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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第三十二海路 1 黒翼の道化師

「あ~あ。あれだけ数入れたのに、皆死んじゃった」


 背丈の低い少女が映像を見ながらそう口にする。その言葉とは裏腹に、彼女の顔はどこか好奇に満ちていた。

 自身の体をクルクルとその場で回転させる少女。白銀のロングヘアーが靡き、灰色の体からは、金属がぶつかる音が絶え間なく発せられる。


「だから言ったのだ! あのような粗悪品では、あの男は倒せないと」


 影から姿を見せたのは、以前ヴァルハラ本部の爆発に巻き込まれ、粉微塵になっていたと思われていた鋼の男、ゴッドアップルであった。

 彼の体も目の前の少女同様、歩くたびに独特な金属音を奏でる。その表情は本部で鬼丸達が見たものよりも禍々しく、赤く光る眼からその凶暴性が伺える。


「え~? 言ってたっけそんなこと!? 忘れちゃった」


「何度このやり取りをすれば気が済むのだ。貴様は!」


「イデッ」


 ゴッドアップルに小突かれたガイノイドは、終始薄ら笑いを浮かべている。


「ところでさ」


 ゴッドアップルにいきなり鋭い視線を向けると、そのまま間髪入れずに低い声で脅しをかける。


「これ、どう責任取るつもりなの? リソースも無限じゃないんだよ?」


 そのガイノイドは、自分に一切非が無いかのように責め立てる。しかし実際は、先程のゴッドアップルの発言からわかるように、彼女が忠告を聞いていないために敗北をした。

 しかしゴッドアップルはそれに反論する様子を見せず、彼女の一方的な罵倒を受け入れる。


「今にも壊れそうな君拾ってあげたの、誰か知ってる? ずいぶん偉そうじゃん。神のリンゴ、なんて痛々しい名前名乗っちゃって。笑っちゃうよね」


「……」


 憚ることのない高笑いを浮かべるガイノイドは、笑うことをやめゴッドアップルの顔を見る。


「なんで笑わないの? 笑うところだよ? 笑えよ! オイ!」


 彼女は笑うという行為が、さも残忍なもののような口調で強要してくる。彼の骸骨のような顔は、無機質な右手で叩かれ続ける。

 ゴッドアップルが笑うことも、反論することもせずに堪えていると、唐突に濁りきったような音でブザーが鳴る。


「あ、出来た!」


 先ほどまでの鬼の形相はどこかへ消え去り、ガイノイドはお菓子を取りに行くような足取りで近くのパネルを操作する。


「また今回も粗悪品か。いい加減学習を……」


 口を開いたゴッドアップル。口からは配線が幾つも垂れ下がり、火花を散らしている。


「そんなわけないじゃーん! 見てみてこれ、すごいでしょ!!」


 ゆっくりと彼女の背後にあるシャッターが上がり、奥に一機の巨大な陸戦が見える。

 深い闇を思わせる黒と、対照的な白いライン。ゴシックなカラーリングに身を包んだ頭部は曲がった三角錐のようなものが対照的に取り付けられ、先端には鈴も確認出来る。

 その道化師の全長、おおよそ全長七メートル。


「……なんのつもりだ? こんなバカでかい機体、まるであのーー」


「戦乙女、ヴリュンヒルド八型のようだ、とでも? デカいもんにはデカいもんだよワトソン君!」


 言いたいことを先取りされたゴッドアップルは一度咳払いをし、そしてそのまま続ける。


「こんな機体、どうするのだ? まさか貴様が乗るのではないだろう」


「えー! アタシ! イヤイヤムリムリこんな不細工! 自分で作っておいてなんだけど、スノウ的にもユグドラシル的にも無理すぎる」


 そのガイノイドこそ、鬼丸達が追い求めているスノウ・ユグドラシルであった。彼女は身振り手振りを使い、全力で否定すると、再びパネルを操作し始めた。


「これはアタシじゃなくて、貴方のものよ、ゴッドアップル」


 先ほどまでの落ち着きの無さとは打って変わり、知的な口調で告げるスノウ・ユグドラシル。その言葉を認識した時、既にゴッドアップルの意識は小さな素体から抜け出ていた。


「……自分では手を下さない、と」


 視界が高くなり、自身の意識が巨大な道化師に移されたことを知ったゴッドアップルは、手足の感触を確かめるようにゆっくりと動かす。


「動きましたか。なら大丈夫そうですね。これはアタシからの選別です」


 彼の意識の中に、大量のデータが流れ込んでくる。


「ジャックマーク2……及第点と言った所か。この大きさが全てを台無しにしているがな」


 自嘲気味にそのデータを読み込んでいると、一つのデータに目が留まる。それは、自分の尊厳を傷つけたあの青鬼と渡り合うための手段。


「さっき学習しろって言ってたよね? これ見てもそれが言える?」


 足元が動き始める。自分の体がこれから、コハクやダーヴィンのように射出されることが理解出来た。


「……感謝はしないぞ」


「別にあの機体がどうなろうと構わない。アタシは中にいる肉をほじくり出してくれればそれでいいの。頼んだよ!」


 去り際に無邪気に手を振るガイノイド、スノウ・ユグドラシルからは、計り知れない狂気が感じられた。

 その為彼女が作ったこの機体、ジャックマーク2にもその狂気の片鱗が残っていてもおかしくはないだろう。

 基地内をベルトコンベアで移動している間に、自身の機能を確かめるゴッドアップル。気が付くと目の前には、雲海が広がっていた。


「待っていろ鬼丸……今度こそ、貴様を!」


 助走をつけ、空中へと飛び込むゴッドアップル。彼は自身に与えられた狂気の翼を展開させる。背中のジェットパックが吐き出すそれは、二本の柱のようにも見える。


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