表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渋谷ダンジョン事変。レベル130で帰還した元中間管理職、無能なギルドを『デバッグ』して現代社会を経営する 〜女子高生の弁当は経費で落とし、不良はOJTで精鋭騎士団へ〜  作者: トール
第一章:統制者の創業と、渋谷ダンジョンのデフラグメンテーション

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/44

第014話:情報の非対称性と、拡散される蹂躙

 


 4月11日木曜日


「……よし、ここだ。この0.2秒をカットしろ。フレーム単位でな」


 午後八時三十分。一日の戦いと『業務』を終えた静寂の夜。佐藤家のリビングは、さながら高度な映像編集スタジオの様相を呈していた。

 通は自室から持ち出したタブレットを操作し、妹の華乃と共に、今日の早朝に撮影されたばかりの『虚空の番犬ヴォイド・ハウンド』討伐映像の監査を行っていた。


「えー、お兄ちゃん厳しすぎ! この雷がドーンって落ちる瞬間、スローで見せた方が絶対バズるって!」


「却下だ。雷魔法の指向性から、俺の固有魔力波形サインが解析されるリスクがある。0.5秒だけ残して、後はホワイトアウトで処理しろ」


 通のモノクルが青白く脈動し、無線接続されたタブレットの映像データを直接書き換えていく。

 三十二歳の精神を持つ通にとって、情報は「弾丸」であると同時に「火種」だ。不用意な露出は、ギルドの過度な介入や、海外勢力のスパイを呼び寄せることに直結する。


「……阿部たちとの訓練シーンは?」


「それは全カットだ。あいつらはまだ『在庫』の一部に過ぎない。外部にその存在を知られるのは時期尚早アーリーステージだ。あくまで、正体不明の『渋谷の亡霊』が特Aランクを蹂躙するシーンのみを切り出せ」


 通の監査は冷徹だった。

 背景に映り込んだ渋谷ストリームの特定可能な構造物はすべて幾何学的なノイズで隠蔽マスキングし、音声も超低域の環境音以外はカット。

 完成したのは、わずか十五秒の動画。

 しかしそこには、現代最高峰の探索者ですら数時間がかりで挑む絶望的な怪物が、瞬き一つの間に「消滅」する絶望的な実力差が記録されていた。


「……できた。これ、本当にアップしていいんだよね? お兄ちゃんの顔、全然映ってないけど、この背中だけで女子が死にそう……」


 華乃が興奮で指を震わせながら、投稿ボタンに手をかける。


「ああ。アカウント名は『Deep_Shibuya_Archive』にしろ。公式の声明ではなく、あくまで『匿名の目撃者によるリーク』という体裁を維持しろ。情報の出所を曖昧にすることで、市場の飢餓感を煽る(ティーザー効果だ)」


「了解! ……ポチッとな!」


 午後八時五十分。

 一通の短い動画が、世界最大の動画プラットフォームとSNSに放流された。


 その直後、世界は「静止」し、そして「爆発」した。


 投稿からわずか三分。

 再生回数は瞬く間に一万を超え、五分後には十万、十分後には百万という異常な速度でカウンタが回り始めた。


「……嘘、サーバーが重い! お兄ちゃん、トレンド一位! 日本だけじゃない、全世界でトレンド入りした!!」


 華乃が絶叫する。

 スマホの画面には、凄まじい勢いで書き込まれるコメントの濁流が映し出されていた。


『これマジか!? ヴォイド・ハウンドだぞ? ギルドの精鋭部隊が三日前に撤退したあいつだろ!?』

『CGだと言ってくれ。人間の放つ雷じゃない。これは天災だ』

『誰だ、この黒いコートの男は? 渋谷事変の時の「モノクルの少年」と同一人物か?』

『Ghost of Shibuya(渋谷の亡霊)……。彼が現れる場所、常に特Aランクが消滅している』


(個体名:佐藤通。……拡散状況を分析。バイラル・ループが正常に機能しています。……世界中の情報機関、およびギルド上層部が本映像の解析を開始。……あなたの『神秘性』という名のブランド価値が、現在進行形でストップ高を更新しています)


「……予定通りだ。情報の非対称性(自分だけが真実を知っている状態)は、最大の防御壁になる」


 通は、夕食の最後の一口を片付けると、冷静に立ち上がった。

 父・一真は、既にその映像を自社の広報戦略に組み込むべく、タブレットを片手に無言で書斎へと消えていた。その背中には、「いい仕事をしたが、明日の後始末が大変だぞ」という無言のプレッシャーが漂っていた。


「さて、明日に備えて寝るか。……華乃、これ以上のリプライには反応するな。放置こそが最強のプロモーションだ」


「わかってるって! あー、もう、私の兄貴が世界を壊しちゃってるよ……」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