢は、少しだけ真面目な顔になった。

 「欲求って、馬鹿にできないのよ。食欲も睡眠欲も、全部“生きるための機能”だから。それをずっと無視して限界まで削った結果、変な方向に才能が咲いたのね」

 「言い方ァ!!」


 しかし、その時だった。水晶板が再びふわりと光り、新しい表示が浮かび上がる。


 【派生適性:労働耐性/異常持久/回復促進/危機的空腹感知】

 サクの目がきらりと光った。

 「ちょっと待って。これ、普通に便利じゃない?」

 「どこがですか!?」

 「“危機的空腹感知”って、肉探しに向いてるじゃない」

 「用途が雑すぎる!!」


 クルスの悲鳴がまだ尾を引いている中、サクは満足げにぱちんと指を鳴らした。


 「よし、次」

 「次って何が」


 ゆうこが嫌な予感しかしない顔で、深く眉をひそめた。




挿絵(By みてみん)

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


ギルド登録、無事(?)完了しました。


そして問題のスキル鑑定。


《ポコちん》


――作者も二度見しました。


ただし中身は意外と真面目で、

「我慢しすぎた結果、変な方向に覚醒した力」でした。


・働きすぎ

・欲を抑えすぎ

・限界まで耐えすぎ


そのツケが、スキルとして爆発する。


そう考えると、ちょっとだけ怖い話でもあります。


……名前は最悪ですが。


そして新たに発覚した

「危機的空腹感知」という、完全に今回の目的に噛み合った能力。


これはもう――


肉を狩れということです。


次回、いよいよ実戦(?)。


「スキル名ひどすぎる」

「でも効果は強い」

「クルスの人生が一番しんどい」


と思った方は、


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▶★★★★★評価


で応援していただけると嬉しいです!


あなたの一押しが、クルスのスキル名を上書きする奇跡を起こす……かもしれません。


感想も大歓迎です。

なお、スキル名の変更予定は今のところありません。

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