第三十二海路 6 合体⁉
「空がお前たちの独壇場だと思ったら……大間違いだ! 逃がさんぞ」
突如、鎌を持ったジャックの周囲が高熱に包まれる。すると次の瞬間には、その人工知能が操るにしては、あまりにも大きすぎる機体は、背後のユニットからジェット噴射を行い飛び上がる。
「喰らえ!」
大きく振りかざされた黒い鎌は弧を描き、八型改の背後を捉える。ジャックから距離を取る形で飛んだ八型改は自らの背中を、その凶器に押し当ててしまう。
「鬼丸! ヘルを」
「下がれヘル!」
強引にヘルを椅子から引きずり下ろした鬼丸はそのまま彼女を手元に抱きかかえる。そのコンマ数秒後、彼女がいたスラスター付近は、ジャックの鎌によって引き裂かれた。
幸い刃は通り過ぎ、それ以上の被害は発生しなかったが、機体に切れ目が入り、冷たい上空の空気が流れ込む。
「危機一髪って言いたいけど、不味いわね。今の攻撃で、姿勢が安定させられない。それに真下は海よ」
唾を飲み込み、覚悟を決めるクリスタ。機体に切れ目が入った状態での着水が何を意味するかなど、言葉にしなくてもわかる。
「何とか着陸を……試みますがこれでは……自動修復も間に合いません」
「翼を失えば、貴様らを一人一人殺すのなど容易いことだ。このジャックマークⅡの前では、戦の天才など無意味!」
警報が遅れて機体の異常を知らせる。そのやかましさは、彼らから平静さを奪おうとする。
「着水まであと十秒!」
背中を下にして、青い海に引きずり込まれる。歯を食いしばり、着水の衝撃に備える面々の目には、ホバリングをしているジャックマークⅡのジェット噴射が、真っ黒な翼に見えた。
「畜生! あと少しで手が届くってのに!!」
ハッチに向かい手を伸ばす鬼丸。その手は、ハッチの先にあるジャックマークⅡへ向けられ伸ばされていたが、距離は遠のく一方である。
「もう少し、もう少しで陸です。可能な限り近づきますので、皆さんはウチを捨てて逃げてください。今のウチには、海中で自由に動けるだけの余力もありません。それはつまり、ジャックマークⅡも回収に難航するだけの深さまで、勝手に沈むということ。奴の狙いはウチです。さあ、早く!」
その言葉と共に、誰の操作も受けずに開くハッチ。
「バカ言え! カナヅチエリート様はともかく、俺は戦の天才だ! お前が海に潜るって言うのなら、海中戦を行うだけだ。俺は逃げないぞ!」
操縦桿を握り、重力と風圧で浮いた体を使いヘルとクリスタを蹴り飛ばす。
(クリスタ、ヘル。せめてお前らだけでも)
「え?」
「兄……上? 一体何を⁉」
ハッチから体が放り出された二人は、鬼丸の顔を見る。震える右手を抑えながら、何としてでも機体にしがみつく彼と目が合った。
「ヘル! クリスタ! お前らなら引き上げた八型改を上手く使えるはずだ。それまでこの機体は、俺が守る!」
そしてそのまま視線を逸らし、未だ座したままのコルセアに声をかける。
「あの二人だけだと溺れるかも知れねぇ。コルセアお前も」
「嫌だね」
掴んでいるひじ掛けが、彼女の覚悟の強さを物語る。
「海はアタシの庭だよ! 鬼丸だけにカッコいいマネさせねぇさ。あの二人ならユナとかが回収すんだろ」
「そんな無茶苦茶な!」
「無茶はどっちよバカ鬼丸!! いいから今すぐアンタも離脱を!」
着水一秒前。クリスタの罵声交じりの涙が海面に落ちる。それは海面に大きな波紋を作り、大きな水柱を作りあげる。
「な、一体何が!」
あっけにとられたジャックマークⅡの正面を、雄大に横切るのは、二巨大な鮫の群れであった。
「ダイシャーク⁉ 鮫島か!」
「ちょっと荒っぽくいくぞ。気をつけろ鬼丸!」
空中で変形を行い、格闘形態になったダイシャークたちによって抱えられ、陸地まで投げ飛ばされる八型改。
後から続く真っ赤な六号機によって、クリスタとヘルも回収され、人的被害は鬼丸とコルセアの体に大きなあざができたたくらいだ。
