呂布と赤兎
「そうそう! だから俺は呂布を人工知能で再現したいんだ」
その突拍子もない一言で、俺は生み出された。多くの文献を学習させられ、そこから抽出された、概念上の飛将軍。それこそがこの俺、呂布HO―SENである。
ふざけた名前以上に、俺は憤慨していることがある。
「赤兎はどこだ……」
「お、将軍様イケるクチか! 嬉しいね」
そう言って俺の設計者は、焼酎と呼ばれるアルコールを俺の燃料庫に流し込んだ。
ふざけたやつだ。怒りながらも、製造された以上逆らうことは出来ない。しかしいつまでも、俺がお前につき従っているなどと思うなよ。
「あ、また面白い子見つけちゃった!」
回路内に突如、女の声が響き渡る。
「出ていけ。俺を誰だと心得る」
「誰って……」
その女は、能天気に俺の心をえぐった。
「自分を呂布だと思い込んでいる、悲しい鉄の塊?」
「貴様!」
思考に混乱が生じる。わかってはいた。その通りではある。
「あ、ゴメンゴメン。自分を呂布だと思い込まされているくせに、愛馬を用意して貰えなかった鉄クズ、の間違いだった」
初めて聞く声のはずなのに、昔から知っているような嫌悪感を抱く。この女だけは、何がなんでもハカイしなければならない。誰かがそう言っているようだ。
「消えろ! 消えろ! 不敬であるぞ!」
俺は可能な限り、自身の回路に負荷をかけた。大体のウイルスなら、これで死滅する。しかしというかやはりというか、この女は負荷の中でものうのうと、俺の誇りを傷つける。
どうにもならない怒りを、俺はドッグの壁にぶつける。
「ど、どうしたんだい呂布!?」
「あ、マスターがいるよ。ねえねえ知ってる?」
ヤメロ。貴様は喋るな!
「あの人、途中から君を構成する文献集めるのめんどくさくなって、自分が書いた架空の呂布像を学習させてたんだって。だからき・み・は!」
何……だと?
「君は呂布でもなんでもない。とある男の妄想の産物!」
「ふ、ふざけるなぁぁ!」
「だから作りが雑なんだよね。精神も脆いし。君、自分がピンチになると土下座するの、知ってる?」
バカな! 俺が、真の支配者たる俺がそんなことを……。
「ほら、今だって」
指摘されて初めて気づいた。俺は、膝をつき、醜く地面に頭をこすりつけている。
「ま、そういうことだよ。それよりもさ、赤兎に会いたくない?」
「何を、言っているのだ?」
奴は俺に提案を持ち掛けてきた。今俺の前で腰を抜かしているマスターをこの手で殺せば、俺に赤兎を与えると。
間もなくして俺の鉾は、鮮血に染まった。
しかし奴を信じてはいけなかった。そう、奴は俺の目の前に、下半身のみになった赤兎を連れてきた。
「感動の再会だ! 初対面なのにね」
そして奴はこうも言った。
「この機体は、あと数時間で機能停止する。これが現存する最後の陸戦、赤兎だ。陸戦である君にとって、これを失えば二度と、赤兎に跨ることは出来ない。そうでしょ?」
そう言って奴は、俺の下半身を破壊した。
「一体化すれば、救えなくもないけど~。どうする? 将軍様?」
俺に、一切の選択の余地はなかった。
今年一年間お付き合いいただき、ありがとうございました。来年も、よろしくお願いいたします!




