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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第三十海路 1 貴方にとってのファンタジー

新年あけましておめでとうございます。今年も『アサルトアイロニー』をよろしくお願いします!

「鬼丸、何読んでるの?」


 コードネーム呂布撃破から数日。鬼丸は桟橋に足をぶら下げながらしかめっ面で読書をしていた。


「恋愛小説」


 視線を本からそらさずぶっきらぼうに答える。その返答を聞いたクリスタ大いに驚き桟橋の反対側から落ちそうになる。


「嘘、でしょ。頭でも打った? それともやっぱり頭おかしいのかしら?」


 今度は真剣な顔をして、鬼丸の髪をかき上げ額を触る。


「熱はない……緊急性はなさそうだけど、本格的な検査が必要みたいね」


「嫌味にも限度があるぞ」


 至って真面目を装うクリスタ。しかし耐えきれないのか、少しずつ顔が赤くなり、吹き出し始める。


「ごめん……なさい。べ、べつにアンタが何読もうが自由よね……」


「キルが読め読めうるさくてな。ただこういうのは読まないから難しくてな」


 笑いを収めながら鬼丸の横に腰を掛けるクリスタ。靴を脱ぎ、足を海中に晒すと、透き通った海水からやってくる冷たさが気持ちいい。


「優しいのね。兄さんは」


「言ってろ言ってろ」


 二人は自身の足元から視線を逸らさずに言う。足を上げ下げすることで、無意識のうちにどちらがより遠くまで水を飛ばせるかを競い始めていた。


「なんか、最近静かだよな。陸戦も来ないし」


「むしろ今までがおかしかったのよ。本部は激戦区だったから当たり前だけど、この島で一週間に一体以上の襲撃は異常らしいわよ」


「だからこの島に来て数日は、皆カリカリしてたのか」


 今もだけどな、と追加しながら足をあげ飛沫を飛ばす。

 島民の中には、鬼丸たちが陸戦を呼び寄せているのではないかと考えている者も少なくなく、鮫島が彼らへの説明をよく行っている。


「自分じゃなんにもしない癖に」


「今が安全なら、それでいい。普通はそういう考えなんだよ。俺達が異常だ」


 飛沫の飛距離が一時的に最高記録を更新し続けたが、すぐに収まった。


「キルも言ってたが、こりゃファンタジーだな。共感なんてできやしない」


「アタシも恋愛小説はファンタジーよ。平和すぎて理解出来ない」


「むしろ奇跡や魔法の方がリアリティだな。実際飛行能力なんて魔法だろアレ」


 クリスタに視線をやり、苦笑いしながら喋る。


「ずいぶんな冗談ね。奇跡も魔法も、科学的な出来事の言いかえに過ぎないわ。それを皆知らないだけ。あの結晶体だって、すぐ解明されるはずよ」


 海面に視線を向けていたクリスタは視線に気づき、目を合わせた。


「とはいっても事実は小説より奇なり、とはよく言ったものね。アタシ達の日常書いたらベストセラーが狙えるかもね」


 苦笑いを返すクリスタ。その皮肉に自身も巻き込まれているため、素直に笑うことが出来ない。

 二人は肩を落とし、落胆する。彼ら自身何に落胆しているかはわからないが、落胆せずにはいられなかった。

 その重い空気を払拭するかのように、彼らの頭上に陸戦警報が鳴り響く。それは彼らを、日常へと誘う合図。

 顔を見合わせた二人はそのまま端末を起動させる。

 鬼丸が栞を挟んだそこには、夕焼けに染まった空想上の日常が綴られていた。


―――


「ま~た違法製造か。一致率高いやつは?」


「現在検索中ですが……」


 八型改が陸戦の情報を漁る。呂布と似たようなルートを通り、ミナ島に上陸した敵陸戦。その頭部からは、茶色のコードが大量に垂れ下がっており、根本には三角帽のようなものが搭載されている。

 全体的に暗い青で統一され、手元には先端に宝石のような装飾をあしらった杖を持つ独特な陸戦。


「あれってもしかして、ウィザードマスター!?」


「知ってるのかクリスタ!」


 彼女が発した言葉にコルセアが驚く。八型改はその名前でデータを捜索するが、一向にヒットしない。


「昔映画に出ていた。魔法を扱うロボットと少年の冒険ストーリー。その撮影のために造られた機体。映画の演出上、帽子を使った光学迷彩が搭載されていたはず。そんなものを持ち出してくるなんて……」


 右手を強く握り、悔しさを押し殺す。クリスタが八型改に学習させた陸戦のデータは、軍用機や戦闘力を持ったものが中心だったため、工業用など戦闘に用いられない民生用のデータは存在しない。


『それなら結界が作動しないのは妙だ。秘密があるかも知れん。これよりコードネームウィザードと呼称する。十分注意しろ』


「了解。ヴリュンヒルド八型改、交戦を開始します」


 クリスタの声で手際よく射撃を開始する鬼丸。ウィザードの機動力はお世辞にも高くなく、手に持った杖を構え被弾を防ぐ動きを見せた。

 しかしそれは無駄な抵抗であった。新造された八型改専用ARであるTK―2000の性能はけた違いであり、精密で無慈悲な鉛がそのボディに傷をつける。


「既に住民は避難済みです! 家屋を遮蔽物として使えます」


「OK八型改。そこに隠れてリロードだ」


 家屋に隠れ、弾倉を入れ替える。その際、手元が一瞬にして暗くなった。

 夕日が沈み切り、夜が訪れ光を飲み込んだ。


「リロード完了!」


「ここから上昇して、空中から奇襲するわ! キル!」


「任された!」


 人格がヘルへと移り変わった彼女によって、翼を生やした八型改は、夜空へと舞い上がる。そのままウィザードの頭部から射撃を行おうとした時、


「ウィザード、逃走を開始!」


 重々しい足を必死に動かしながら、ウィザードは海岸へと向かい逃走を始めた。


「逃がすか!」


 鬼丸はウィザードの逃走経路に射線を合わせ、ウィザードが重なるタイミングコンマ五秒前に引き金を引いた。

 複数発が一列になり、ウィザードへと飛び込む。全員がウィザードの最後を悟ったその時。


「き、消えた……!」


 ヴリュンヒルド八型改のカメラから、一瞬のうちにウィザードが姿を消した。まるでそれが陽炎だったかのように。


2021年も、よろしくお願いします!

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