第三十二海路 3 巨対巨
「……なあ鬼丸、足、止められないか? こっちまでイライラしてきた」
八型改のコックピット内で、貧乏ゆすりをする鬼丸。その振動は、コルセアの元へとしっかり伝わっていた。
無意識にしていたようで、すぐに貧乏ゆすりを収める。クリスタたちが交戦を初めてから数分、万一に備え、鬼丸たちはミナ島に待機している八型改に乗り込んでいた。
『お前ら、今すぐキノ島へと向かえ!』
突如、新井からの通信が入る。逼迫した口調をくみ取り、すぐに機関を起動させる八型改。コルセアはコックピットから身を乗り出し、周囲の作業員に離れるよう指示を出す。
「何があった堅物」
『手短に言うと、相手は巨大だ。目測で七メートルある』
鬼丸は普段クリスタが座っている中心の椅子に移り、機体の移動を開始させる。
八型改は巨体ゆえ、複数人で操縦を行う。効率的な動きを取りたければ、二手三手以上先を読んで、乗組員に指示を出さなければならない。
その指示には、いくつかの定石があり、クリスタはこれらを全て暗記。状況に応じて使い分けている。
彼女がいない今、鬼丸がその任を担う。彼は脳内にある聴覚情報から、彼女の指示を自分なりに再現してみせる。
「全員いるな。鮫島への説明は俺がする。そんで……ヘルとコルセアは操縦に集中。攻撃は出来ないから~」
本人ではないため、指示に大きなラグが生じる。このラグは、戦場では命取りだ。
「クリスタの回収を第一に。新井さん、それで大丈夫ですよね?」
『問題ない。ついでに鮫島への連絡はこっちでやっておく。お前は前線と連絡を取り続けろ』
エネルギー噴射をスラスターから行い、ヘルがそれを翼の形に整える。
「飛ぶぞ! 捕まれ」
―――
所変わってキノ島。彼らの目の前に現れた道化師のような陸戦は、八型改と同じくらいの大きさをしていた。しかし彼女より二回りもスリムなため、何処か小さく見える。
「無理に突っ込まないで! 突出せず、距離を取って時間を稼ぐのよ!」
拡声器から、鬼気迫るクリスタの指示が飛ぶ。彼女は黛の機体の中へ入り、外壁に即席で取り付けた拡声器で指示を出す。
指示を受ける現場組は、クリスタに絶対的な信頼を寄せているため、戦線は崩壊していない。
「舐めやがって」
「近づいたら全力で押しつぶし、引けばノータッチ。あの敵、何がしたいんだ!?」
既に先陣を切った一機が、細長い指に押しつぶされた。機体を乗り捨てた人間に対して、追撃が発生しなかったことが、彼らにとっての救いであった。
「デカいだけってのが、これだけ厄介だったなんて。今まで戦ってきた陸戦は、こんな気分だったなんて、知りたくもなかったわよ」
そんな愚痴を漏らした彼女の通信端末が、大きな音をかき鳴らす。
目線を正面の陸戦から離さず、彼女は端末を耳に当てる。
『気分はどうだエリート様』
「悪くないわ。しいて言えば、目の前の陸戦をどうにかしてくれればもっといいんだけど」
こんな時にまで、彼らは正しい通話の仕方を知らない。
『今からそっちに八型改で行く。今のうちに指揮権別の奴に移しとけ』
「わかった。いつも通り、相手は未知数、近くを通る時も油断しないで」
通話を終了し、操縦席に座っているユナを見下ろす。話の流れを知っていたユナは、視線を感じると首を縦に振る。
「皆さん、今から指揮を黛に移します。八型改との連携で、アレを倒します」
「わっかりましたお嬢!」
「ユナに従うのは癪だが、了解ですお嬢!」
それぞれから、生きのいい声が反響する。その直後、近づかない限り微動だにしなかった巨大陸戦が、視線の向きを変える。
「ユナ! 奴の動きを止めてくれ!」
その方向から飛来するのは、海面スレスレを飛行し島に上陸するヴリュンヒルド八型改。彼女の音声出力機能を使い、鬼丸がユナへと指示を出す。
「総員、クラッキングアンカー用意ッス! デカいから狙う必要はないッスよ!」
クラッキングアンカーの射程圏内に敵陸戦を捉えるため、慎重に前進を進めるイナバ百式。
「今!」
ユナの合図に従い、クラッキングアンカーが射出され、その全ては敵陸戦のゴシック調のボディを掴む。
アンカーに気が付き、視線を八型改からそらす。その気を鬼丸は見逃さなかった。
「今だ、突っ込め!」
ハンドブースターを起動させ、すれ違いざまに顔面一発、高速の拳を浴びせる。
「顔面装甲、一部破損確認! どうですかでくの坊!!」
その小綺麗な顔面は歪み、マスク部分にヒビが入る。衝撃が加われば、誰だってそちらを向く。ユナたちのアンカーが陽動だと思い込み。
「クラッキング開始! 本命はこっちッス」
敵陸戦の周りに、目視できるほどのプラズマが集まり、それは力強い音を放ちながら拡散する。
「奴はまだ動けないはず。ゆっくり解除して下がるッス!」
ユナの読み通り、反撃の気配は見えない。アンカーを解除し、安全地帯まで撤退を開始する。その背後では、ハッチを開きながら垂直着陸を行う八型改。内側からヘル、鬼丸、コルセアの順番で人間梯子が掛けられる。
「なんでこんなバカバカしいことしてるのアンタ達。雑技団にでもなりたいの?」
「焦って搭乗姿勢にするの忘れた。こっちの方が早い」
今にも死にそうな声を捻りだしながら説明する鬼丸を見て、彼女はあえて、鬼丸に体重が掛かるようにゆっくりと登った。
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