27話 あなたは
なにかがズレているんじゃなくて、足りないのかもしれない。
そう思い直し、年表を再度確かめてみる。
規則性、偶数、奇数。
六文字と七文字。
足りないピースは、なんだ?
ノートを睨みつけている僕に、先輩が近づいていた。
今となれば、なんて呼べばいいのか分からない。
「もうすぐだよ。足りないピースが分かれば、君なら解けるよ」
頭の中を覗かれたみたいで、気分が悪かった。
言葉に詰まったのは、彼女の正体が分からないのもある。
彼女は琴音ではなく、静香なのか、それすら疑問に思えてきた。
そこであることを思い出した。
無意識に数える癖が役に立つなんて。
「そうだ! 全員が偶数だ」
この世界で、僕が出会って会話した人。
その全員が、名前の文字数が偶数なんだ。
おそらく僕に直接関わった人に絞れるはずだ。
だから、転校して半年のクラスメイトは省いていい。
まずは、部屋を掃除に来ていたスタッフ、望月紗英さん。彼女が首から下げていた社員証で確認した。
そして、生活指導の先生。斎藤桜子。
あと、定食屋のばあちゃん。笠井ばあちゃんと僕は呼んでいる。
そして、朽木琴音、朽木静香。
違うのはやっぱり、僕と朝霧めぐみ。
「ちょっと待てよ……」
それだとおかしい。
僕の推理だと。
うつむいて考える。
そんなはずはない。
「う、うそだ……」
「あらあら、もう気づいちゃった? 流石だね、私が見込んだだけはあるわ」
先輩は、メガネをクイッと指で押し上げると、僕の顔を上から覗き込んできた。
目の奥は、深淵のように深い。
「もう少し遊べると思ったけど。時間みたいだし」
「時間? ど、どういうことですか?」
「うん」
先輩はドアを開けて、「行こう」と言う。
振り返る横顔に、透き通るような微笑が静かに宿っていた。
しかし、今はそれを見てもなにも思わなかった。
なにか得体の知れないものに、付き従う、そんなイメージが頭の中に浮かぶ。
玄関を出て、横目で庭先を見る。
やっぱりおかしかった。
冬なのに、芝生は青く、そこだけが止まっているみたいだった。
誰かの背姿を見て歩く。
昨日までの安心感はもうない。
しかも、どこに行くかはだいたい想像はついていた。
歩いて数分。
冬空を背景に佇む校舎は、モノクロの写真のように古びて見えた。
旧校舎。
なぜここなのか。
僕は少し考えた。
図書館もどきの教室。
飾られる絵。
時間が来れば、訪れる先生。
点と線が繋がりそうで、やっぱりピースが足りない。
ムズムズするこの感覚。
不規則を見つけたときに生まれる、僕の感覚に似ていた。
考えているうちに、教室に入っていた。
見慣れた教室。
音楽室にある、肖像画のように並べられたイラストたち。
「さて。もうすぐ時間だから、君には最後に手伝って欲しい」
先輩はそう言って、僕に手を伸ばした。
「その前に、ちょっと待ってください」
僕は手をきつく握り、拒否した。
「ん? 時間ないんだけど。まあ、いいわ。なに?」
腹に力を込めて、声を絞り出した。
「僕が間違えていました。あなたは琴音でも静香さんでもない」
「うん。それで?」
僕は息を吸った。
「あなたは……」
そう言った僕の耳に足音が聞こえてきた。
生活指導の先生だろう。
「ほら、早くしないと、来ちゃうわよ?」
口角を歪にあげて、先輩は嬉しそうな目を僕に向けた。