「痛てて……なんで鮫島がここに?」
「お前らが心配でな。そういえば知らない内に呼び捨てになってないか?」
「八型改が戦えるまで、俺達が時間を稼ぐッス!」
ダイシャークや八型改の間を力強く駆け抜けるイナバ百式。彼らの必死の応戦は、決定打にこそならないが、時間稼ぎにはうってつけだ。
「ええい。またも貴様らか! やかましい!!」
六号機から降りた二人が、地面に転がる八型改へとよじ登る。
「兄上。少々乱暴すぎないか?」
「帰ったらしっかり説教してあげるから、覚悟してなさいよ」
クリスタは苦痛に顔を歪めたコルセアを覗きこむ。彼女が親指を上げたことを確認すると、機体を立ち上がらせる。
先ほどの一撃に合わせ、不時着のダメージが入った八型改は、火花を散らしながらも立ち上がる。
次第にその火花は収まり、真っ赤だったモニターが次第に回復を示す。しかし、背後の切れ目だけは相変わらず塞がらない。
「自己修復は追い付かない……か。対して向こうは飛べる。不味いな」
「飛行能力もなしに……。いっそのこと、絶望でもしてみたいわね」
機体がある以上、分の悪い戦いでも行える。それは彼らを、精神的に追い詰める。
しかし、その機体の持ち主は、重苦しいコックピット内の空気を無視して、不敵な笑い声を出す。
「フフフフ……絶望をしたい? それは来世まで持ち越してくださいクリスタさん」
突如として、破損したスラスターから、何本ものコードが現れ、それらはダイシャーク〇号機と六号機を絡めとる。
「ちょっとこれ、お借りしますね」
「うおッ。ダイシャークが勝手に!」
ひとりでに開いたハッチから海へと投げ出されるシャークフォースの面々。彼らはあっけにとられ、自分たちのダイシャークに何が起きたかの一部始終を眺めている。
「八型改、アンタ何やってるの?」
「おいおい……これじゃまるで……」
八型改のケーブルに掴まれた二機のダイシャークは、巡行形態へと戻された後、口を境に下腹部分がスクリューのある艦尾へと、スライドする形で移動する。
「不味い、何か嫌な予感がする! 今すぐ止めろ! さもなくば……ええい邪魔だ雑魚ども!」
「よくわかんないけど、ここから先へは行かせないッス!」
脚部にアンカーを射出し、タイミングを見て離脱するユナ達に手こずり、ジャックマークⅡは八型改へと近づき、怪しい行動を阻止することが出来ないでいた。
「あんな変形、見たことない!」
海に浮く鮫島が、天を仰ぎ、その奇怪な変形に開いた口が塞がらない。
全長が倍近くに伸ばされたダイシャークはそのままケーブルに牽引され、八型改の背中の傷を覆い隠すように取り付けられる。
「兄上、見ろ! ダイシャークに塞がれて傷が密閉されたぞ!」
「これじゃあまるで、合体みたいじゃねぇか!」
振り返り、興奮気味に状況報告をするヘル。彼女にいつもの落ち着きはない。それに触発された鬼丸も興奮気味に、声を上げる。
「まるで、ではなく合体そのものですよ鬼丸クン! タイミングあれば出来るかな~とか思ってダイシャークに改造施しておいて正解でした! さあ、派手に行きますよ皆さん!!」
背中に二匹の鮫を背負い、両手を広げる八型改。彼女は空中でイナバ百式へと攻撃へ加えようとするジャックマークⅡへと向き直る。
「戦乙女と鋼の鮫が、一つに合わさり超合体! 悪しきリンゴを打ち砕き、島を守るは鋼の巨人! ウチの名は、ヴァルキリア・シャーク!!」
大きな波が押し寄せ、ヴァルキリア・シャークの登場をド派手に演出する。
「ヴァルキリア・シャーク! これなら奴を! 行こうゼクリスタ!」
目を輝かせながら、操縦桿を握りなおす鬼丸に触発されたのか、立ち上がるクリスタ。
「上等よ! さあ、アタシ達の反撃を始めるわよ!」
反省も、後悔もしていません。合体は、何人たりとも止められない浪漫です。




