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渋谷ダンジョン事変。レベル130で帰還した元中間管理職、無能なギルドを『デバッグ』して現代社会を経営する 〜女子高生の弁当は経費で落とし、不良はOJTで精鋭騎士団へ〜  作者: トール
第一章:統制者の創業と、渋谷ダンジョンのデフラグメンテーション

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第024.7話:黎明のポストモーテムと、拡散される「聖域」

 


 四月十六日、火曜日。午前四時十五分。

 新宿中央公園の空気は、冷たく澄み渡っていた。

 まだ街が眠りの中にまどろんでいる時間帯。だが、公園の一角にある広場だけは、異界から切り取られたような「規律」と「熱量」に満たされている。


「――整列。……点呼アテンダンスを開始しろ」


 通の静かな声が、朝霧を震わせた。

 漆黒の制服『アビス・カーボン』を纏った十五名の少年たちが、一音の狂いもなく直立不動の姿勢をとる。その中心に立つ阿部大輝の瞳には、もはや昨日までの浮ついた喜びはない。


 彼らは知っていた。

 昨夜、自分たちが踊るように魔物を屠ったあの映像――『沈黙の騎士団サイレント・オーダー』が、世界を文字通り「ハック」したことを。


「……阿部くん。昨日の世間の反応は、既に共有済みだな」


 通はモノクルの設定を【ソーシャル・トラフィック監視】から【内部監査モード】へ切り替えた。


「お前たちはもはや、ただの学生ではない。全世界というマーケットからの注視対象ウォッチリストだ。……これからは、一挙手一投足が『佐藤組』というブランドの株価に直結すると思え。……誇りと自信、そして何より『管理された自意識』をもって行動してくれ」


「「「はいっ!! ボス!!」」」


 十五人の咆哮。

 それは、昨日の放課後にCクラスダンジョン『深緑の廃墟』で実際に魔物と対峙し、その恐怖を克服して勝利を掴み取ったという、本物の自信に裏打ちされた響きだった。かつての虚勢だけの叫びとは明らかに異なる、実戦経験という名の「資本」を積み上げた者だけが放てる、重く鋭い音。


 その声が広場を支配した瞬間、公園の茂みや街灯の陰で、小さな「ノイズ」が走った。


(解析。……周辺に不法侵入者(ファンおよび非公認パパラッチ)を計三十四名確認。……デバイス:最新型スマートフォン。……通信プロトコル:5G。……リアルタイム配信が実行されています)


 モノクルが警告を出すが、通はそれを無視した。

「ノイズ」は時に「最強の広告」となる。通は三木部長に視線で合図を送った。


 広場の外周では、三木率いる『S.G.サポーターズ』が、完璧に統制されたフォーメーションで「立ち入り禁止区域キープアウト」を形成していた。彼女たちは「私服の警備員」のような冷徹さで、スマホを構える見物人たちを事務的に整理している。


「……さて。訓示は終わりだ。……まずは、昨日の反省点ポストモーテムからだ。はじめ!」


 通が右手を上げると、広場の中央に昨日の戦闘シーンがホログラムとして投影された。


「阿部。……三合目の踏み込み、コンマ五秒遅い。……その遅延が、騎士団全体の『シンクロ率』を3%低下させた。……原因は?」


「はっ!……新型制服の魔力吸収率に対し、出力の調整が甘くなっていました!……次工程までにデバッグ(修正)します!」


「……よろしい。他十四名も同様だ。……映像では『ダンスユニット』のように見えたかもしれないが、俺の目には『未完成のベータ版』にしか見えない。……合同演習までに、このバグを全て潰す」


 通が指を鳴らした瞬間、阿部たちの足元の重力が再び「管理」された。

 十倍重力。

 少年たちの膝がガクリと折れそうになるが、誰一人として地面に手をつく者はいない。彼らは「全世界が見ている」という、これ以上ない強力なインセンティブに突き動かされていた。


 その様子を、茂みの陰から震える手で撮影していた一人の男子学生がいた。

 彼は他校の探索者養成校に通う生徒で、昨夜の動画を見て「ヤラセに決まっている」と疑い、始発前の自転車でここへ駆けつけたのだ。


 だが、スマホの画面越しに見える光景は、想像を絶していた。


「……おい、マジかよ。……あんな重そうな動きなのに、一人一人の残像が重なってる……」


 彼は無意識にリポスト(拡散)ボタンを叩いた。


【緊急】新宿中央公園に『沈黙の騎士団』降臨なう。……動画の何倍もヤバい。ボスの威圧感でスマホのレンズが割れそう。 #SilentOrder #渋谷の亡霊 #佐藤組


 その投稿を皮切りに、SNSという名の第二の戦場が再び爆発した。


『待って、今の生中継? 早朝四時にあの訓練強度!?』

『阿部くんの顔つきが、昨日と全然違う。……まるで戦場から帰ってきたばかりの傭兵だ』

『背後のボスの指先が動くたびに、空気が爆ぜてるんだけど。……あれ、魔法演算? それとも神の所業?』


 世界中のフォロワーたちが、リアルタイムで佐藤組の「血の滲むようなOJT」を観測し、熱狂していく。


 午前六時。

「――定時だ。……本日の朝会、終了タスク・クローズ


 通が声をかけると、重力から解放された少年たちが、汗だくになりながらも、一糸乱れぬ動きで整列し直した。


 三木が、保冷バックを抱えてトールの隣に並ぶ。

「ボス、お疲れ様。……今の訓練の様子、世界トレンド一位に返り咲いたわよ。……『ブランドの神格化』は予定より12時間早く推移しているわ」


「……三木部長。……サポーターズの労務管理はどうだ?」


「完璧よ。……撮影を許可した範囲(画角)以外の情報は一切漏洩させていないわ。……有栖さんからも、ボスの朝食の仕込み完了の連絡が入ってる」


 通はモノクルの度数を戻し、昇り始めた朝陽を見据えた。

 公園の出口付近には、昨日の比ではない数のファンや記者が集まっている。だが、佐藤組の少年たちの背中には、もはや「見られている」ことへの怯えは微塵もない。


「……阿部。……自信をもて。……俺たちの組織は、もはやこの国の既得権益ギルドすら無視できない巨大なアセットになった」


「はっ!……この命、ボスの描くビジョンのために使い切ります!!」


 少年たちの規律ある行進が、朝の新宿を闊歩する。

 スマホを向ける群衆の中を、彼らはただ事務的に、しかし圧倒的な王者の風格をもって通り過ぎていた。


 火曜日の朝。

 学園という名の「現場」に向かう佐藤組の姿は、昨夜の動画よりもさらに鮮烈に、そして残酷なまでの「格の差」として、全世界の網膜に焼き付けられていった。


 第024.7話:完









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