天界の動き
「ミカエル様」
真っ白な、埃一つない床に立て膝をついて口にしたのはたった一言だった。それほど長い時間がかかったわけではなかったが、正面にいた存在ーーーミカエルーーーはゆっくりと振り返った。
ただ穏やかに微笑んでいるだけにも関わらず、自分の意思で跪いているのか“見えざる手“によって押さえ付けられているのかわからなくなってくるのだ。
「サマエル、上に立つものが騒々しく動いてはいけないよ。最も君がそれをわかっていないとは思っていないがね。君が慌てるほどの“何か“が起こったかな?」
サマエルはミカエルのことが苦手だった。身体はもちろん、思考に至るまでミカエルの手で握られているような圧迫感。
「恐れながら。各界に散らしていた配下から報告があり、悪魔らが各界に出没し、拠点を建造している模様。中には数十人の人間を殺めた事例もあります。悪魔らが人間たちの、天使らへの信仰を絶ち、弱体化を目論んでいる可能性もあります。早急な対処が必要かと思い、お耳に入れさせていただきました。」
「ふむ。その死亡者とやらは?」
「悪魔らの力を利用しようとした少数派宗教団体のようです」
ミカエルは整った表情をわずかに曇らせた。
「悪魔の力を借りようとした者には当然の報いですね。まだ悪魔との交戦を禁じます。勝手に動いた者には罰を与えます、いいですね」
どれだけ不満があろうとここは“はい“と答えるしかない。
「はっ、確かに」
それだけを言ってミカエルの元を去るサマエル。不満をミカエルに見せないようにだろう。
「最近の若い子たちには困りますねぇ」
小さな呟きが一人だけの部屋にぽつんとこだました。




