第24.3話:放課後のフィールドワークと、完成されたダンスユニット
四月十五日、月曜日。午後五時。
放課後の喧騒が残る渋谷代々木学園の裏門に、漆黒の集団が集結していた。
通から支給された新型制服『アビス・カーボン』に身を包んだ佐藤組の十五名。そして、その傍らには、高性能の魔導カメラやスタビライザーを構えた三木ら「広報・兵站部門」の少女たちが並んでいる。
「これより、今週の『合同演習』に向けた最終フィールドワークを開始する。……目的地は代々木公園北側、C級ダンジョン『深緑の廃墟』。……目的は、新装備の最終調整および、広報用素材の収集だ」
通の冷徹な声が響く。左目のモノクルは既に【戦域監査モード】へと切り替わっていた。
「阿部くん。今日のKPI(重要業績評価指標)は『無傷かつ、三木部長の要求する画角を維持した殲滅』だ。……できるか?」
「はっ! ボスの仰せのままに!!」
阿部大輝が、腰の『試作型・魔力反応警棒』を叩きながら不敵に笑う。
その隣で、三木がタブレットを操作し、ドローン型のカメラを起動させた。
「佐藤くん……いいえ、ボス。撮影ライン(香盤表)の共有は完了したわ。……サポーターズ、準備はいい?」
「「「オッケー、三木さん!」」」
女子たちが一斉にカメラのレンズを磨く。彼女たちの瞳にも、単なる「追っかけ」ではない、プロフェッショナルな「同志」としての熱が宿り始めていた。
『深緑の廃墟』。
ここは蔦に覆われた廃ビルが連なる空間で、Cランクの『フォレスト・ウルフ』が群れで生息する、中堅探索者にとっては難所の一つだ。
だが、佐藤組が足を踏み入れた瞬間、そこはダンジョンから「撮影スタジオ」へと変貌した。
「――接敵。……フォーメーション・デルタ。……開始せよ」
通が指を鳴らした瞬間。
漆黒の制服を翻し、十五人の少年たちが爆発的な踏み込みを見せた。
「なにこれ……! すごいじゃない。……まるで十五人のダンスユニットみたい!」
三木の後ろでモニターをチェックしていた少女が、思わず声を上げた。
その動きには、無駄が一切なかった。
レベル131の通が、彼らの筋肉の収縮速度、心拍数、魔力伝導率を逆算し、秒単位で最適化した「死のルーチン」。
一人が狼の牙を警棒で弾けば、その背後から別の二人が交差するように飛び出し、光の刃で首を刈る。
アビス・カーボンの漆黒が、薄暗いダンジョンの中で残像を引き、魔力反応警棒の青い光が、まるでステージのレーザー照明のように空間を切り裂いていく。
「ええ、そうね。……これは広報次第で化けるわね」
三木は、ファインダー越しにその光景を捉え、唇を噛んだ。
かつては「うるさい不良集団」に過ぎなかった阿部たちが、トールの『マネジメント』という魔法をかけられたことで、圧倒的な「機能美」を放つ戦闘集団へと昇華されている。
阿部がセンターで狼の群れを挑発し、他の十四名がシンクロした動きで周囲を掃討する姿は、規律と野生が高度に融合した、冷徹な芸術作品だった。
「――三木部長。……三時方向、狼の増援だ。……『亡霊の威圧』を演出として利用しろ。……シャッターチャンスだ」
通が静かに告げると、彼から放たれた極小の魔圧が、森の奥から現れた狼たちをその場に硬直させた。
それは狼たちにとっての絶望だが、三木にとっては「最高のライティング(照明条件)」だった。
「腕が鳴るわっ! ……三号機、仰角を下げて! アングルのパースをもっと強調して! 彼らの『格』を世界に知らしめるのよ!」
三木の指示が飛び、サポーターズの少女たちが俊敏に動く。
トールが「暴力」を管理し、三木が「美」を管理する。
佐藤家という組織の「製造」と「広報」が、初めてダンジョンの現場で完璧なシナジーを生み出していた。
ドォォォォン……!
阿部が魔力を込めた警棒を地面に叩きつけ、衝撃波で最後の狼を粉砕した。
舞い散る火の粉と、漆黒の制服。
十五人の少年たちが、トールに向かって同時に膝をつき、警棒を鞘に収める。その「ガチャッ」という金属音すらも、一音の狂いもなく重なった。
(鑑定。……佐藤組、基礎練度:目標値の112%に到達。……新型制服の耐久試験:A判定。……補足:周辺女子生徒の『狂信度』が臨界点を突破しました)
モノクルのログを確認し、通は小さく頷いた。
「……三木さん。素材の質はどうだ?」
三木は撮影したばかりの映像をプレビューし、トールに不敵な笑みを向けて見せた。
「120点よ。……今夜、これを華乃ちゃんと連携してSNSに流すわ。……タイトルは『沈黙の騎士団』。……これで明後日の合同演習、会場の空気は始まる前から佐藤くんの独占市場よ」
三木は、通の隣に並び、モニターに映る「完成された組織」を見つめた。
「ねぇ、佐藤くん。……あなたは本当に恐ろしい人ね。……ただの高校生を、たった一週間で『世界の商品』に変えてしまったんだから」
「……俺は何もしていない。……彼らに備わっていた『資産』を、適正に運用しただけだ」
通は、遠く代々木公園の空に浮かぶ、ダンジョンの位相の揺らぎを見つめた。
「暴力も、愛も、流行も。……全ては管理の対象だ。……さて、定時(終了時間)だな。……三木部長、阿部。本日の業務、終了だ」
「「「お疲れ様でした、ボス!!!」」」
佐藤組の十五名と、サポーターズの少女たち。
その総勢二十数名の規律ある返唱が、薄暗いダンジョンの深層に、新しい時代の産声のように響き渡った。
月曜日の夜。
SNSという名の第二の戦場では、世界を震撼させる新たな『エビデンス』の公開準備が、最強の同志たちの手によって進められていた。
合同演習まで、あと二日。
佐藤通の「市場支配」は、もはや誰にも止められない領域へと突入していた。




