第二十九海路 3 本は鉾よりも強し
「陸戦の情報は? 何かわかることはないのか⁉」
新井はモニターを見つめる作業員たちに目をやる。彼らはモニターから目を離さずに声をあげる。
「機体は多分青。コハクのように複数の機体が合体しているかどうかは……現時点では不明です!」
「機動力、瞬間的な速度ではコハクに劣りますか継続的に動ける模様。現在は島中央で佇んでいますが……」
(またも未知の機体……頼むぞ、お前たち)
新井は固唾を飲み、鬼丸達がいるであろう方角を見やる。皮肉にもその方角は、上陸した陸戦が居る方向でもある。
―――
その深い緑色の機体は、結界を圧倒的な速度で突破しミナ島へ上陸。海上を走っていたと言う島民も居るらしいが真偽は不明。
不可解なことに破壊行為を行わず、手に持った鉾を足元に突き立てたのちにその場で停止した。
「お影で避難はすぐに出来たさ! 待たせたね」
ミナ島近海にて着水し、コルセアを回収した面々。つい先ほどまでミナ島にいたコルセアの話から、その陸戦についてを纏める。
「見えるか。奴の下半身は四つ足だ。なんだったか? サジ~ナンタラに似てたな」
手を動かし、脳内から可能な限りの情報を引き出しながら告げる。
「サジタリウスね。第四世代型の機体で、山岳地帯においては負けなし。その四つの俊足は災害地域の悪路でも衰えることはないわ」
「ああ! それだ。あいや待てよ……ちょっと違かったな……」
「要は情報なし、か。まあサジタリウスなら弓を持っていなかったか?」
サジタリウス。星座の一つに数えられるそれは、弓を引く姿で親しまれている。
「狩猟を学んだケンタウロスが星になった姿。弓の使い手で確か、頭が良かったそうだよ兄上」
「ヘル、知っているのか⁉」
後方を振り向いた鬼丸は、サジタリウスについての解説をするヘルと目があった。
「まあキルの言葉だがな。寝言のようなものだ。あの陸戦については……ノーコメントだそうだよ」
敵陸戦の姿を再び見る面々。その陸戦は弓ではなく、鉾を掲げていたために一同は目を擦った。
「……オイ話が違うぞ。元からあの兵装なのか?」
「見た目も違うわね。あんな触角も本来なかったはずよ」
クリスタは八型改に合図をし、サジタリウスのカタログを提示しそれぞれに共有する。ここ数日で、彼女は八型改に可能な限りの陸戦データをインプットさせた。
サジタリウスの頭部は球体上のメインカメラを透明な三角錐のガードが守っている独特な設計をしている。
対して目の前の敵陸戦には、兜のようなものが頭部となっている。その兜からは、風になびくしなやかな二つの触角が確認出来る。
「そも人形型と非人形型ってとこで大違いだ」
コルセアの発言に一同は頷き、サジタリウスのデータを閉じた。その時、機械越しで新井の声が八型改に響く。
『あったぞお前たち。頭部が一致している陸戦を見つけた』
示された陸戦の名は呂布HO―SEN。確かに頭部の特殊な装飾が類似していた。
しかし、
『あの足については不明だ。注意してくれ』
データ上のHO―SENには、あの奇怪な四つ足はついていない。新井はこの機体のコードネームを呂布としたことを告げた。
「結局振り出し。仕方ない。気を引き締めていくわよ」
「ハイ。ヴリュンヒルド八型改、交戦開始します!」
その声とともに関節部から装甲を半開きにし、そこからARの部品を射出し始める。それを空中でキャッチしながら組み立てる。その際鬼丸に、
「性能の方は依然変わっていません……明後日ごろにはもっと性能の良いものが出来るとトマスさんが言ってましたので……」
と申し訳なさそうに謝罪をした。
「まあしょうがないな。何とか当てて見せるさ」
弾倉を差し込み、先端に銃剣を着剣する。そしてそれを二、三度試し切りをした後、セーフティを外した。
「八型改、アサルトモード用意完了。いつでも行ける」
