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姫君の鎮圧 ――かつて楽園と呼ばれた日本と、死神と呼ばれている男――  作者: 柊蓮
CHAPTER:チャプター〝8〟――
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それでもボクは、人間を愛している⑥

 二人を、海馬は皇祭の隠れ家兼研究所へと連れて帰った。


 皇祭の隠れ家兼研究所へと連れ帰る過程で、Fが暴れたり何か逃げたりするような様子はなく、少年だか少女だか分からない人間――須暮利に限っては、到着してもなおぐっすりと眠っていて無防備を極めていた。


 皇祭の研究所を抜け、古びた全面コンクリートの廊下に出ると、その中から空いてる部屋を適当に選び、そこを尋問部屋にした。


 Fは海馬が、須暮利はレオが尋問を担当することになった。須暮利に限っては、尋問などする必要があるのかどうかも怪しいが、尋問するしないにかかわらず一応レオが担当することになった。

 海馬とレオは、それぞれの部屋に当事者を入れると、尋問をするべく自分達もその部屋に入った。その部屋の外では、ユキと穂乃果と廉斗が何かあった時の為に待機をした。



 壁も天井もコンクリートで出来ている部屋の中で、海馬はFと二人っきりになる。


 勿論Fの手には電子錠が付けられていて、そしてFが席に着くと、海馬はもう一個電子錠を取り出して椅子ともFを繋げた。壁も天井もコンクリートで出来ている部屋の中には、Fと海馬が今座っている椅子の他には、なにも無い。


今回のこの尋問において、海馬が訊きたいことはたった三つ。一つ、何故〈ReGion(レギオン)〉という組織を人間であるのにもかかわらず創ったのか。二つ、政府の情報データベースに、何故お前の情報が載っていないのか。三つ、お前は何者なのか。


 一つ目と三つ目のの質問に関しては、その言葉通りである。だが、二つ目に関しては、本人に訊いたとて解決しない可能性がある。それについて海馬は、他の質問を訊いていくうちに自動的に分かるようになればいいが、と内心思った。


 〈ReGion(レギオン)〉の内状に関しては、基本的には全部セレニアから訊いたから、基本的にはその三つ以外に、Fにしなければいけない質問というのもなかった。


 強いて障壁みたいなものを挙げるとするならば、それはFが口を開いてくれるかどうかだろう。


 助走などもなく、海馬は早速、一つ目の質問を投げかけることにした。


「お前が人間であることは、お前が創造者であることからも分かるが、何故自分が人間なのにもかかわらず〈ReGion(レギオン)〉という組織を創ったんだ?」


 海馬はそう言い切ると同時、目の前のFの口元に最大限視界が奪われた。果たしてFは口を開いてくれるのか、そのことに最大限意識が奪われた。

 だがそんな海馬の気持ちなど杞憂であると示すように、Fはすぐさま口を開いた。


「理由は簡単だ。俺は、レオ・アルバトロスを殺す為に〈ReGion(レギオン)〉という組織を創ったんだ」


 海馬はその思ってもみなかった言葉に、心臓をぎゅっと掴まれたような感覚を得た。まさか、この質問の答えにレオが出てくるとは思ってもいなかったのである。海馬は少し頭が真っ白になりかけたが、なんとか意識を保ってFの言葉に耳を傾けた。


「なんで俺がレオを殺したいか――それは、過去の戦争を止めるためだ。厳密に言えば、現在からしたら未来であるが、俺からしたら過去である」


「……どういうことだ?」


「単純な話だ。俺は、未来人だ」


 未来人。その言葉に、海馬は驚きを隠せなかった。驚いた海馬は思わず椅子から立ち上がった。Fが自分を見上げてくる視線をひしひしと感じる。海馬は、少しするとその言葉をやっと咀嚼し終え、やっと椅子に腰を下ろした。


 椅子に腰を下ろした海馬は、そのとき、何か思いついたようにはっと思った。


 それは、二つ目と三つ目の質問に関連することであり、謂わば、その残る二つの質問の答えそのものだった。今Fが発した『未来人』という言葉、その言葉だけで、全ての事情が説明出来る気がした。いや、できるのだ。


 だが、海馬は興奮を覚えている自分を落ち着かせる為に一旦深呼吸をした。


 海馬は思った。今の自分の頭の中にある考えは恐らく正しい。でも、せっかくF本人が目の前にいるのだから、まずは話を訊くことに戻ろう。


「未来人……。未来人が、レオを殺す為に〈ReGion(レギオン)〉という組織を創った。そしてそれは過去の戦争を止めるため……。あまり現実味を感じない話だが、お前が止めたがってるその戦争って、どんな戦争なんだ?」


「モルドヴィス王国という国を、解放しようとする戦争だ。俺はこの戦争のことを〝モルドヴィス王国解放戦争〟と呼んでいる。そしてその主犯格が、レオ・アルバトロスとそのご主人様であるアルス姫だ」


