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渋谷ダンジョン事変。レベル130で帰還した元中間管理職、無能なギルドを『デバッグ』して現代社会を経営する 〜女子高生の弁当は経費で落とし、不良はOJTで精鋭騎士団へ〜  作者: トール
第一章:統制者の創業と、渋谷ダンジョンのデフラグメンテーション

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第029話:混合チームの「不協和音」と、現場に降臨する「コンサルタント」

 


 四月十八日、木曜日。合同演習、第2日。

 本日のアジェンダは、学校の垣根を超えた「混合チーム(アライアンス)」によるダンジョン踏破シミュレーションである。


 ギルド側の狙いは明確だ。個人の武力ではなく、未知のメンバーとの連携能力、すなわち「組織適応力」を定量化すること。だが、三十二歳の管理職精神を持つ佐藤通にとって、これは「急造のプロジェクトチームによる、納期ゴールの不確かな外注案件」に他ならなかった。


「――チーム編成を発表する。第7班。……帝都探索者学院、一ノ瀬。代々木学園、佐藤通。以上、三名だ」


 管理官の呼び出しに、通は事務的に歩み出た。

 隣に並んだのは、都内屈指のエリート校・帝都探索者学院の制服を着た少年、一ノ瀬だった。彼は不機嫌そうに鼻を鳴らし、通の『アビス・カーボン』の制服を値踏みするように睨みつける。


「……フン、代々木の『亡霊候補』か。昨日の計測では随分と派手な『演出』をしていたようだが。実戦は数値だけじゃない。……足だけは引っ張るなよ」


(個体名:一ノ瀬。……推定レベル:24。……心理プロファイル:『選民意識』および『過剰な自己評価』によるデバフ。……結論:マネジメントコストの極めて高い、典型的な『扱いにくいエリート』です)


 通はモノクルのフレームを直し、一ノ瀬の挑発を「ノイズ」として処理した。

「……了解した。君の能力スペックについては、昨日のベンチマークで監査済みだ。……俺は俺の『役割ロール』を完遂する。以上だ」


 演習の舞台は、代々木公園の位相空間に構築された「Cランク:迷宮都市・レプリカ」。

 日曜日に通が特Aランクを完全にデバッグした影響で、大気中のマナは驚くほど澄んでいる。しかし、そのクリーンな環境に耐えうる、生命力の強いCランクやDランクの「在庫」たちは、依然として迷宮の各所に配置されていた。


 第7班が足を踏み入れたのは、崩壊したビル群が連なる「市街地エリア」だ。


「――接敵。……前方15メートル、瓦礫の影。……個体名:『アーマード・ストライカー』。Cランク、単一」


 通がモノクル越しに事務的に報告する。だが、一ノ瀬は通の助言を聞く前に、自慢の魔導大剣を抜き放ち、地を蹴った。


「指示されるまでもない! 露払いは俺がやる! ……見ていろ、本物の『格』を!」


 一ノ瀬が大剣を振り下ろす。だが、重装甲を誇る魔物はその一撃を肩の甲殻で受け流し、鋭いカウンターを繰り出した。


「ぐ、おっ……!? こいつ、昨日までのデータより出力が高い……!」


(解析。……原因:渋谷エリアの特Aランク消失により、環境マナが低ランク個体に再分配リロケーションされています。……個体ごとのバフ:15〜20%向上。……一ノ瀬の演算ミスにより、戦線維持キャッシュフローが滞っています)


 通は動かない。ただ、後方でモノクルの度数を【戦闘コンサルティング・モード】へ切り替えた。


「……一ノ瀬くん。三合目の踏み込み、左重心に3度修正しろ。……魔力の充填は『面』ではなく『点』で行え。……今のままでは、君の『期待値』を下回る成果しか出せない」


「うるさい! 指図するな!!」


 一ノ瀬が焦り、魔力を暴発させる。魔物の爪が、彼の防具を切り裂こうとしたその瞬間――。


「――業務、介入インターベンション


 通の声が、氷点下の冷たさで響いた。

 一ノ瀬の視界から、通の姿が消える。

 次の瞬間、魔物の巨体の「支点」となる関節部に、通の右手が軽く添えられた。


 ただ、触れただけ。

 だが、レベル131の質量が一瞬だけ一点に集中し、物理現象を「強制終了シャットダウン」させた。


「……えっ?」


 一ノ瀬の目の前で、Cランクの巨体がバキバキという異音を立て、自重に耐えかねたように崩れ落ちた。

 通は魔物のコアを指先で弾き飛ばすと、それを空中にあるインベントリへ吸い込ませる。


「……一ノ瀬くん。君の今の戦闘、魔力のロスが22%。……修繕コスト(防具の破損)を考えれば、この戦闘は『赤字』だ。……次からは俺の提示する『仕様書(指示)』に従え。……それが、このチームの利益を最大化する唯一の手段だ」


