イオンのわがまま
遅れまして申し訳ありません
サタン改めロリファー改め、ルシファーがイオンの元へと訪れた。毎日一度は姿を見せるのだから、下級悪魔たちからロリファーと陰で言われているのも無理はなかった。何せかつては自身の館から出ることはほとんどなく、冥界の片隅に足を運ぶことなどもっとなかったので。
「イオン、顔を見に来たぞ。そろそろ余の妻にならぬか?…む?」
開口1番の挨拶がこれである。いつも。
しかしこの日はいつもと違うことがあった。
イオンの部屋が本やら玩具やらで散らばっている。それほどおかしくないようにも思えるが、イオンはいつも丁寧に片付けていた。
実体具現化(霊体を無理矢理物質化すること)できる魔神たちが異世界に言っては買い漁ってくるものだ。統一感なく雑多に転がっている。
当の本人はと言えば、魔神が一柱、ウェパルのひざ枕で眠っていた。
但し目尻には透明な雫が溜まり、頬を伝った跡もよく見ればある。ルシファーは一瞬で赫怒した。
「…何者だ?余の冥界で盗賊紛いのことをするとは」
恐ろしく低く冷たい声が漏れる。
自身も魔神であるはずのウェパルが思わず息を呑んだほどだ。
「…そうではないのです」
「ではこの現状はなんだ!?」
実際のところ、客観的に見てルシファーがそう考えたのも無理はなかった。
荒れた部屋、泣き疲れて眠るイオン。
状況はそう見えなくもない。
「私が説明しましょう」
そう言って現れたのは白く長い顎髭を垂らした老人に見える悪魔だった。
「授業の際に“海“が出てきましてな。それが気になったのでしょう。普段は静かに話を聞いているのにその日ばかりはどんなものなのか熱心に尋ねておいででした。今日も悪魔たちに聞いて回っていたようなのですが、そのうちの一人があまりにも弁舌だてて楽しそうに話しましてな。部屋に戻られてから海に行きたいと大泣きされましてあ今は泣きつかれてお休みというわけです。」
苦笑しつつそういう老人。
「…ダンタリオンか。お前も変わった格好をしているな。というかお前が力を使ったら本気で誰か判断がつかぬ」
状況を聞いてどうやら事件ではないと理解したのだろう、ルシファーの気配が穏やかになる。
「しかし海くらい連れ出してやればよかろう。座学だけではつまらんだろう。」
イオンは冥界の特定の場所にしか行き来は許されていないのだ。
「ですが、異世界となると、天界の奴らにイオン様のことがバレる可能性もあり、」
「ふん。天界であろうがなんであろうが、イオンに手を出すようなら尽く滅すればよかろうよ」
ダンタリオンの言葉を遮るようにルシファーが言う。
「…その言葉、ご自身の復讐にイオン様を巻き込むつもりではありますまいな?」
ダンタリオンの目が鋭くルシファーを射抜く。
「天界なぞ最早どうでもよい。イオンの方が余程大事よ。則ちイオンの願いを無碍にすることこそ万死に値するわ。悪魔どもに命じて最もよい地を探させよ!」
冥界が慌ただしく動き出したのだった。




