それでもボクは、人間を愛している⑦
海馬がFの尋問をしたのと同時刻、レオも隣の部屋で須暮利の尋問を行おうと――いや、尋問など必要あるのか分からず、とりあえず、聖母の寝所から連れてきてもなお眠り続けている須暮利が起きるのをレオは待った。
聖母の寝所にて一応付けた須暮利の電子錠は、もうこの部屋に入ったと同時に取り外していた。油断をするわけではないが、これほどまでに人間としての無防備さを見せられると、電子錠を付けていることに罪悪感みたいなものが芽生えはじめてしまう。
――本当に起きるのかなぁ。
そんな気持ちを抱きながらレオは、椅子に座りながら無防備な姿で寝ている須暮利を見つめ続けた。須暮利を見ていると、レオは須暮利が誰かに似ているように思えた。レオはしばし考えたのち、それが誰なのかを思い出した。
――ちょっと華征に似てるかも。
と、そのときだった。
椅子に座りながら無防備な姿で眠り続けていた須暮利が、目を開いた。
ゆっくりと目を開きながら、身体もゆっくりともぞもぞと動かして本格的に意識を醒まし始めた須暮利に、レオは思わず砕けていた椅子に座る姿勢を正した。須暮利は大きな欠伸をしながら腕を上にうーんと伸ばすと、そうしてようやく意識が最低限はっきりとしたようだった。
目の前のレオを認識した須暮利は、眠い目をしながら思わず呟いた。
「おにいさんだれ」
するとレオは、真面目な表情をしながら言った。
「俺はレオ・アルバトロス。君の敵ではないよ」
すると須暮利は、「ふーん」と呟くと、次の瞬間、椅子から立ち上がった。レオはそんな須暮利を椅子に座りながら見上げると、次の瞬間、須暮利は。
「おっと」
レオは思わず言葉が漏れた。何故ならば、それは突然、須暮利が自分の太ももの上に乗ってきたからだった。
突然自分の太ももの上に乗ってきた須暮利に、レオは困惑を隠せないものの、だが自然と、須暮利が自分の太ももの上から落ちてしまわないように、軽くではあるが抱擁をしていた。
何故そうしたかは自分でも分からなかったが、レオは自然とそうしてしまったのだ。須暮利は別に小さな子供ではないものの、そう抱擁をしたときに感じた気持ちは、自分の太ももの上からちびっこが落ちてしまわないように気をつけるそれに近かった。
レオが須暮利を軽く抱擁をするのと同時、須暮利もレオの首に手を回した。レオには今それが見えていないものの、その須暮利の表情を見るに、どうやら須暮利はレオのことが好きなようだった。
それが恋愛的な意味なのか、それとも友愛的な意味なのか、それとも兄弟愛的な意味でなのかは分からないが、明らかに須暮利はレオのことを好いていた。お気に入りを新たに見つけたというような多幸的な表情に今の須暮利は満ちていた。
「おにーさん、ぼくとあそぼ」
「あ、遊ぶ? ……なんで?」
「なんでもいいじゃん、ぼくにかまって」
レオは、全く思ってもみなかった展開に、どうしていいのか戸惑いを覚えた。だが、こうして直に触れてみて、須暮利の中に少なくとも自分に対する加害性みたいなものがないことを察知したレオは、ひとまずは安堵を抱いた。
「え、Fじゃなくて俺でいいのか? 仲いいんだろ?」
「うん、なかはいい。でも、いまはおにーさんがいい」
舌足らずな口調でそう言うと、須暮利はレオをぎゅっと抱き締めた。そして、須暮利はレオに頬ずりまでしてみせた。
困惑を隠せないでいるレオであったが、それでも、こうして可愛い求められ方をしたら、思わず背中を撫でたり頭を撫でたりして、須暮利のことを可愛がってしまうレオであった。
初対面の人間にもそう可愛がってもらえるほどの本能的な魅力が、須暮利にはあった。
須暮利を撫でているレオの気持ちは、犬や猫を撫でたりしているのと同じ気持ちだった。




