表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渋谷ダンジョン事変。レベル130で帰還した元中間管理職、無能なギルドを『デバッグ』して現代社会を経営する 〜女子高生の弁当は経費で落とし、不良はOJTで精鋭騎士団へ〜  作者: トール
第一章:統制者の創業と、渋谷ダンジョンのデフラグメンテーション

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/40

第028話:ベンチマークの低すぎる閾値と、効率化された「流れ作業」

 


 四月十七日、水曜日。午前十時。

 代々木公園地下、特設演習場。


「――測定不能エラー? バカな、計器の故障か!?」


 ギルドの測定班が悲鳴を上げた。

 中央の演習エリアでは、他校のエリート生徒たちが、Dランク個体『マッド・サラマンダー』を相手に、数人がかりで必死の連携を見せていた。本来、高校一年生のこの時期、Dランクを無傷で処理できれば「将来のAランク候補」とまで称賛される。


 だが、演習場の一角。

 クラン『レギュレーター』に割り振られた「検品ライン(演習エリア)」だけは、他とは流れる時間の密度が違っていた。


「……阿部。……次だ。……納期の短縮を意識しろ」


 トールは演習エリアの境界線に立ち、ストップウォッチを片手に事務的に告げた。

 左目のモノクルは【工程管理モード】。

 視界には、これからゲートから放出される魔物のリスポーン・タイミングが、秒単位のカウントダウンとして表示されている。


「はっ! ……レギュレーター実行部隊、一から三班、定位置ポジション! ……来るぞ!」


 阿部の号令と共に、五人一組の三つのユニットが、一糸乱れぬ動きで散開した。

 ゲートが開き、三体の『マッド・サラマンダー』が咆哮と共に飛び出す。

 Dランク。

 一般の学生から見れば、その熱い粘液は防具を溶かし、一撃でも掠めれば重傷を負う「脅威」だ。


 しかし。


「――左翼、衝撃吸収。……右翼、魔力回路切断。……センター、コアへのダイレクト・アクセス。……はじめ」


 トールの指示が飛ぶ。

 少年たちは、アビス・カーボンの漆黒を翻し、踊るように魔物の懐へと潜り込んだ。

 一人が警棒でサラマンダーの顎を弾き飛ばし、その隙間に二人が交差して魔力を流し込む。

「……チェック。……デバッグ完了」

 阿部が最後の一撃を警棒の先端で「置く」ように叩き込むと、魔物は断末魔すら上げられず、物理法則に則って「事務的に」霧散した。


 放出から、わずか八秒。


「……なに、今の? 戦闘じゃない……まるで、工場のライン作業を見てるみたいだ……」

 観客席の他校生徒が、戦慄と共に呟いた。


(解析。……Dランク個体:『マッド・サラマンダー』。……レギュレーターの現在値(平均レベル13)に対し、オーバーペック気味の『過剰品質』な処理です。……メンバーへの負荷:15%。……結論:演習素材としての価値が低すぎます)


 モノクルのログを確認し、トールは小さく息を吐いた。

「……阿部くん。今の工程、魔力のロスが0.3%多い。……Dランク程度に全力フルパワーを出すな。……低単価な仕事ほど、リソースを節約するのがプロの管理職だ」


「はっ!……申し訳ありません! 次工程では『省エネ・モード』を徹底します!」


 阿部たちが整列し、再び次の「在庫」を待つ。

 その背後では、三木怜率いる『サポーターズ・プレミアム』が、タブレットを手に冷徹な「品質管理」を行っていた。


「三号機、今の殲滅シーンのフレームレート、120fpsで固定完了。……工藤副部長、メンバーの水分保持率ハイドレーションの推移はどう?」

 怜が鋭い眼差しでモニターを睨む。


「全員グリーン。……佐藤くんのレギュレーション通りよ。……この程度の運動量なら、有栖さんの弁当を食べるまでもなく、サプリメントの補充だけで『営業継続』可能だわ」

 遥が、成分配合された飲料ボトルを次々と準備していく。


 その光景は、もはや「学生の演習」ではなかった。

 それは、圧倒的な「経営資源(武力)」と「管理能力」を背景にした、新興クランによる圧倒的な市場介入のデモンストレーション。


 一方、本部テント。

 ギルド本部の管理官たちは、モニターに映し出される「レギュレーター」の異常な数値に、額の汗を拭うのも忘れていた。


「……佐藤通。……彼は、特Aランクがいないことを知っていて、あえてDランクを『流れ作業』にしているのか?」

「……いや。……彼にとっては、特AもDランクも、等しく『処理すべきタスク』に過ぎないんだ……」


 管理官の予感は正しかった。

 トールにとって、この合同演習は「勝つための場」ではない。

 クラン『レギュレーター』の「作業効率」と「納品精度」を、世界のマーケットに知らしめるための、ただの『定期監査』に過ぎないのだ。


「……さて。……三木部長。……サポーターズの撮影は順調か」


 トールが歩み寄ると、怜は一瞬だけ少女の顔に戻り、だがすぐに「広報兵站部長」の凛とした表情を再構築した。


「完璧よ、ボス。……今、SNSでは『沈黙の騎士団の工場見学』ってタグが爆速で伸びてるわ。……他校の『泥臭い戦い』との対比コントラストが、最高に私たちの価値を吊り上げている」


「……よろしい。……阿部、聞こえるか。……ギルド側が、我々の速度に追いつけず、在庫(魔物)の補充が遅れているようだ。……空いた時間は『自主トレ(残業)』に充てろ。……ただし、アビス・カーボンに皺一つ寄せるな」


「「「はいっ!! ボス!!」」」


 十五人の騎士たちが、一糸乱れぬ動きで素振りを開始する。

 他校の生徒たちが死に物狂いでDランクと戦う中、レギュレーターのエリアだけは、静寂と規律、そして冷徹なまでの機能美が支配していた。


 特Aランクがいないのなら、この演習という名の「小規模案件」を、いかに美しく、いかに効率的にクローズさせるか。

 三十二歳の元管理職による「現場の最適化」は、もはや学生という枠組みを完全に買い叩き、ギルドという既得権益の喉元に、静かな「監査」の刃を突きつけていた。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