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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
天空編第一部~空戦絶後~
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第三十九空路 2 丁半

「他はいい。まずはお前のことを聞かせてくれないか?」


 鬼丸はルークの足取りを凝視しながら告げる。その足はとても軽く、何も悩みが無いように見える。しかし彼が通った後には、多くの悩みのタネが生まれる。現に今、清掃員たちが嫌々そうに、彼がまき散らしたゴミを片付けているが、彼らはルークに対し直接文句を言う素振りを見せない。

 きっとそういうものなのだろうと、鬼丸は理解した。思いつく理由は、いくつかある。

一つ目に、彼がまだ子供だから。身長から推定するに、十歳前後だろうか。そんな小さな子供がなぜ、どうやって陸戦に乗っているのか疑問であるが、何か理由があるのだろうと。

そしてもう一つは、彼自身が相当な権力者である場合。しかしこの線は多分薄い。権力者が前線に出て、あんなトリッキーな動きをするはずない。権力者とは、そういうものだ。

そして三つ目。彼が権力者の身内、もしくは寵愛を受けている可能性。

 しかし鬼丸には結局どれが正解なのかは、わからなかった。

(アイツなら……そう思う癖を、そろそろ直さなきゃな)

 脳裏に浮かぶ赤い髪。いつまでも彼女に頼りっきりにはなれないパトスと、こと一般的な思考において、自分が彼女に劣ることを理解しているロゴスがせめぎ合い、彼の表情は一層険しくなる。


「物事には順序があるのですが……まあいいでしょう。少しより道でも、しましょうか」




 その後フィリップは、艦内を歩いていた手すきの人間に何かを伝えると、歩く方向を変えた。


「多少の遅れで人を殺すような組織でないので、ご安心を」


「何処へ向かうんだ」


「それは着いてからの、お楽しみといった所ですかね」


 青白い壁に囲まれた廊下は、清潔感が漂う。その壁に反響し消えていく、二人の足音。それは次第に、別のものへと変わる。

 ここに来てから時計を見ていないため、今が大体深夜であるということ位しかわからない鬼丸。彼の予想を裏付けするように、乗組員の会話はどこか小声である。勿論、鬼丸とフィリップの会話もである。

 それなのに、これから二人が向かおうとしている場所からは、時間を気にしない熱狂が聞こえる。落ち着いた照明の廊下と打って変わって、質の悪い黄色い光が奥から漏れて聞いている。

 直感的に、そこが一種の異界であるということを理解し、身構える。


「閉塞的な空間では、ストレスがたまるものです。命のやり取りをしていれば、それは無視できない要素になるでしょう。こんな施設が成立するのは、我々が民間だから、ですかね」


 その光の中に足を踏み入れると、怒号が耳に飛び込んでくる。大地を揺るがすような奇声をあげ、何かに熱狂しているのは、泥酔している乗組員たち。その顔は喜怒哀楽、様々な表情で溢れている。

 全体的に薄暗いその空間、天井から吊るされているのは安物のライト。傘の形をしたカバーは所々割れており、黄ばんでいる。電球は寿命が近いのか、至るところで点滅を繰り返しているが、それを気に留めるものもいない。

 誰もかれもが、自分の目の前にあるカードやボール、ダイスに釘付けだ。


「賭博場……いい趣味してるぜ」


「お気に召したようで。どうです? ワンゲーム」




「知っての通り、俺は誰かに身の回りのものすべてを奪われた。この一張羅を掛けさせるんなら、降りさせてもらうぞ。振る袖までなくすつもりはない」


「ご心配なく。ここは、互いに情報を掛け合いませんか?」


 フィリップに促され、折りたたみコンテナと廃材で作られたテーブルについた鬼丸は、その机のグラつきに少しだけ不快な気分を覚えた。


「お前が嘘をつくとも限らないし、その逆もある。初めから成立しない勝負に乗れと?」


「その上で、です。貴方のような疑い深い人間は、嘘と真実を混ぜて喋るでしょう。一見ゴミの山でも、その中に金が混じっているのなら儲けというものです。という建前の元、ちょっとした遊びですよ。そうカリカリしないでください」


「……遊びは嫌いじゃない。始めてくれ」


「かしこまりました。では手始めに、こちらなんてどうでしょう」


 二つのダイスと、アルマイト製と思われる、凹みだらけの小さなカップを取り出したフィリップは、それらを鬼丸の前に提示した。


「丁半博打。ご存じですよね」


「見た目に似合わず大胆なゲームを選ぶんだな」


 カップとダイスを手に取り、隅々まで確認した鬼丸は、それをフィリップに返す。


「私は貴方の逆に掛けましょう。掛ける情報は、私の個人情報」


 あくまで遊び、という言葉からか、掛け値や人数など、細かい部分は取っ払われている。要は、機数が出るか、偶数が出るかの運勝負。ダイスをカップに放り込んだフィリップは、グラつく机の上でそれを回す。


「丁。自己紹介といこうか」


 自分も同じものを掛ける。向こうがそれで不服なら、降りるなり指摘するなりすればいい。


「宜しいですね。参りましょうか」


 穏やかなままのフィリップと、何処か挑発的な表情で見栄を張る鬼丸。二人の視線は、カップから姿を現した五と三のダイスに注がれた。


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