 ――すらすら喋るな。口調からも嘘をついているようには思えない。


「アルス姫は殺さなくていいのか? レオだけを殺したいと?」


「まぁ、本音を言えばアルス姫も俺からしたら殺したいくらいなのだが、戦争を止めるのには、いや、戦争の勝敗を俺の思う方向にもっていく為には、レオの存在が邪魔だ。レオ一人さえいなければ、たとえ戦争が始まっても俺からしたらなんら関係ない」


「お前から見たレオは、どんな人間だ?」


「……お前は、自分がこれからどんな人生を歩むか、知りたいか?」


 突然の言葉に、海馬は困惑を隠しきれなかった。海馬はその困惑を隠すことなく、そのままの感情で言った。


「……俺の質問には答えてくれないのか?」


「いや、そうじゃない。俺にとってのレオがどんな人間かを教えたら、それ即ちお前自身の人生のネタバレをすることになるぞ。俺は優しい人間だから、警告してやったんだ」


「……それを聞くだけでもレオの存在の大きさが窺えるが、まぁ、ネタバレだとしても今回に限っては知りたいな。その、お前にとってのレオとは、ってね」


 するとFは、後悔しても知らねぇからな、とでも言いたげな表情をした後、言ってみせた。


「じゃあ教えてやる。俺にとってのレオ・アルバトロスとは……〝死神〟だ」


 海馬は驚いた。その言葉が、あまりにも想定内過ぎる言葉だったから。


「レオが死神と呼ばれ母国や、その他様々な世界で恐れられていることは俺だって知ってるぞ」


 海馬がそう言うと、Fはふふふっと笑った。この先の未来を知っている者と、知らない者との認知の差がそこにはあった。そしてFは、海馬を軽く馬鹿にしながら言った。


「違う違う。アイツは本当に死神だ。死を司る神、そう呼んでもおかしく存在になる」


「……なるほど。まぁ、今でさえあいつはそこら辺の奴とは格が違って死ぬほど強い。だから本当に死神みたくなったって、別に驚きやしない。レオの話はもうお腹いっぱいだ。次の質問に移るぞ」


 海馬がそう言うと、驚くことにFは大人しくその言葉に従って黙った。


 そして海馬は、次の質問へと移る。だがそれは、二つ目の質問にではなく、それを飛ばして三つ目の質問へだった。その三つ目の質問をすれば、二つ目の質問などしなくてよいと海馬は判断した。


「次の質問だが。お前は、何者だ?」


「俺が何者かだって? それは俺が知りてぇよ」


「いや、そういうのはいいから、普通に自分の基本的な情報を話してくれ。じゃあまず、本名は?」


「フェデリック・ルミナス・モルドヴィス」


「……まさかっ」


 海馬が自身の頭の中に描いていた考えは確かだった。海馬は思わず言葉が漏れると、自分の中にある興奮が最高潮に達するのが分かった。


 そしてFは、その海馬の興奮を見抜いたように、ニヤリと笑みを浮かべながら言った。


「あぁそうだ、そのまさかだ! 俺は、アルス姫の子孫だ!」


 ――あぁこれで、本当に全てが繋がったな。


 海馬は内心そう呟くと、思わず天井を見上げた。全てが明瞭になったことに、快感を感じずにはいられなかった。そんな海馬は一応、頭の中で点と点が繋がった線を反芻してみた。


 ――俺がした一つ目の『何故〈ReGion(レギオン)〉という組織を人間であるのにもかかわらず創ったのか』という質問の答えは、本人が語った通り、『レオを殺してモルドヴィス王国解放戦争という戦争を止めるため』だ。そして二つ目の『政府の情報データベースに、何故お前の情報が載っていないのか』という本人に投げかけなかった質問の答えは、三つ目の『お前は何者なのか』を質問することによって明らかになった。政府の情報データベースに、何故Fの情報が載っていないのか? それは〝Fが未来人だから〟だ。この2050年現在、まだFは実際には生まれてはいない。だから、政府の情報データベースの網にも引っかからない。


 すると、海馬には新たな疑問が浮かんできた。そしてそれを、訊かない手はなかった。


「お前はどうやってこの現在へとやってきたんだ」


「さぁな。それは教えらんねぇな」


「じゃあ、なんでこんなにも正直に色々と話してくれたんだ?」


「許されてるからだ。別にこの程度のことは、現在の人間に話しても許される、そう言われたからこうやって話してるんだ。勿論今こうやって誰に許可を貰ったのか、という疑問を生じさせる発言も、許されてるからしてるんだ」


