▲1階・エレベーター前~階段
▲1階・エレベーター前~階段
――チンッ。
「あのメスガキ! 処女膜ぶち破ってやる!」
鋼鉄の扉が開ききるのも待ちきれず、舜平が全身をひねり出すようにして、1階廊下へ踊り出ててくる。着ているワイシャツのボタンがいくつか弾け飛ぶが気にもとめない。顔面は真っ赤に紅潮していた。怒りと羞恥、羞恥と怒り……頭の中は沸き起こるそのふたつの激情で占領され尽くされている。
「……しゅ、舜平くーん?」
1階フロアにはすでに、6階から階段を使って降りてきていた正則の姿があった。
スマホを片手に腕時計を眺め、エレベーターの遅すぎる到着を今か今かと待っていた正則だったが、やっとのことで開いたドアから舜平がとんでもないことを喚き散らして出てきたので、血相を欠いて尻込みしつつも、制止しようと、鬼神のごとき荒ぶりを見せる友人のもとへ近づいていく。
「……どうかした? だいぶ穏やかではないね」と、ひきつり笑う正則。「エレベーター、ずいぶん遅かったけど、トラブルで停止してたのかなー?」
「階段はどこだ! どこにある!」
正則に訊いているよりも、昂ぶるあまり発せられている舜平の声。接近した正則には目もくれず、頭を左右に振り、背後にあった階段を見つけるやいなや、猛ダッシュ。
そのただならない錯乱の度合いに、正則も慌てて追いかける。
階段をのぼりだしたところで、なんとか手をつかんだ。
「何があったかわからないけど、落ち着こう!」
「うるせェ! 離しやがれ!」
舜平が手を払いのけ、階段を駆けのぼっていく。しかし、踊り場にかかった足がピタッと止まる。後方を顧みると、今度は階段を勢いよく駆け下りてきて、あたふたしている正則の胸ぐらをつかまえ、力まかせで壁際に押しやった。
「もとはといえば正則のせいだからな! 変なことくっちゃべるから、俺はあの中二病の中坊にまんまと騙されちまうことになったんだよ!」
「中二病のチュ……え? 騙された? 意味がわからないよ、何があったの!?」
舜平は下唇を噛みしめる。
口が裂けても言えるわけがない。
たちの悪い中学二年の女子に、一杯食わされたのだ。
老婆が見えないふりをされ、幽霊が乗り込んできたと勘違いさせられたのである。
ババアはたんなる生きたババアにすぎなかったのだ。
正則の幽霊話のがあっての流れで、ものの見事におちょくられ続けてしまった。
ヨシオカ・ナツキは、さぞ痛快だっただろう。
アホすぎる出来事だ。赤っ恥だ。むかっ腹が立つ。
おのれ、この恨み晴らさでおくべきか!
「とりあえずお前は後回しだ。いいか、戻ったら一発ぶん殴るからな、覚悟しとけ!」
正則の鼻先を指で叩いて忠告すると、舜平はふたたび駆け出す。
「ど、どこに行くのさ!」
「2階のコンビニだよ!」
「……なんで?」
置き去りにされた正則が襟元を正しているうちに、舜平の姿は上階へと消えていった。




