第四十六海路 3 第一特殊砲塔
「目標発見!」
「わかった。聞こえたか! 第一特殊砲塔」
少しして、伝声管の向こうから返事が届く。
「もしかしてそれって、自分のことッスか、らしい。どうぞ!」
「お前以外に誰がいる! 仕方ねぇ、もっぺん作戦、確認するぞ」
作戦はこうだ。第一特殊砲塔と名付けられた、甲板上のイナバ百式。その機体は荒縄で固定されているが、それを支えているのはアルタたちであるため、気を抜くと波風で位置がずれてしまう。
そんな不安定な状況の中、空中を飛び回るユートピアに向けアンカーを射出する。勿論このアンカーは着弾時に電磁波を発生させる、ユナ特性のものである。射出と同時に機体とアンカーを切り離す改造が施されたそれを当て、ユートピアを海中に落とす。
「それでホントに上手く行くッスか? だそうで。どうぞ」
機体内で最終調整を行っているユナに代わり、アルタが彼の言葉を艦橋にいるコルセアに伝える。
「私も、同感です。陸戦、あの鋼の巨人とは何度かやり合いましたが、奴らの多くは浸水対策がある程度施されていて、的確な場所に穴を開けないと意味がないかと」
「まあな。普通の陸戦ならそうだろうよ」
艦橋内の指令室にて、窓からイナバ百式とそれを抑えるアルタ達を見つめるエリスの目は、憂いに満ちていた。
「失敗に終わる。紫水族なら泳いで逃げられるが、あの人間たちは死んでしまうだろう。陛下はそんなことをお思いではなくて?」
流し目で挑発するようなコルセアの言葉が図星であったのか、その口調と態度が気に入らなかったのか、エリスは彼女の顔を見る。
「俺の仲間にな、あの巨人に詳しいヤツがいんだよ。そいつの話纏めて考えると、あの機体は海に落とせば終わりだ」
「と、言いますと?」
「あんなちっこい機体に、空飛ぶだけの機構積み込むだけで手いっぱいなのに、浸水対策すると思うか? 雨水程度なら話は別だけど。そもそもヤツは大空で戦ってたんだ。海水なんて、浸水なんて無縁だろう。そんなもしもに備えるくらいなら、パンでも詰め込んどいたほうがマシだろ。敵艦に配る用のな」
ーーー
「つまり水に落とせば終わり、と」
「そもそも大空を飛べる機体に、浸水対策なんてナンセンスすぎるわ。もっと運用する場所に必要な機能を詰めるべきだと思うわね」
「ここまで来ると、そもそも陸上戦闘機の定義も不明になってくるな。それに良いのか赤毛?」
任せろと言われた鬼丸達であったが、万一に備えて敵機の場所まで移動をしている。その道中、クリスタがユートピアに関しての所感を述べている。
「今の話では、この機体を総攻撃しているように聞こえるが」
「ウチがスルーしてたこと、掘り返さないでくださいよ。実際その通りだから、反論できないのが余計に辛い……」
「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」
「まあお前は一種の特異点みたいなもんだし、既存の話に当てはめて凹む必要はないだろ」
椅子に寄り掛かり、目を閉じて脱力している鬼丸がフォローを行う。
「そ、そうですよね……あ、見えてきました! ユートピアと……軍艦⁉」
鬼丸達の視界に映ったのは、ゆっくりと海上を飛行する一機のユートピアと、荒波を掻き分け悠々と進む一隻の鋼鉄艦。大きさは巡洋艦といった所であろうか、百メートル以上はある。
しかしその船には、兵器と思われるものが見当たらない。唯一それらしいものと言えば、艦首に取り付けられた立派な衝角。
「まさか、切り札ってーー」
『そのまさかさ! これが俺の切り札!』
コルセアの声が響く。
「ずいぶんと思い切ったじゃないか。どっかから盗んだのか?」
『いや、ちょっとした交易さ』
「それよりコルセア、あんたその船に兵装が見られないけど? まさかそのご立派なラムで突っ込むなんて言わないでしょうね?」
『これはまあ、飾りみたいなもんだ。気にすんな。それと甲板上! よく見ろ』
そう言われ、上昇した一同は八型改のカメラを用いて甲板上を見る。そこには大勢に支えられているイナバ百式の姿があった。
『ユナを借りてるぞ。アイツの攻撃で海に落とそうって算段だ! お前ならそうすんだろクリスタ! そうすりゃコイツを解析できんじゃないか?』
『キャプテン! 射程に入ったッス、だそうで!』
通信の奥で、アルタの怒鳴り声が微かに聞こえる。
『それじゃ、また後でな』
強引に通信を繋いできたコルセアは、嵐のように去っていった。
「だ、そうで。思考を読まれた気分はどうですか、天才さん?」
口角を上げた鬼丸が、挑発的な口調でクリスタを見下ろす。
いつもは身長で彼女に見下ろされる立場の鬼丸であったが、彼女がコルセアの座っていた操縦席に移ったことで、立場が逆転した。
「そうね、サイアクの気分よ」
「さいですか」
言葉とは裏腹に、彼女の口角も上がっていたため、つまらなさそうに自分の席に戻る。その余裕綽々といった態度をどう崩そうかと考えていると、眼下のイナバ百式から、ユートピアへ向けて、アンカーが射出された。
「ヒット! 電力の集中を確認。離脱します!」
ユートピアを掴み、機体からパージされたアンカーに電力が集中したことを確認した八型改は、自身への影響を考慮し、離脱を提案。それに瞬時に反応したクリスタとヘルによって、機体はユートピアから距離をあける。
更新遅れてしまい申し訳ありませんでした。




