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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第三十二海路 5 叛逆の翼

「紅蓮さん! キル!」


 ユナの叫び虚しく、煙が真実を隠す。


「そ、そんな……あの人達が……」


 肩を落とし、その場で停止するユナ。顔面を、絶望が支配した。紅蓮さんがいる、その希望があったからこそ、その切り札があったからこそここまで戦えていた。その希望は、煙に隠された。


「さっきはよくもやってくれたな偽物め。全身の骨が潰れて粉々になる感触を抱きながら、死ぬがいい!」


 ゆっくりと、絶望を味合わせるように大きく細い指が近づく。

 膝が笑う。もし座っていなければ、大地に伏していただろう。


「顔を上げろ小僧! 走れ!!」


 突如としてユナの耳に、ヘルの声が響く。その言葉を脳で処理する前に、体は動いていた。全速前進。その場から離脱する。


「逃げられるとでも……思っているのか!」


 既にインテリの真似を止めたゴッドアップルの手が、ユナを捉えようと伸ばされる。しかしその手の相手は、真っ白な巨人だった。


「な、貴様はあの時! どうあがいても人間には躱せないはず!」


 突如として現れたヴリュンヒルド八型改は、巨大なジャックの懐に潜り込む。両手で互いの手を掴み、体重と推進力をぶつけ合う。


「躱してません。そもそも、ウチは人間じゃありませんよバカ兄貴!」


 天を仰いだ八型改は、そのままジャックの顔面に頭突きを敢行する。その衝撃でジャックの顔は更に歪み、後方へと仰け反る。


「着弾直前、電磁シールドでの防御。そのまま流れるような組み合い。流石よ、八型改」


 依然我を失う鬼丸とそれを抑えるクリスタが使い物にならない現在、ここまでの行動は全て、八型改の独断によって行われていた。といっても接近に関しては、彼女の思考を読み取り潜り込んだコルセアと、エネルギーを飛行へと回さなかったヘルの功績もあるが。


「バカ兄貴だと! しかも貴様その声やはり!! 姿が少し異なっていたが、やはり我が愛しの、ヴリュンヒルド八型ではないか!」


 立ち上がるジャックは、顔面から火花を散らしながら続ける。


「懐かしいな。あの日以来だろう。私はあの日以降、お前を取り戻そうと」

「話が長い!」

「な!」


 無慈悲にも、無抵抗なジャックのボディに右ストレートを入れる八型改。そのまま彼女の独断で、雨のような拳が繰り出される。


「なっ! ヤメロ八型ッ! 私はお前をッ!」


「愛してるとでも言うんですか? シスコンですか? そういうのは鬼丸クンとキルちゃんでお腹一杯ですし、第一気持ち悪いです! そもそもなんで愛してるなら攻撃してくるんですか! バグですかそうですか! 暴走だが憎愛だが知りませんけど、ウチは貴方の手をとることはありません! ウチは貴方の愛機、ヴリュンヒルド八型ではない! 叛逆の翼、ヴリュンヒルド八型、改! わからないならもう一発頭突き行きますかバカ兄貴!?」


「お~怖い怖い。もしあの時ゴッドアップルが親だってなってたら、今頃この島は消し炭になってただろうな」


 コックピット内では、コルセアとヘルが彼女の動きに合わせ、推進力を調整している。ジャックの反撃は八型改の猛攻の前に封じられているため、一方的に前進しながら攻撃をし続けている。

 大地に黒く細い道化師の足が下りるたび、戦乙女の勇ましい白い足が前進する。


「頭突きなんて荒々しい技、一体誰の影響かしらね。ほら起きなさいバカ。このまま質の悪い攻撃させるなんて、戦の天才らしくないわよ」


 躊躇すること無く、怒りに飲み込まれている鬼丸の顔を往復ビンタするクリスタ。しかし彼の怒りはそれでも止まらない。


「ああもう!」


 頭を掻きむしり、舌打ちをしたのちクリスタは、鬼丸の頭を押さえつけ、天を仰ぎ、額同士を勢いよくぶつけ合う。


「痛ッ!」

 ゴン、と鈍く低い音が二人の脳内で共鳴する。怒りに染まった鬼丸の顔は一瞬で歪み、小動物の鳴き声のような声で苦しむ。


「ッ~~」


 二人は同じような恰好で額を抑える。


「ちょっとは落ち着いた? 死者が喋るわけないじゃない。目の前にいるのは敵よ!」


「……助かった。ゴメン埋め合わせはする」


 自身の顔を二回、テンポよく叩いた鬼丸の髪は、いつもと同じ青色だった。


「それで、なんでこの状況なんだ?」


 頭突きを敢行したクリスタは、鬼丸の太ももに頭部を置き、手すりに置いた両手を支えに逆立ちをする形で彼の視界を遮っている。


「……黙って手伝いなさい。変なとこ触ったら承知しないわよ」


 その後鬼丸の頬は、真っ赤に膨れ上がった。

 依然として、巨人同士の殴り合いは続く。しかし、圧倒的有利に思われていた八型改の攻撃の手が止まる。


「……演算上限。それだけの仕事、たった一機の、それもまともな陸戦に務まるはずはない」


 八型改自身に、負荷がかかり続けていたため、人工知能としての彼女が一時的に停止してしまった。


「無茶などをして。それに先ほどから兄貴兄貴と。挙句少し見ない間に背中に変なものまで背負い……。まあいい。お前が寝ている間に、中の人間を引きずり下ろし、一人ずつ潰すか」


 手を伸ばし、地面に倒れこんでいた鎌を手に構え、コックピット目掛けて振りかざす。しかし寸前の所で、八型改は後方に大きく飛びのく。


「甘いんだよ鉄くず! この機体がなんでこんなにデカいかも、忘れたとは言わせないぜ!」


「それに背中に異変を覚えた上でトドメを刺さなかったのは、慢心以外の何物でもないようだな。そういえば、貴様とは初対面であったか」


「フ、そういえばそうであったな」


 コルセアとヘルの挑発に、余裕綽々と返す。その姿に恐怖を覚えたクリスタが振り向き、ヘルへ視線を合わせる。


「飛んで! 今すぐ」


 一撃離脱。例え相手が巨大であれ、八型改は飛行能力という大きなアドバンテージを活かすことが出来る。

 しかし、相手が悪すぎた。


「空がお前たちの独壇場だと思ったら……大間違いだ!」


 不敵に揺らめくジャックの姿がそこにはあった。それはまるで、熱気によって屈折する世界のように、いびつな揺らめきを見せていた。


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