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低速機動エレベーターババア  作者: 猫渕珠子
Crank-in クランクイン
13/18

▼1階・受付けロビー

▼1階・受付けロビー



 舜平しゅんぺいの足取りは重かった。階段を駆けのぼっていたときにあったメラメラ燃える激情は、すっかり火が吹き消された状態になっている。替わるように湧いてきているのは、胸を締め付けるような、頭がモヤがかったような、妙にやるせない気持ち。


 階段下に居なかった正則まさのりを、受付けロビーの座椅子で見つけた。座っているのは正則ひとりだけで、カウンターには職員の姿もない。窓からは橙色だいだいいろをしたの光がし込んでいる。


 背後から近づいた舜平が、スマホをいじって気づく気配のない正則の肩に手を置いた。


肺結核はいけっかくだってよ」


「……え?」と、振り返った正則がきょとんとする。


「そんな病名、昔の小説くらいでしか聞いたことないよなァ」


「……え?」


 舜平が鼻から小さく息をこぼして笑う。


「まさかババアじゃなくてクソガキの方だったなんて、してやられたぜ」


「……え?」


「よくよく考えればさァ、トミ子って婆さん、エレベーター降りたとき言ってたんだよなァ、〝あの若えのがよぉ、独り言をぶつくさ言って〟とかって」


「……ごめん、舜平くん。さっきから何言ってるのかぜんぜんわからない」


「いいんだよ、ただの独り言だ」


 一部始終を語ると長い長い話になってしまう。言って聞かせて、隠れオカルト信者だった正則の反応を見るのも面白そうだけれど、怖がられてこの病院に入れなくなったりされては、かわいそうだ。知らぬが仏、言わぬが花である。


 舜平が伸びをしながら正面玄関へ歩き出す。


「さァーて、帰るべ、帰るべ」


 座椅子ざいすから立ち上がった正則が後を追う。


「そういえば、エレベーターはなんであんなに遅かったの?」


「悪ガキが居たんだよ。エレベーターダッシュして遊んでたんだ」


「……なにそれ?」


 自動ドアが開く。


 暖かな夏の夕風が吹き込む。

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