第三十海路 2 ミラージュ・ザ・ファンタジスタ
「き、消えた……!」
「レーダー起動します。スキャン中……」
音声が感情を失い、無機質なものとなったことが、八型改の索敵レベルが上がった合図だ。
索敵レベルを引き上げた八型改がレーダースキャンを終える前に、クリスタがウィザードの姿を捉えた。
「ッ、足元! 回避!」
杖を八型改に向けて掲げたウィザード。その先端から、勢いの良い火炎放射が行われた。クリスタの指示で火炎に直接あぶられることはなかったが、あと数秒遅ければ機体に着火していただろう。
「スキャン終了。でもこれは……」
「どうしたの?」
ヘルとコルセアがウィザードから離れている間に八型改は、クリスタにスキャン結果を提示した。
そこにはいるべきはずのウィザードの姿が、どこにも提示されていなかった。
「どういうこと? 索敵レベルも上げたんでしょ?」
「ウチにもさっぱり……」
二人がスキャン結果に頭を悩ませている間、ヘル、鬼丸、コルセアは自身の目でウィザードを凝視していた。
「おかしい所は見当たらないぞ。とうとう壊れたかこの戦乙女」
「金属片らしきものも確認できねぇ。どうだ鬼丸?」
「何かあるはずだ。レーダー探知から逃れることは、陸戦である以上出来ない」
火炎放射を行ったウィザードは、杖の先端を開き放熱を行っている。
「やるなら今だが……」
「わからない状況で攻撃は出来ない。すぐ答え出すから待ってて」
クリスタは自身の頭を掻きむしり、自分の身に起きた不可解な現象の解明に挑む。鬼丸はそんな彼女へ少しでも貢献するため、必死に周囲の状況を確認する。
カメラを左右に振り、周りに何か仕組みがないかを確認する。しかしそれらしいものは何も見つからず、再びウィザードに視線を戻す。
すると鬼丸の目に、再び不可解な現象が起こる。ウィザードの周囲を取り囲むように、二体の陸戦が現れた。
その全てはウィザードと瓜二つであった。
「分身!?」
しかしレーダーには依然反応はない。分身したウィザードはそれぞれ独立した動きをしておりそれぞれ、放火、放水、放電を行い島の破壊活動を開始した。
「潜伏してやがったのか? どっちみち止めないとヤバいぞ」
「このまま放置をすれば、島民のヘイトは確実に買うだろう。いくら嫌われようが構わないが活動拠点を失いかねない程にな」
ヘルとコルセアは冷静であったが、額から幾つも汗を流している。彼女らは自身の汗で操縦桿が濡れ、手が滑ることを危惧し自身のスーツでそれをふき取る。
「回避に専念しながら攻撃して。ターゲットを八型改に集中させるわ。可能な限りギリギリで回避して」
顔をあげ無茶を言うクリスタ。その顔はとても悔しさにまみれていた。味方を危険に晒し、なおかつ無理を強要しなければならないこの状況が歯がゆいのだろう。
クリスタの命令に愚痴一つこぼさず、面々は接近したウィザードたちと交戦する。
しかし回避が優先されているために攻撃は安定せず、鬼丸がたびたび舌打ちをする。
「まるで魔法使いそのものじゃないか! 本当に居たなんて知りたくなかったさ!」
歯を食いしばりながら攻撃を紙一重で躱すコルセアが、不意に叫ぶ。
「魔法使い、か。ファンタジーにも限度があると思うぞ隻眼」
ヘルがそれに言い返したタイミングで、鬼丸の繰り出した銃剣の先端が放電を行っていたウィザードに当たった。
鬼丸が予想していた通りその銃剣は一切の抵抗を受けないまま機体を貫通した。その際一瞬、機体が歪んだように見えた。それと同時に、攻撃を加える前後で歪んでいない部分もあるように見えた。
「踏み込み過ぎだ! 引くぞ兄上!」
ヘルが距離をとったお陰で、鬼丸には思考する時間が発生した。
(歪んだのは機体。前のアズールラッシュみたいな投影型か!? そしてなぜか杖だけは歪んでいない。いや、逆だ!)
「クリスタ、八型改! 索敵もう一段階上げろ! 陸戦以外の電磁波も拾ってくれ」
「人格停止。索敵レベル、第三段階まで上昇。スキャン開始……」
コックピット内には重々しい音が流れる。その独特な音はまるで……。
「スキャンってMRIみたいな音するんだな」
「アタシも初めて知った。で、説明してもらっても?」
鬼丸は自分が見た歪みをクリスタに話した。
「魔法なんて存在しない。だけどヤツには実態がない。そう思っていた。だけど違う。ヤツは確かに存在する。ここに」
鬼丸はカメラを拡大し、八型改に向かい放水を行う杖先端を拡大表示した。それと同時にスキャンを終えた八型改が声を出す。
「読み通りです鬼丸クン! ヤツらが居る場所に微弱ながら三つの反応がありました! あまりに小さかったので陸戦と認識されなかったみたいです!」
「つまりあの杖が本体か! ならさっさとぶっ潰そうぜ!」
答えが見え逸るコルセアを、クリスタが制止する。
「ちょっと待って。それなら被弾を装ったことになる。それだけ高度な思考をするには、あの杖の大きさでは要領不足よ!」
手負いを装い、被弾した機体の様子を投影できるほど高次の回路なら、相応の大きさを必要とする。
陸戦の大きさの平均が二メートル前後で統一されているのも、その為である。
「また迷宮入りかよ」
コルセアが舌打ちをしたその時、闇がさらに深まった。どうやら雲が月を一時的に隠しているようだ。
「……雲か。厄介だな」
その時ふいに、鬼丸の脳裏に言葉たちが再生される。
『ファンタジーにも限度があると思うぞ隻眼』
これはヘルの言葉
『奇跡も魔法も、科学的な出来事の言いかえに過ぎないわ』
これはクリスタの言葉。そう、奇跡や魔法なんてない。
(雲……クラウド……まさか!)
なぜ英訳したのかはわからない。しかし脳裏に浮かんだ。その言葉が自然現象以外の意味を持つことを、彼は知っていた。
「あれは端末だ! クラウド管理とかなんとか、本部でよくポスター見なかったか?」
鬼丸は手をあちこちにやりながら自分の纏まらない考えを訴える。事実ヴァルハラ本部には、情報のクラウド化を推奨したり、その際の注意点などか書かれたポスターが至るところに貼られていた。
その様子を、クリスタはじっと押し黙り見ている。不信感を抱いた鬼丸が、落ち着いて質問をする。
「俺、変なこと言ってるか?」
発言には自信を持つ鬼丸だったが、今回のものはいつも以上に突拍子もないため、理解されるかどうかが不安であった。
「いや、その通りだと思って。だけどどうやったらそんな結論になるわけ?」
真顔で首を横に振るクリスタ。
「俺にもわからない。とにかくあれは端末。本体が何処かにいるはずだ!」
その時八型改が大きな声を出す。
「あ! ありましたこれです!」
鬼丸たちの目の前には、二機の陸戦に関するデータが提示された。
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