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渋谷ダンジョン事変。レベル130で帰還した元中間管理職、無能なギルドを『デバッグ』して現代社会を経営する 〜女子高生の弁当は経費で落とし、不良はOJTで精鋭騎士団へ〜  作者: トール
第一章:統制者の創業と、渋谷ダンジョンのデフラグメンテーション

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第024.5話:『沈黙の騎士団』のパブリッシングと、急騰する「佐藤ブランド」

 


 四月十五日、月曜日。午後十一時。

 日付が変わる直前、世界中の探索者マニアや流行に敏感な若者たちのスマホが、一斉に震えた。


 発信源は、正体不明の『渋谷の亡霊』のアーカイブを独占公開し続けている謎のアカウント『Deep_Shibuya_Archive』。

 だが、今回アップロードされたのは、これまでのような「亡霊による蹂躙」の記録ではなかった。


 タイトル:『Silent Order - 沈黙の騎士団』


「――パブリッシュ(公開)、完了だよ、お兄ちゃん」


 佐藤家のリビング。華乃が満足げにキーを叩いた。

 傍らには、広報兵站部長として招かれた三木が、冷めたコーヒーを片手に鋭い眼差しでモニターを凝視している。


「……三木部長。この動画の『リード文』、あえて英語表記のみにしたのは正解だったわね。……今、最初のアクセスが北米のサーバーから来ているわ」


「当然だ。……情報のプレミアム価値を維持するには、国内のローカルな話題に留めてはならない。……世界というマーケットに、佐藤組プロダクトを投げ込むんだ」


 通はソファで腕を組み、左目のモノクルを『リアルタイム・トラフィック監視モード』で起動させていた。


 動画は、深い霧に包まれた『深緑の廃墟』から始まる。

 そこには、十五人の少年たちが漆黒の制服『アビス・カーボン』を纏い、月光を反射させながら静止していた。


 次の瞬間、低重音のビートが刻まれる。

 音楽に合わせて、少年たちが動く。それは戦闘という名の、洗練された「集団演舞ダンス」だった。


 狼の群れが襲いかかる。

 だが、先頭の阿部大輝が、一音の狂いもなく魔力反応警棒を抜き放つ。青い光の残像が、カメラのフレームを美しく切り裂く。

 一人が受け、二人が回り込み、三人が仕留める。

 十五人がまるで一つの生命体のように、リズムに乗って死を振り撒いていく。


 演出の極みは、その背後に立つ「影」だ。

 顔を映さない通が、ただ一歩、無造作に踏み出す。その瞬間に空間が歪み、狼たちがひれ伏す。

 その絶対的な「王」の背中に向かって、十五人の騎士たちが同時に膝をつき、完璧なシンクロ率でこうべを垂れるシーンで、映像は暗転した。


 最後に浮かび上がる一文。

『Are you qualified to follow?(君には、従う資格があるか?)』


「……っ、うわあああああッ!! 数字が、数字が爆速すぎて読めないよ!!」


 公開からわずか五分。華乃が叫んだ。

 再生数は既に百万を突破し、コメント欄は怒涛の勢いで埋め尽くされていく。


(解析。……ポジティブ反応:98.2%。……主な需要:『佐藤組への加入希望』および『ファンクラブの設立要求』。……市場価値の再定義、大成功です)


 通はモノクルの度数を微調整し、情報の奔流を選別した。

「……さて。……三木部長。想定通りの『バグ(過剰反応)』が発生しているな。……君の言う『広報次第で化ける』という仮説は証明された」


「まだこれからよ、ボス。……見て、この問い合わせの山」


 三木がタブレットを回してくる。

 そこには、二つの巨大な「需要の渦」が生まれていた。


 1. 「人材アセット」としての熱望:佐藤組加入希望層


「あの制服を着て、あの列に加わりたい」という、主に男子生徒や若手探索者からの悲鳴のような懇願。

 かつて阿部たちを「ただの不良」とバカにしていた他校の連中すらも、映像に映し出された圧倒的な「機能美」と「強さ」に、魂を買い叩かれていた。


『あの動き、人間じゃない。……佐藤通に教われば、俺もあんな風に変われるのか?』

『募集は? 採用枠はないのか!? 学費ならいくらでも払う!』


「……ボランティアで兵士を育てるつもりはないが」通が冷淡に呟く。「だが、優秀な『在庫』を確保しておくのは組織運営の基本だ。……三木部長、適正検査スクリーニング用のフォームを作成しろ。……佐藤組の『インターンシップ制度』の立案だ」


「了解よ。……履歴書だけでなく、魔力波形のログ提出も必須にするわ」


 2. 「信仰ブランド」としての熱狂:ファンクラブ加入希望層


 そして、女子生徒たちを中心とした、もはや「応援」の枠を超えた「信仰」への傾倒。

 阿部たちの洗練された騎士然とした姿に、学園内のカーストは完全に崩壊。佐藤組は今や、都内最大の「アイドルのような戦闘集団」として認知された。


『阿部くん、あんなにかっこよかったっけ!?』

『背後に立ってる「亡霊」様が尊すぎる……。私たちも彼らを支えたい!』

『S.G.サポーターズ、一般募集はいつ!?』


「こっちの『ガバナンス(統治)』は私に任せて」三木が不敵に笑う。「ただのファンを野放しにするのはリスクよ。……佐藤組のブランドを毀損しないよう、既存の広報・兵站部門を、公式なファンクラブ組織として拡大・ブランド化して『S.G.サポーターズ・プレミアム』を立ち上げる。……活動内容は『兵站支援(差し入れ)』と『広報拡散』に限定。……規約レギュレーションに同意できない個体は、即座にデバッグ(除名)するわ」


 通は三木の横顔を見て、微かに口角を上げた。

「……君は本当に、組織の『バックオフィス』として有能だな、三木さん」


「……っ、……べ、別に、あなたの役に立ちたいだけよ。……利益リターンを出すのが私の仕事なんだから」


 三木は顔を赤らめてタブレットに目を落としたが、そのタイピング速度は先ほどよりも数段跳ね上がっていた。


 翌朝、火曜日。

 渋谷代々木学園の校門。


「――お、おい。来たぞ……佐藤組だ」


 登校してくる通の背後には、阿部たち十五名が、昨日以上に誇り高い足取りで従っていた。

 校門の周囲には、他校の制服を着た生徒や、カメラを構えたファンたちが詰めかけている。


 だが、彼らが通たちに触れることはできない。

 通の三歩後ろ。三木率いる『S.G.サポーターズ』の少女たちが、完璧に統制されたフォーメーションで、見物人たちの動線を「事務的に」遮断していたからだ。


「ここから先は『佐藤組』の執務エリアです。……ファンの方はレギュレーション(規約)を読んで、適切な距離を保ってください。……営業妨害ですよ」


 三木さんの凛とした声が、登校風景を「エリート企業の出勤風景」へと書き換えていく。


 通はモノクルを指先で叩き、校舎の向こう側――明日から本格化する『合同演習』の会場を見据えた。


「……さて。……市場の期待値ハードルは十分に上がったな。……明日からの演習、他校の生徒たちには『組織の格差』を、文字通り骨の髄まで理解してもらうとしようか」


 月曜日の夜。

 佐藤組という名のベンチャー企業は、世界中に「爆買い」を誘発するパブリッシングを完了し、文字通り学園の、そして世界の中心へとその椅子を動かし始めた。


 第024.5話:完









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