26話 静香さん?
「空白の人の名前が六文字なのはわかったわ。それで?」
先輩は僕を見て言った。
確かにそう。空白の人が六文字ってだけだ。
でも、違うんです。
「ここから先は、先輩に聞かなくてはいけません」
僕は崩していた足を、正座にして朽木先輩を正面から見た。
「2026年。来年は僕です。そして、僕の嫌いな奇数」
「え、どういうこと? 2026年は偶数よね?」
「僕の名前、相沢太郎は七文字です」
「あ、そういうことか」
先輩は僕を見て頷いた。
「それで、聞きたいことって?」
「はい」
僕は一拍置いてから、話し始めた。
「先輩は六文字、朽木琴音。お姉ちゃんも朽木静香で六文字。二人とも偶数です。だから、さっきの表とは別の見方が必要で」
1990年代
2000年代 2002 加藤健太 2006 木村朱里
2010年代 2012 前川結衣 2016 山田紗倉
2020年代 2022 朝霧めぐみ 2026 相沢太郎
「こうすると、僕と朝霧めぐみさんの二人だけが、七文字です」
「うん。そうなるね」
「僕の絵は来年だからまだない。だから空白なのはわかります。でも、先輩。どうして朽木静香、お姉ちゃんも空白なのか」
先輩の目が一瞬だけ止まった。
僕は膝の上で拳を握りしめる。
「先輩。お姉ちゃんが描いた絵を見ましたか?」
「ん、それってどういう意味?」
メガネの奥が鋭くなった。
「2023年と2024年の絵は、図書室にありました。空白じゃなかった。だったら先輩。2023年の静香さんの絵と、2024年の先輩の絵。どうして僕に言ってくれなかったです?」
「それは……」
「先輩がくれた紙の一覧には、ちゃんと名前がありました。おかしくないですか?」
先輩の目線が一瞬だけズレた。
もう間違いない。
「先輩って、もしかして琴音じゃなくて静香さんじゃないんですか?」
最初は、二人で僕を巻き込んだのかと思った。
でも違う。
お姉ちゃん――静香さんが、琴音の振りをしている。
その理由は分からないけど、亡くした妹の代わりに、終わらせようとした。
僕にわざとヒントを与えて。
「ふーん。君は私のことをそう見てたんだ」
「えっ」
先輩は、ふっと笑って立ち上がった。
女の子らしいピンクのカーテンをすっと開けて、遠くを見る。
「やっぱり、君を選んで正解だった」
「どういう意味ですか?」
「君は、気づける人だから」
彼女は窓枠に体を寄せて、メガネをすっと持ち上げる。
なにかがおかしい。
僕の推理は当たっているはずだ。
なのに、先輩はまったく動揺していない。
僕は、なにかを見落としている?
彼女は窓の外を見たまま言った。
「ねえ。今、爪切りって持ってる?」
なにが言いたい?
「持ってません。家にあります」
「そっか。まあ、良いけど。君、この世界をどう思う?」
その落ち着き払った態度に、僕は考えた。
彼女はなにかを隠している。
僕はもう一度、自分の書いた年表を見た。
その空白を埋めようとして、思考は空回りしていた。




