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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
天空編第一部~空戦絶後~
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第四十空路 1 禁忌

多少残酷な描写があります。苦手な方はブラウザバックをお願いします。

『来たか……フェンリル、いや、鬼丸紅蓮よ』


 その声の直後、正面のガラスに光が当てられる。そこは水槽のようになっており、液体で見たされたその中には生まれたままの姿の男女が、目を瞑って浮遊していた。

 既視感を憶えるその姿の正体が気になり、ガラスに近寄った鬼丸にはわかった。


「キル……それにこっちの男は」


 膝を抱え、漂う男性の体は、ガラスに反射した自分の姿と酷似していた。自分に似た人間が大量にいる、その事実は鬼丸を絶叫させるには十分だった。

 水槽を浮遊する大量のキルと自分。彼らの髪色は等しく青色をしていたが、その濃さは個体ごとに異なっている。


『やっと来たか、プロトタイプ……』


「ど、どうなってるんだ! お前は! 俺は一体、誰なんだ!!」


『鬼丸オーガ』


 機械から、思いもよらない名前が飛び出す。


『鬼丸紅蓮、お前にその名を与えたものだ』


 そう告げると、ガラスに投影される映像。そこには真っ白なベッドの上に仰向けになる青い髪の少年。画面下の録画日時を見ると、約七年前の出来事であることがわかる。


『七年前、儂がまだ学者として地上に残っていた時の話だ。儂の研究室近くの孤児院に、大規模な陸戦の襲撃があった。これは、その日の映像だ。まだヴァルハラのような有力な対抗手段もなく、人類の被害が今以上に甚大だったころの話。といっても今の本土よりは、マシだがな』


 機械から語られる七年前の話。その声がオーマのものと似ていることに、鬼丸はその時気が付いた。しかし突拍子もない出来事が続きすぎていたため、ただ似ているという認識で終わらせてしまっていた。


『そこでの生き残りは、お前一人だったよ。陸戦の対処に追われたヴァルハラに放置された瀕死のお前は、儂の研究室まで助けを求めに来た』


 その瞬間、鬼丸は自分の口が勝手に動いたように思えた。なぜ自分がそんなことを口にしたのかはわからない。そして同時に浮かんだ、あの少女の顔と名前も、思い出せない。


「生きて……生きて本物の君に会うまでは……死ねない、死にたくない」


『……どうやら断片的に、記憶が戻ったようだな。ヤツめ、まだ儂のことを恨んでいるのか』


 直後、頭に激痛を覚えた鬼丸は、その場に倒れこむ。そんな彼を気に留める様子もなく、オーガは話を進める。


『幸か不幸か、この言葉は、この青髪の少年の為にある。儂はそう思った。助けを求めた先がまっとうな人間であったのなら、どれだけ幸せだったか。そろそろ、全てを知らせてもよいのではないか? フェンリルよ』


 オーガが誰かに問いかけた瞬間、鬼丸の視界は暗闇に包まれる。

ーーー

 目の前には、真っ赤な狼がいる。鬼丸が認識した真っ白な世界には、それ以外何もなかった。

 燃えるようなその狼は、じっと自分を見つめている。


「お前は……お前がオーガの言う、フェンリルなのか?」


 黙って頷く赤い狼。すると彼らの足元に、先程の映像が映し出される。ベッドの上で苦しみもだえる自分と、部屋へと入ってくる老人。


「本当に、良いのだな?」


 老人の声は、先程のオーガの声と一致した。映像の自分は、悲鳴を殺しながら頷く。目を凝らしてみると、自分の頭の皮膚には大きな傷があり、ベッドの上が赤く染まっている。

 オーガはその傷をピンセットでめくると、その内側に銀色の何かを埋め込んだ。そして押し込むように傷を抑え込むと、人間が出せる限界の絶叫をする自分。


「痛みはするが、耐えろ! 今君の脳に、人工知能を埋め込んだ! 次第に脳に作用し、超人的な回復機能が得られるはずだ!」


 必死に呼びかけるオーガの顔は、邪悪そのものだった。まるで、アリの巣に水を流し込み、反応を楽しむ子供のように。

 オーガの言葉通り、少しすると頭の傷口は驚異的なスピードで閉じられ、それにオーガは歓喜し声をあげる。


「やった、やったぞ! これで弟を、オーマの研究を崩せる! それだけでなくこれを使えば不死身の兵士だって作れるぞ! 正に、新人類のたんじょーーえ?」


 オーガがそう言いかけた瞬間、自分の右手がその口を押える。


「オマエ、ウルサイ!」


 自分の手を振り払い周囲を走り回るオーガは更に、こんな事を口にした。


「しゃ、喋ったぞ! こんなに簡単に成功するのなら計画を早く実行していればよかった! ブレーン・マシン・インターフェイス、いや、マシンなんてもんじゃない! この治癒能力、安定した意識、そして言語機能! これぞ正に、ブレーン・ゴッド・インターフェース! 神だ! ゴッドだ! 神人類だ!!」


 その言葉を最後に、その映像は消滅した。


「もしかして、お前が」


「フェンリル。アノ男はソウ呼ンダ」


 そう言いフェンリルは、鬼丸へと歩み寄り、頭を下げる。


「ゴメン。俺、オーガを止メラレナカッタ。グレンを、キミ達をヒトじゃナクシタ」


 突然の謝罪に困惑した鬼丸であったが、膝をつき、体全体でフェンリルに抱き着く。


「グレン?」


「お前がいなかったら、俺の命もなかったんだろう。むしろ礼を言いたいくらいだ。ありがとう、フェンリル」


 二人の足元に、一滴の涙が零れた時、鬼丸の意識は元の体へと戻された。

ーーー

「全てを思い出した。その上で聞く。全てを話せ」


 立ち上がった鬼丸は、感情を抑えたまま、質問をする。


『そうか。フェンリルが。なら隠す必要はない。埋め込まれたフェンリルは、儂の意に反して眠りについた。曰く、お前に倫理観はないのか、と』


 ガラスに映った映像では、オーガのネクタイを掴み、睨み続ける自分の姿があった。


『倫理観など何になる! 儂は、人類の可能性が見たい! そしてオーマのユグドラシルを超えたい! ただその一心だけだった。そう答えると、自分を最後にするようにと残して、フェンリルの人格はお前の中から消失した』


「もし、フェンリルが眠りにつかなかったら」


『道端に捨てたりはしなかったさ。なんの因果か、捨てたゴミが覚醒し、自分から帰ってくるとはな』


「そんな安い挑発で、フェンリルが出てくるとでも思ったか?」


『うんむ、感情を揺さぶれば顔を出す癖は、治ったようだな』


 当時、人類に害をなす存在として、人工知能の開発は禁忌とされていた。彼の研究室が地下にあったのも、研究員が少なかったのも、表立って存在できない組織であったからだろう。

 そしてオーガは、もう一つの禁忌を犯した。

「人工知能と人間は肉体的、精神的に不可侵でならなければならない。あのエリートが聞いたら発狂しそうな事実だな、これは」


 人工知能三原則の一つをも破ったオーガであったが、これだけでは終わらないことを鬼丸は知る。


『さて次に、この素体であるが、お前に似ていて当然だ。なんせ、お前の遺伝子情報を元に造った、いわばコピーなのだからな』


 ガラスの向こうで、そのコピーたちは沈黙を続けている。


ここから少しだけ、倫理観の欠片も感じられないストーリー展開が続きますがご容赦ください。

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