嵐の前の答え合わせ
時は戦闘海域にイナバ百式が到着する数時間前まで遡る。
「お前の改造、あそこにある資材で出来るか?」
「は? どういうことですか?」
イナバ百式黛カスタムのフロントガラスに張り付き、資材の山を指さす作業員たち。目を細めたユナがそこを見ると、イナバ百式に仕様する代えのパーツが、丁寧に陳列されていた。
「お嬢が発注したんだ。俺達のイナバ百式を、お前のみたいに改造するってな」
違法製造陸戦の襲来が増えてきたため、毎回ギリギリの戦いを強いられているヴァルハラの面々。彼らにも限界はあるため、万一のための防衛力が必要であると考えたクリスタは、工業用陸戦に乗りなれた作業員に目を付けた。
「そんなもん、シャークフォースに任せればいいんじゃないんですか?」
まだ機嫌を直さないユナは、その不機嫌をそのまま言葉に乗せた。
「それじゃあ間に合わねぇんだよ」
「え?」
ユナはこの時初めて、陸戦襲撃の際にシャークフォースが、島民の避難と安全確保を担っていることを知った。
「アイツらの他に、フットワークの軽い戦力が必要だって言ってた。海賊どもだって、小回りが利かない」
腕を組んでいた親方は、顔をガラスに押し付け、声を強める。現場組はクリスタの理念に賛成し、秘密裏に計画を立てていた。
「俺達がやるしか、ないんだよ」
その気迫に腰を抜かしたユナ。この島に来てから、ここまで自発的に戦闘に参加しようとする人間を、ヴァルハラやシャークフォース以外に見たことが無いためだ。
「それには、お前の力が必要なんだよ」
親方の後ろから、別の作業員が声をあげる。それに釣られ一人、また一人と声を出す。
「お前、一人でそれ改造したんだろ」
「スゲーぜユナ! 見直した」
「ユーナ! あそれユーナ!」
皆終いには手を叩き、拍子を生み出し彼をもてはやす。その拍子は少しずつスピードが速くなり、彼を煽る。
一帯のボルテージが最高潮に達した時、モノクロの少年は満を持してイナバ百式の扉を開ける。
コンクリートで固められた地面へと降り立ち、民衆をその小さな手で収めると、溜息一つついた。
「ハァ、しょ、しょうがないッスね~。一回しか言わないから、しっかりメモしてくださいよ!」
一呼吸置いて、その一言に熱狂するフロア。
「さっすがユナ!」
「男前!」
「かっこいい!」
気分をよくしたユナは、拳を突き上げ宣言する。
「行きますよ皆さん! 黛小隊が最強だってこと、電気信号どもに教えてやりましょう!!」
その一言を合図に、姿を変えるイナバ百式。しかしこの時のユナは知らなかった。作業員の誰もがこの時、不敵な笑みを浮かべていたことに。
「チョロい」
親方の一言は、鋼のセッションにかき消された。
そして現在。
「いやッス! 誰がなんと言おうと、このチーム名は黛小隊なんです!!」
戦闘を終えたコルセアが放ったクリスタ親衛隊の名を、彼らが聞き逃すことはなかった。
「クリスタ親衛隊……いい!」
「いや、お嬢親衛隊でも」
「クリスタ組なんてのはどうだ!?」
その様子をユナは、鬼丸に嘆く。
「紅蓮さ~ん! 助けてくださ~い!」
「うん。いいと思うぞ。黛小隊。」
彼の頭を撫でながら、しみじみと言う鬼丸。彼の青い頭上の、更に空の上で、黒い彗星が光っていることに気付いたものは、あくびをしたポニーテールのヘルだけだった。
「む、この感覚……」
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