こころの軋むとき
地獄から舞い上がってきたかのような業火の炎が、ショッピングセンターを包み込んでいる。離れた位置にいてもその炎の熱さは体感できて、まるでこのネオンコアに長年積もりに積もった〝因果〟を多少ばかりとも清算しているみたいだ。
ネオンコアのショッピングセンターに辿り着いたレオ達〈エレジウム〉のメンバーの目に映ったのは、そんな見る者を茫然とさせるような光景だった。
ショッピングセンターはとても巨大で、その煌びやかに装飾されたゴージャスな建物はまるで美術品のひとつみたいだ。何もかもが桁違いのこの場所こそまさしく〝人外特区〟であり、だがそれに纏わりつく炎の渦はこの場所には似つかわしくないと言えた。
様々な人間が様々な理由で緊張を感じている中、〈エレジウム〉のメンバーはゆっくりと、探るような足取りでそれぞれ燃え盛る巨大なショッピングセンターの中へと入っていった。海馬は加奈と、ユキは廉斗と春次と、そしてレオは穂乃果と、それぞれチームを組んで入っていった。
ショッピングセンターに一足踏み入れると、そこがショッピングセンターなんかではなく美術館のようだとレオはまず感じた。そのくらい豪奢な装飾、そして雰囲気。通称人外特区と呼ばれていることは聞かされてはいたが、ここまでとは思ってもいなかった。
レオと穂乃果は二階を探索し始めた。全三階あるこのショッピングセンターを、海馬と加奈が一階を、ユキと廉斗と春次が三階を探索することになっている。ショッピングセンター内の中心には大きな吹き抜けがあり、もし万が一が起こったとしても、その物音はどの階にいても伝わってくるだろう。
レオは歩きながら振り返って、自分の後ろを歩いている穂乃果に声をかけた。
「そんな格好で熱くないの? 大丈夫?」
身体にピッチリと密着する戦闘スーツのようなものを着て、なおかつ高機能ヘルメットまで被っている穂乃果にそう訊くと、穂乃果は首を大きく横に振った。
「そうか」
レオは前を向いた。
それから二十分ほど探索しても、特に何かに遭遇することなどはなかったが、そんなことよりもレオにとっては気になることがひとつあった。それは、穂乃果が全然自分と喋ってくれない、ということだった。
――結構こまめに話しかけてるけど……どんな話題を投げかけたって一言も喋ってくれないな……。
それは今に始まったことではない。レオが日本に来たその日から今日に至るまで一週間も、穂乃果はレオとほとんど喋ろうとしなかった。レオはそれ以外の穂乃果の態度などからも、ちゃんと分かっていた――自分が、嫌われていることに。
――嫌われるようなことしたかな……? なんか変なこと言ったか?
いくら考えようとも、こんな態度をとられている理由なんて見当たらなかった。
熱さと穂乃果からの無視に頭が眩む中、レオはふと、ここへ来る前にグラン・タワービルの管制室で開かれた一分ほどのクイックミーティングのことを思い返した。
グラン・タワービルの海馬の部屋で、テレビに映るセンセーショナルなこのショッピングセンターに関する報道を見た後、管制室に行き、そこで開かれたミーティングの内容は、このようなものだった。藍沢那奈は、内心の焦りをなんとか抑えながら、こう言ってきた――
『集まっていただいたのは、他ならぬネオンコアのショッピングセンターの件です。ネオンコアの護衛の人間は現在、住民の皆様の避難と護衛にあたっており、この大規模な破壊活動を起こした者達に対処ができない状況です。あなた達を呼んだのは他でもない、この破壊活動の首謀者が心の境界線を越えたアンドロイドだからです。あなた達には、心の境界線を越えたアンドロイドを排除する義務がある。その首謀者達の名前を聞いたら、恐らくあなた達はきっと多くを察するでしょう。首謀者達の名は『エスパニード』『アルバート』『遊佐』『セレニア』『ライナー』』――ここまで言ったところで、普段は物事を詳しくなんて憶えていない海馬が口を開いた『ああ、五神人か――』
五神人――それは、今まさに行われている人間と心の境界線を越えたアンドロイドとの戦争の、心の境界線を越えたアンドロイド側の組織〈ReGion〉の五人の幹部の総称である。まさしく、今のこの日本の状況を作り出した首謀者達だ。
レオと穂乃果はふと、目の前に何者かの影を見た。その影は一つだったが、その影に向かって近づいていくと実は五つの人影であることに気がついた。
レオ達は遭遇した。
向こう側もレオ達に気がついた。
五つの影は、五神人だった。