「誰にその許しを貰ったんだ?」


「まぁ、それだけは言えないな」


「つまり、お前をこの現代日本に連れてきた者と、その発言に許可を与えた者は同じということだな」


「そう捉えたきゃそう捉えればいい」


「じゃあもっと訊くが、お前は何故こうして捕まって俺に色々と沢山話してくれている? 場合によってはお前は俺達に殺される立場にある。だがお前は、のうのうと聖母の家(マザーハウス)に居た。お前は、恋人がここから離れたくないと言ったからとかしょうもないことを言ったが、それは嘘だろ? なぁ……本当の事を言ってくれよ」


 するとFは、このとき初めて、とても険しい表情を浮かべた。それは次第に険しさを極めていき、最終的にそれはまるで鬼の形相とも言えるような表情になり、何かを決心するときに浮かべる表情のようにも思えた。


「……実は俺、一回だけこの先の世界のネタバレを言えるんだ。しかもそれは、許された範囲内のことではなく、許された範囲の外側のことだ。だがその許されざるネタバレを言えば、俺は死ぬ。……正直に言おう、俺は、今日死ぬためにここに来てこうして喋っている」


 海馬の身体にぐっと力が入る。


「俺は、この現代へと俺を連れて来てくれた存在から言われたんだ『現代で死ねば、現代の人間として転生できるぞ』って。だから俺は、死ぬことも織り込み済みでこの現代へと来たんだ。俺は、レオを殺しモルドヴィス王国解放戦争を止めたり、勝敗を変える為にこの現代へ来たが、それはあくまで手段に過ぎない。本当の目的地は、ただ幸せに生きるため、だ」


「それは……どういうことだ?」


「俺は、モルドヴィス王国解放戦争に負けた側の陣営の子孫だ。そして、勝ったのがレオやアルス姫の陣営。モルドヴィス王国解放戦争に負けた俺の祖先は、その戦争の敗北がきっかけで平民へと墜ちた。そしてどうだ、子孫の俺は、奴隷同然の人生を歩んでいる。そんな人生が嫌で嫌で仕方が無かった。そんな時、とある人物が俺の生きる時代に過去からやってきたんだ。そいつは〝時の覚醒者〟だった。俺はそいつからある提案を受けた。その提案というのが、モルドヴィス王国解放戦争前の時代に飛んで、人生を変えないか、というものだった。俺はその提案に藁にもすがる気持ちで同意し、この現代へと飛んだ。そこからはお前も知っている通り、俺はレオを殺す為の準備として、〈ReGion(レギオン)〉という組織を創り、現在に至る」


 あまりにもスケールのでかすぎる話に、海馬は言葉が出なかった。


「さっきも言ったが、その時の覚醒者が言うには、現代で死ねば現代の人間として転生できるらしい。本当であれば、勿論自分自身としての人生を俺は歩みたかったが、それだと、幸せとはほど遠い。だって、その時の覚醒者がその能力を使って四六時中俺のことを監視してくるんだからな。その監視さえなければこの時代であのガキと共に生きるのも悪くはないんだが、俺は……どうやら関わってはいけない人間に関わってしまったらしい。その現代で死ねば現代の人間として転生できるという話も、本当なのかは分からないが、俺は、次の人生に賭けてみるつもりだ」


 海馬は、どんな言葉をかければいいのか、どんな表情をすればいいのか、分からない。


「だから最後に、この世界の許されざるネタバレをして、死にたいと思う。それは、その時の覚醒者の名前だ。もし、霧島海馬お前に良心があり、もし、時の覚醒者が殺してもそのお前の良心が痛まないようなクソな奴だとお前が判断したら、その時は俺の代わりに殺してくれ」


 そう言うと、Fは――いや、フェデリック・ルミナス・モルドヴィスは、ふと天井を見上げると、それから最期の言葉を吐いた。


「その時の覚醒者の名前は、和泉魏音(いずみぎおん)だ――」


 パァン。


 この先の世界の許されざるネタバレに抵触したため、Fの全身は内側から爆発四散した。


 まるで風船が割れるみたいにFの身体は内側から爆発した。部屋中に肉片が散乱し、近くいた海馬にFの様々な臓器や血液などが全てぶっかかった。まるで地獄の底にいるかのようなこの狭い部屋の光景に、海馬は呼吸が荒くなりはじめた。


 ――ダメだ、過呼吸になるっ。


 海馬は自分が過呼吸になってしまう前に、慌ててその場から勢いよく部屋の外へと駆けていった。


 海馬が勢いよく部屋から出てきたのを見たユキと穂乃果と廉斗の三人は、海馬を目で追った後、海馬が飛び出てきた部屋の中を思わず見た。そこには、地獄のような光景が広がっており、三人は、急激に強烈な吐き気に襲われはじめた。


 Fが自分の命と引き換えに海馬に教えた和泉魏音(いずみぎおん)という名。海馬はその名前を、知っていた。

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