淡々と告げる鬼丸に、八型改は自身の回路が小躍りしそうなのを抑えた。彼女がその場のノリと勢いで発した形態名が定着したことが、よほど嬉しかったのだろう。
「取り合えず距離を取りつつ銃撃で様子を見ましょう。接近戦の用意も忘れないで」
海上から距離をとり、攻撃を行う八型改。初撃はこちらの存在に気付いていないのか上手く当たったが、その後は回避行動をとられ外れた。
「動きは速いが、的がデカい。当たるぞ!」
リロードを行いながら所感を述べる。
「ちょっと待って!」
クリスタは呂布が地面に突き刺さった鉾を引き抜いた姿を目に捉えた。そして呂布は鉾を構え、こちらに向き直った。
そして呂布はそのままその鉾を地面に置き、四つ足を折り地面に頭を着いた。
「……何をしているんだ?」
銃口の狙いを呂布の頭につけながら、その姿に鬼丸は困惑した。
「降服しているんじゃないか? こっちの戦力を把握して、勝てないと悟ったんだろ。苦しゅうない苦しゅうない!」
「ほう、見る所があるではないかあやつ」
ヘルとコルセアがその姿に気を緩めた。手を扇子に見立ててパタパタと煽る。その間、呂布は依然頭を地面に付けたまま動かず、その姿はまるで土下座のようだった。
その姿に、大きな不信感を抱くクリスタ。
「ねえ鬼丸。アタシ詳しくないんだけど、三国志の人よね。もう少しプライドのある人だと思ってた。これって考えすぎ?」
「三国志の呂布があの呂布とイコールってわけじゃないとは言え……。チャンスなんだろうけど」
二人は慎重になり、その姿を睨みつける。この機に乗じて攻めていいのか、奴の降服を受け入れるべきなのか。
「呂布のスペック、とりあえず算出しました。あの機体の形から小回りは利かないと考えます。馬力的にも接近すれば勝てるかと」
そのデータを見た二人は、操縦桿を前に倒そうとした。ただの肩透かし。そんな相手は、本部でもいくらか相手にした。今回もそれと同じだろうと。
その時鬼丸の脳裏に、呂布の名がキルの声とともに浮かんだ。
「ヘル。キルは三国志を結構読んでたよな? 何か言ってないか?」
急に話を振られらヘルは少し驚いたあと、目を瞑り集中する。
「呂布の最後は命乞いだったそうだ。それ以前にヤツは裏切りを繰り返した……とな」
その回答を聞いた鬼丸は、腰を一度浮かし座りなおした。
ヴリュンヒルドもそうだが、陸戦には偉人や神話の登場人物の名を冠したものも多い。製作者の趣味で片付けられることも多いが、彼らがその名に込める期待は計り知れない。
「うん。これは信用したらいけなそうだな」
「みっともねぇな。ちゃっちゃと倒しちまおうぜ」
自分に言い聞かせるように言った鬼丸と、他人事のような口調で言い放つコルセア。クリスタはコルセアの態度に対し、少しだけ怒りを露わにした。
「あくまで他人事ね。アンタ自分の発言忘れたの? さぞコンパクトな前頭葉を持っているようね」
「あれ、なんか言ったっけ?」
すっとぼけたコルセアに溜息をついたクリスタは、そのストレスを、鬼丸を通じて呂布にぶつけることにした。
「ハァ~。鬼丸、やっておしまい」
「アイアイマム」
クリスタの心中を察したのか、同情の苦い顔をしながら引き金を引く。
―――
「ずいぶんあっさり終わったな」
無事に呂布をスリープモードに移行させた面々に、現場についた新井が声をかける。
お世辞にも広いとは言えない八型改のコックピット内から降りた鬼丸たちはそれぞれ、背伸びをする。
「きっと接近をしていたら反撃を喰らっていたと思います。今回は、キルの功績ね」
「ん。よくわからないけど、兄さんの役に立った」
無表情のままVサインを鬼丸に送るキルの頭を、鬼丸は優しくなでた。
「ペンが剣に勝てるかはわからない。でも知識があれば、兄さんの役に立てる」
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