サタン
冥界に衝撃走る、物理的に。
「なんだこれは!?いつからここはアトラクションと化したのだ?」
見目麗しい男性が土煙の中から現れ、傍にいた下級悪魔の首を掴み、持ち上げる。
ーーー気にくわんな。
青年がまず思ったのはそれだ。有象無象の下級悪魔達、これまでなら目を逸らし道を空けていた者たちが、睨みつけてくるだと?
「ふんっ」
とは言え、下級悪魔がいきなり上級悪魔になったわけではない。そして上級悪魔であっても我の相手にもならぬ。
てきとうに放り捨てる。
「サタン、久しぶりー」
声をかけられた方に視線を向けるサタン。
「ベリアルか、これはどういうことだ」
そこにいたのは双子の悪魔。柔らかい金の髪をなびかせて瞳は焔のような赤。確かによく似ているが、瞳から受ける印象は大分異なる。片方は眠たげであり、片方は鋭くサタンを睨みつけている。
眠たそうにしている方は右側に羽があり、睨みつけている方は左側に羽がある。二人は生まれたままの姿で、ただ羽がある方の足に、瞳に似た焔の色で車輪と馬の入れ墨が入っている。
「何がー?」「何のこと?」
「聞けばたかだか一匹の小悪魔に魅了され、全員骨抜きにされておるとか」
羽のない方の手を握りあっている双子は顔を見合わせて頷くと、
「それならー」「あながち間違ってないー」
そう言った。
「余とそなたら72柱が争いあったなら冥界は全面戦争と相成ろう。傷の一つや二つは負うであろうが、最後に立っているのはまず間違いなく余の方であろう。」
一旦言葉を区切るサタン。
「しかし、だ。余と真っ向から戦えるという点で余はそなたらを評価していたのだ。それがたかが小悪魔になびくだと!?余は冥界の王だ!とんだ侮辱もあったものよ」
言葉と共に圧倒的なプレッシャーがサタンから放たれる。
「うわっ」「きゃー」
幼い子供の外見であっても王位にあるベリアルが思わず後退するほど。
「一つ反論させてもらうぜ、サタン。俺達ぁ皆、かつてソロモンに封じられたが…」
「仲がいいと思われるのは心外ってもんさ!」
髪は烏のぬれ羽色、犬、いや狼の耳を模した形の帽子、深紅に金の意匠が入ったベアトップにジーンズ、形のよいお尻から背中に向かって蛇の入れ墨が入っている女性が言い放ちながら身長ほどもあるバスターソードを振りかぶる。
「チッ」
流石は言うだけのことはあり、あっさりと回避したサタンに舌打ちする女性。
「アモンか?なんだその格好は?貴様も毒された一柱か!?」
そこに見えたのはただの怒りではなく、わずかに悲哀を含んだものだ。
「はっ、俺は俺だ。誰も俺を操れはしないさ。」
初めてサタンの表情が歪む。アモンの真っすぐな気性をサタンは嫌いではなかった。そして外見はともかく、その“魂“のあり方に変わりはないように見えたのだ。
「…何者だ?そなたらがそうまでする存在とは!?意地でもその面を拝ませてもらうぞぉっ」
サタンと72柱の戦いが始まった。




