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低速機動エレベーターババア  作者: 猫渕珠子
Crank-in クランクイン
12/18

▲2階フロア

▲2階フロア



 ドドドドドッ!


 と、怒涛どとうの勢いで階段を上がってきた舜平しゅんぺいが、2階フロアに躍り出る。


 午後ということもあり、外来がいらいの診察が終了しているのか、人の姿は無く、閑散かんさんとしている。エレベーターで各階に停止しているときにも、舜平、ヨシオカ・ナツキ、老婆ろうばの他には誰も利用者が現れなかったのだ。そもそも土曜は休診日で、人出入りが少ないのかもしれない。


 舜平は壁に掛けられた院内マップを見つけ、血走った目で見入った。


 コンビニは通路先の奥まった突き当りにあるようだ。


「あんチクショー、ぜったいタダじゃおかねェ……」


 買いに行くと言っていたプリンを奪って食べてやろうか。嘘泣きではなくマジ泣きするまでののしってやろうか。便所や霊安室にぶち込んでやろうか。それとも、ほんとうに女の穴にぶち込んでやろうか。それは無いにしても、落とし前はきっちり付けさせてやる。ギャフンと言わせなければ腹の虫がおさまらない。


 握りこぶしを固めて走り出した刹那せつな


 ――ガツンッ。


 顔面が何か固いものに当たり、舜平は弾き返されるように尻もちを着いた。


「痛ぁい……」と、うめく女性の声が聞こえる。


 目を開けて見れば、倒れて尻をなでさすっている若い女性看護師が居た。院内マップに夢中になっているうちに近づいてきていた彼女に気づかず、衝突してしまったらしい。


「ごめんなさい! 前をよく見ず走り出しちゃって……」と、舜平が土下座であやまる。


「こらこら、院内は走らないでください」


「……す、すみません。怪我けがはありませんか?」


「平気ですよ。心配しないでください。……あ、タブレットは大丈夫かしら」


 女性看護師がたずえていた仕事用と思われるタブレット端末は、尻もちを着いた反動で手放され、後ろ側へ落ちていた。彼女は座ったまま体をよじってそれを見つけると、四つん這いの姿勢に変わって液晶画面を操作し始める。


 舜平はごくりと生唾なまつばを飲み込んだ。


 病室で直樹なおきが『大発見だ』と口にしていた内容を思い出す。


 ――『ナースってさ、AVとかでスカートのイメージ強いけど、実際はパンツルックになってんだよねぇ。白シャツに白パン。でさあ、オレは最初がっかりしたんだけど、入院しててさとったね。むしろパンツルックだなって! なぜかって? だってさ、しゃがんだりしたときなんか、すげえんだよ。動きやすいように生地が薄いから、パンティラインがくっきり! すんごいくっきり! パンチラなんかよりぜんぜんエロいの! これからの時代は、パンティライン・イズムがくる!』


 ……なるほど。たしかに有りだ。あしらわれている細工のまで浮き出ている。


 いや、今は看護師の尻にかまけている場合ではなかった。


「タブレットも壊れてないみたいね。良かった」


「ほんと、すみませんでした」


 立ち上がった女性看護師にもう一度謝罪をして、舜平は先を急ごうとする。


 しかし、彼女の姿をあらためたとき、ポニーテールの髪型が目にまった。


 お尻に目を奪われていて気づかなかったが、彼女は、3階で降りた老婆に話しかけていたポニテ看護師だったのだ。


 タブレットが抱えられた裕福な胸。その左胸のところに取り付けられたネームプレートには、『朴ノ木(ほおのき)』という名字が記載されている。水色のマスクで顔の大半が隠れているけれど、肌のつやから二十代半ばほどだろう。泣きぼくろのある瞳は、物事に対して誠実せいじつそうな輝きを放っている。


 その朴ノ木さんに向かって、舜平は「あの……」と発作的ほっさてきに声を出していた。


「はい? なんですか?」


 あの白髪の老婆、トミ子さんは生きている人ですよね?、と念押しの確認を取ろうかと思ったのだけど、やめた。そんなこと馬鹿げている。変人扱いされるのはもうりだ。


 なので、質問を変更する。


「中学生くらいで、長い黒髪の女の子見ませんでした? 白い水玉模様の入ったピンク色のパジャマを着ている子です。コンビニに行くって言ってたんで、おそらくすれ違ってると思うですけど。名前は――」


吉岡よしおか夏希なつきちゃん?」


 なんと、朴ノ木さんは一発ドンピシャで特定してみせた。


「そ、そう! ヨシオカ・ナツキ!」


「夏希ちゃん、また何か悪さしちゃったの?」


 と、目尻があきれ笑いをしているように下がる。


 彼女の口ぶりで、ヨシオカ・ナツキは、悪戯の常習犯のようだとわかった。あれだけ悪質なガキである。美少女モンスター入院患者として名が通っているのかもしれない。


「あれは悪さなんてもんじゃないっすよ! 一級犯罪ですって! ……そうだ! 看護師さん、一緒に付いてきてもらえませんか? バシッとしかってやってください!」


「うーん……それは難しいかもねぇ」


「どうして!?」


うわさはいろいろ聞くけど、私にはまだ見えたためしがないのよ」


「……はい?」


「病室の担当だったから生前せいぜんのことはよく知ってるんだけどね」


「……生……前?」


「吉岡夏希ちゃんは、一年前に、くなってるの」


 と、朴ノ木さんはしんみり告げた。

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