 一ノ瀬は、あまりの「格の差」に言葉を失い、震える手で大剣を握り直した。

 彼に見えたのは、通の圧倒的な暴力ではない。

 自分の命運すらも「事務的なコスト計算」の中に組み込まれているという、底知れない「管理者の眼差し」だった。


 その頃、演習場の他エリアでは。

 クラン『レギュレーター』の実行部隊たちが、それぞれ混合チームの「リーダー」として、他校の生徒たちを驚愕させていた。


「おい、代々木の奴ら、何なんだよ!?」

「Dランクの群れを相手に、一度も息を切らしてないぞ! ……それどころか、俺たちにまで『効率的な立ち回り』をレクチャーしてやがる!」


 阿部大輝は、他校の生徒たちを背後に従え、魔力反応警棒を悠然と振るっていた。

「いいか! ボスの教えは絶対だ! ……呼吸を同期シンクロさせろ! 敵の動きは『バグ』に過ぎない! ……デバッグ、開始!!」


 彼らはもはや、指示を待つだけのヒラ社員ではない。

 トールの「地獄のOJT」を経て、現場を統括する「中間管理職」としての自覚を身につけていたのだ。


 さらに、その後方。

 三木怜みき・れい率いる『サポーターズ・プレミアム』の少女たちが、迷宮の入り口に設置された「野外オフィス」から、全チームのバイタルデータをリアルタイムで監査していた。


「ボス、状況報告ステータス・レポートです」

 怜の声が、通の耳元のデバイスに響く。

「全15チーム中、レギュレーターのメンバーが所属する全ユニットにおいて、目標進捗率(KPI)を40%上回るペースで踏破中。……他校の支持層からの『引き抜き(スカウト)』に関する問い合わせも、既に数件届いています」


「……三木部長。順調だな。……混合チームによる混乱フリクションを、むしろ『支配』の足掛かりにしろ。……今のうちに、他校の有望なアセット(生徒)たちのデータを抜いておけ」


「了解、ボス。……あなたの隣に立つための『資本データ』、完璧に集めてみせるわ」


 怜の瞳に宿る、同志としての熱量。

 トールはモノクルを指先で叩き、迷宮の最深部――本日の最終チェックポイントを見据えた。


 一時間後。

 第7班は、どのチームよりも早く、市街地エリアのボスルームへと到達した。

 そこには、Cランク上位の魔物『アイアン・ゴーレム』が三体、門番のように立ち塞がっている。


 一ノ瀬は、既にプライドをへし折られ、通の三歩後ろに控えていた。

「……佐藤。……指示をくれ。……俺は、どう動けばいい?」


 通は、初めて一ノ瀬の方を向かずに、微かに口角を上げた。

「……よろしい。……その『聞く耳』こそが、組織人としての第一歩だ。……一ノ瀬くん。君はあそこの瓦礫の山を確保し、魔物の視線を『リダイレクト(誘導)』しろ。……トドメは俺が刺す」


「……わかった!」


 エリートとしての自意識を捨て、システムの一部となることを選んだ一ノ瀬。

 その「最適化」を見届けた後、通は一歩踏み出した。


(解析。……アイアン・ゴーレム。……物理防御力:最大。……魔法耐性:高。……しかし、首の接合部における魔力回路の『同期エラー』を確認)


「――定時退社フィニッシュだ。……諸君、お疲れ様」


 通の指先から、一筋の銀色の雷光が放たれた。

 それは爆発を起こすことも、轟音を立てることもない。

 ただ、三体のゴーレムを繋ぐ「因果の糸」を事務的に切り裂く、冷徹な『監査の刃』。


 ドォォォン……!

 一瞬の静寂の後、鋼鉄の巨体が砂のように崩れ落ち、演習場全体に「第7班、クリア」のアナウンスが響き渡った。


 モニター越しにその光景を見ていたギルド本部の管理官たちは、冷や汗を流しながら、互いに顔を見合わせた。

「……混合チームの意味がない。……彼がいるだけで、どんな無能なチームも『最強の組織』に書き換えられてしまう……」


 第二日。

 クラン『レギュレーター』は、他校の生徒たちを「圧倒」するだけでなく、彼らを自らのシステムへと「統合」し始めた。

 レベル131の元管理職による「市場の独占マーケット・ドミナンス」は、もはや止められない領域へと加速していく。









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