アルファスとマルファス
ウェパルもまた魔神の一柱であり、表面的な美しさに威圧が加われば、人だかりが真っ二つに別れ、その先にあるものがあらわになる。
ビーチチェアにビーチパラソル、サイドテーブルには材料が気になる色彩鮮やかなトロピカルドリンクが汗をかいている。
だが砂だ。
「なぁ、あのパラソル芯棒の部分はまだわかるとして、あの傘部分はどうして崩れないんだ?」
そんな声がウェパルの耳に届く。
トロピカルドリンクをのぞいて残りは砂でできているのである。
「おお、姫様。お疲れでしょうどうぞこちらに」
そう言ってしわがれた声をかけたのはアルファスだ。白い肌に高い鼻が特徴の若い男の姿をしているが、本来の姿は鳩である。
見た目とその声のギャップがひどい。
何よりこの場で声をかけられて視線が集まりウェパルの眉がピクピクと動く。
「あいや、待たれよ!そのような粗末なところで姫様を休ませるわけにはいかん」
嫌々ながら声のかけられた方に視線を向ける。そこにいたのはアルファスとは逆で、褐色の肌に高い鼻の、肌の色がそれほど真逆でなければ兄弟かと思うほどの存在だ。
ーーーマルファス、本来の姿はカラス。
そして今マルファスの背後にはお城の中の一室のような豪華な部屋があるーーーもちろん総砂作りの。
アルファスとマルファスはどちらも拠点設営の能力を持ち、名前も似ていることから存在感が薄いのだ。それゆえマルファスはよくアルファスにつっかかるのである。
「今はこの一室しか準備できませんでしたが、お望みとあればこの地の砂を使いきって別荘を作ってみせましブホォ」
と自信満々に言ったところにウェパルの操る大波が彼を飲み込む。
「な、何を……」
「……ご覧なさい、あなたのせいで不要な視線を集めて、これで姫様が落ち着いて休めると思うのですか?」
イオンを砂のビーチチェアに寝かせたウェパルが、穏やかな彼女にしては珍しく、眉間にシワを寄せて腰に手を当てて睨みつける。
「そ、それではまず城壁を……」
「“大海粛“」
ウェパルが叫ぶと波が砂浜を上り、マルファスの作った豪華な一室を飲み干し、後には砂の山が残ったのみであった。
周囲からあぁ、と声が漏れたのだった。
「ちなみにこの飲み物はどうしたのですか?」
少しすっきりしたウェパルがアルファスに尋ねる。
「……拠点内の物資の補充も私の力の内。……今の波も多分やり過ぎ」
アルファスがボソッとつぶやく。アルファスはイオン以外には対応が雑なのだ。
どいつもこいつも……。
ウェパルもわりと常識がある方(それでも人前で波を操ったりしてしまっている)なので面倒ごとを引き受けて損ばかりしていた。
「これ、もらうわよ」
そう言ってトロピカルドリンクを口づけるウェパル。
「それ、姫様の。お前のじゃない」
わずかに不機嫌さを織り交ぜてアルファスがつぶやく。
「姫様はお休みよ。後で冷たいのを出してあげなさい」
……トロピカルドリンクの一杯くらい飲まないとやってられないわ。




