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渋谷ダンジョン事変。レベル130で帰還した元中間管理職、無能なギルドを『デバッグ』して現代社会を経営する 〜女子高生の弁当は経費で落とし、不良はOJTで精鋭騎士団へ〜  作者: トール
第一章:統制者の創業と、渋谷ダンジョンのデフラグメンテーション

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第015話:金曜日の過密スケジュールと、星を穿つ雷光

 


 4月12日金曜日


 午前四時。

 金曜日の朝、西新宿の超高層ビル群は、深い霧に包まれていた。

 新宿中央公園の広場で、重々しい金属音と、少年たちの荒い呼吸が反響する。


「……九千、九百九十……っ! 一万!!」


 阿部大輝が、全身から滝のような汗を流しながら、魔力で強化された重り(昨夜通がインベントリから放出した瓦礫だ)を投げ捨てた。

 彼の後ろに控える十四名も、もはや限界を超えていた。だが、その瞳に宿るのは絶望ではなく、確かな『手応え』への狂信的な輝きだ。


 通は公園の時計塔の上に腰を下ろし、モノクル越しにその光景を「監査」していた。


(個体名:阿部大輝。レベル:14。……驚異的な成長率です。佐藤組全体の平均レベルも12に到達。……これは通常の探索者養成校の一年分に相当する進捗です)


「……いいだろう。諸君、本日の『基礎訓練』はここまでだ」


 通が音もなく地上に舞い降りる。少年たちは即座に直立不動の姿勢をとった。


「今日は金曜日。午前中には小テストがあるな。……阿部、英単語の進捗はどうだ?」


「はっ! 昨夜、魔力循環を行いながら全て暗記しました! ボスの名誉に傷はつけません!」


「よろしい。文武両道は、組織のブランドイメージを保つための基本要項レギュレーションだ。……さて、君たちはここで一度解散しろ。俺は少し、別の『案件』を片付けてから登校する」


 阿部たちが畏怖の念を込めて一礼し、霧の中へと消えていく。

 通はモノクルの度数を「超広域・高次元スキャン」へと切り替えた。


(ターゲットを特定。……新宿都庁の真下、位相空間の深度四層に『特A』の反応。……個体名:『震天の巨神ティタン・オブ・アースクエイク』。……出現確率は0.001%以下のレア個体です)


「……手土産としては、これ以上ないプレミアム(付加価値)だな」


 通は指先を鳴らした。

 瞬間、彼の姿が空間から掻き消え、現実世界から切り離された『断層』へと滑り込んだ。


 そこは、重力が狂い、都庁の影が奇怪に歪んだ異界だった。

 広大な広場の中心に、全身が岩石と溶岩、そして圧縮された魔力で構成された、体長五十メートルを超える巨神が座していた。


『オオォォォォォォォ……ッ!!』


 巨神が拳を地面に叩きつける。

 現実世界の新宿には微塵も影響を与えないが、位相空間内では核爆発に匹敵する衝撃波が吹き荒れる。

 だが、通はその衝撃波の『波長』を読み取り、物理法則を逆手に取った歩法で空を歩く。


「……巨体ゆえの出力不足だな。前世の、処理能力の低い基幹システムを叩いている気分だ」


(解析。対象の物理防御力:カンスト。……魔法抵抗力:極大。……唯一の脆弱性は、胸部中央の『因果のコア』に集中しています)


「……ならば、最短経路ショートカットで終わらせる」


 通の手のひらに、青紫色の電位が凝縮されていく。

 それは昨日までの雷魔法とは、次元が違っていた。

 レベル131への到達。そして今朝の訓練で高まった魔力循環の『洗練』。

 通は精神を研ぎ澄まし、三十代の魂が持つ「一点突破の合理性」を魔法に流し込んだ。


「――雷魔法:極位・『星穿ほしうがち』」


 閃光。

 それは音さえも置き去りにした、絶対的な破壊の線。

 巨神が咆哮を上げる暇も、防御壁を張る余地もなかった。

 都庁ビルを飲み込まんばかりの巨躯が、中心核から真っ二つに両断され、内側から青白い雷光に焼かれて蒸発していく。


(戦闘終了。所要時間:一分十二秒。……特Aランク魔石『巨神の心臓』を自動収集。……ドロップ品『大地の重核』をインベントリへ格納。……記録映像の保存を完了しました)


