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渋谷ダンジョン事変。レベル130で帰還した元中間管理職、無能なギルドを『デバッグ』して現代社会を経営する 〜女子高生の弁当は経費で落とし、不良はOJTで精鋭騎士団へ〜  作者: トール
第一章:統制者の創業と、渋谷ダンジョンのデフラグメンテーション

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第025話:『レギュレーター』の市場介入と、圧倒的なベンチマーク

 


 四月十七日、水曜日。

 渋谷代々木学園高等部における最大規模のプロジェクト、『関東地区探索者養成校・合同演習』がその幕を開けた。


 演習日程は、ギルド本部によって厳格に「工程管理」されている。


 第1日(本日): 基礎能力監査ベンチマーク


 第2日: 混合チームによるダンジョン踏破シミュレーション。


 第3日: 学校対抗・模擬戦メインイベント


 会場となるのは、代々木公園の地下に建設されたギルド直轄の特設演習場。

 朝八時、会場の入り口には都内有数のエリート校から集まった「若き才能アセット」たちが、最新の装備に身を包んで集結していた。


 だが、その華やかな空気の中に、異質な静寂と圧倒的な威圧感を纏った集団が現れた時、周囲のざわめきが物理的に遮断されたかのように止まった。


「――全学校、整列。……『レギュレーター(REGULATOR)』、定位置ポジションへ」


 佐藤通トールの声が、冷徹に響く。

 先ほどまで「佐藤組」と呼ばれていた集団は、昨夜のローンチ宣言を経て、今や世界が注視する新興クランへと脱皮していた。


 先頭を歩くのは、漆黒の新型制服『アビス・カーボン』を完璧に着こなした阿部大輝ら十五名。月曜日のC級ダンジョン踏破という「成功体験」を得た彼らの瞳には、もはや他校の生徒に対する劣等感など微塵もない。彼らにあるのは、絶対的なCEOであるトールの描くビジョンを完遂するという、プロフェッショナルとしての自負のみだ。


(個体名:レギュレーター実行部隊。……コンディション:極めて良好。……周辺校とのレベル格差:平均4.2。……市場独占マーケット・ドミナンスの準備は完了しています)


「おい、見ろよ。あれがSNSでバズってる『沈黙の騎士団サイレント・オーダー』か?」

「あのボスのモノクル、本物だ……。威圧感が半端ねぇ……」


 他校の生徒たちが気圧される中、彼らの背後から、完璧に統制された「バックオフィス」が動き出した。


「はい、道を開けてください。これより『レギュレーター』専属兵站支援を開始します」


 広報兵站部長・三木の凛とした声が響く。

 彼女が率いるのは、会員制組織『S.G.サポーターズ・プレミアム』の少女たち。彼女たちは、三木のディレクションにより、佐藤組の漆黒に合わせたモノトーンの腕章と、機能美溢れるタクティカルポーチを装備し、まるでエリート企業の運営スタッフのような洗練された動きで阿部たちの装備チェックと飲料補給を行っていた。


 三木は通の隣に並び、タブレットの画面を提示した。


「ボス。現在のトレンドシェア、演習開始前にも関わらず『レギュレーター』が80%を独占モノポリーしているわ。華乃ちゃんからの速報によると、他校の支持層も急速にこちらへ流入マイグレーションしているとのことよ」


「……三木部長。事前の広報(PR)は120点だ。……あとは、プロダクトの質を見せつけるだけだな」


 通はモノクルの度数を調整し、ステージ上のギルド管理官を監査した。

 管理官の顔は、昨夜のバズと、今目の前にある「学生の枠を越えた組織」の出現に、明らかに動揺を隠せていない。


「阿部。……スポーツ飲料の配合比、0.5%ずれているぞ。三木部長に修正を依頼しろ。……一滴の狂いが、午後のパフォーマンス(利益)を左右する」


「はっ! 直ちに! 三木部長、補給レギュレーションの再調整をお願いします!」


「了解。……サポーターズ、二号案へ移行シフトして!」


 その完璧な連携――フロントからバックオフィスまで一貫した「管理の美学」は、もはや部活動の演習ではない。それは、旧態依然とした探索者業界の既得権益ギルドを、新しいルールで「再定義リデザイン」しようとする怪物の進軍だった。


 一方、その光景を少し離れた場所から見守る神崎有栖の手には、通のために用意した特別な「メイン・ベンダー専用」の弁当袋が握られていた。

 三木が「組織」を支えるなら、自分はトールの「個人」を支える。

 有栖の瞳には、三木のプロフェッショナルな姿への微かな対抗心と、それ以上に深い、通への献身の光が宿っていた。


(三木さんがあなたの『盾』になるなら……私はあなたの『安らぎ(リターン)』になる。……誰にも負けないくらい完璧に)


 その時、演習場のゲートが開き、スピーカーから重厚なアナウンスが流れた。


「これより、第一工程『基礎能力評価ベンチマーク』を開始する! ……第一校、渋谷代々木学園! クラン『レギュレーター』、佐藤通! 前へ!!」


 通は、モノクルの度数を【戦闘監査・フル出力】へ切り替えた。

 レベル131という、この世界の測定器を破壊しかねない暴力的な数値を、彼は「管理」された状態で解放し始める。


「……さて。……諸君。……市場の期待値ハードルを超え、圧倒的なブランド価値バリューを証明するとしようか」


 通が一歩踏み出した瞬間、佐藤組の十五名が拳を突き上げ、三木率いるサポーターズが完璧に統制された拍手を送る。


 月曜の早朝訓練。日曜夜の残業。火曜の命名特命事項。

 全ての「仕込み」は終わった。

 レベル131の元管理職による、現代探索者業界への『敵対的買収』が、今ここに本格稼働を開始した。


 第025話:完









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