それでもボクは、人間を愛している⑤
事情聴取をしたセレニアから得た情報を頼りに、〈エレジウム〉のメンバー全員で、聖母の家と呼ばれる〈ReGion〉の本拠地に来ていた。
海馬はこの場所について知ってはいたが、まさか〈ReGion〉の本拠地として使われているとは思ってもいなかった。
この聖母の家に辿り着くまでの道中で、廉斗は思わず「本当に〈ReGion〉のリーダー居るんすかね~? 普通だったら逃げてますよ」と愚痴を溢した。
海馬はその言葉に、「まぁな」と答えた。海馬自身も、本当にその聖母の家とやらに〈ReGion〉のリーダーである〝F〟がいるとは思ってはいなかった。それでも、確かめないことには安心出来ないし、せっかくセレニアから得た手がかりだったから、最悪も想定して〈エレジウム〉のメンバー全員でやってきたのだ。
かつて日本政府の軍事施設だったこの聖母の家の入口は、周囲を完全に森に囲まれていた。
全く人気もなく、人工物と言ったら、今〈エレジウム〉のメンバーが目の前にしているような人の背丈よりも遙かに大きい重厚そうな扉だけであり、その扉は大きさやその無骨なデザインも相まってとてもこの森の中では異物に思えた。
まるで潜水艦のハッチのような構造をしている扉を目の前に、普通であれば開け方に困ってもいいところ、海馬はセレニアに事前に教えてもらっていた通りに扉を開いた。
プシューという音と共に扉が少し開くと、メンバー全員で全体重をかけて左開きの扉を全開まで開けた。
すると、大きな丸い筒の形をしている通路が現れた。そして視線の先には、どこまで続いているか分からないほど長い階段があった。この階段を全て降りて行かなければならないと悟った全員は、その目の前の光景を見ただけでどっと疲れが舞い込んできた。
海馬を先頭に、階段を降りていく。
階段を降りていくと、コツ、コツ、コツという階段を踏みしめる靴の音だけが全員の鼓膜に届く。まだ階段部分でしかないが、実際に入ってみると、思っていたよりも遙かに綺麗な内装をしていた。白を基調とした壁に、様々な意匠が刻まれており、その意匠はすごく目立つものではないものの、無意識的に綺麗だと思わせる効力がある。
まるで科学技術を用いて造られた遺跡を探検しているような光景に、男四人は純粋に興奮を抱いた。
全員は階段を降りきった。階段を降りきるまでには実際にはそう思っていたよりも時間はかからなかったが、初めて来る場所、その緊張もあり、実際の時間よりもずっとずっと長く下ってきたような気がした。
階段が終わると、十字路に出た。正面、右、左。どの方向に進むべきか。だがそれも、海馬はセレニアから聞いていた。海馬は十字路を左手に進むと、そこからはずっと道なりに進んだ。
そして、見えてきた。ここに辿り着くまでに見てきた扉とは明らかに格の違う扉が。
この聖母の家のボスの部屋だと知らなくても、ほとんどの人間がこの扉の重厚感には圧倒されるだろう。この目の前の部屋が聖母の寝所であるということを、海馬は疑いようがなかった。まるで、封印がなされている神殿の扉のように、様々な立体的な意匠が刻まれているその扉を前に、海馬は一度背後を振り返った。
そして海馬は、全員と一度目を合わせてから、言った。
「いないかもしれないが、いるかもしれない。〈ReGion〉のリーダーであるFは魂の覚醒者だ。恐らく直接的な攻撃手段はないかもしれないが、それでも絶対に油断はするなよ」
海馬はメンバーに向かってそう言うと、扉のドアノブに手をかけ、扉を奥へと押し込んだ。
床を傷つけるような鈍い音を立てながら、扉が開く。
海馬を先頭に、レオが続き、そしてそれに他のメンバーも続く。
真っ白い部屋が、真っ白いライトによって照らされている。眩しい白色が部屋に足を踏み入れた人間の目を一瞬眩ませる。一瞬の目の眩みの後、視界が安定するようになると、広い部屋の真ん中に白いレースで飾られたベッドがあることに気がつく。
そしてそのベッドに、裸の人間が一人と、パンツのみの人間が一人、寝ていた。
〈エレジウム〉のメンバーがぞろぞろと部屋に入ると、そのベッドで寝ていた二人の人間のうち、パンツだけを身につけている高身長の金髪の白人の方が目を醒ましてベッドを降りた。
先頭にいた海馬は、目の前の想像もしていなかった光景に、手のひらから一本の水の剣を創り出す。そしてその隣では、レオが鞘から剣を取り出している。
金髪の白人が、パンツ一丁の姿で、海馬達に近づく。
〈エレジウム〉の全員は身体に力がぐっと入る。すると海馬は、早々に決着をつけるべく口を開いた。
「お前がFだな」
すると目の前の金髪の白人は、「そうだ」と、眠たそうに頭を掻きながら呟いた。
「逃げなかったのか。なんでだ?」
海馬はFのつかみ所のなさに困惑しながらも、言うと。
「ベッドの上に、ガキがいるだろ」
Fにそう言われ、海馬は一瞬Fから視線を外し、ベッドの上に視線を持っていった。さっきも見たが、裸の少年だか少女だかが、ベッドの上で気持ち良さそうにスヤスヤと眠っている。
「あのガキがここから移動したくないと言ってな。こいつ一人だけここに残して逃げるだなんて俺はできやしない。まぁ、そういう運命なのだと受け止めるよ。ほら、さっさと捕まえろ」
海馬は、唖然とした。他のメンバーも、唖然とした。
だが、Fの言っていることは嘘ではないのか、Fはベッドの近くに落ちていたズボンとシャツを拾い上げて着ると、海馬に向かって両手を後ろに持っていきながら背を向けた。さっさと捕まえろ――その言葉は本当のようだった。
だが海馬は信じ切れず、恐る恐るFに近づくと、ポケットから電子錠を取り出し、ガチャンと手錠をはめた。Fはしっかりと、抵抗することなく捕まってくれた。
「一つお願いがある」
手錠をはめられたFが、海馬に向かって呟いた。
「なんだ?」
「そこのベッドで寝てるガキも一緒に連れていってくれ。あいつは別に何か悪いことをしたわけでもないし、ただの俺の恋人に過ぎないが、あいつは自立ってものを知らない。だから、ここに一人で残していくと普通に二、三日で死んでしまう。なぁ、頼むよ」
海馬は少し悩んだ末に言った。
「分かった」
海馬が穂乃果とユキに視線を送ると、二人はベッドで寝ている少年だか少女だか分からない人間の元まで行った。そして二人は、その少年だか少女だか分からない人間に、近くに落ちていた本人の物とみられる服を着させると、一応電子錠を手にかけた。