「……よし。ノルマ達成だ。これで親父の取引先も黙るだろう。……そして、華乃には刺激が強すぎるかもしれないが、これが『現実リアル』だ」


 通は、舞い散る魔力の塵を背に、再び現実の光の中へと戻った。


 午前七時四十分。

 佐藤家の食卓は、金曜日の朝特有の、少し浮足立った空気に包まれていた。


「……お早う」


 通が、シャワーを浴びて完璧に整えられた制服姿で席に着く。

 父・一真は、既にスーツに身を包み、タブレットで経済ニュースと今朝のCFレートをチェックしていた。


「……お早う、通。今朝のジョギングは随分と『大きな音』がしたようだな。我が社の地震検知器が、位相空間側で異常な波形を捉えていたぞ」


 一真が、眼鏡の奥でニヤリと笑う。


「……ああ。新宿の地下で少し『デバッグ』が必要な個体がいた。……はい、手土産だ」


 通がテーブルの上に置いたのは、鼓動するように淡く光る、拳ほどの大きさの真紅の魔石。

『震天の巨神』の心臓。

 一真の息が、一瞬だけ止まった。


「……バカな。これは『大地の心臓』か。……歴史上、数回しか確認されていない特Aの中の特A……。通。これ一つで、我が社の時価総額が数%跳ね上がるぞ」


「有効活用してくれ、親父。……エビデンス(映像データ)は、先ほど暗号化して社内サーバーに送っておいた」


「……助かる。これで株主総会への最高の回答ができる。……昨夜の『番犬』の動画の件で、すでにギルドや財閥が騒ぎ始めている。今日の学校は少し騒がしくなるぞ」


「お兄ちゃん! データ、私にも届いたよ!」


 二階から駆け下りてきた華乃が、スマホを握りしめて喚呼の声を上げた。

 彼女の目は、今朝届いた「巨神が蒸発する映像」に釘付けになっていた。


「これ、ヤバいよ! 昨日のヴォイド・ハウンドが可愛く見えるくらい……! これアップしたら、世界中の探索者ギルドがサーバーダウンするかも!」


「……華乃。昨日も言ったが、編集は慎重に行え。場所の特定と、俺の立ち位置を特定できるフレームは削除しろ。……あくまで『神の視点による目撃』として拡散させるんだ」


「わかってるって! 『絶望を穿つ雷』ってタイトルで、全人類の情緒をバグらせてくるね!」


 通は、華乃にスマホを返し、最後のトーストを口に運んだ。

 32歳の精神は、この「家族の日常」という名の最も尊いリソースを、自らの圧倒的な武力(外貨)で買い支えているという、奇妙な満足感に包まれていた。


「……さて。学校へ行くか。……今日は有栖が、週末前の『特別メニュー』を作ってくると言っていたからな」


「……佐藤組の連中への『監査』も忘れるなよ、通」


 一真の声に見送られ、通は家を出た。


 渋谷代々木学園高等部。

 校門前には、既に阿部たちが一糸乱れぬ整列で待機していた。

 彼らの視線は、今朝の地獄の訓練を潜り抜けた者同士の、強固な『連帯』で結ばれている。


「佐藤さん、お早うございます!!」


 その大音声に、周囲の登校中の生徒たちが驚いて道を開ける。

 通は、モノクルの度数を「学園・小テストモード」へと切り替えた。


 翌朝、渋谷代々木学園高等部。

 校門をくぐった瞬間、通は異常な空気を感じ取った。


「……おい、見たか? 昨日の夜の動画」

「見た。あれ、絶対にこの学校の……。だって、昨日の……」


 生徒たちが皆、スマホを握りしめ、青ざめた顔で通を盗み見ている。

 通は無視して歩を進める。

 すると、昇降口で阿部大輝率いる『佐藤組』の面々が、昨日以上に強固な結界のような陣形で待ち構えていた。彼らの顔は、誇らしさと、そして言葉にできない「狂信」の色で染まっている。


「……佐藤さん。……見ました。……あれが、あなたの……」


 阿部が声を震わせ、跪かんばかりの姿勢で通を出迎える。

 彼らにとって、あの動画は「自分たちが仕えている男の正体」を再認識させる聖典のようなものだった。


「騒がしいな、阿部。……あれはただの『早朝出勤』の記録だ。そんなことより、午前の小テストの対策は済んだのか?」


「はいっ! 完璧です! ボスの顔を汚すような真似はいたしません!」


 通はため息を吐きながら教室へ向かう。

 廊下では、女子生徒たちが頬を赤らめ、ある者は拝むように、ある者は熱烈な視線で彼を追う。


 そして、教室の扉を開けた瞬間。

 窓際に座る神崎有栖が、真っ白な顔で立ち上がった。彼女の目には、驚愕と、そして「やはり、あなたは遠い場所の人なの?」という悲痛な問いが浮かんでいる。


「佐藤、くん……。……あの動画……」


「……ただのエビデンス(証拠)だ、神崎さん。気にするな」


 通は彼女の隣の席に座り、カバンからレシートの束を取り出した。


「それより、昨日頼んだ食材の精算をしようか。レギュレーション通り、一円単位で計上してくれ」


 通のあまりに日常的な、あまりに事務的な振る舞い。

 それが、世界を揺るがす動画の主であるという事実と衝突し、クラスメイトたちの脳内をショートさせていく。


 やがてホームルームが終わり、午前の小テストが開始された。 静まり返った教室内で、ペンを走らせる音だけが響く。32歳の精神を持つ通にとっては、数分で処理できる退屈なルーチンワークに過ぎなかった。 だが、その静寂を断ち切るように、教室のスピーカーから冷徹な声が響いた。

『――1年B組、佐藤通くん。ならびに神崎有栖さん。小テストの最中に申し訳ありませんが、至急、生徒会室へ来なさい。学園理事会、および探索者ギルド本部からの「緊急要請」があります』


 声の主は、氷室冴香でした。

 昨日までの個人的な追及とは明らかにトーンが違う。それは、「組織」が「個人」を飲み込もうとする際の、事務的で冷酷な呼び出しだった。


 通はモノクルの位置を直した。


(警告:氷室冴香の背後に、ギルド特捜部の魔力反応を確認。……彼らは、今朝の映像を元に、あなたの「強制徴用」を画策しています)


「……やれやれ。バズりすぎるのも考えものだな。……有栖、行こう。……これは小テストの息抜きと、ランチの前の少し退屈な『コンプライアンス研修』だと思ってくれ」


 通は、怯える有栖の手を優しく、だが力強く握った。

 世界が彼を見つけた。

 ならば次は、彼が世界を「教育」する番だ。


 最強の帰還者の学園生活。

 それは、一軒の家族の食卓から、全世界を巻き込む「巨大な商談」へと、そのステージを移そうとしていた。


【現在の佐藤通:レベル131。討伐動画が1億回再生を突破。ギルド本部による「強制召喚」を受ける。……有栖を連れて、生徒会室という名の交渉の場へ】






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